「ガネーシャさんって悪い方じゃないんだけどなぁ……」
星々をあしらったかの様に小さな宝石が幾つか装飾されている、烏の塗れ羽色の美しいドレスを身に纏った女性。女性というにはあまりに幼く見えるが、これでも立派な
そんな彼女──ティアマトは、《神の宴》の会場である《ガネーシャ・ファミリア》のホームへと訪れていた。
そんな彼女が憂鬱そうに溜息を吐いている原因は幾つかあるのだが、現在の最たる原因はこのホーム自体にある。それは何故か?簡単な話である。この会場、《ガネーシャ・ファミリア》のホームが主神であるガネーシャを象っており、その入口が──その主神の股間の部位に相当しているのだ。
かの男神は決して悪性ではなく、むしろ善性もいい所。そんな彼を祀っているファミリアも健全であり、オラリオで治安維持活動を行っている。
故にティアマトはガネーシャや彼のファミリアに悪い印象を持ってはいないのだが、この男神は少々変神なのだ。彼のテンションも相まって、彼女はガネーシャを苦手としている。
そうしてティアマトは、そのあまりにも入るのに勇気がいるホームの前で再度小さな溜息を吐くのだった。
「……よし。頑張ろ」
「──俺が!ガネーシャである!!」
《神の宴》のパーティ会場となっている《ガネーシャ・ファミリア》のホーム、その名も《アイアム・ガネーシャ》。
このホームは、外見や名前こそセンスを疑うものなのだが内装は普通、否、素晴らしい造りとなっている。しかし飾られている絵画は全てガネーシャの自画像なのだが。
そのあまりにも自己主張が強過ぎるホーム、その中でも一際広いパーティルームにて、正装をした多くの神々が、食事や会話を楽しんでいた。
そんな中あの
彼女のファミリアはここオラリオを以てしても、
つまり、そもそも《ティアマト・ファミリア》の団員達が冒険者なのかなんなのかすらわからないというもの。しかもこのファミリアは大勢の子供達を養っているのだ。一体どの様な理由でそれだけの資金力があるのか。それも全くの不明なのである。
更にはこのファミリアは、過去の一件から《ギルド》とも深い繋がりがあると思われ……それがまた謎を呼んでいるのだ。
更には、
そうした事もあり、この大勢の神々で賑わう中ティアマトは一人、ぽつんとなっていた。それだけでなく、好奇の視線すら浴びていたのだ。そんな状況ならば、彼女が来るのを嫌がったり辟易とした表情になるのは当然の事だろう。
「ヘファイストスは見つからないし……やっぱり来なきゃよかったな……」
なるべく目立たない場所へと移動したティアマトだったが、しかしそれでも完全に一人になれるわけではない。しかもティアマト自身、
彼女はそんな視線から逃げる様に顔を俯かせ、誰に言うでもなく小声で家族達の名を呟き、そして小さな溜息を吐いた。
「もう……帰ろ……」
ティアマトの脳裏に浮かんだのは、彼女が最も信頼している人物──ハサン。そして彼が言っていた「辛かったらすぐに帰ってこい」という言葉。
ティアマトはそんな彼の言葉を思い出すと、小さく微笑みを零した。そしてホームで自身の帰りを待つ皆の姿を思い出し、先程までの憂鬱さが少し晴れた気がしたのだった。
そうして自分の居るべき場所、愛すべきもの達が待っている場所へと帰ろうと歩き出した、その時だった。
「ティアマトー!ティアマトじゃないかー!!」
よく知っている元気な声がした方向にティアマトが振り向くと、そこには彼女がオラリオで最も仲の良い神の一柱──女神ヘスティアが手を振りながら小走りで近付いてきていた。
その姿──自身よりも少し背の高いその女神の姿を見たティアマトは、先程までの陰鬱な様子はどこへ行ったのか、顔を満面の笑みで綻ばせ、彼女もまたヘスティアの元へと小走りで近付いていったのだった。
「もしかして、とは思ったけどまさか来てるなんて!会いたかったよー、ティアマト!」
「私もだよ、ヘスティア!まさかあなたが来てるなんて……来ないと思ってたから、本当に嬉しい!」
人目も気にせず、両手を繋ぎぴょんぴょんと飛び跳ねながらその嬉しさを表現するティアマトとヘスティア。一部の男神が、その度に揺れるヘスティアのたわわに実った果実を凝視していたが──その視線にも全く気付いていない程、二人は自分達の世界に入っていたのだった。
「ティアマト、そのドレス凄い綺麗だよ!とっても似合ってる!」
「ふふふ。ありがと!これね、ハ……黒面ちゃんが選んでくれたの。ヘスティアもとっても可愛い!」
「えぇー?そうかなぁー?えへへ」
ティアマトとヘスティアはにこにこと笑い合いながら、未だに飛び跳ねていた。実はそんな二人を、一部の神々は「ロリ姉妹」と密かに呼んでいたりするのだが──今は関係のない話である。
そうして盛り上がっている二人。流石に両手を繋いで飛び跳ねるのはやめていたが、しかし未だに片手を繋いだままヘスティアが先導し、様々なご馳走が並んでいるバイキング形式のビュッフェコーナーへと向かうのだった。
そこで二人は様々な美食を楽しみ──ヘスティアがどこからか取り出したタッパーにその料理の数々を詰めているのを、ティアマトも手伝うと鼻息を荒くしたりなど、二人はパーティを自分達なりに楽しんでいた、そんな時。
「──ちょっとアンタ達。二人して何やってんのよ……」
「「ヘファイストス!」」
燃えるような赤髪と真紅のドレスを纏った眼帯の女神──ヘファイストスが、呆れた様な表情をしながらゆっくりと二人に近付いてきていた。
こんな二人を嘲る神々もいたが、ヘファイストスは気にならないのか、むしろそういった神々に鋭い視線を送り、黙らせていたのだった。
ヘファイストス。彼女こそオラリオが世界に誇る鍛冶師系ファミリア《ヘファイストス・ファミリア》の主神であり、自身も《神匠》と謳われる最高の鍛冶師なのだ。
そしてヘスティアとは
ティアマトとも
「ティアマトが来てるかなと思って探してたら、まさかヘスティアまでいるとはね。久しぶり、ヘスティア、ティアマト」
「久しぶりヘファイストス!ボクぁ君に会えて嬉しいよ!」
「久しぶり、ヘファイストス。探してくれてたんだ、嬉しい」
呆れつつも再会を喜んでいるのか、二人に微笑みを向けるヘファイストス。そんな彼女にティアマトとヘスティアは、先程の様にぴょんぴょんと飛び跳ねながら再会の喜びを表現していた。
そんな二人を見たヘファイストスはやはり呆れた様子ながらも、しかしどこか嬉しそうな表情をしていたのだった。
「うんうん、此処に来ればヘファイストスに会えると思ってたんだっ!」
「……言っとくけど。もう1ヴァリスも貸さないわよ」
先程までの微笑みはどこへ行ったのか、冷たい視線をヘスティアへと送るヘファイストス。そんな彼女の態度を向けられたヘスティアは「ボクが神友にそんな事をする様な神に思うのかい!?」と抗議していたが、その抗議は
そんな二人のやり取りを、ニコニコとしながら見ていたティアマトだったが、ヘファイストスに「アンタもヘスティアにお金なんて貸さなくていいんだからね」と言われると、口を濁す様に笑っていたのだった。
「えっ。まさかアンタ、ティアマトからお金借りてんの!?」
「う"っ。えっと、そのぉ。なんというか、色々ありまして……」
「何考えてんのよ……はぁ。ねぇティアマト。甘やかさなくていいのよ?」
縮こまるヘスティアに対し、「どうしようもないわね」と呆れ返った表情を向けるヘファイストス。しかしティアマトはあわあわと焦りながら、そんな赤髪の彼女に弁明の様なものをするのだった。
「違うのヘファイストス。私が力になりたかったっていうだけだから。ほら、あなたもそうだけど、ヘスティアは私の恩神だから」
どこか懇願している様にも見えるティアマトに、ヘファイストスは溜息を吐きながらも、呆れた様ではあるが微笑みをティアマトに向ける。ヘスティアはそんな彼女に「うぅ……ありがとう、ティアマト」としがみついているのだった。
一体何故お金を借りたのか、とヘファイストスがヘスティアに聞くと、どうやら自身の初めての眷属──リツカ、という少女が冒険者になるために必要な、最低限の武具や防具を揃えてあげたかったらしい。しかしそんなお金をバイト暮らしのヘスティアが持っている筈もなく、途方に暮れながら歩いていた時、たまたまティアマトに会ったのだという。
そしてそんなヘスティアの様子を心配したティアマトが、事情を半ば無理やり聞き出した所、それならば、とその分のお金を貸してくれたのだ、という。ちなみに返済期限は無期限との事だ。
「──まぁ、30,000ヴァリスぐらいなら返せない額でもないわね……いい?ヘスティア。アンタちゃんと返すのよ!」
「もちろんだよ!ジャガ丸くんを売って売って売りまくるから!待ってておくれよ、ティアマト!」
「無理しないでね、ヘスティア。でも恩返しの一つとして渡したつもりだから、本当に返さなくていいのよ?」
返さなくていい、と言ったティアマトだったが、そこはヘスティアが頑として譲らなかった。元々金を渡した際も「恩返しの一つ」と言って彼女は渡したのだが、それに対しヘスティアは「ボクは友達を助けただけなんだから、恩なんてないだろ?何言ってるんだ」と譲らなかったのである。
そんな彼女に対し、こういう所もまたヘスティアの魅力なのだろう、とティアマトは思ったのだった。
そうしてその後も三人で談笑していた時、周りの神々がざわつき始めたのだった。
「──ふふ。相変わらず仲が良いのね、あなた達」
男神の視線を一身に受けながら、ゆっくりと階段を下りてティアマト達に近付いてくる女神。その整い過ぎている顔には、微笑みを浮かべていた。
「美の神、フレイヤ……」
近付いてくる女神に視線を向けていたティアマト達。そんな中、どこかの神がその女神の事をフレイヤ、と呼んだのだった。
美の女神、フレイヤ。美を司る神の中でもその美しさは随一であり、その容姿は《
そして、彼女が率いる《フレイヤ・ファミリア》。このファミリアこそ《ロキ・ファミリア》と並ぶオラリオ二大派閥の一翼にして、現段階で確認が取れている世界最高レベルであり、冒険者としては世界で唯一の《Lv.7》、《猛者》を有しているのだ。
その他にも多くの高レベル帯の冒険者が所属しており、二大派閥の一翼といっても、オラリオ最強──否、現世界最強のファミリアだと称えられているのである。
「げっ」
「そんな反応をするなんて、ヘスティアったら酷いわ。もしかしてお邪魔だったかしら?」
「そういうわけじゃないけど……ボク、君の事が苦手なんだよ……」
あからさまに苦手そうな態度を取るヘスティアに対し、言葉では酷いと言いながらも、どこか楽しむ様な表情をしているフレイヤ。そんな表情をしているフレイヤを見て、ヘスティアは更に顔色を悪くするのだった。
「あなたも久しぶりね、ティアマト」
「そう、ですね……お久しぶりです」
表情はそのままに、視線のみをヘスティアからティアマトに移すフレイヤ。まるで全てを見通されるかの様な視線を向けられたティアマトは、彼女もヘスティアと同様にフレイヤに苦手意識があるのか、視線を逸らしながら顔色を悪くしていた。
そんなティアマトとヘスティアの態度に気を悪くするでもなく、むしろやはり楽しんでいるかの様な表情を浮かべるフレイヤは「私はあなた達の事、好きよ?」と口にする。その様子にヘファイストスが助け舟を出そうとし、そしてヘスティアが口を開こうとした、その時だった。
「おーい!ファイたーん!!ってなんや?フレイヤもおったんか!」
声をあげながら小走り、というにはあまりにも勢いよく近付いてきた神。女神というにはあまりにも凹凸のない体型なのだが──しかし間違いなく女物のドレスを纏っており、そしてまたオラリオでは超有名な女神の一柱である。
ティアマト達の元に辿り着いたその女神は、ニマニマとしながらヘファイストス、フレイヤに視線を移すと──蔑んだ様な表情をしながら、ヘスティアに見下した様な視線を送るのだった。
「なんや?随分けったいなドチビがおる思たら、お前やったんか」
「はん!君こそ随分と貧相なものを見せびらかしてくれてるね。誰かと思ったらロキ、君だったのかい」
火花を散らしながら視線を合わせるヘスティアと女神──ロキ、と呼ばれたその女神は、「あぁん?」と言いながら眉間に皺を寄せ、ヘスティアを凝視していた。
女神ロキ。彼女こそ《フレイヤ・ファミリア》と同じく、オラリオ二大派閥の一翼を担う《ロキ・ファミリア》の主神である。
戦力こそ《フレイヤ・ファミリア》に劣ってはいるものの、現在凄まじい勢いで名をあげているファミリアなのだ。しかも最近では、《ゼウス・ファミリア》と《ヘラ・ファミリア》のみしか到達しておらず、《フレイヤ・ファミリア》すらも到達していない59階層の踏破を目指しているとの事だ。
直近でも59階層へ向けて遠征をしていたのだが、どうやら何かのトラブルに見舞われ、断念するしかなかったらしい、と噂になっている。
「それにしても久しぶりね、ロキ。最近はあなたのファミリアの話ばかり聞くわよ?上手くやってるのね」
「へへへ、大成功してるファイたんに言われるんは嬉しいわ……でもな、確かに今の子ぉらはちょっと自慢なんよ」
ヘスティアと熱い火花を散らしていたロキだったが、ヘファイストスに感嘆する様に語りかけられると、つい今しがたのどこぞのチンピラの様な態度はどこに行ったのか、照れた様に頭を掻きながらその称賛を送る主へと向き直したのだった。
そんなロキに対しヘスティアは「けっ!」と割と大きな声で批判の声をあげていたが、そんな彼女に視線を送る事なく、ロキはティアマトへと視線を移した。
「あんたも久しぶりやなぁ、ティアマト。元気にしとったか?」
「えぇ、ロキ。おかげさまでね。あなたも元気そうで何より」
微笑みを向けるロキに対し、ティアマトも微笑みで答える。その様子を見ていたヘスティアは、更に大きめな声で舌打ちをするのだった。
「相変わらずうっさいなぁ、あのドチビ……せやティアマト、なんやようわからんけど、ウチの子ぉらがあんたんとこの団長に助けてもろたらしくてな、礼を言うとったわ。なんや本人はそんなん要らんゆーとったらしいけど」
「あら?そうなのね。そんな事言ってなかったけど……でも本人がそう言ってるなら大丈夫。気にしないで」
「あんたのとこの団長」という言葉の時に一瞬視線が鋭くなったロキだったが、しかしティアマトはその事に気付いていないのか、それともただ気にしていないのか、ニコニコとしながら答えた。
そんな様子のティアマトにロキも諦めたのか、「今度小さな子供が喜ぶ様なお菓子持ってくわ」と笑いながら答えた。
「子供達も喜ぶし、お菓子ならありがたく貰おうかな」と笑顔を向けたティアマトに対し、なぜかヨダレを垂らしながら両手をワシャワシャし始めたロキ。そんなロキの様子にヘファイストスとフレイヤが若干引いていた時、ヘスティアが何かを思い出したようにロキに話しかけたのだった。
「あっ、そうだ……ロキ、君んとこのヴァレン某、《剣姫》について聞きたいんだけどさ」
「あん?ドチビがウチに質問やて?なんや今日は槍でも降るんかいな」
つい先程までの穏やか──とも言い難いが、親しい雰囲気どこへ行ったのか、敵意を隠さずにヘスティアに答えるロキ。そんな彼女に対してヘスティアは額に青筋を浮かべていたが、その感情を爆発させるのを我慢している様だった。
「《剣姫》、か。噂話ならよく聞くけど。私も聞きたいわね」
「まぁファイたんがそう言うんなら……で。なにが聞きたいん?」
「《剣姫》が懇意にしてる……付き合ってる男はいるのかい?」
ヘスティアが言葉を終えると、今度はロキがその額に青筋を浮かべていた。その表情こそ微笑を浮かべていたが、それは暖かなものでは決してなく、冷たい刺すような笑みだったのだ。
「何言うてんねん、ドチビ。アイズたんはウチのお気に入りや。嫁になんか出さへん……もしどこぞの馬の骨がちょっかい出そうもんなら、八つ裂きにしたる」
細い目を開き、異様な圧力をヘスティアに向けるロキ。周囲の神々が気圧される中、その圧力を向けられているヘスティアは、心底残念そうに舌打ちをするのだった。
そんな様子のヘスティアに対し怪訝な顔をするロキだったが、二人のやり取りを呆れた様子で見ていたヘファイストスが「そういえばロキがドレスを着てるのって久々に見たわ」と話題を変えると、ロキもその事に関心がなくなったのか、ニヤリと微笑んだ。
「ふひっ……いやなぁ、どこぞの極貧女神が来るって聞いてな?そんなまともなドレスも持ってへんドチビをわろたろ思ってなぁ?」
「むきぃぃぃぃ!!!!」
蔑む様なニマニマした笑みをヘスティアに向けるロキ。そしてそんな彼女に対し、目を見開きながら眉間に皺を寄せるヘスティア。そんな二人をヘファイストスは呆れ返った様子で頭を抱え、フレイヤは楽しそうにそんな二人を見つめ、ティアマトはあわあわと動揺していたのだった。
「なんや?言いたい事でもあるんか?あん?」
「はん!こいつぁとんだお笑い草だよっ!」
「……なんやと?」
「ボクを笑うために自分の
そのヘスティアの言葉が開始のゴングとなった。ロキは涙目になりながらヘスティアの頬をつねり、ヘスティアは両手を回して抵抗するが全く当たらず。
これだけ見るとロキの一方的な勝利に見えるが、しかしその度に凄まじい勢いで揺れるヘスティアの胸と、揺れという概念を持ち合わせていないロキの胸板。故にロキが攻撃し、ヘスティアが抵抗する度にロキにはとてつもないダメージが襲いかかってきているのだ。
そんな二人の
「──二人共。その辺にしなさい」
ティアマトが何か物凄い圧力を身体中から放ちながら、ヘスティアとロキに微笑みを向けたのだ。
しかし微笑みといってもいつもの様な母性に満ちたものではなく、どこか冷たいもの。微笑みではあるが、完全に笑っていないのが簡単に理解出来るものだった。
そんなティアマトの様子を見たロキは、ヘスティアの頬をつねりながら顔だけを彼女に向け、ヘスティアも同様に両手の動きを止め、顔だけをティアマトに向けた。
「あのね?二人共。ちょっといいかしら」
その謎の微笑みの圧力に、言葉を発する事が出来ずに頷く二柱の女神。その額には冷や汗が流れていた。
「まずね?ロキ。あなたヘスティアの事をドチビって言うけど、なら私は何なのかしら?」
「いやちゃうねんティアマト、それはなんちゅうか言葉の綾というか、そもそもティアマトとヘスティアではものがちゃうっちゅうか……」
「でも私、ヘスティアよりも小さい」
微笑みを絶やさずに、有無を言わさない圧力をロキに向け続けるティアマト。そんな彼女の様子に、ロキは口をパクパクとさせる事しか出来ていなかった。
しかしロキが慌てふためいて弁明するのも当然なのである。ティアマトはヘスティアよりも小さいのだ。故にヘスティアを「ドチビ」というなら、ティアマトはそれ以下という事なのだ。
そんなロキに対し、「じゃあ私は豆粒か何かなのかな?」とティアマトが微笑みを絶やさずに言うと、ロキは急いでヘスティアの頬から手を離し、「ほんますんませんでした!そんな事ないです!!」と凄まじい勢いで頭を下げるのだった。
「はっ!いい気味だよロキ──」
「ヘスティア。あなたもいいかしら?」
「え"っ?」
頭を下げるロキに対し、ニマニマとした笑みをしながら視線を送るヘスティアだったのだが、しかしまさか自分もとは思わなかったのか、驚愕した表情をティアマトに向ける。
そんなティアマトはというと、相変わらずに微笑みを浮かべていた。
「えっちょっボク何か──」
「ヘスティア。あなたさっきからロキに絶壁だの恥ずかしいだの母性の欠片もないだのと言ってたけど、じゃあ私は何なのかしら?」
「……えっと、それはちょっと誤解がありまして、なんと言うかそれはその」
「私もその母性の象徴とやら、全くないのよね」
微笑みながらも圧力がどんどんと増していくティアマトに対し、ヘスティアは滝の様に冷や汗を流しながら、凄まじい勢いで両目を泳がせる。その様子をティアマトはただただ微笑みながら見つめていた。
ヘスティアがこの様な状態になるのも仕方がないだろう。何故なら、ティアマトも絶壁──もとい、ぺったんこなのである。ロキと並ぶ程にそれはもうつるぺったんなのだ。
つまりヘスティアは、ロキを詰ると同時にティアマトも詰っていたのと同義だったのである。ロキが母性ゼロなら私はどうなるの?というわけだ。
そんな慌てふためくヘスティアに対し、「ヘスティアって私の事をそんな風に思ってたんだね。そっか、絶壁で絶望かぁ……」とティアマトが微笑みながら消え入る様に呟くと、「そんな事ないよごめんよボクが悪かったよそんな事ティアマトには思ってないよおおおお」と、ヘスティアは涙と鼻水を垂れ流しながらティアマトに縋り付くのだった。
「──ヘスティア、落ち着いた?」
「うん……ごめんよ、ティアマト。でもボク、本当に君の事をそんな風に思った事なんか一度もないからね?」
「
「ごめんやで、ティアマト……ウチも反省してます」
美しいドレスがヘスティアの涙と鼻水まみれになったにも関わらず、その事を一切気にせずに、二人に優しく語りかけるティアマト。その様子を見た一部の神々が「聖母だ……」と口にしていた。
ヘファイストスもそんなティアマトの様子を驚嘆した様に見つめていた。何せヘスティアとロキの諍いをこんな平和的に解決したものなど、今まで誰もいなかったのだ。どうやらフレイヤも同様であったらしく、少々驚いた様子だった。
「ほら、仲直りの握手をしましょ?」
微笑むティアマト。まさかこれは神史上初の和解となるのか、と会場にいる全ての神々が固唾をのんでその様子を見守っていたのだが──
「ちゃうねんティアマト……ウチがこいつをドチビゆーんは何も身長だけやない……器!器がちっさいねん!ティアマトは器小さないやろ?やけどヘスティアはちゃうねん!やからこいつはドチビなんや!」
「えぇ……」
史上初となるヘスティアとロキの和解か、と思われたが──それは結局成されなかった。
まるで小さい子供の様に口を尖らせるロキに、ティアマトだけではなく会場にいた全ての神々が溜息を吐いた。そしてその言葉を向けられたヘスティアは、結局また眉間に皺を寄せていたのだった。
「はぁん!ボクこそそうだよ!何も胸だけじゃない、そう……ロキ、君は器が無い!小さいんじゃなくて無いんだ!ティアマトは胸は控えめかもしれないけど、でも器は凄い!でもロキは無い!ロキは胸も器も無い!だから無乳なのさ!」
「へ、ヘスティア?それはちょっと強引じゃ……」
ヘスティアのその支離滅裂な理論に困惑するティアマトだったが、しかしそんな彼女の様子を気にせず二人は再度ヒートアップし、結局また不毛な争いが始まってしまった。
そんな二人を動揺しながら見つめるティアマトだったが、「よくやったよ」とヘファイストスが肩に手を置き、今回は諦めるティアマトだったのであった。
「──あーあ。ほっぺ腫れちゃってるじゃない……大丈夫?」
「何か冷たいものでも持ってこようか?」
「ううん、大丈夫。ありがとうヘファイストス、ティアマト」
第二ラウンドとなったキャットファイトも終わり、何故か泣きながら「アホー!」と捨て台詞を吐いてどこかへ行ってしまったロキ。そしてフレイヤも──何故かベルの事をヘスティアが話した時に反応していたが──「ここの男は食べ飽きたから」というとんでもない衝撃発言を残し、どこかへと去ってしまった。
そうして残されたティアマト、ヘスティア、ヘファイストスは目立たない場所へと移ったのである。
「ならいいけど。そしたら私はもう帰るかな。ヘスティアとティアマトの顔も見れた事だし」
涙目で頬を抑えるヘスティアと、そんな彼女を心配するティアマトに、大きく伸びをしながら帰ると告げるヘファイストス。そんな彼女の様子に、ティアマトも「私もそろそろ帰ろうかな」と告げようと口を開こうとした、その時だった。
「ヘファイストス!実は……実は君にお願いがあるんだ!」
「……アンタ。今までの事を忘れたんじゃないでしょうね?」
真剣な眼差しのヘスティアに、呆れ返った様子のヘファイストス。しかしヘスティアはそんな彼女の様子にたじろぐ事なく、言葉を紡ぐのだった。
「ボクの大切な
作者です。
第十四話となりました。そうです、キャットファイト回です。
この回は個人的にすごく楽しみにしていた回でして。今か今かと待ちわびていたんですよね。書けて嬉しいです。
しかし自分でも思いますが、だいぶゆっくりですな。十四話にして未だに神の宴とか。こんなのある?笑
どうなんだろう。お読み頂いてる方はやっぱり「はよ進め」とか思われてるんですかね。だとしたらすみません。頑張って投稿していくのでお許しを。
というわけで今回はこの辺りで。また次回にお会いしましょう!