夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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先生で師匠でライバル (前編)

「だああぁぁぁ!!なんで勝てねぇんだ!?」

 

「ゴルシちゃんが面白さを求める戦略ばっかりしてるからじゃん。それじゃあ定石で潰されて終わりだよ」

 

パチンと駒をおけば、ゴルシちゃんの王将が完全に詰んだ。遊んでるように見えるけど、これでも今はトレーニングの一環として将棋で賢さを鍛えているんだぞ。

 

「それでもおかしいだろ!?もう15連敗だぞ!?この私の『スーパーゴルシン戦法』がなんで何回も破られるんだ!?」

 

「いや、だから原因は絶対それだって」

 

未知は既知を覆す……みたいな言葉あるけど、ゴルシちゃんの戦略は奇抜と言うより無謀である。

 

ほぼ突貫戦法だから動きが読みやすいのなんの。そういえば、この前廊下で直進しながら「バクシン!バクシン!」とか叫んでた人がいたな?もしかして、ゴルシンってそういう意味?

 

「もう1回だ!私のこの戦法が最強だって言うことを証明するまで終わらねぇからな!ぜってぇ、手は抜くんじゃねぇぞ!?」

 

「えぇ……」

 

ゴルシちゃんってこういう勝負の時は熱くなるタイプなのかな?いつもよりも必死さがひしひしと伝わってくる。

 

でも、その戦法が勝つまでかぁ。手も抜いたらすぐバレるだろうし……正直言って一生終われないじゃんこの将棋。さて、どうしようか……。

 

「失礼する。レイゴウノルンがここにいると聞いて……すまない、トレーニングの邪魔だったかな?」

 

「ルドルフ会長!?」

 

「おっ、生徒会長様じゃねぇか!こんなところに何しに来たんだ?」

 

トレーナー室の扉を開いて入ってきたのは、我らがシンボリルドルフ会長だった。それにしても一目でこの将棋がトレーニングだと見抜くとは……さすがの慧眼ですね!

 

誰かに私がいると聞いてきたということは……トレーナー?いや、もしかしたらデジたんの場合もあるな。その場合、デジたんと床へのダメージが甚大なんだけども。

 

「私に何の御用で……」

 

「あぁ、少し君の力を貸して欲しくてね。差し支えなければでいいのだが……引き受けてはくれないだろうか?」

 

「もちろん引き受けます!さっ、今すぐ参りましょう!オグリ先輩のいる食堂の手伝いですか!?それとも、理科室爆発後の処理のお手伝いでしょうか!?」

 

「そ、そんなに慌てないでくれ。それに今回は私情の頼み事だし、学園内じゃなくて外なんだ。急いで準備してもらわなくても構わない」

 

「学園外、ですか……?」

 

「なにか不都合があるのなら別のものに頼むが……」

 

「いえ、少し珍しいなぁって思っただけです。GIのレースがある訳でもないし、地方の方で有望な選手がいるとも最近は耳にしません。なのに何で学園外に用事があるのかなぁ…?と」

 

もしくはトレセンやレースに関係ない理由で外へ行くのかもしれないが、それなら私は必要ないはずだ。企業関係などに関してもたづなさんからトレーナーへと直接連絡するのが常識だ。

 

更にトレーニングの時間でありながら声をかけてきたということは、用事の場所は少なくとも“トレセン学園近辺”である事がわかる。果たしてそんな所で会長は私に何を手伝って欲しいのか。

 

「理由に関してはあちらに到着してから話そう。ともかく、君の持つトレーナーにも勝るほどの知識と目を借りたいんだ」

 

「なるほど……分かりました。10分ほど時間をください。すぐに支度してきますので」

 

「本当に急ぎでは無いのだが……まぁ、早いに越したことはないか。校門前で待っているから、準備が出来たらそこで集合しよう」

 

「校門前ですね。分かりました」

 

私のその返事に満足したようにルドルフ会長はトレーナー室を出ていった。とりあえず将棋盤片して、制服に着替えて……トレーナーにはメールだけ入れとけばいいか。

 

「な〜んの用事だろうな?あっ、お土産は芋ようかんでいいかんな!」

 

「何でそんなの……いや、それを誰に使うの?」

 

「おう、わたしが見つけた面白ぇ奴がいてよ!そいつが今減量中だから目の前で食ってやろうかと思ってさ!」

 

「控えめに言って悪魔でしょ」

 

ウマ娘相手にそれはキツすぎる。さすがに相手の人が可愛そすぎるので、お土産は激辛チリソースにしてあげよう。それならゴルシちゃんだって使うのを躊躇うはず……。

 

とりあえず、将棋盤も片したし校門に急ぐか。トレーナーに事情をメールで送ったら速攻で『行っていいぞ』とのお達しが帰ってきた。これで気兼ねなく行けそうだ。

 

「お待たせしました!ルドルフ会長!」

 

「うん、それじゃあ行こうか。府中駅から少し乗り継ぐからはぐれないよう頼むよ」

 

_____________________

 

正直、ルドルフ会長の頼み事が少し不安だったことは否定しない。だってあのルドルフ会長の頼み事なんだぞ?もっとこう少し重い感じの要件なのかな…と思ってたんだけど……。

 

「それじゃあ今から私達が指導していくから、皆仲良く頑張ろうね!」

 

「「「「「「はーい!!」」」」」」

 

「ぎゃんかわじゃん」

 

府中駅から5つほど駅を通ってやってきたのは、URAが所有する公式のトレーニング場だった。URAの施設だけあって、コースの広さは私の通っていたトレーニング場よりも遥かに広い。

 

芝とダートは完備した上で、室内用の筋トレルームやミーティングルーム等の多目的用の部屋も設置してある。簡単に言えば、超がつくほど充実したトレーニング環境だ。

 

そんなトレーニング場のコースに集まっているのは、まだ小学生くらいのウマ娘ちゃん達だった。私はトレセン学園の走るウマ娘たちも好きだが、こういう子達の純粋な走りも大好きである。

 

いや〜、子供たちの走る姿は見てて癒されるよねぇ。元気いっぱいに走り回って笑い会う姿……最高に推せるね。

 

「ふふっ、君はトレセン学園外であってもウマ娘が好きなんだね」

 

「そりゃあもうその通りですよ!これから羽ばたいていくスターウマ娘の卵たち……何時間でも見てられますね!」

 

「そ、そうか。エアグルーヴから聞いていたが……本当に筋金入りだな」

 

ピィー!とホイッスルの音が鳴り響くと6人のウマ娘達が一斉に走り出した。とは言っても体を慣らすかのように軽く走っているだけだ。さすがに最初から飛ばして走る訳には行かないだろう。

 

そこら辺の調整や怪我防止などは、トレセン学園から直々に派遣されたトレーナーとトレーナー育成学校の生徒たちがグループになって見てくれているから安心だ。

 

「ただのふれあい会にしか見えませんけど、何で私を連れてきたんです?トレーナーの数も十分でしょうに」

 

「その通りだ。別に『君がトレーニングの指示をしろ』なんてことは言わない。ただ、私が目をかけている娘の走りを見て、君視点から見た率直な感想を聞かせて欲しいだけさ」

 

「ルドルフ会長直々に目をかけているウマ娘ですか……」

 

きっとその子は将来有望なんだろう。それこそ三冠すら狙えるほどの才能を持った娘なのかもしれない。

 

ピィー!と何回目かのホイッスルが鳴るとまた6人のウマ娘達が一斉に走り出した。しかし、走り出した瞬間に猛スピードで1人が他5人を置いてけぼりにしてしまった。

 

多分あの娘だろう。ルドルフ会長に似た三日月の形をした髪が特徴的なウマ娘……他の子よりも随分明るくて元気そうな娘だ。

 

「あのウマ娘ちゃんですか。いい脚してますね、それこそルドルフ会長みたいに見えます」

 

「そうだろう。将来有望な彼女の名前は『トウカイテイオー』、私に憧れてくれるウマ娘さ。生まれつきのセンスに加えて、同年代を寄せつけないあの走り……磨けば私をも超えていくだろう」

 

「確かに、才能の片鱗は見えますね……でもいいんですか?あのままで」

 

「ん?それはどういう意味だい?」

 

「あのままだとあの娘……そのうち脚を“壊しちゃいますよ”」

 

広く大きく踏み込むようなストライド走法、他人を寄せつけないような圧倒的な加速、まるでルドルフ会長を映してるような走り方だ。

 

「……率直な感想を求めたのは私だ。だから、聞かせてくれないか?君が見たテイオーの走りを」

 

「そうですね……一言で言うなら“良くも悪くもルドルフ会長のことを真似してる走り”ですね」

 

「良くも悪くも?」

 

「はい、彼女のような小さい体だと1歩が短いから確かに大きく踏み出した方が早く走れるでしょう。でも、あの走り方は常に脚に負荷がかかりすぎてる状態です。今は大丈夫でも故障するのは確実ですね」

 

「脚に負荷……対策法はないのだろうか」

 

「今のところ走りを変える、としか言いようがないです。もし、本格化で体型が大きくなれば今のような走りに戻せばいいと思いますけど、余り変わらない場合は本当に走法は変えた方がいいと思います」

 

「そうか……君を連れてきたのは正解だったな。以前、彼女と話した時に不安のようなものが見えてね。まさかとは思っていたが将来に関わるほどか」

 

もしかしたら、あのトウカイテイオーっていうウマ娘ちゃんは、自分自身の不調に少し気づいているかもしれない。それでもシンボリルドルフにそれを隠した。なぜなら憧れているから。

 

それは一種の呪いに近い。憧れているからこそ、他人と比較して自分を見誤ってしまう。これは私のお母さんに憧れた人達にも言えることだろう。

 

優れている人の姿を自分に重ねても、それが最良とは限らない。体格、性格、向き不向き……あらゆる要素でズレが生じて、いずれは自分すら見失ってしまう。

 

私は“私という自分”を理解しているから色んなことを試している。脚の質に合わせたトレーニングや走法、体格に見合った食事量などあらゆる面でメモに書き記しているのだ。

 

トウカイテイオーちゃんも今の疑問に気づくことが出来れば大きく飛躍する。ただ、その間違いを指摘することの出来る人が周りにいないのが問題だ。

 

本来ならば、周りの大人たちが気にかければ何ら大したことの無い些細なことだろう。でも、彼女はその走りで“結果”を残している。そのせいで周りの人達はズレの部分に目を向けることが出来なくなってしまったのだ。

 

「ルドルフ会長。少しあのトウカイテイオーちゃんとお話させてくれませんか?」

 

「テイオーと?それは別に構わないのだが……何を話すつもりなんだい」

 

「些細なことです。でも、それがあの子の将来に繋がるので」

 

「そうか、分かった」

 

私がそう頼み込むと、ルドルフ会長は近くにいたトレーナーに話をつけに行った。数分ほど待つと小学生たちは休憩ということになり、15分ほど話せる場を設けてくれた。

 

そういう説明を受けて、私はトレーナーさんにコース内へ案内された。向かってる先にはルドルフ会長に目を輝かせながらはしゃいでいるトウカイテイオーちゃんのもとだ。

 

「カイチョー!ボクの走りどうだった!?前より早くなってたでしょ!」

 

「ああ、見違えるほど早くなっていたよテイオー」

 

遠目から見ていると完全に親子のやり取りそのものだな。さながら父親と息子のような関係に見えるのはなんでなんだろう……。世の中まだまだ不思議なことがいっぱいだなぁ。

 

と、私は私の仕事をしないとな。

 

「君がトウカイテイオーちゃんであってるよね?」

 

「そうだよ!……って、誰?」

 

「テイオーにも紹介しよう。現在クラシック級のウマ娘“レイゴウノルン”だ。君に似て才能豊かな選手さ。芝のレースでは疾風怒濤の走りを見せているよ」

 

「ふぅ〜ん。なんだかよく分からないけど、すっごいウマ娘っていうのは分かったよ!」

 

「ははは、まぁテイオーからするとそうなるね」

 

ふむ…近くで見たからわかるけど、容姿もルドルフ会長に少し似ているな。三日月の髪の毛もそうだけど、髪色とか顔つきとか……若干とはいえ面影がある。

 

脚についてすぐにでも調べたいが、うちのトレーナーみたいに見知らずのウマ娘の脚を触るような変態性など私には無い。まずは聞きたいことを聞いて、そこから状態を把握していこうか。

 

……私、今カウンセリングみたいなことしようとしてないかな?

 

「いや〜、テイオーちゃんのさっきの走りは凄かったよ。ぶっちぎりだったね」

 

「でしょでしょ!なんたって、私は無敵のテイオー様だからね!」

 

「あの走りはルドルフ会長を真似したのかな?レースでの姿とかなり似てたけど」

 

「そうだよ!カイチョーはすっごく早くて、走る姿がカッコイイんだ!だから、ボクもカイチョーの走りを真似したってわけ!」

 

ふむふむ、聞く限りルドルフ会長から事前に教えてもらった情報と一緒だね。走り方もルドルフ会長と同じ真似して、同年代の子達には負け無しと……。

 

ファーストコンタクトの滑り出しは上々かな。元からトウカイテイオーちゃんは人懐っこさそうだし、それなりに楽しい会話をすればすぐに打ち解けてくれた。

 

そして、少しだけを脚を触らせてもらった。理由は適当にでっち上げて、話をルドルフ会長に合わせてもらえるよう事前に打ち合わせはしている。

 

小学生とはいえウマ娘の生脚を触らせてもらえるのである。アスリートウマ娘にとっての生命線である脚を触るという事実に手が震えるが抑える。そもそも治すために触るのであって、下心は無いのだ……多分。

 

足の甲から太もも部にかけてをゆっくり調べていく。触ってみて分かったが、この子は普通の人よりも柔軟性が高い。ウマ娘としてはとても貴重な才能で将来が楽しみではあるが……。

 

「走るのは控えた方がいいかもね」

 

「え……」

 

触診の結果は思ってた以上に深刻だった。




ご愛読いただきありがとうございます

今回のストーリーは1話で収めようかなぁ……なんて考えていましたが、全然収まらなかったので前後編に分けます。ストーリーにちょっと間が空いちゃうけど許してね。

毎話の誤字報告ありがとうございます。ちゃんと確認して上で直させてもらっておりますので、これからも報告していただけると嬉しいです。

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