トレーナー室
「それで・・・今日のトレーニングは何をすればいいですか?」
「そうだな、とりあえず今日はストレッチしてから長距離一周のタイムを計るか、その後余裕があればインターバルトレーニングかな、それか水泳でもいいけどどうする?」
「すごく本格的なトレーニングですね・・・」
「???割と普通なトレーニングだと思うがな」
「そう・・・でしたか・・・」
私はマンハッタンカフェ、トレセンに通う学生です、今、私にはちょっとした悩みがあります
それはトレーナーさんと価値観が合わなくて時々話が噛み合わなくなってしまう事です
例えば普通の人なら何も思わないトレーニングメニューを本格的だと感心してしまったり・・・
普通のレースローテーションをすごく出走回数が少ないと感じてしまったり・・・
なぜ私がこんなことになってしまったのか、理由は明確です、それは私の前のトレーナーさんのせいです
私の前のトレーナーさんは滅茶苦茶な人で、月に3、4回はレースに出るローテーション、体に過剰な負荷がかかるだけで逆効果な長時間の筋トレ、気に入らないことがあるとすぐ暴行に走るなど他にもいろいろありますがとにかく滅茶苦茶な人でした。
そのトレーナーさんとはいろいろあり契約解除できたのですが、その滅茶苦茶な生活が私の体に染み付いてしまい、今このような事になっています
「それとトレーナーさん・・・今月のレース、もうちょっと出走した方が良いんじゃないでしょうか・・・このレースなんかどうでしょう・・・」
「おいおい、それまで出走したらさすがにオーバーワークじゃないか?すこしは体を休めろよ?」
「特にここの脇腹のあたりなんかやせ細って・・・」ソッ
ジジ・・・ジ・・・
『やせ細って俺が酷いやつみたいになりやがって』
「っっっっ!!!」ズザッ
私は反射的に後ずさってしまった、トレーナーさんはただ私の脇腹を指さそうとしただけなのに
「え・・・ちょ・・・そんな拒絶しなくても・・・」
「すい・・・ません・・・ちょっと・・・外の空気を吸ってきますね・・・」ドキドキ
「お、おう・・・」
私はトレーナー室の外に出て、少し深呼吸をして落ち着いた、まだ心臓が高速で動いている
あの一瞬、この身を貫く恐怖が私を襲った、言わずもがな、前のトレーナーのせいである
前のトレーナーにはあの流れで権力を振るわれるなど日常茶飯事だったから、再びその生活に戻ってしまうのではないかと一瞬思い、後ずさってしまった・・・
「はぁ・・・・・思ったより重症ですね・・・・・」
「なにか気に触ることしたかな・・・はぁ・・・」
ドアの向こう側でトレーナーさんが落ち込む声が聞こえる、私が後ずさってしまったから・・・
これではいけません・・・これではトレーナーさんとの信頼も何もあったものではありません。
・・・ふたたび、あの人に助けを求めてみましょう
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常連の喫茶店
「それで私を呼び出したと、この懐かしい喫茶店に」
「実は結構お気に入りのお店です・・・」
「それはよかったじゃないか、ところで私帰っていいかい、モルモット君を天井につるしたまんまなんだ」
「なんでそんなもの放置したまま来たんですか・・・ちゃんと一週間前から言ったじゃないですか・・・」
私はここ、常連の喫茶店にライバル兼親友のタキオンさんを呼び出した、私のトレーナーさんの事を相談するために。
タキオンさんは私の前のトレーナーさんと契約解除をするために動いてくれた第一人者です、私の前のトレーナーさんはお金に物を言わせる人だったので、私一人では契約解除できませんでした、ですが、タキオンさんが動いてくれたおかげで、今私は新しい普通のトレーナーさんを持てました、いわば命の恩人に等しい方です。
「いやぁ実験の合間に思い出してね・・・だからつるしたまんまさ、なぁに私が帰れなくても心配することはない、頭に血が上って死んでしまわないようにはしてあるから」
「あなたも私の前のトレーナーさんに負けず劣らずひどいことしますね・・・」
「奴と一緒にしないでくれたまえ」
「すいません・・・」
「そんなに深刻そうに謝らないでくれたまえ・・・それで?私を呼び出してそれを相談し、何を手伝えばいいんだい?」
「私とトレーナーさんが仲良くなるような・・・出かける先をアドバイスして欲しいです・・・」
「・・・・・それ、私に相談して、満足いく回答を得られるという予想をしてしまったのかい?」
「ですよね・・・」
タキオンさんはいっつもトレーナーさんをモルモットと称し、自分が作った薬を何本も飲ませてトレーナーさんを発光させているような人です、だからお出かけ先にはやっぱり疎かったですね・・・
「しかし、私とてお出かけ先すらまともにアドバイスできないとあっては恥ずかしくて外を歩けない、それだったら、私とカフェで今から出かけないかい?そうすればトレーナー君と出かけた時のイメージもつかめると思うが・・・」
タキオンさんが窓を見ながらそのようなことを提案してくる、確かにいいかもしれない、現地に行ってタキオンさんと相談しながらお出かけ先を決められればかなり効果的かもしれない・・・
「良いと思います・・・では今から行きましょうか・・・」
「今からかい!?」
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アヒルボート乗り場
私たちは近場の公園にあるアヒルボート乗り場に来た、私がトレセンに来た時、トレーナーさんがつく前に来ていた場所である思い出の場所だ。・・・というより、ここしか出かける先を知らなかったから来たと言う方が正しいかもしれない。
「トレーナー君と仲良くするデート場所考えレポート記念すべき第一回目がこれとはなかなか渋いねぇ、カフェ」
「これくらいしか知らなかったので・・・」
「・・・そうだったね、そういえば」
「それじゃあ乗りましょうか」
キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ・・・
「・・・なぁカフェ、これはだめだと思うんだ」
キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ・・・
「そうでしょうか・・・公園の景色がいい感じに映るのでいいと思うんですが・・・」
キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ・・・
「それと言ってはなんなんだが、漕ぐ音がすごく耳障りなんだ・・・、これでは話をするときにいささか不便ではないかい?」
ジジ・・・
『お前の声が耳障りだ』
キコ・・・
「じゃあ・・・止めますね・・・」
「いや、そうなんだけどね?それだと今度は進まなくなるんだよ・・・カフェ・・・」
「じゃあ進めますね・・・」 キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ・・・
「これをデート先に選ぶのはやめた方が良いんじゃないかなぁ・・・」
キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ・・・
「現にこうして話せているので私はいいと思いますがね・・・」
「いや、・・・いや、やっぱりやめておこう」
「どうしたんですか直前で止めて」
「いやね、私は最近とある感情に気付いたんだが、これでは君とトレーナー君の距離が近くてカフェが困ってしまうんじゃないかと思ってね・・・///」
タキオンさんは最近、トレーナーさんとの距離が近い、恐らくそういう事だと思っていますが、まさかここまで重症だったとは思いもしませんでした、あのトレーナーさんは気づいているんでしょうか。
論理的な親友が恋心に惑わされていると思うと少し複雑な気分です
「ノロケですか・・・」
「うるさい!君のことを思って喋っているんだ!!」
ジ・・・
『お前のことを考えたトレーニングメニューだ、文句言わずこなせよ』
ジジジ『お前なら当然この程度のトレーニングこなせるだろ?なんだその目は?』
「じゃあ仮に私がトレーナーさんでも問題ありませんね?」
「・・・・・・~~~っ/////」ボッ
「私『が』相談しに来たのに何をしているんでしょうこの人は・・・」
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教会
「ちょっと君気が早いんじゃないのかい?というより君にもそういう感情があったんだね?」
「仲良くなると言ったらやはりこれかと・・・」
私たちは教会に来ていた、やっぱり仲良くなると言ったらここではないのだろうか・・・
お互いに悪い部分を懺悔し、お互いに認め合う、これ以上仲良くなる方法があるのでしょうか・・・
「いや君ねぇ、これは私でもまだ到達していない領域だよ?」
「???そんなに難しい事でしょうか・・・?」
「難しいだろう!というより人生をかけてやることじゃないか!!難しいに決まっている!!!」
「人生をかけて・・・?」
「まず私はトレーナー君をモノにするところから始めなくてはならないし、君はまだ仲良くなれてすらいないじゃないか・・・少し気が早いぞ君・・・」
先ほどのアヒルボートの件もあるので私はタキオンさんと噛み合わない会話の原因がすぐにわかった、
それを指摘しようか迷ったけどタキオンさんなので指摘します
「・・・・・私がしているのは懺悔の話です、勝手に結婚式の話にしないでください」
「え?」
「だから私がしているのは懺悔の話であって結婚式の話ではないです・・・誤解しないでください・・・」
「・・・カフェ、今すぐ私を気絶させてくれたまえ」
「嫌です」
「君がしてくれないのなら私自身の手で・・・」
「こんなところでやめてください」
「全く最近の子はうるさいねぇ・・・教会で・・・」
そんなとき、後ろの方から声が聞こえる、たしかに私たちは教会にいるのに、少し騒ぎすぎたかもしれません、謝罪をしましょう
「すいませ・・・っっ!!?」
急に、私の頭に電流が走る
ジジ・・・
『うるさいんだよ、お前はただ俺の言う通りにトレーニングしてればいいんだよ』ジ・・・
『こんなところで文句言うなよ、俺が悪いみたいじゃねぇか』
ジ・・・ ビリビリ
『お前が俺のトレーニングメニューに文句を言うのか!?うるさいんだよ!』
ビリッ・・・ ジジ・・・ジ・・・
「ぁ・・・あ・・・」ガタガタガタガタ
「・・・!すいません、私たちはこれで失礼しますので」
「まったく・・・静かにしてちょうだいよ」
「カフェ?カフェ?大丈夫かい?」
「ぁ・・・ありがとうございます・・・タキオンさん・・・」
私はあのおばあさんに言われたうるさいと言う単語で、前のトレーナーさんの事を今までのノイズより強く思い出した、ただのうるさいという言葉だけで。外の冷たい空気が私の肌をなぞり冷静になる、少し落ち着いたところで、タキオンさんがほっとした様子でこちらを向きなおす
「やはり、まだ抜けきっていないようだね、あの忌まわしい記憶が」
「え・・・えぇ・・・ちょっと別の場所に行きましょうか・・・」
「無理はしなくていいんだよ?あくまで君とトレーナー君が楽しめるプランを考える外出だ、君が体調を崩してしまっては元も子もない」
「いえ・・・大丈夫です・・・次の場所行きましょう・・・」
「・・・・・ふぅン・・・」
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遊園地
「提案したのは私だが、たまにはこういう場所に来るのも悪くないねぇ」
「・・・・・・・」ポケー
「・・・カフェ?」
「ハッ、失礼しました・・・タキオンさん・・・」
あまりの絶景にボーっとしていました、なにせこのような場所に遊びに来たのがトレセンに来る前の記憶しかないから、本当に久しぶりだったので感動していました・・・前のトレーナーさんの時はまともに休日もありませんでしたから・・・
「あっ・・・待って・・・」
お友達が高速でどこかに走り去ってしまった、アトラクションの方に向かった気がする・・・
向かおうとしたけど、雑誌が強風に飛ばされてぶつかってきた、二人きりになるように気を使ってくれてるのでしょうか・・・
「こんな雑誌が宙を舞うなんて、なかなか強風みたいだねぇ、少し建物に入ろうか」
「はい・・・」
私たちはアトラクション施設に入り、ホラーアトラクションを楽しんだ
アトラクションはとても楽しかった、タキオンさんが作り物をまじまじと見つめたり、急に水が掛かってしまいタキオンさんが悲鳴を上げたり
きっとトレーナーさんと来ても楽しめるんじゃないかと思えた
「・・・私は疲れたよ、カフェ」ゲソッ
「ずいぶん掛かってましたね・・・・」
タキオンさんは水が掛かってからというもの、冷静さを取り戻せず終始叫んでいた
「まあ、でも君がすでに冷静さを取り戻せているようでよかったよ」
「タキオンさんの方が冷静さを取り戻せていませんでしたね・・・」
「すこし静かにしよう」
「あっ・・・あれ・・・」
私はもしかしたらお出かけ先にいいところを見つけたかもしれない
「ふぅン、確かにいいかもしれないねぇ」
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後日
同じ遊園地
「わるいな、遅くなっちまって、待ったか?」
「いえ・・・私も今来たところです・・・」
私はあの後タキオンさんとお出かけプランを話し合い、その開始点は遊園地になった
そして私が最後に見つけた場所・・・それは・・・
「それじゃあ、観覧車に向かいましょう・・・」
「おう」
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観覧車内
「今日は私のお出かけに付き合っていただきありがとうございます・・・」
「いやぁいいってもんよ、俺も担当との距離を縮めたいと思ってたしな」
「え・・・」
「いやぁカフェってなんか距離取ってただろ?だから出来る限り距離を縮めて信頼を作りたいなって思ってたところだったんだ」
・・・やっぱりトレーナーさんは、私が異常に距離を取っていることを分かっていたみたいです
「・・・ちょうど今日も、私が異常に距離を取る理由を話そうと思っていました」
「・・・聞かせてくれるのか」
「トレーナーさんは少し前にトレセンで起きた告発事件を覚えていますか・・・」
「ああ、もちろんだとも、トレセンのトレーナーがトレセンに圧力をかけて無理やり就職をしていて、教育のきょの字もわからずに担当を持ったせいで担当ウマ娘がボロボロになっていたって話」
「あの事件で救われたウマ娘が、私です・・・」
「・・・・・君だったのか、あのトレーナーにこき使われていた担当ウマ娘と言うのは」
「ええ・・・あの時、私は人生の暗闇に漬かっていました・・・ですが、周りのみんなの協力があって、私は今ここにいます」
ジジジジッ・・・
『お前が俺の担当をやめるだと!?ふざけるな!俺のレース賞金はどうなる!!』
「ですが、私の記憶にこびりついた闇の記憶はなかなか消えてくれませんでした・・・この前トレーナーさんから距離を取ってしまったのも、そのことを思い出したからです」
ビリ ジッ・・・ジジ・・・
『お前は俺のものなんだ!!お前が決めていいものじゃない!!』
「もしかしたら、今後一切その記憶から解放されることはないかもしれない、解放されるかもしれない」
『この学園にいれなくなるぞ』
今も私の記憶の中から顔を出す忌まわしい記憶
それがなくなってくれるのかわからない
「今一度聞きたいです、このような手間のかかる担当でも、トレーナーとしていてくれますか・・・?」
その回答はすぐには帰ってこなかった、返答に悩んでいたと言うより、私の話に驚いている様子でした
それもそうです、だってその事件の内容でどれほど恐ろしいトレーナーだったかこのトレーナーさんも知っているはずです、そのトレーナーの元で二年も耐えていたウマ娘が目の前にいるのですから
「あ・・・ああ、返答はすぐにしないと不安になるよな」
トレーナーさんが口を開く
聞きたくない、怖い
もしこれで嫌だと言われたらどうしよう、残りの観覧車の時間を私はどのような顔をしていればいいのだろう
こんな手間のかかる担当を欲しがる人なんていない、そうわかっているのに聞いてしまった
でも時間は無情で、トレーナーさんは続ける
「まず言わせてもらおう、俺は君の模擬レースでの走りに惹かれ、お友達と言う存在を求める君の走りに惹かれてトレーナーをやっているんだ。過去のトラウマなんて関係ない、俺は俺の学んできたやり方で君を導くだけだ。
だからそんなことを聞かずとも、当然トレーナーとしているに決まっている」
私が思っていた回答とは違った答えが出てきて、困惑する
「そうですか・・・それは・・・良かったです・・・」
「だから俺も聞きたい、カフェ、君も俺と共に走ってくれるか・・・?」
ああ、私の心からおもりが取れていく
そんな質問、最初から答えは決まっていた
「はい・・・!」
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トレーナー室
「いやぁついに明日ですな」
「そうですね、ついにここまで来ました」
「これが終わったら一緒にいろんなところに買い物行こうぜ、駿〇屋とかコーヒーショップとか」
「・・・いいですね・・・それも・・・」
私はあの後、『普通の』トレーニングを行い、『普通の』レースメニューで出走し、これ以上ない成績を残した。そして私は明日ついに、URAファイナルズ決勝戦へ出走する
私の狂った人生は、彼と、みんなのおかげで覆った
やり直すことができた
「もしあれだったら、今日あそこ行くか?」
「・・・どこでしょうか」
「俺らの思い出の場所かな」
「・・・!! ふふっ・・・そうですね・・・」
「ついでで悪いんだが、俺の好きなゲーム探しもしてくれるか?」
「ええ・・・いいですよ・・・」
「私の勝つ姿・・・しっかり見ておいてくださいね・・・」
「ああ、しっかり見に行くから」
「それじゃあトレーナーさん、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
私はトレーナー室を出て、寮に向かって歩き始めた、あの時トレーナーさんに私の担当を再び申し出て以来、ノイズも聞こえないし、思い出すこともなくなった。
タキオンさん・・・ユキノさん・・・ルドルフさん・・・メジロの皆さん・・・サトノの皆さん・・・
皆さんの協力があって私は今こうやって歩けています・・・
そしてこれから私は、駆け抜けていきます
自分だけの道を
やる気が上がった