動画配信とは現代社会で急速に伸びている娯楽の一つである。やってる内容は……まぁ、企業のものからマニアックなものまで多岐にわたる。
SNSでも短い動画を投稿して多くの人に広めたり、一瞬を捉える美しい写真でいいねをもらったりすることで素人でも簡単に知名度をあげることが出来るのだ。
しか〜し、それは表に立つもの達がやることであって、オタクである私はひっそりとその人たちを影から応援させていただくのが鉄則!
私も当然のごとくUmaTubeは見ています。暇さえあれば情報収集のついでによく見てますね。最近は外国にいる栗毛姉妹の動画にハマってますね(どハマり)
あっ、夜更かし気味にならないようには気をつけてるぞ?現役のウマ娘はコンディションが第一だからね!体調管理も実力のうちだ!
「さてさて、今日は何を見ようか……」
「あら?何をお見になっているんですか、ノルンさん?」
「ん、UmaTube」
「UmaTubeでしたか、私も時々見てはいますね」
「へぇ〜、ちなみにどういう動画を見てるの?」
「ちょうどノルンさんが見ている、“女の子同士”の仲睦まじい動画ですね」
「な、なるほど……」
別に変な話じゃないのに何故か背筋がぶるっときた。ミルキーと話す時に限って時々背中に氷が入ったかと思うほどの悪寒に襲われる。不思議だ……悪霊とかいないよねこの部屋?
「そろそろ寝る時間だし、これで最後かな」
「ふふふっ、ノルンちゃんはいい子ですね」
「なんか母親目線の感想やめてもらえません?」
「あら〜、そんなつもりはありませんでした」
時々、こうしてすっとぼけられるのがしばしばある。ミルキーってどことなく母性あるからそのセリフがガチっぽく聞こえちゃうんだよね。
とまぁ、動画配信などは色々なコンテンツを本人の好みで見られるっていうのがいいよね。URAもしっかり過去のレースの動画とか出して再生数稼いでるし、トレセン内の子たちも少なからずやっている。
GIウマ娘ならば、それこそスポンサーの企業から宣伝として出てくれなんていう話が来たりする。私?私はそんな話来たことありませんよ。いくら朝日杯に勝ったからってその程度で……
「ノルン、お前に宣伝依頼が来てるぞ」
「マジで言ってます?」
即落ち2コマとはこのこと。昨日考えてたことが今日現実になるとかありますかね?ま、まぁなったものは仕方ないが、一体誰がそんな依頼を……。
「レディース雑誌の寺井さんって人からの依頼なんだけどさ」
「oh……」
バチバチの知り合いだったわ。去年の1件で連絡先は交換したけど、正直あの人かなり忙しい人だから、勝負服の件以外であんまり話したことないんだよね。時々、アンケートとかって言って雑誌の感想とか聞いてくるけど。
今のシーズンで依頼となると……春を先取りしたファッションのモデルにでもなって欲しいのだろうか?他はパッと思いつくのがないな。
「え〜と、2週間後の木曜日あたりから打ち合わせしたいみたいだ。もちろん俺も着いていくが、どうする?」
「受けましょう。今回は正式なご依頼ですし、あの人にも勝負服の件でお世話になっていますしね」
「分かった。先方には受けるように伝えておくから、ちゃんと予定は空けとけよ?」
「分かりました」
朝日杯を制してから企業絡みの案件が来たのは、これが初めてだ。一応ゲームセンターには私のパカプチが並んではいるけど、これに関しては学園側と企業さん側で決定して制作しているので、私は全く知らない。
パカプチが作られるのって、トゥインクル・シリーズで活躍しているウマ娘達限定なんだよね。だから、ウマ娘達に取ってパカプチが作られるのはとても名誉なことなんだよね。
そのパカプチを超えるものとして、今回のような企業側から依頼されるのがある。これは学園側だけでなく、トレーナーの判断とウマ娘の了承によって成り立っている。
企業側も企業側で、ある程度脈があるウマ娘を起用したいと考える。知人であれば断られるリスクが少ないからね。
「これは松島さんへのリーク案件ですね。実用、観賞用、保存用の3つを買うことを勧めつつ、松島さんの方にも何か連絡がいってないか聞いてみよっと」
UMAINを開いて松島さんへと連絡。既読は付かなかったが、この時間帯だと仕事で忙しいと断定する。だって、松島さんに連絡した時は直ぐに既読が付くからね。
さてさて、一応の根回しは済ませておいたけど、今日はやることないんだよね……。トレーナーの用事と私の休息を考えてトレーニングは無しになってるし。
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「で?そういう理由で敵情視察って訳〜?」
「別にそんなんじゃないけど…。三上トレーナーと1度話をしたいと思ってたから」
はい、私は現在トレセン学園の芝コースにいるグランの元に来てま〜す。暇ならとてきとうに学園内を歩いてたら、芝コースにてグランが走っている所を目撃したので突撃したのだ。
「あ〜、君のお母さんのトレーナーさんだったんだっけ?」
「その通り、正解正解。ところで三上トレーナーは?」
「あの人ならあそこだよ〜」
グランが指さした方向では、三上トレーナーが他のウマ娘達への指導を行っていた。脚に負担をかけないよう目を光らせるその姿は正に中央トレーナーとして恥じぬ姿と言ってもいい。
しかし私の目はトレーニングの方に向けるのではなく、三上トレーナーの傍と数百メートル向こうに佇んでいるビデオカメラの方へ向いていた。
「何あれ?」
「ん〜とね、確か動画投稿サイトにトレーニング風景とかをトレーナー志望の人向けに投稿してるんだって」
「え?それ大丈夫?」
「一応だけど大丈夫みたい〜。理事長からも『快諾!』って扇子でお墨付き貰ったみたいだし」
「確かにあの理事長なら許可するか」
“天才”三上 環の指導動画か。あの人、巷では変人だのなんだのと言われてるけど、あれでちゃんとGIウマ娘を輩出してるから認知度と信頼度は高いんだよね。
トレーナー志望の人達ならこぞって見るだろ。それこそ、怪我に直結して関わってくる脚のケアと、トレーニングの指導方法とかは貴重だもんな。一見どこか百見するくらいの価値はあるぞ。
「撮ってるから邪魔かな?」
「今行くのは〜……いや、君が行ったら邪魔どころか撮れ高しかないから大丈夫じゃないかな?」
「じゃあ行ってくるか。この機会逃したら今度いつ話す機会があるか分からないもんな」
「ん〜、行ってらっしゃい。僕はトレーニングに戻るからね」
悠々と芝コースをランニングしていったグランを見送って、私は三上トレーナーの元へと歩いていく。
さてっと、お母さんの情報では三上トレーナーは現在トレセンの中央で変人トレーナーとして活躍中とのこと。変人と呼ばれる所以となる逸話は色々とあるが、最もたる理由としては『脚に問題のある娘』を徹底的にスカウトしてる点だろう。
自ら爆弾を抱えにいってるようなもんだもんな。トレーナー側から見たら変人そのものとしか思えない。
まぁ、変人だとしてもちゃんと結果は残してるから言うことは何もないけどね。主なウマ娘としては私のお母さんが筆頭だけど。
「こんにちは、三上トレーナー。お時間よろしいです?」
「あら?随分と久しぶりだねレイゴウノルン」
「前に会ったのは秋頃でしたっけ?あの時からずっと話したかったんですけど、時間が無くて……」
「GIに向けて調整してた君が話せないのは仕方ないさ。かく言う私もトレーニングで忙しかったからね。お互い様というものさ」
予定が合わないのは仕方ない。三上さんはトレーナーとしての仕事があり、私は競走バとしてのGIに向けたトレーニングがあるのだから中々時間ができないものだ。
今だってチームの子達の指導をしている。GIのベテラントレーナーとはそれほど引く手あまたなのだ。
「今度レースに出るんですか?」
「うん、重賞に出走する予定だよ。出るからには勝たせたいから本腰入れて調整中ってところかな」
「なるほど……」
今週となるとGIII辺りになるかな。見る限り三上トレーナーの指導しているウマ娘たちは、私の目から見てもかなり仕上がってる。
グランのやつも皐月賞に向けて自主トレーニング中だが、調子は良好のようだ。こう見てるとトレーナーってこれが本来の姿だったんだなぁ……と思ってしまう。
脚をベタベタ触るうちのトレーナーに比べてえらい違いである。
「応援、絶対に行きますから!」
「ふふふっ、ありがとう」
にこやかな笑顔を浮かべる三上トレーナー。ここまでの会話も近くにあるカメラに全部拾われてるけど、カメラを止める気は無いようだ。まぁ、編集とかなんなりとかでここら辺全部バッサリ切れるもんな。
グランのやつも気にしなくていいと言っていたので、遠慮なく私は三上トレーナーと話すことにした。トレーニングのことやこれからの注目選手、それに私のお母さんの話もした。
「初めて会った時にビビッときたんだ。『私がこの娘を輝かせるんだ』ってね」
「勘ってやつですか?それとも勝てそうだったから?」
「勝てそうだったから……って言うのは少し違うかな。勝てそうだから、強そうだからって理由じゃなくて“勝たせたかった”からスカウトしたんだと思う。……最初にキザな言葉を言っちゃったのは今でも恥ずかしいんだけど」
「それが三上トレーナーの信条ってわけですね」
なんで脚に悩みを持つ子達ばかりをスカウトするのかが、少しだけ分かった気がする。お母さんは良いトレーナーと巡り会えたから、あそこまで活躍できたんだろう。
芯が強い人ってこういう人のことだろう。迷わず自分の道を突き進む力があるってきっと素晴らしいことだと思う。
「逆に聞くけど、君は何故レースを走ってる?」
「何故でしょうねぇ。“無敗三冠”、“有馬記念制覇”が目的ではあるんですけど」
「走るには十分な理由だが、何か問題でも?」
「“想い”がないんです。レースにかける」
「想い……シンボリルドルフの“全てのウマ娘の幸福”みたいなものか」
走るウマ娘はみんな何かを願いって走っている。それが幸福や絶対の証明、送り出してくれた両親に勝利を届けたいという目標でも立派な願いだ。しかし、私にはそれがない。
無敗三冠、有馬記念連覇、そして凱旋門賞制覇……私は色々と前世で残しすぎたせいで今世の先が見えなくなった。レースに冷めていた理由はこれだ。
それでもオリオトメやグラン、アステルのように私への勝利を目標として走っている奴らもいる。そういった手前で「走るのに飽きたから走らない」なんて、それこそ勝手がすぎる。
彼女達の目標が私である限り、私は走り続けなきゃ行けない。だから、私は無敗三冠を宣言したんだ、あいつらを焚き付けるために。
「小難しいことは言えないけど、あんまり気にしなくていいんじゃないか?何も持たずに走ればそのうち君の言う想いとやらも見つかるでしょ」
「そう簡単に見つかるもんなんですかねぇ。……まっ、あなたの言うことですし、もう少し頑張ってみましょうか」
「うん、自分のペースでゆっくりね。あなた達!そろそろダウンに入りなさい!特にそこの二人は念入りにね!」
話し込んでいると既に夕日が傾き始める頃になっていた。話し込んでいたせいで時間の経過をあんまり気にしていなかったせいで、こんな時間まで三上トレーナーに付き合わせてしまった。後でお礼の菓子でも送っておこうかな。
「それじゃあ、ミーティングもあるようなので私は帰りますね。あ、動画を作るなら私のところは全カットでよろしくお願いします」
「ん?どうやって動画のことを……いや、グランから聞いたな。非常に残念だけど、カットするのは無理かもしれない」
「えっ、何でですか?後でいくらでも編集できるじゃないですか」
「いや、このカメラさ“生放送用”に使ってるんだ」
「へぇ……えっ、はぁ!?」
そう言いながら三上トレーナーが手に持っていたスマホの画面を見せてきた。そこには“LIVE”という文字と一緒に多くのコメントで溢れかえっていた。
ちょっと待って!三上トレーナーと話し合う前からカメラは作動してたから……あれを全部聞かれた?
「いや〜、動画の編集とかあんまり分からなくて、こうやって生放送で配信するしかなくてさ……って大丈夫?」
「ふ、ふふふ…だ、大丈夫ですよ!こういうこともありますからね!全く気にしてませ……」
「さっきから『ポンかわ』とか『エモォ…』とかって流れてるくれけどこれってどういう…「んもおおおぉぉぉぉ!!」えぇ!?」
私はその場から全速力で走り去った。多分、過去1の逃げ足を発揮できたのかもしれない。あんな大勢の視聴者がいる前で真剣に話し込んでしまったのが非常に恥ずかしかったから逃げたのだ。
ちなみに突如として走り去って行った私を三上トレーナーは呆然と見つめ、担当のウマ娘たちも何があったのか不思議に思っているようだった。
その中で1人だけ、してやったりの笑顔をグランロウルが浮かべていた。もちろん、後日グランへご丁寧に“お礼”をしておいたのは些細な話である。
その日一日で三上トレーナーの動画は100万再生以上の記録をたたき出し、切り抜きはウマッターのトレンドで1位を獲得した。これを機に、理事長主導の元で動画などのSNSへの拡散が広く普及するようになったのである。
ちなみに私のトレーナーもその話をちゃんと把握していた。そして、スピカの宣伝としてあの動画を元に制作したPR動画を投稿しようとしていたので、私は蹴飛ばす勢いでトレーナーを止めた。
その時、ゴルシちゃんは傍らで最高の蕎麦粉を作ってました。
ご愛読いただきありがとうございます。
そろそろまたアンケート案件があるので、内容を提示しておきまーす。『グランロウルの勝負服デザイン』についてのアンケートです。オリオトメに関してはもうこちらで決定させていただいているので、グランだけのアンケートとなっております。
できるだけアンケートにご協力ください。
こういう話を読んでみたいという提案がありましたら、作者のメッセージボックスに送り込んでください。
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