序章:幻想入り
───身に覚えが無い、これまで何をしていたか、自分がどこに住んでいたのか…全く覚えが無くて、だからと言って孤独感は無くて───
俺「……んぁ!?」
目が覚めると木々に囲まれた薄暗い森の中で、真上から微かに日が差している事から現在時刻が昼だと言う事を先ず理解した…なぜこんな所で寝ていたのか…また自分が何者なのかが全く思い出せない。
難しく考えるのも面倒だったので起き上がると頭を掻きながらこれと言って焦る事も無く現状を分析してみた。
俺「……まぁそこら辺にいる妖怪にでも尋ねればおおよそわかんだろ。」
都合のいい事に発言して直ぐに茂みが動き、「よっしゃ!」と小言を言いながらその地点へ近付くとまだそれが何かも分からない内からフレンドリーに声を掛けてみる。
俺「よっ!悪いんだけど道に迷っててさ、人里に案内してくれ………は…?」
言葉が途中で途切れる、気楽な雰囲気を出そうと作った笑みは一瞬で凍り付いて青ざめていく…何故なら、目の前には両手を広げて「わはー!」等と可愛らしく浮遊している妖怪らしからぬ幼女等の生き物では無く、むしろ"妖怪らしい"獣が茂みから顔を出し、鬼の様な形相と鋭い牙を向けていた。…刺されれば大量出血は免れないだろう長くて太い爪を立てながら威嚇していたからだ…当然、それを目にしてから一目散に背を向けて逃げ出す、「出たー!」と無駄に刺激しそうな奇声を上げながら駆け出した。
無我夢中で森の中を走り回る事数十分は経っただろう息を切らしながら膝を折り、ふと後ろを振り返ると化け物の姿は無い…と言うより最初から標的にすらされてなかったのだろう。ホッと息を付くと同時ににあんな者が居る世界なのだと不安を覚える…あれが何なのかは今は考えなくていい…それよりも何処か安全地帯、そしてこの世界の知識がある程度必要だと思い、その為には何処へ行くべきなのか──それは考えるまでもなかった…。
石段に足を運びながら周囲から妖怪が飛び出さないかを警戒していた、そして登って居ると天辺に年季の入った鳥居が見えてくる…言うまでもなく、そこは神社───しかし俺はこの神社の事を知っていた。頂上へ近付くと箒で落ち葉をはわく音が聞こえる…という事は巫女が居るのだろう…身の安全が保証されると一目散に階段を駆け上がった。
巫女「───あら、お客なんて珍しいわねぇ…。」
立ち止まり、一瞬目を疑った…無愛想な話し方は予想通り…ただ予想外な事にそこに居た巫女服を着た少女は博麗の巫女では無かった───
俺「だ、大妖怪…八雲 紫───っ!」
多少見た目が若く見えるが、先の方をリボンで結んだ狐色の長髪に紫色の瞳…強者を思わせる様な雰囲気での話し方…この妖怪の事を俺は知っていて、あまりにも驚いてしまい腰を抜かしてしまう。その様子を見て"何だこいつ"と言いたげに目を細めて足を運びながら巫女は口を開く…。
巫女「……名前は合ってるのだけれど、その八雲…?は聞かない姓ねぇ…もしかして何処か他の幻想郷から来た漂流者なのかしら…私は博麗 紫…この神社と博麗大結界を管理している者よ。」
混乱が治まらない…博麗…紫…?この神社の巫女は霊夢という名では無いのか…?他の幻想郷…?…やっぱ若作りしてる感が少しあるな…等、思う所が色々あったのだが、とにかくこの人物が俺に危害を加える事は無い…そう思い安堵した。
紫「……それで、貴方はここへ何しに来たのかしら…?見た所参拝客と言う訳でもなさそうだし…出すお茶は無いけれど、話くらいは聞いてあげるわ。」
俺「お、おう…!それがさ…」
話を聞いてくれると言う事で俺は記憶が無い状態でここに来て妖怪に襲われた事を紫に話したのであった───。
幻想郷入り:END
序章:絶望
俺「ちっくしょ…何だよあの年増っ!」
ぷんすかキレながら石段を降りる、と言うのも先程会った巫女の博麗 紫にこれまでの生い立ちを話した後、「事情は分かった、貴方にしてあげられる事は何も無いわ。身の安全が欲しいのなら人里にでも降りる事ね?」と追い返されたからだ。幻想郷入りした者を元の世界に返す…巫女はそれも仕事の1つとしていた知識も持っていた為、解せない思いは強かった。
しかし愚痴愚痴思っていても仕方ない、人里で今夜泊めてもらう所…あわよくば食糧確保の為に何処かで働いてみるのも良さそうだと思いながら人間の里の門を潜ったのだった。里の中では人がそれなりに行き交っていて、漸く本当に安心しては早速宿屋の宣伝をしている人を見つけたので声を掛けてみる。
俺「1泊したいんだけど…」
聞こえていただろうに言い切る前に外方を向かれた…一瞬"は…?"となったがもう一度声を掛けようとすると逃げる様に早足になって宣伝の人は宿屋の中へ入り鍵をかけたのだった…状況がわからない…そう思った時1点にしていた集中が解けたことで辺りの事に気が付く…里の人全員が俺の方を睨み付け、ヒソヒソ声で何かを言われている事にも気が付いた"何だよコイツら…俺が何をしたんだ…。"とてつもない不快感と共に里に居るのは危険だと思ったので逃げる様にして俺は里から出ていったのだった…。
魔法の森付近で今まで何も口にしていなかったことが祟り、激しい空腹と共に動けなくなって岩に腰掛けていた。
俺「は、腹減ったぁ…やべぇ…ひもじいぜ…どっかの貧乏神並みにひもじ…それやばくねぇか!?」
1人でボケてツッコむと余計空腹感が増し、虚しくなっていた所で一つの足音が近付いてきた。
少女「大丈夫…?」
目の前に現れたのは貧しいのか布の継ぎ接ぎだらけの着物を着たパッツンショートヘアーな少女で心配そうに見てきた…余程酷い顔をしていたのだろう。少女は手に持っていた風呂敷からおむすびを取り出し此方に差し出した。
俺「……良いのか?知らない人に食いもんなんてやって…」
腹が空いていて正直今にも食らいつきたい…しかし先程の里の連中の反応を気にしていた俺は少しばかり慎重な反応をとる…そんな俺に無言でコクッ…と頷いてくれた少女に「ありがと!」と一言言うと1つのおむすびに食らいついた…。
少女「よっぽどお腹が空いてたんだね?」
そんな俺の様子を見て1度笑いかけもう1つおむすびを取り出すと隣に腰かけて少女も食べ始めた、俺は暫く無我夢中でそんなに大きくもないおむすびをよく噛んで食べたのだった。
俺「───それでさ、話ひとつ聞かず無視したんだぜ人里の奴ら。酷くねぇか?」
食べ終わった矢先、すっかり警戒が解けた為か少女についさっき受けた冷たい対応の愚痴を漏らしていた、それを聞いていた少女は申し訳なさそうに口を開く。
少女「時々ね、他の世界から人が入り込んだりするの…その人達が思い上がった行動をして里の外に居た妖怪達の怒りを買ったり、揉め事とかよく起こってたから…すっかり外の人達を受け入れなくなっちゃったんだ…嫌な思いをしたよね…?ごめんね…」
俺「いやいや、俺も事情知らなかった訳だし、頭下げるまでする事ねぇよ!?」
少女が頭を深く下げると俺は逆に申し訳なくなる。それから少し沈黙していると少女が心配してくれたのだろう提案してくる。
少女「もし良かったらだけど…家に来ない…?泊まる宛てが無いみたいだし…里の外には人喰いの妖怪がウジャウジャしてるから。」
俺「良いのか?里の奴ら俺の事煙たがってるんだろ…?そんな所で俺なんか匿ったら何があるか…」
提案としては願ってもない事だが、飯を分けて貰った上で里の事情まで聞いといて迷惑を掛けるのは心が痛む為、遠慮をする姿勢で答える。
少女「あ、大丈夫だよ…!私、里には住んで無いの。だからその辺は気にならないし…何なら生きる為のコツとかも教えるね?」
楽しそうに微笑みながらそこまで言われては逆に断り切れない…笑顔の少女の前に俺は「じゃあ少しだけお邪魔させて貰おうかな…」と答え、家へお邪魔するのだった。
───居候して数日経った。
俺「小珠(こだま)、妖怪は来てるか!?」
小珠「堂くん、そっちに行ったよ!」
小珠とは少女の名前だ、あの会話の後家にお邪魔した後に自己紹介を忘れて居たという事でお互い名前から言い合う事にしたのだ、しかし俺は自分の名を覚えていなかった為、その場で何となく浮かんだ言葉、"祇華 堂"と名乗ったのだった。
妖怪「グォアアァアァ…!!」
鋭い牙を生やした獣が木々を倒しながら迫って来る…
何故俺達は妖怪をおびき寄せているのか…それは小珠の家に来て翌日の事だった、この世界の妖怪は討伐しても何故かまた次の日には湧いて出て居るのだと聞き、何の事かと首を傾げる俺に笑いかけながら山の中へ向かう際手招きされ、それに着いて行くと落とし穴に掛かり、下には竹槍が立ててあるのか衰弱しきった妖怪が横たわっていた…そして小珠は妖怪の前まで歩み寄ると手を合わせて手に持っていた竹槍で眉間を突き刺した───。つまり生きるコツの1つであり、小珠に最初に教わった事とは食料の確保だった。
時間は戻って迫り来る獣に対して逃げる様に走り続け、小動物等の捕獲で使う様な脚に巻く縄を自分で引っかかりそのまま木の上へ引っ張られると獣の目線が上を向いた時だった、小珠はその隙を突くようにナイフで縄を切る。
妖怪「グギャッ!?」
丸太よりやや細めの先のとがった木が勢い良く妖怪の向いている真逆から降ってきては後頭部から眉間へ串刺しになり、そのまま倒れた。
小珠「堂くーん!大丈夫ー!」
堂「顔中に涎掛かった…。」
倒した後に慌てて小珠が俺の元へ駆けつける、少しぐったりした様な物言いで答える俺を見て小珠は笑みを向けながら逆さずりの俺を助けてくれるのだった。
家に帰ると小珠は連れ帰った獣の死骸を丁寧に捌き調理してくれて俺は主に食器を並べて風呂を沸かし布団の支度をする役目を担っていた…居候の身という事もあるからだ、沢山手伝いをする事になったが不思議と充実した日々だった…どうやって生き抜いてきたか…妖怪を狩り調理する方法等色々な事を聞く際小珠は嫌な顔せず楽しげに語ってくれたから…その笑顔に甘えていたのかもしれない。ただ、2人で自給自足の生活をしながら何気無く話す時間が楽しくて仕方が無かった。
───この幻想郷がどれだけドス暗い世界かを実感した日までは───
その日はいつもどうり、獣型の妖怪の肉を調理して食卓を囲み、2人で手を合わせ様どした時だった…。木組みの脆い壁が"バキッ"と音を立てて倒れ…群れを為した獣達がこちらへ牙を向けていた。突然の事に俺は腰を抜かす…そんな俺に先頭に立ってた獣が襲いかかった瞬間、獣の首を目掛けて小珠が木の板を叩き付けた…。
小珠「っ……急いで里へ行って…!」
呆然とした俺は無言で首を縦に振ると獣達の注意を引く小珠を背に走ってその場を後にする…頭の中では『助けを呼ばなくては…!』と脳に呼びかける自分の声がただ響き、何度も転けながらも必死に走って…漸く人間の里へ着く。
堂「誰か……っ!誰か武器を持って来てくれ!森の方で俺の友達が襲われてるんだ!頼む…お願いだ…!助けてくれ…!」
突然人里の真ん中で、しかも大声で助けを求めたのが夕暮れ時だった事が不運となったのか…道を歩いてる人々は耳を貸そうとせず、それ所かある人は『うるせぇ!』『この里から出て行け』等と罵声を浴びせ…ある人は家の戸を閉めて完全に閉鎖された。
初めからこの場所に助けを求めに来たのが間違いだったのだ…里の人間の態度に頭にきた俺は『何でテメェらが妖怪の餌にならねぇんだよ!』と大声上げて店仕舞いしようとしていた店の木刀を手に取り山の方へ走っていった。
堂「あの妖怪共一体一体はそこまで大きくねぇ…狩りの帰りに仕掛けておいた罠まで誘導してコイツで…!」
木刀を握りしめて1人思想を固めながらも心の中で『小珠…無事でいてくれ…!』と叫んでいた…俺たちの住処までそう時間は掛からなかっただろう…息を上げながら住処を見るとそこに獣達の姿は無かった…代わりにバラバラに破壊された住処と辺りに散らばる血痕。
堂「…妖怪共の…だよな……?小珠…!何処だ……!返事をしてくれ…!」
苦しそうな息遣いをしながらも小珠を呼ぶ…しかし返事は無かった。少しずつ嫌な予感がしながらも、住処の残骸を歩いていると背丈の長い草むらから細い手が見えていた…小珠のだろう…。
堂「小珠…!良かった、急いで此処から安全な所へ───ぁ……は…?……うぷっ……」
思わずその場に膝を着いて嘔吐してしまった…理由は握った小珠の手にあった。
草むらから引っ張った小珠の手は…第一関節から先が無かったのだ…。俺は大きな奇声を上げて自身の取った行動を嘆いた、何故あの時応戦せず里の人間達へ助けを求めに行ったのか…あんな閉鎖的な人間達が助力してくれない事等分かりきっていたのに───その後、冷静になって小珠が言った最後の言葉を思い出す……"急いで里へ行って"…初めから、助けを呼んで等と言っていなかった…態と自分の身を投げ出して堂を逃がしたのだろう……俺は強い後悔と、無力さによる絶望感で胸がいっぱいになった…そして屋根や壁の無くなった住処で抜け殻の様に眠りに着くのであった…。
絶望:END
序章:旅立ち
あの事件から一年が経とうとしていた。獣の妖怪だらけの幻想郷でも四季の変わる風景は綺麗で分かりやすい…桜がちって新緑が芽生える季節へとなっていた。
妖怪「ヴァアァァァ……!!」
妖怪を引き付けつつ木々を飛び渡って逃げ回る俺は一定のところに着くと足を止め仕掛けて置いた縄を懐に仕込んでおいたナイフで切る…森林の中から先端の尖った丸太が振って妖怪は咄嗟に其れを避ける。
避けた先の地面に穴が開けば妖怪は穴の中へ落ちて行く…それを確認すると穴の先へ恐る恐る顔を覗かせる。そこには竹串に串刺しとなり絶命した妖怪の姿が…。
堂「っし……夕飯捕ったぜ…。」
着実に妖怪を狩るにつれてその腕は磨かれたのだ、単体の妖怪なら罠にかける程度造作もなかった。亡骸になった妖怪に他の妖怪が寄ってくる前に手作りのリヤカーへ乗せてその場を後にした。
相変わらず里の連中が俺に向ける冷たい態度は健在な様で、人里に近い農家で俺を見掛ける奴等は通り掛かる俺を見る度にヒソヒソと小声で何かを話していた。そんな輩に軽く舌打ちを打ちながら通り過ぎるのが日課な訳で、怠くもあるが生きる分にはそこそこ不自由は無かった。
そんなある日、手紙を通じて呼び出しが掛かる。送り主はこの幻想郷に来て塩対応をして来た"博麗 紫"からたった…。此方から行く道理は無いしそもそも今更何の用だよ…と文句を垂らしたが、文中に"元の幻想郷へ帰る手掛かりが掴める"と書いてあったのを見てしまっては行く以外の選択肢は無かった。渋々博麗神社へ足を運ぶのだった。
紫「いらっしゃい。久しぶりだけど…あれから無事この幻想郷で生活出来てる見たいね?」
堂「……態とらしい前振りは要らねぇからさっさと本題を話せ。」
紫「……釣れないわねぇ…」
白々しい……経緯や動機は知らないが、いくら巫女をしているとは言え目の前に居るのは八雲紫と言う隙間妖怪、この妖怪は隙間の中から人の私生活等を覗き見出来る力を持っている、そんな奴が俺の置かれている現状を知らないはずがない……考えれば考える程腹が立つが、その気持ちを堪えて紫へ呼び出した訳を聞き出すのだった。
紫「貴方を呼んだのはこれを育てて欲しいから。」
そう言うと紫の指先に手のひらサイズの人形の様な生命体が突如現れる。
紫「これはコダマと言って育てれば育てる程強くなる言わば式神みたいな物なのよ。」
堂「……何でそんなもの俺に?」
紫「ボディガードみたいなものよ、今後…貴方には必ず必須になって来る存在……今日来てもらったのはこの子を受け取ってもらう為よ。」
目的が見えない…見えない以上、得体の知れない物を受け取る筋合いは無かったが、手紙に戻れる手掛かりを掴める"と書いてあった事を思い出す…どうやらこれが関係しているのだろう、今後必須になって来ると言う言葉にも違和感があった。
話が終われば紫はコダマを半ば強引に押し付けては境内から追い出すのだった。
堂「………っつっても小動物のおもりとかした事ないぞ……」
肩の上に浮遊するコダマを連れて途方に暮れながら人里の方へ向かう途中、コダマの方から『グゥウゥゥウゥ…』と鳴り其方へ目を向けるとコダマはお腹を抑えながら物申したげにこちらを見ていた。
堂「……腹が減ったのか…?」
上記を尋ねると直ぐに首を縦に振るコダマ…妖精のような姿をしていても腹が減るのか……。日頃の食事は現地調達だが、其れでは此方が危機に陥るリスクや使わなくても良い体力を使ってしまう。行きたくは無いが人里の食事処へ足を運ぶのだった。
人里の少し小綺麗な食事処…戸を開けた途端店内の空気は冷たくなり、店に来ていた奴等は此方を見るなりヒソヒソと何かを話し、ある者は颯爽と退店していた。店員は引きつった顔をしながら注文を聞きに来る。予想通りの反応だ、俺の様な外から来た存在はこうして軽蔑しとことん冷たく接する…それがこの里の連中なのだから。気分は良くないが兎に角食事を優先させたかった為に苦な思いを我慢しつつコダマへ御馳走するのだった。
店を出てはコダマを肩へ乗せてせっせと里を出る。こんな所目的も無ければ踏み入れたくもない土地だからだ、里を出るまで余程険しい顔をしていたのだろうコダマが俺の肩を叩き「ご馳走様♪」とでも言いたげに微笑みかけた。
俺も単純な性格だったのだろう、それを見ては顔が緩んでしまい、「…また今度連れてってやるよ。」と呟くのだった。
2日程経ち、すっかりコダマにとって俺の肩が特等席へなっていた、こうしていると何となく愛着も湧くものだ…俺達は朝食になるものを探す為に森の中へ来ていた。
堂「……変だな…」
少し足を進めたところで"違和感"に気付き足を止めた。これでも妖怪を食料にする為に狩る生活を送ってきて1年になる。森がいつもと様子が違う事も何となく分かるのだ。
堂「───虫や妖精所じゃねぇ……小型の妖怪が1匹も居ないだと…」
普段、魔法の森には虫や妖精が住み着いてるものだ…それに加えてリスやイタチに似た小型の肉食妖怪も時々見掛ける。季節によって生息種や集う頻度が違う事はあったが、今回はまるで夜逃げでもしたのかと言う程静かだった…。
堂「……帰るぞ、コダマ…」
状況の異常さを感じた俺は直ぐに引き返そうと思った……が、それは直ぐに叶わない状況へ変化する。
『ガサガサ…』
妖怪『グルルルルッ……』
堂「なっ………!」
迂闊だった───周囲には2足立ちで背丈こそ人間と変わらないが筋肉質なガタイ、狼の様な頭の付いた妖怪が俺立ちを中心に取り囲んで居て、逃げ場が閉ざされてしまう。万事休すの状況に立ち向かったのは俺の肩の上で浮遊していたコダマだった。
妖怪達の頭上を浮遊すると注意はコダマ1点に定まり、密集しては捕まえようと手を伸ばす。妖精のように手の平サイズの上、常に浮遊して居るコダマだ……簡単には捕まらないだろう…。
堂「待ってろ…!罠張ったら直ぐに助けてやるから……!」
そう言ってその場を立ち去ろうとして横目でコダマが俺に頷いたその時、俺の足は止まった……。何を思ったのだろう、その後すぐに俺は予想外の行動に出る。
堂「うぉぉおぉぉ……!!」
妖怪達の方へ一目散に走り、体当たりをかます…しかし所詮は人間だ、ビクともしない妖怪は俺の方を見て一斉に噛み付いて来た…。
堂「いっ……グァァァ……ッッ!」
幸いなのか不幸なのか、噛まれた箇所は急所から離れていた為、辛うじて立ったまま気力で踏ん張っていた…その行動に驚いた様子でコダマは此方を見詰めていた。
なんでこんな無謀な行動に出たのだろう……コダマという存在自体妖精とかと大差無いのかも知れない…ましてや人間でも無い生き物なのかも怪しい生命体だ。いや、きっとこの状況を小珠の時と重ねてしまったのだろう…この数の妖怪を嵌める罠を仕掛けるまでにコダマが持ち堪えられず喰われるのでは無いだろうか…また、俺の周りで誰かが傷付くのだろうか……コイツが何であれ、そんなのもう沢山だ…。
堂「グ…ヴッ……お前は……逃げろ……急げ……ッ…」
痛てぇ…それに加えて意識が朦朧として来た…それもそうだ、急所では無いと言え、現在進行形で出血しているのだから、出血多量で死ぬだろう…自分が長くないと、悟った瞬間だった。
しかし、諦めきっていたその時…急にコダマから強い光が溢れ、同時にその周囲には白煙に包まれる…それに驚いた妖怪達は1度俺から牙を離すも直ぐに威嚇行動に出た様子で俺に止めを刺しに来る……"ここまでか……"そう覚悟を決めた時だった───。
??「………キュッとして……ドカンッ……!」
堂「わっぷっ……!」
目の前で命を奪おうとしていた獣の顔が突然弾けて顔中に返り血を浴びる……ある意味悲惨な目にあった…。驚いた事と出血多量により足に力が入らなくなった俺は尻もちを着いてはキョトン…としていて、何が起こったのかすぐには理解出来なかった、しかしコダマが居た方へ目を向けた事で何となく理解する。
??「───ねぇ、私を喚んだの、もしかしなくてもお前だろ?」
幼い声ながらも少し乱暴な口調の少女、悪魔の妹と呼ばれた吸血鬼の見た目をしながら黒い瞳と白い髪、全体的に白黒な少女が此方を見つめて問掛ける。
───この出会いが俺の物語の始まりとなったのだ。
俺は直ぐに博麗神社へ向かった。もしかしなくても今の現状はあの胡散臭い巫女の思惑に叶ってるものなのだろうと思ったからだ。境内へ上がるとそこには相変わらず違和感でしかない巫女服を纏った紫の姿があった。
紫「……あら、"遅かった"じゃない…?漸く状況が整った事だし、貴方にとって得きな話しをしてあげるわ?」
俺と隣に引連れてる少女を見るなり驚いた様子も無く平然と上記の言葉を投げ掛けると、俺達を居間まで案内する。
堂「……俺がこの幻想郷に迷い込んで、これまでの一連の事は全てお前が仕組んだことなのかよ。」
そして居間へ着くなり俺は睨みつけながらちゃぶ台付近へ座った紫へ問い掛けた。
紫「───まぁ、そこへ座りなさい?礼儀と言うものを重んじなさいな…?特に力の実力差が明白な相手には…ね?」
紫は自分の座っている所と向かい側の位置へ指を指しながら俺達へ座る事を要求して来た。コイツが言ってる事は確かに正確だ、ちゃぶ台を挟んで紫とは向かい側へ腰かけ、その隣に少女がドスンと腰を落とせば胡座をかいて座り込む……コイツ行儀悪いな…。
紫「……ふふ、聞き分けが良くて何よりね?さっきの質問の答えだけど、貴方が小珠ちゃんと出会って妖怪の出没地域で生き抜く術を教えさせる事…それは私が狙ってやった事よ…?1年くらい過ごしてるのだから理解してると思うけれど、此処は通常の幻想郷とは異なるもので、人の姿をした妖怪なんて居やしないわ。」
堂「───それ所か、食肉として狩猟した妖怪がひと月でまた出没しやがってる…それだけじゃねぇ、里のヤツらも動機は分かるが、ヤケに他所から来た俺に当たりがキツ過ぎる……里の中の連中自体物を売る客の人選迄してる所を目にした事もあるくらいだ……異質なんて言葉じゃすまされねぇぞ……今日こそ全部話してもらうぞ、"此処"は何だ……?何より紫てめぇ……小珠を都合のいい道具にした挙句あんな死なせ方まで狙ってやりやがったのか……!」
紫「ふふ、良いでしょう──全てを話しt……」
少女「………なぁ、1つ良いかな……」
俺は紫に全てのモヤモヤを明かす様に問い掛けた……だが紫が話し出した時、割り込むように少女は手を挙げて口を開く…。
少女「なんでこのBBAこんなに偉そうなんだ?なんか見ててイライラするんだけど……ってかお前もお前で冷静さ掻き乱しすぎだじぇ!」
ハッキリとした口調で偉そうに指をさしながら物申しやがった……これには俺も紫も硬直し、遂には紫のやつ苦笑いしやがってる……うん、個人的にはこれまでしてやられたのを仕返しできた気分でスッキリした。
紫「……随分個性的なコダマを引き当てたものねぇ……流石の私も対応に困ったわ……」
堂「そうだ……俺はコイツの事についても聞きてぇ、コダマって何なんだ…?お前は何を企んでる?」
紫「……守護者感を出した話し方をしてみたけれど、思えばそういう事情を知らないものね、普通に話すわ…?」
軽い溜息を吐けば唐突に上記を呟き始める…なんだコイツ。
紫「順を追って話すわ。まず…此処は幻想郷ではありません。」
堂「……は?じゃあ何なんだよこの閉鎖空間は」
紫「正確には、ここを構成する原理や土地そのものは本家の幻想郷と大差ないの……でも、ここは飽くまで私が臨時に造り出した拠点みたいな空間よ。だからここの結界の管理も全て私が担ってるし、貴方の知る知識上の人物は存在してないわ。里の人間も、他所の幻想郷の影響で迷い込んだ人間達だもの。」
紫の言う言葉に正直驚きしか無かった…が、正確性があり信じる他無いのだろうと思った……それでもまだ、いくつかの疑問が残る……それを察している様子で紫は話を進めた。
紫「……あの妖怪達も、他の幻想郷が原因で生み出されたものでしょう……。そして貴方が此処へ来たのもそれに繋がっています。平行世界……というものを知っているかしら?」
堂「確か同じ様な世界が何重にもあって、似てるけど違う未来だったりって言う奴だよな…?」
紫「えぇ、各世界の幻想郷は本元の幻想郷を鏡の様に何重にも合わせて生み出されたものです。複製品の様だけど、それで居て皆が夫々の生を成している……中には存続出来ず消えてしまう所もありますが……其れも含めて各幻想郷なのよ……。」
堂「……それで、何で俺はこの臨時空間に呼び出されたんだ……1年間もあんな屈辱的な思いまでさせられて…大切な仲間まで喰われて……」
紫「……ごめんなさい…小珠ちゃんの事については私も予想してなかった出来事なのよ、あの子には今後…貴方が生き抜く為の技術を教える様にお願いしたわ……まさか野生生活に慣れていたはずのあの子が、そんな惨事で命を落とすなんて……思わなかったもの。隙間で直接助けにも行きたかったけど、ここの管理をしている事で精一杯なのよ、臨時とは言え、一から結界と霊力…そして境界を操り続けて築いた土地だから……状況を確認する事しか出来なかったわ……だから、許されないと思うけど…本当にごめんなさい……」
堂「……話は分かった……その事はもう良い。」
申し訳なさそうに目線が沈む紫の顔は本物だった。ならこれ以上責めても此方の胸糞が悪くなるだけだ。
紫「……こんな事を言った後で勝手なのを承知で貴方に話さないといけません……」
そして改まった紫は真剣な表情で俺に語り始めた。
紫「──今、各幻想郷は危機に面して居ます……このままでは…本元を除いた幻想郷は毒となり、全て消滅の道を辿るでしょう。」
堂「──なっ……」
少女「……ん?別に本家が残るなら問題無くね?」
揚げ足でも取りに行く様な口調でツッコミを入れる白いフラン、俺はそれに対して口を開く。
堂「……いや、恐らくだが本元の幻想郷を構成するもの、それは他の幻想郷による独特な文化やその世界での夫々主張される趣向に支えられてる面も有る……それが消滅するんだ、少なからず本元にも間接的に害が有るんじゃないか……?」
紫「そう。私達が存在できてこれまで文化を広げられたのは本元から発展した各幻想郷があっての事よ。そんな幻想郷が無くなれば恐らく本元の幻想郷に存続の危機すら訪れる事でしょうね。……つまり、祇華 堂くん…貴方がそのまま帰った所できっと直ぐに消えて無くなるの……そんなの、嫌よね?各幻想郷の救済に協力してくれないかしら…?」
物凄く推してくるように話やがる…だが、確かに消えてなくなるのは嫌だし本元が無くなる…と言うのも放っては置けなかった。
堂「…お前が何企んでるのかの大元は理解したよ、それで…俺はどうすれば良いんだ?確かに簡単な狩りこそ出来るが、これといって何かできる訳でもないし能力なんてものもない凡人だぞ?」
紫「あぁ……その事は気にしないで。その為の"コダマ"なのだから?」
上記を口にした紫は白いフランの方を見る…それに対し"は…?"と言いたげに紫を睨む白いフラン。
紫「今の現状の説明に入るわ。…さっきから言ってる毒となった各幻想郷だけど…それは各地で突然現れたコダマ達によって引き起こされた"異変"によるものなのよ。」
少女「へー…」
堂「マジかよ……」
紫が口にした言葉の壮絶さに正直実感がわかなかった。いや、多分隣に座ってた白いフランの方は単に興味が無かっただけなんだろうが。
紫「コダマという存在自体は何処にでもいる妖精と大差ないけど、それで居て存在自体微弱な生命体よ。でもあることをきっかけにコダマには凄い能力が備わっている事が発見されたの。その子を見れば分かるでしょ?」
堂「……幻想郷の住民の姿や性格を似せる事だな…?」
紫「惜しいわね…♪」
クスクスと俺の答えに小さく笑いながら上記を呟く紫。話してるとストレス溜まる女だな…とか思いながらも不服そうな面を見て紫は説明を続ける。
紫「正確には姿のみを偽る事のできる…これと言ってそれ以上は何かできるわけでもないし、本当に微弱な存在なのよね。」
──おかしい。俺がそう言いそうになった時だった。
紫「貴方今おかしいなって思ったでしょ…?」
イラァ…いけない、思わず木刀で殴り掛かる所だった…折角説明してくれてるのだ、下手に威嚇できない。
紫「その子は異例なのよ。通常のコダマとは違って、姿を形成する際に"何処か"の幻想郷である住民の姿見、そして人格を置換させる様に弄って置いたわ。……私にできる最後の悪足掻き…みたいなものね。」
少女「それじゃぁコイツの存在する意味無くね?」
白いフランは俺に対し指さしてはそう言った。正直刺さる言葉ではあったが、否定出来ない。
紫「……無理でしたわ。前に同じ様に送り込んだ子が居たのだけれど、幻想郷はその子を受け入れなかった…。あそこには仮初の姿ではなく、実体を持つ人間を送り込む必要があるのよ。そこで、私は貴方を此処へ招いた。」
少女「ふぅん……お前はどうするんだじぇ?別にコイツの言う事全部鵜呑みにする必要も無いし、面倒なら帰ってもいいと思うぞ?」
深い溜め息が出た…話の大きさや俺の知らない事ばかりで尚、胡散臭くもある…だが知識だけは詰まって此処へ送り込まれたからだろう、俺はこの妖怪をそれ以上悪く疑う事が出来なかった…何故なら、この隙間妖怪の成す事全ては幻想郷を愛する故の行動なのだから──。
堂「……迷惑な話だよ。全く……でもよ、ここまで色々あって、そんな話まで聞かされたんだ……全部信じたわけじゃねぇけど、お前の話に乗ってやる。」
疑いも有り睨みながらも承諾した俺に対し"待ってました"とでも言いたげに小さく口の端を上げる紫。
紫「それでは早速最初の異変解決に向かいましょう。境内へ出なさい?」
俺と白いフランは紫に言われるがまま境内まで足を運んだ。
紫「ここから先はまだ私にも分からない暗黙の領域と言った感じなのよね、他の幻想郷に居た私との連絡も既に途絶えているもの。十分に気をつけなさい。」
紫の真剣な言葉に俺は首を縦に振る…片や白いフランは気だるそうな反応をする。
出発直前、俺はある事を思い白いフランへ提案した。
堂「あ、お前の事どう呼べば良い…?他の幻想郷でフランと出会った時に区別名が無いと困るだろ…?」
少女「あー……それじゃあこのプリティな私に相応しい呼び方を決めて良いじぇ!」
堂「バーサーカー……」
少女「ぶちころすぞお前!」
何となく思った呼び方だったが案の定怒られた…
堂「じゃあ…とりあえずフラ公とでも呼んどくよ。」
フラ公「犬かよ!?え、こんなにも可愛い少女を犬呼ばわりかよ!?付け直せきさん!!」
う、うるさい……こういう奴は大抵決まるのに超時間かかるタイプだろう…面倒くさそうにしていた俺の空気を読んだのか紫が俺達の目の前に隙間を作る。
堂「……お、出発準備が出来たみたいだな…ほら行くぞ?」
フラ公「ちぇ、後で覚えてろよ…」
不服そうにしながらも俺の隣に立つフラ公…俺達の背に紫は手を振り、「行ってらっしゃい…♪」と手を振っていたようだが、俺たち2人は無反応で隙間へ飛び込んで行ったのだった。
序章 旅立ち END