夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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身近な者が1番大切なんだなぁって話

「絶対にぃぃぃぃぃ!!やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「私が絶対に勝ぁぁぁぁぁつ!」

 

「フッ!」

 

トレセン学園のコース。そこで叫びながら先頭を突っ走るのは芦毛のウマ娘。その後を追うようにして鋭い眼光で迫ってくるのは“孤高の彗星”アステルリーチと、“シャドーロールの怪物”ナリタブライアンだ。

 

1級レベルのレースを展開する彼女たちに、周りにいたウマ娘とトレーナーたちは歓声を上げながら応援している。

 

「何やってんだあいつら……」

 

「少し目を離した隙に大騒ぎになってるわね」

 

沖野と東条トレーナーが打ち合わせを終えてコースに来てみれば、自分たちの教え子達が勝手に併走とは言えない程のスピードでレースをしている様子に少々呆気に取られていた。

 

「やぁ、トレーナーに沖野トレーナーさん」

 

「フジキセキか、この騒ぎはなんだ?」

 

「私も全部知ってるわけじゃないんですけど、あそこの子なら全部知ってるかもしれないので……」

 

「あそこの子?」

 

フジキセキの視線の方へ向くと、頭にハチマキを巻きながら両手に大きな団扇を持って応援しているピンク髪のウマ娘の姿がいた。完全に盛り上がり方が周りとは異質である。

 

「とても輝いていますよ、ノルンちゃん!あぁ!でも、流れる彗星のようなアステルリーチさんも、獲物を狙うがごときのブライアンさんも素晴らしいですよ!!」

 

「なんだ、アグネスデジタルか」

 

「知ってるのか?」

 

「最近よくノルンと一緒にいるのを目撃してるし、本人曰くノルンの友達だそうだ」

 

なんなら年末年始前の日にトレーナー室でノルンと一緒にコタツに入ってた子だ。彼女の趣味についてはノルンからよ〜く聞かされている。あいつと同類だってことは話を聞いてれば嫌でもわかる。

 

兎にも角にもあの子に話を聞かないとな。

 

「随分と大盛り上がりだな。アグネスデジタル」

 

「あっ、あなたはノルンちゃんのトレーナーさん。その後ろはリギルの東条トレーナーさんに……フジキセキさん!!?」

 

おっと、そういえばフジキセキってファンクラブができるほど女子から人気のあるウマ娘だったな。ウマ娘好きでもある彼女には少しどころか、かなり刺激が強そうだ。

 

おい、無言でいい笑顔振りまきながら手を振るな。この子が瀕死になるし、周りがザワつくだろうが。

 

「あ〜、まぁフジキセキのことは置いといて聞きたいことがあるんだけど」

 

「私に……でしょうか?」

 

「そうそう、何で俺らの担当バがレースしてるのか経緯を聞きたい」

 

「そういう事でしたか。一部始終を影から見守っていたので、完璧にその時の状況を伝えますね!」

 

「お、おう。頼んだ」

 

アグネスデジタルの語ってくれた内容はこうだ。

 

1.ノルンが自主練しているところにアステルリーチがちょっかいをかけに来た。

 

2.遠くからは聞こえなかったが、軽くアステルリーチがちょっかいをかけてノルンがガミガミ文句を言っているところに、ナリタブライアンが登場。

 

3.最終的にレースで決着をつけるという結論に至り、こうして3人同時にレースのスタートを切ったという訳だ。

 

「……そんな理由か」

 

「珍しいな。ブライアンが自分から他人と関わるのは」

 

「あのポニーちゃんに興味がある様子はちょくちょく見かけてましたから、さほど不思議ではないと思いますよ」

 

フジキセキの言葉に覚えがあるのか、東条トレーナーは「あぁ、そうだったな」と納得した様子。

 

リギルの内情をよく知らない沖野には熱くなっているブライアンが珍しくてしょうがなかったが、「まぁ、ノルンだからなぁ」と納得してしまうレベルにはこの1年で毒されていた。

 

「おっ、帰ってきたな」

 

「はっ!本当ですね!皆さん頑張ってくださーい!」

 

たった3人のレースなのに聞こえてくる足音が轟音すぎる。ノルン達が走り去ったあとを見てみれば、一部の芝が抉られて土が見えていた。どんだけ力込めて走ってるんだって話だ。

 

先頭は以前ノルン。後方の2人との差は半バ身のまま、コースのゴール前をめざして爆速で駆けてくる。

 

「逃げて勝つんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

「逃げ切らせない!」

 

「逃さんッ!」

 

走るプレッシャーがもうGIレベルである。ただの併走で何がそこまで彼女達を熱くするのか……全く見当がつかない。

 

そのまま3人ともゴールを駆け抜けた。1着はノルンだったが、2着のブライアンとの差は僅かにアタマ差で勝っていた。

 

「お〜、やっぱりノルンが勝ったか」

 

「最近自主練が多くなってるとはいえ、あのブライアンとアステルに勝つなんてね」

 

走りきって乱れる息を整えると、沖野と東条トレーナーを見つけたノルン達は歩きながらやってきた。安心した様子のノルンに比べて、2人はとても悔しそうな表情を浮かべる。

 

「トレーナー。もうトレーニングの時間でしたっけ?」

 

「んにゃ、まだ時間はあるが会議が終わって来てみれば、お前らがレースをして大騒ぎだったからな。いやでも目に付くよ」

 

「断れなかったんです!あのブライアンさんからの併走のお誘いですよ!?断れないに決まってるじゃないですか!」

 

必死な様子で弁明するノルン。沖野にしては三冠の経歴を持つ“ナリタブライアン”と、中距離でのスーパースター“アステルリーチ”の両方と併走することに関しては別に気にしてはいない。

 

むしろ、皐月賞に向けたいい練習になったとさえ思っている。走ってる時もGI相当の気迫だったし、むやみやたらに併走を行わないよう一言だけ言っておけばそれで万事解決である。

 

「別に怒ったりしねぇよ。ただ、今度はちゃんと俺の確認を取れよ?」

 

「……怒らないんですね?」

 

「怒ってどうするんだよ。お前にとっちゃプラス面しかないから怒るわけねぇだろ」

 

「てっきり罰としてアメの箱を1つ丸ごと買わせるものかと……」

 

「んなパシリみたいな真似させるわけねぇだろ。しかも担当の金で」

 

そう思われていたとは心外だ。ノルンのことだし多少ノリみたいなとこがあるかもしれないけど、場合によってはマジでそう思ってる時があるから冗談だとしてもタチが悪い。

 

その時、アステルリーチがこちらに近づいてきた。ノルンに負けたせいで悔しそうにしている。

 

「くぅ、負けた。もうすぐだったんだけどなぁ……『ゴスロリ』」

 

「ふざけんな、絶対嫌だからな。撮影の時のファッションショーに味しめてんじゃねぇよ」

 

「えぇ〜、絶対狙えるってゴスロリ路線」

 

「だからなんでゴスロリ限定なんだよ!?」

 

ホントに仲良しだよなこいつら。さっきまで喧嘩の延長戦でレースしてたんじゃないのか?それに……話の流れ的にレースの勝ち負けで条件つけてたな?まぁ、生徒同士の約束だからいいんだけどさ。

 

「それとお前が私の言うこと聞く権利だけど、入学の時と合わせて2つあるってこと忘れるなよ?」

 

「あっ」

 

ノルンのその一言に冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべるアステルリーチ。ノルンって大概のウマ娘に対しては尊ぶような態度だけど、なんでこいつ相手だと当たりが強いんだろうな。

 

未だにノルンとアステルの関係性が全くわからんから謎である。

 

_______________________

 

「今、ノルンちゃん用のゴスロリ服を製作中なんです〜」

 

「キレそう」

 

「とは言っても情報源はアステルさんなので」

 

「あいつぅ……」

 

レースとトレーニングを終えて帰ってきたら、同室の子が自分用の衣装服を作ってる。こういう時ってどういう感情でいればいいんだろうか。

 

にしても、またアステルか。用意周到と言うかなんというか……いらない方向で手の回し方が上手くなってる気がする。前世の親として止めるべきだとは思うけど、あいつは絶対止まらねぇだろうなぁ。

 

「これはお仕置を兼ねてとんでもない罰ゲームにしてやろう」

 

「程々にですよ?あれほど親好きな息子さんも珍しいですし」

 

「あいつは親好きよりも愉快犯だよ。今世でもこっちに迷惑をかけてきてさ、ホントに」

 

正確に言うと、前世は直接的な迷惑は無かった。その代わりと言っちゃなんだが、厩務員の人たちからの噂はかなり聞いた。親として叱ってやれないのも苦だなと思ったのはその時が初めてだった。

 

根はいいのになぁ。ちょっと黒い性格の方へ進化してしまったと考えていいだろう。やることなすことの意味がわかる分、余計にタチが悪いのがミソだ。

 

「それでもいいですよ。無事に育ってくれただけで嬉しいじゃないですか」

 

「……そうだな。君の前でグチグチ言うことじゃなかったな」

 

「いいんです。私は気にしていませんし、前でも無事に走りきる子の方が少ないってよく耳にしてましたから」

 

ミルキーの子供は生前レースを走りきる子が少なかった。無事に走りきれたのは多くて2、3頭ってところだろう。それ以外はレース中の事故や病気でミルキーよりも早く逝ってしまっている。

 

アステルのやつも事故による他界だったが、私の残した子供たちはバリバリに元気である。GIで活躍した子、GIIやGIIIで2桁の勝利数をあげた子などもちゃんと最後まで走りきっている。

 

「さっ、そんな湿っぽい話よりもご飯に致しましょうか」

 

「そうだね。今日は併走に加えてトレーニングもしたからお腹がぺこぺこだよ。シャワーも浴びたいけど、まずはご飯が先かな」

 

「では、まずは食堂に行きましょうか。ふふっ、今日今季の新作料理を食べてみたのですが、これがかなり美味しくて!」

 

「へぇ〜、ミルキーがそこまで言うなんて珍しいね。私もちょっと気になってきたから頼んでみよっと」

 

________________________

 

「おい。今、暇か?」

 

「忙しくなりそうな予定でしたけど、全てキャンセルします。…………よし、これで消灯までブライアンさんのために時間を作れました」

 

「そこまでしなくても……はぁ、まぁいい。ちょっと着いてこい」

 

「ルドルフ会長やエアグルーヴさんは……」

 

「来ない。今日は私とお前だけだ」

 

よし、ここまで普通にやり取りできてるな。しかし、ブライアンさんと2人きりとは……いやいやいや!邪な考えを持ってはいけない。これはあくまでブライアンさんの用事なのだ。

 

ここ数ヶ月でウマ娘ちゃんとの最低限のコミュニーケーション能力は獲得済み。これでアガってしまってブライアンさんに迷惑をかけることもない。

 

気をつけなきゃいけないのは不意打ちだろう。ただでさえ顔が整っているウマ娘ちゃんなのに、ブライアンさんはカッコイイがすぎる。うっかり不意打ちを食らってダウンしてしまわないようにしないと……。

 

「それで、今日はどこに向かうんです?」

 

「買い物だからそこら辺を回る」

 

「デパートとかってことでいいんですね?」

 

「そう思ってくれればいい」

 

デパートといえば日用品から雑貨、化粧品や貴重品などの幅広いものが取り揃える……ということは荷物持ちかな?私は。

 

などと考えていると、意外なことにやってきたのはスポーツ用品店のウマ娘専用コーナーだった。ひとしきりコーナーを見て回ったブライアンさんはこちらを見ながらばつが悪そうな顔をしていた。

 

「蹄鉄と……シューズを選ぶのを手伝ってくれ」

 

「えっ……わ、私がですか?いつも自分でお使いになられてるやつでいいのでは?」

 

「その……言いづらいんだが、毎回シューズと蹄鉄を選んでくれるのは姉貴でな。どれが自分にあったものなのか全く分からないんだ」

 

「ブライアンさんのお姉さんとなると、ビワハヤヒデさんですね。確か関西の方へトレーナーさんと一緒に行ってるとかなんとか……」

 

「そう、それで会長様やトレーナーに相談したら、お前の名前が挙がったというわけだ」

 

確かに東条トレーナーさんもチームメンバーの指導で忙しそうにしてたし、ルドルフ会長はいつも通り学園の書類を生徒会室でさばいているだろう。

 

こう信頼してくれるのは嬉しいのだが、本当に私でよかったのだろうか?なんなら、三上さんとかうちのトレーナーでも…………ダメだな。2人とも癖が強すぎる。

 

まぁ、とりあえず頼られたなら全力を尽くすか。ブライアンさんの脚だと中遠距離向きのシューズと蹄鉄が必須として、モデルを考慮すると……。

 

「長距離用のシューズと蹄鉄を買うのがセオリー……けど、ブライアンさんは普通のウマ娘より込める力が強いからその分を考慮して、ワンランク強度の強いものを選択するのがベスト。靴幅はだいたい1センチほど大きいのを想定するとして、その他もろもろのケア用品もチェックしておかなければ……」

 

「……さっきから何を1人でブツブツと」

 

「あっ、すみません!考えしているとよく独り言が多くなるので……不愉快だったでしょうか?」

 

「いや、そんなことは思ってない。それよりどうだ?大体の目星はついたのか?」

 

「はい!ブライアンさんなら、これとこれのモデルが合っているかと。どちらも軽量と頑強さが売りのタイプなんですけど、履いてみて感覚が違ったらまた教えてください。別のモデルを見てみますので」

 

「ふむ……」

 

色んなモデルを試しながら蹄鉄とシューズを絞っていく。最近はシューズ制作に力を入れてる企業もある事だし、種類は豊富だ。蹄鉄に関しては特に深いこだわりはないようなのですぐに決まった。

 

あとはケア商品。ブライアンさん曰く、ケア用品もビワハヤヒデさんから定期的に差し入れてもらっているものを使っているとのこと。なら、この際自分の気に入ったものを決めてもらおうと思い、シューズ選びと並行してケア用品も見て回った。

 

シューズ選びを開始して約2時間半程で、揃えたいものを揃えたブライアンさんは少しどこか嬉しそうだった。

 

「いい買い物が出来て良かったですね。ブライアンさん」

 

「ああ、道具ひとつ選ぶのにもこれ程考えることがあるとはな。……今度姉貴と来た時に役立ててみるか」

 

「お役に立てようで何よりです」

 

ふぃ〜、何とか乗りきった。シューズ選ぶ時なんか顔がズイッと近くなるからめちゃくちゃドキドキするよ。あれは万病に効くね、間違いなく。

 

しかし、姉と妹か。私とアステルは親子だからブライアンさんのような姉妹の感覚はよく分かんないけど、考えてみればこっちで血は繋がってないとはいえ、唯一の肉親だもんな。

 

ミルキーもグランもオリオトメのやつも皆こっちじゃ1人っきりだ。そう考えれば、私はアステルがいることを大切にしないといけないんだな。

 

「いいですね、姉妹って」

 

「そうだろうか?姉貴は私にもっと礼儀正しくしろとか、野菜を好き嫌いせずに食べろとか言ってるんだぞ?」

 

「それは愛されてるからですよ。ほら、よく言われるじゃないですか『好きの反対は嫌いじゃなくて無関心』って、少なくとも怒ってくれる時点でブライアンさんはビワハヤヒデさんに愛されてるんですよ」

 

「あれが愛か……お前も中々親ヅラのようなことを言うんだな」

 

「うぇ!?そ、そうでしょうか!?」

 

あっぶねぇ……ちょっと思いふけってたせいで年寄りたセリフが出てしまった。今のは私は花の女子中学生、それ相応の振る舞いをしないと。

 

「だが、お前のことは気に入っている」

 

「ブライアンさんが……私をでしょうか?」

 

「……お前は会長様と併走したことがあるそうだな?」

 

その質問に私は一瞬ドキッとしてしまった。一体どうやってその情報を手にしたのか気になるところではあるが、まずは質問に答える。

 

「あり…ますね。ルドルフ会長から持ちかけられた提案でしたのでつい……」

 

「その日から会長様は何か吹っ切れたようでな。前よりも確実に強くなっている……そして、その原因はお前だ。私もお前の走りを初めて見た日から、お前は他と何かが違うと感じていた」

 

「……私はそれほど過大評価を受けるほどじゃないので」

 

「まぁ、自分がそう思っているのならそう思っているがいい。だがな……」

 

再度こちらに振り向いたブライアンさんの顔はまるで猛獣のようだった。刺すような眼光でありながらも牙が出ているかのように見える笑顔。その姿はまさに“怪物”そのものだった。

 

「私はお前を逃がさない、必ず昨日の借りを貸してやる。だから、私が勝つまで他のやつに負けるな。いいな?」

 

「ひゃ、ひゃい!わかりゅました!」

 

「よし、私はこれからもう一箇所行くところがあるから、お前は門限に間に合うよう帰った方がいい」

 

「そうしゃせていただきましゅ……」

 

「んっ、じゃあな。今日は助かった」

 

そう言い残して、ブライアンさんはデパートを出ていった。私は足を動かして門限までに寮へと到着したのだが、部屋に帰るなりすぐにベッドに飛び込んで……

 

「うにゃああぁぁぁぁぁ!!心臓にわるすぎるよおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

と、ブライアンさんのあの時の表情を思い出して、身悶えるのだった。




ご愛読いただきありがとうございます。

最近忙しすぎてちょっと間隔の空いた投稿にはなりますが、更新はしていくので皆さん楽しまに待っていた頂けると幸いです。

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