夢追いかけるウマ娘に魅せられて…   作:清涼みかん

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嵐の前の静けさ

ウマ娘、前世で活躍した名馬たちの名と魂を引き継ぎ走り抜ける乙女達。その祖とされるウマ娘達がトレセン学園内にも飾られている“三女神様”である。

 

“ダーレーアラビアン”、“バイアリーターク”、“ゴドルフィンバルブ”…全てのウマ娘が先祖を辿っていくと、必ずこの3人に行き着くことになる。まさに神様みたいな存在だ。

 

馬の方でもこの3頭が祖として君臨していたが、時代の経過とともにダーレーアラビアンの一強時代へと移り変わっていった。

 

そんな時代に変革をもたらしたのが、真打と呼ばれた時代の馬達だった。オリオトメはバイアリーターク、レイゴウノルンとミルキーロードはゴドルフィンバルブ。

 

グランロウルの祖先はダーレーアラビアンだが、半分はバイアリータークの血を引いている非常に珍しい血統の馬だった。

 

四頭とも多少は別の祖先の血を引いてはいるが、それでもそれぞれが祖先の名をもう一度世界へ轟かせる程の活躍を見せた。

 

それまで死語となって消えかけていた『三大始祖』という言葉はもう一度競馬業界隈で使われ始め、今でも多くの馬がその3頭の血を引いて活躍しているのだ。

 

「正直さ、そういうのってあんまり実感持てないんだよね。だって自分は自分だし?遠い過去の御先祖様の血がどれだけ凄いのかもあんまりわかんないし」

 

「三女神……始祖様達がいなかったら私も父さんもここにはいないんだろ?それはちょっと嫌かなぁ」

 

トレセン学園での入学式や皐月賞を控えた4月をもうすぐ迎えるという時に、私は屋上でアステルリーチと話し合っていた。

 

こういう話になったきっかけは、先日歴史の勉強にて三女神様について教えてもらったからである。今まで深く考えたこと無かったけど、前世と同じだと考えれば自然と興味が湧いた。

 

そもそも馬とウマ娘の絶対的な体の違いは一体なんなのか?馬は四足歩行の動物で、人間との意思疎通ができない生物。だが、ウマ娘は人の形をしていながら馬と同等のパワーを秘めている。

 

明らかウマ娘方が過ごしやすいとは思うものの、それはそれでもデメリットがあるから生きづらくもある。

 

「まぁ、三女神様の血筋についての云々は置いておいたとしても、私たちだけが記憶を持ってることがおかしいんだよなぁ」

 

「特別な要因があるんじゃない?『父さんと関わりのある馬』とかさ。それだと関係者が多すぎて記憶持ちで溢れかえりそうだけども」

 

「多分それは無いかもな。ここ13年も生きてきたが、記憶を持ってたのは入学してから会ったお前らだけなんだよ。けどお前の言う通り、私関係に絞ったら何百人が記憶持ってるんだよって話になるね」

 

記憶を持ってるウマ娘はほぼランダムに近いが、ある程度の統一性はある。全員が私と関連のあるウマ娘であるということだ。そこだけは確実に関係していると言える。

 

こうなるとアステルの例があるから、これから産まれてくるウマ娘たちの中に私の息子・娘の名前と記憶を引き継いる娘がいるかもしれないってことだ。……アステルが運良く早く生まれただけで、他は気が遠くなるほど先の話になるかもしれないけど。

 

「それにしても、皐月賞まであと少しだっていうのに父さんは随分とのんびりしてるんだね」

 

「トレーニングは詰めるだけ詰めたし、あとはコンディションを整えるだけだからそこまで厳しくトレーニングしてるわけじゃないからな。後、個人的に調べておきたいこともあるし」

 

「ふぅん?まっ、なんにせよ負けてもらっちゃあ困るんだよねぇ。あんたをボッコボコにするのは私の役目なんだから」

 

「……ほんと、子供ってどうやったらこんな生意気な奴になるんだろうな。ていうか、まだ呼び出した要件言ってないんだけど」

 

「あれ、そういえばそうじゃん」

 

屋上で話がしたいと呼んだのはアステルではなく私の方だ。クラシック級とはいえ、人脈はまだまだ浅いのでこいつに頼ることにしたのだ。ちなみに見返りは併走に付き合うことで成立している。

 

「これについてできるだけ多く調べてきてくれ」

 

私がふところから取り出した1枚の写真をアステルが受け取ると、一瞬虚をつかれた様な顔をするがすぐにクックックと悪い笑いをし始めた。

 

「なるほど……流石父さん、目の付け所が違いますなぁ。おっけおっけ、私に任せといてよ。3日くらいかかるけどいい?」

 

「皐月賞に間に合うまでが条件だから別にいいぞ。3日以上かかってもいいからより多くの情報を持ってきてくれ」

 

「了解〜、んじゃ早速取り掛かりに行きますか」

 

アステルは写真を持ちながらピラピラと手を振って屋上を去っていった。あいつならちゃんとやってくれるだろうという信頼は一応ある。普段はイタズラしてくるが、やる時はキッチリこなすやつだ。

 

さて、私は私でやることがまだひとつ残ってるし、さっさと終わらせて推しか……軽く自主練でもやりますか。

 

「三女神、か……」

 

過去の想いを受け継ぎ、新たなウマ娘へと繋いでいく遥か古の神聖なるものたち。どこかの一説には私たちウマ娘を見守っている存在だとも言われている。

 

だけど、ウマ娘が受け継ぐ想いの形は様々だ。例えそれが…

 

「願いや希望じゃなく、ただただ“喰らい尽くさん”とする想いだったとしてもか」

 

_____________________

 

「皐月賞の距離は2000mの中距離だ。オリオトメ、お前の足なら第4コーナーを曲がりきる前から多少無理して仕掛けても問題ない距離だろう」

 

「……」

 

「やはり気になるか?お前のライバルが」

 

「いえ、そちらよりも見えない何かが張り付いてるようで……」

 

「お前の勘がそう言ってるのなら、それに従えばいい。運や勘だって実力のうちだ。存分に利用していけ」

 

「はい……」

 

この感覚は数日前から感じている。まるで鋭く刺してきそうなほどの殺気に似た感覚をよく肌で感じとっていた。しかし、それは日中だけの話であり、寮へ戻るとパタリと止む。

 

見られているという感覚はあるものの、相手の姿や位置を正確に確認することは今のところ出来ていない。そもそも、相手が肉眼じゃなくて画面越しに見ている可能性もあるのだ。確認できないと無理は無いのかもしれない。

 

皐月賞まであと残り数日……ここまで問題なく進んできた。転生してまで待ち望んだノルンやグランとの皐月賞だ……たかが視線を感じている程度で体調を崩していては元も子もない。気をつけねば。

 

お家関係の話では無いのが救いだ。こんなところにまで実家のことが絡んできたらチームの皆さんやトレーナーに合わす顔がない。

 

だが、それ以外となると心当たりが全くと言っていいほどない。学園内での友好関係も良好だし、これまでに誰かから恨まれるようなことはしたはずがない。

 

「それね〜、僕も最近感じるんだ。休憩中とかによくチクチクと」

 

「それは本当なの?」

 

「本当も何もここで嘘つく必要ないじゃん。それに〜、他の娘達からも同様の報告が何件もあるみたいだよ」

 

「そこまで知ってるなら分かるはずだけど、共通点は?」

 

「み〜んな皐月賞に出走予定だってことくらいかな」

 

恨みではなく対抗となるウマ娘の観察か。それにしては目線に込められている雰囲気が尋常ではない。レース前に威圧と牽制をするのが目的か?

 

「なんにせよ、私たちは皐月賞に向けてトレーニングをするだけだ。他の誰かがどうこうすることなど、いちいち気にしてはいられないな」

 

「んっ、そだね〜。さてっと、私はトレーナーとミーティングでもしてこよっかな」

 

何事も無かったかのようにトレーニングに打ち込むグランロウルの姿は、正直普通に羨ましかった。私にもあれほどの切り替えができる性格だったら良かったのに。

 

一瞬そう思ったけど、この性格だから私は私でいられる。なら、私には私なりのやり方があるはずだ。自分のリズムで切り替えていけばいいだろう。

 

今年の皐月賞には伏兵がいるのかもしれない。そちらの対策もしっかりと東条トレーナーと一緒に見直さなければな……とはいえ、確実にレースは荒れるだろうと、私の勘がそう告げていた。

 

_______________________

 

『さぁ!やってまいりましたクラシック三冠のひとつ、皐月賞!各ウマ娘達の熱いレースにファンの期待が高まります!』

 

迎えた4月2週目の日曜日、中山レース場は例年よりも多くの観客によって溢れかえっていた。有力株が多い今回の皐月賞を見逃す訳には行かないとファン達が押し寄せたからだ。

 

レイゴウノルンの無敗三冠宣言、謎多き実力者のオリオトメ、そして既に中距離でのGIを制しているグランロウル……その他にも実力では劣らぬほどのウマ娘達が集結していた。

 

そんな人混みでごったがえす観客達が入っては来れない選出控室。各トレーナーとウマ娘に与えられた控え室にて、電気をつけずに暗い部屋で1人のウマ娘がテレビの画面に見つめていた。

 

『さぁ!ここで上がってきたぞレイゴウノルン!後続のウマ娘達を一気にごぼう抜き!そのまま引き離していく!』

 

ピッ

 

『第4コーナーを回って脚を溜めていたウマ娘達が一気に仕掛ける!ッ!5番のオリオトメが一気に前へ躍りでる!爆発的な加速力で他の追随を許さないぞ!』

 

ピッ

 

『グランロウル!グランロウルだ!スタートから後続を突き放して最後の直線に入る!早いぞグランロウル!これは圧倒的な大差での勝利か!?』

 

ピッ、ピッ、ピッ……

 

リモコンのボタンを押してテレビの画面を切りかえていく。画面に映るのは全て今日皐月賞を走るウマ娘達。中には日常のトレーニング風景を映像もある。

 

それを彼女は無言で何度も何度も繰り返し見返していた。すると、控え室の扉が開かれて、トレーナーらしき人物が部屋の中を覗く。

 

「おい、そろそろ出番……まだ終わらないのか?」

 

「……終わった」

 

そう言いながらピッとリモコンを押し、DVDを取り出してケースの中へ戻した。カシャと放り出すように置いた場所には、タワーのように積み上げられたDVDの山があった。

 

「お前の“それ”が今日の相手に通用するか分からんが、目一杯暴れればいいんじゃないか?」

 

「………」

 

トレーナーにしてはあまりにも無責任な言葉に彼女は答えなかった。そのまま無表情でトレーナーの横を通り過ぎると、ファンが待つパドックの方へと歩いていくのだった。

 

ハイライトのない黒目に灰色がかった芦毛のウマ娘は、勝負服のパーカーに付いているフードを大きく被り直しながら、皐月の大舞台へと足を踏み出していくのだった。




ご愛読いただきありがとうございます。

ウマ娘が2周年ですね。おめでとうございます。ミスターシービーは40連で来てくれましためっちゃ嬉しい。イベントで完凸しておいたスピードサポカのシャカールと相性いいっすね。

新シナリオで色々と育ててみましたが、やっぱりダーレーアラビアンとゴドルフィンバルブが使いやすいです。サポカ編成はスピ根の編成でなんとかオグリをUG6までもっていけました。ただ、スタミナと賢さのステータスが低くなるので、そこが問題ですね。

前話で言っていたグランロウルの勝負服アンケートに関しては中止です。その代わりにまた新しいアンケートをとるつもりなので、お楽しみに。

ストーリーのご希望などはメッセージボックスにてお待ちしておりますので、じゃんじゃん送ってきてくれたら使えるネタが増えて普通に嬉しいです。

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