お待ち頂いた皆様、本当に申し訳無いと思っています。
4月から新しい生活に慣れたら再開しようかなと思いながらズルズルと引っ張りに引っ張った結果、こんなにも期間が空いてしまいました。
元々、不定期投稿であるということは以前にも掲載していましたが、これからも時々更新が遅くなる時期があると思います。
これからも定期的な投稿を頑張りたいと思いますので応援の方をよろしくお願いします。
「じゃ、作戦を確認するぞ。先行で前列の位置について第3コーナーまで脚を溜めてから最後の直線で仕掛ける。オーソドックスだが、これが今お前に一番あってる作戦だろうな」
「ん〜、面白みにかけるというかなんと言うか……」
「ゴルシから変に影響されんな。無敗三冠を取るって公言したやつの言葉じゃねぇだろ」
皐月賞の出走前に私はトレーナーとミーティングを行っていた。ここ数ヶ月間はほとんどトレーナーが口にした走りを繰り返してきた。
正直、今のコンディションならば他の走りもできるはずだが、確実に勝ちを狙いに行くならこの方法しかないだろう。実に堅実なやり方だ。
グランは逃げ、オリオトメのやつは差しで走ってくると事前に予想している。まず、追い込みで走るのは愚策だということは言わなくてもわかるだろう。
初手の段階で2人との間に入っておかないと、最後の直線での追い抜きは限りなく無理に近い。
「獲るよ。まずは一冠目」
「……その言葉に疑問を持たなくなった俺がおかしいのかどうかはわからんが、それだけやる気があるなら十分だな。頑張ってこいよ!」
「はい!」
トレーナーから応援してもらい、私は控え室から芝コースへと向かった。テレビでも聞いたし、パドックで歩いた時に確認したが今回の観客はやはりかなり多いようだ。
それほどまでに私のレースに期待してくれている人たちが大勢いるのだろう。その人たちのためにも期待に恥じない活躍をしないとね。
まぁ、兎にも角にも勝つしかない。
「おっ」
「ん?や〜、これはこれは1番人気のノルンですね。今日は僕が勝つんでよろしく」
レース場に向かう通路の途中で同じくレース場へと向かっているグランロウルと鉢合わせた。水色と薄緑色が特徴的な随分とスポーティな格好だ。
けど、ちょっと体を出しすぎだと思う。へそ丸出しだし、袖は肩から肘にかけて半分ほどしかない。下もスカートだけど、生足でニーソとかそんなのまるで履いてないし。
ちょっと控えた方がいい感じの勝負服になっていた。
「そういや、グランって前はいなかったもんね」
「あの時はまず走ることに必死だったからね〜。でも今日は違うよ、必ず君を置いてけぼりにしてみせる」
「おぉ、怖い怖い。んじゃ、離されねぇようにちゃんと噛み付いとかないとね」
「グラン、ノルン」
「おっ」
私たちの後ろから名前を呼んできたのは、オリオトメだった。間違いなく今回のレースで1番注意すべき存在であり、私の永遠のライバルとも言えるやつだ。
しかし、いつにも増して表情が固い。目の鋭さがいつもの数段上を行くほど威圧感がある。これはオリオトメにとっての勝負に負ける気はないという意思表示だ。
オリオトメの勝負服は和服。藍色の袴、上半身は黒が特徴的な着物だが所々に赤い桜が散っていくような血桜のようなデザインが施されている。
「今回は、負けません」
「…これで二回目か。気合いの入り方が違うね」
「ですね〜。『全員ターフに跪かせてみせる』と言わんばかりの気迫だね」
「それほどの覚悟で挑むのは当たり前です。それにあれだけ挑発されて黙ってられるわけがない。今日こそはノルン、お前に勝ってみせる」
「ふっ、あははは!いいね!止められるなら止めてみな!あとはレースで語ろう」
そう言い残して私は2人よりも一足先にレース場へと歩いていった。光が入り込む出口を出ると、大勢の観客たちが大きな歓声を上げた。
「ラスボス感半端ないね〜」
「関係ない。全部をぶつけるだけ」
「相変わらずお堅いね〜。まっ、それが君の強みか」
「ぼさっとしてないで行きますよ」
『さぁ!役者は全員揃った!春の大一番“皐月賞”、まもなく出走です!』
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観客たちのテンションは出走前なのにも関わらず、かなり高まっている。間近でレースが見れる前列は人一人分の空きスペースがないほどのすし詰め状態になっていた。
そんな倍率の高い前列戦争をなんとか勝ち抜いた俺は、2列目の中心近くで皐月賞を観戦することになった。皆もこの混雑を予測していたので家でのんびりと見るため、今回は友達とではなく1人で来た。
あの日から俺はずっとこの世代に注目していた。レイゴウノルンはもちろんのこと、ライバル予想されているオリオトメやグランロウルのこともちゃんと追っかけている。
今年のレベルは例年よりも遥かに高い言っても過言では無い。短距離から長距離に至るまで好タイムをたたきだす子は多い。そんな中でも飛び抜けて早いのがレイゴウノルン達なのだ。
(今回のレースも順当に行けばレイゴウノルンが勝つ……。でも、それを許すほど他の子達が甘いはずもない。これは熱戦になりそうだ)
1番人気はもちろんのことレイゴウノルン。続いて2番人気がホープフルを制覇したグランロウル、3番人気がオリオトメの順だ。
それより下の子達もGIウマ娘として素質は十分あるが、どうしてもこの3人と比べてしまうと少し見劣りしてしまう。だが、このままでは終わらないと俺の感がそう告げていた。
誰がダークホースなのかはっきりとは分からないが、少なくともこういう場合の俺の感はよく当たる。つまり、4番人気以下の子の中であの3人に噛み付いてくる子がいるかもしれないということだ。
色々と考察していると、レース場全体へと発走前のファンファーレが鳴り響いた。コースの反対側では準備を終えたウマ娘達がゲートへと収まっていく姿が見受けられる。
『最も『はやい』ウマ娘が勝つという皐月賞!ジュニア期を終えて1番の成長を見せつけるのはどのウマ娘なのでしょうか!』
アナウンサーの一言に会場の雰囲気が高まっていく。無論、俺もレース開始を今か今かと心待ちにしている。ここまでレースを楽しみにしているのは何年ぶりだろうか。
『3番人気はこの娘、オリオトメ!圧倒的なスピードとテクニックを見せた弥生賞、そこから更なる進化を遂げているのかが注目です!』
『2番人気はこの娘、グランロウル!ホープフルではスタートからゴールまでの距離を減速せず走り抜けるスタミナを見せました!今日も他を寄せつけない逃げに注目です!』
『そして、ファンの期待を一身に背負っているのはこの娘!1番人気、レイゴウノルン!堂々たる無敗三冠を掲げた芦毛のウマ娘!その第一冠皐月賞に挑みます!』
出揃ったと言わんばかりに会場がシンと静まりかえる。この会場にいる誰もがレースの始まりを今か今かと固唾を飲みながら見守っていた。
ゲートのランプが赤い光から青い光へと変化し、皐月賞の火蓋が切って落とされた。
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一斉にゲートからウマ娘達が飛び出す。全員が好スタートを決め、順当にそれぞれの位置へと動いていく。
『さぁ!スタートしました!各ウマ娘一斉に綺麗なスタートを切っています!』
『最初のポジション争いはやはりグランロウルを先頭に展開していきます。オリオトメは4番手、1番人気のレイゴウノルンは中団後方の8番手にいます』
実況解説の言う通り、私は中団後方、グランは先頭、オリオトメは前列での位置取りを行っている。他のウマ娘も同様に前を狙っている位置取りが多いので、必然的に互いのバ身差は少ない。
今回はメイクデビューや朝日杯とは違う“差し”の作戦だ。最後の直線が短い中山で追い込みはこのメンバー相手だと抜く前に勝負が決まってしまう。
逃げや先行という選択肢はあるが、今回はとある事情により無理を言ってトレーナーに差しで行くように頼んだのだ。
『さぁ、第1コーナーを回っていきますが、少しペースが早いように思われますね?』
『先頭のグランロウルの影響かもしれません。全体のペースを上げて相手のペースを崩す作戦もありえます。今は何とかくらいつけていますが、どこかでこの均衡が崩れるでしょう』
『大波乱が予想されるがここまで差はなく第2コーナーへと迫っていく!おっと、ここで6番が前に出る!それに続くように2番と8番も上がってきた!』
数人のウマ娘が前へ躍り出る。私に対する牽制も含めて、グランロウルを自分の足で捉えられる位置に置いておきたいからの前進だろう。
(まだまだ、私はまだここでいい)
そんな展開に流されることなく今の位置取りをキープする。たとえ数人でマークしようとも、壁を作られようとも関係ない。この状態がベストなのだ。
(ただ、目を離しちゃいけないのが……)
私のやや斜め前方を走る灰色のパーカーを身にまとった黒影のウマ娘。このレースの中でオリオトメ達以外に警戒しているウマ娘の1人だ。レースやタイムなどは一般的なウマ娘とほぼ同じ、ごくごく普通のウマ娘のようだが、私の勘が目を離すべきではないと告げていた。
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生まれた時から私の宿命は決まっていた。
『クラシック三冠、少なくともそのうちの一つは取りなさい』
それが子供の頃から母に何度も何度も聞かされた言葉だった。父とは離婚、夫婦間で何があったのかは分からないが、母は女手一つで私を育ててくれた。そんな母の教育は私を勝利へと縛り付けていた。
才能のない体、走るという点における才能がまるで見受けられないその走りに私は酷く焦燥した。母の期待に応えなければならない。じゃなきゃ、父と同じように捨てられる。
私は走る才能を見限り、その次の才能へと目を向ける。そして、小学校の同年代で1番早い娘に勝った。そこで研究と検証の繰り返しこそが自分の才能だと気づいた。
しかし、それでも上には上がいる。日本トレセン学園への入学はなんとかできたものの、そこには私よりもはるかに優れた才能がゴロゴロいた。走りのパフォーマンスによる確実な差を戦略で補うには限界があった。
だから私は今まで以上に、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も相手に向き合い続けた。
そして、選抜レースでからくも2着の成績を残して1人のトレーナーさんからスカウトをもらった。ただの気まぐれかと思ったが、そのトレーナーは本気で私の能力を伸ばそうという意思で声掛けてきたのだ。
手を取らない理由は無い。すぐさま私はそのトレーナーと契約し、日々のトレーニングと研究に明け暮れた。手を替え品を替え、普通のウマ娘よりも何倍もの量をトレーナーの管理で行うことで、勝利の制度が飛躍的に上がった。
今までクビ差、アタマ差の1着が当たり前だった勝利から、少なくとも1バ身以上離しての1着が増え始めた。その事実に嬉しくありつつも、どこか自分の努力がちっぽけなもののように思えてしまった。
しかし、それでも手にした結果は裏切らない。ジュニア期を終える頃には重賞レースで1着という中々の成果を出すことが出来た。このまま調整していけば日本ダービー、それよりも前に皐月賞の出走さえできるだろうと確信していた。
私には血のにじむような努力と研究、トレーナーとのトレーニングによって、同年代のトップクラス帯にも負けず劣らずの実力が備わっていると確信していた。
あの時までは
『最終コーナーでレイゴウノルンが先頭集団から飛び出した!!追いすがるウマ娘は……いない!?どんどん差が広がって行きます!!もはや、圧勝ムード!』
「ッ…」
圧巻だった。
他の追随を許さない絶対的な走り、あれでもまだ本領ではないという確信がそのワンシーンで感じ取れた。間違いなく彼女こそが“トップ”だ。
あの日、あの場にいたウマ娘全員が戦慄した。白い綺麗な芦毛、無垢で少し背伸びしたかのような勝負服を着た小柄な彼女。その姿に似合わない気迫と走りを1600mで見せきった。
そして……
『三冠です』
画面越しの彼女は冷静に淡々とした様子でその言葉を告げる。
『Eclipse first, the rest nowhere唯一抜きん出て並ぶ者なしという言葉が我が校にあります。だから、私はその言葉に恥じぬ偉業として、まずは“無敗”での三冠を達成するつもりです』
無敗での三冠、それは未だかつて数人のウマ娘しか成し遂げたことがない偉業。しかし、彼女はさも当然のようにそれを達成してみせると言ってのけた。
『……なんだか楽しそうですね?』
『はい!楽しみですよ?最高の舞台で最高のレースをする……それこそが私の望んでいることなので』
楽しみ……私が必死になって目指した舞台をただただ“楽しみ”であると彼女は話す。その瞬間、私の中でふつふつと今まで以上に感じたことの無い感情が湧き上がってきた。
『まずは一冠目、“皐月”の舞台で競い合いましょう!』
晴れやかな様子で締めくくったウマ娘“レイゴウノルン”に、私は背を向けて歩き出していた。自分でも感じたことの無い黒い感情に対して気付かないふりをするようにして。
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