レフィーヤが髑髏の騎士に救われるよりも前。普段とは少し違う喧騒の街並みを歩く、一人の少女がいた。
「ふんふふーん……」
祭りを楽しむには些か重装備の少女──リツカは、装飾がほとんどない愛用のメイスを肩に担ぎ、鼻歌を歌いながら歩いていた。
遡る事更に少し前、リツカはベルと共に歩いていた。二人は中々帰ってこないヘスティアの事を心配しながら、今日も今日とてダンジョンに向かっていたのである。
リツカは記憶こそほとんどないものの、しかし自身が祭り好きなのだろうという事は理解していた。「祭」と聞いて胸が踊ったのである。故に本来であれば、この《
それは何故か?ベルがダンジョンに潜りたい様子を隠しきれていなかったというのもある。しかし彼は「せっかくだし、今日はお祭りを楽しむ?」とリツカに提案していた。
ではなんなのか、簡単な話である。リツカ本人も少しでも前へ、今よりも半歩でも強くなりたかったのだ。
リツカはベルの成長の早さを知っている。その秘密も知っている。そして、そんな彼の意志の強さも知っている。
故に彼女は、今のままではベルに置いていかれてしまうと焦っていたのだ。
そうして祭はまた今度楽しもうという事になり、ダンジョンへと向かっていたのだが、途中《豊穣の女主人》の店先で、たまたま
ベルは先日の食い逃げ事件がまだ尾を引き摺っているらしく、少々冷や汗をかいていたのだが、しかし
そうして
そのエルフの女性が言うには、何でも更に同じく従業員の少女──シルが休みを取って祭りに出かけたのだが、どうやら財布を忘れていってしまったのだという。
なのでどうか、この財布を本人に渡してはもらえないだろうか、という事をベルに頼んだのだ。
そんな頼みを受けたベルは──
ベルはリツカも一緒に、というつもりだったのだが、女の勘というやつなのだろうか。リツカはそのエルフの女性の雰囲気や、シルという少女の事を想像して──私の事は気にしないで、と別行動を取る事になったのだった。
そんなこんなでリツカは一人きりになってしまったのである。
彼女はそのまま一人でダンジョンに潜ろうかとも考えたのだが、しかしベルがボロボロになって帰ってきた事や、その時のヘスティアの表情を思い出してその案を却下した。ベルに無用な心配をかけるなと言った手前、自身が率先して心配をかけるなど言語道断であり、そして何よりヘスティアの悲しむ顔を見たくなかったからだ。
そうしてリツカが、これからどうしようかと当てもなく歩いていると──ティアマト一行に偶然出会ったのだった。
「あー!リツカおねえちゃんだー!!」
リツカが気付いてすぐ、ティアマト達が連れていた大勢の子供達──その中の一人の幼い女の子がリツカに気付き、声をあげた。その声にその他のもの達も反応し──声をあげた幼い女の子が一目散にリツカに突撃したのだった。
「ぐふぇっ……き、今日も元気ね、蒔ちゃん」
幼女のタックルが鳩尾にクリーンヒットしたリツカは少々悶絶していたが、涙目になりながらもそのまま抱き着いている幼女の頭を撫でる。撫でられた幼女──リツカから蒔ちゃん、と呼ばれた幼女は、リツカの問いに満面の笑みで返したのだった。
リツカに蒔ちゃんと呼ばれた幼女、本名を蒔・ディラ。皆からは「蒔ちゃん」と呼ばれている。とある人物のみは「蒔の字」と呼んでいるが。
この幼女はオラリオでは珍しい、混じり気のない純粋な黒髪の持ち主であり、その艶やかな髪を短髪にしている。故に、男の子と間違われる事も少なくない。
「コラ、蒔の字。そんな勢いよく飛び付いたら、リツカ姉の臓器に支障を来すだろう。謝れ、この阿呆」
「そうだよ、蒔ちゃん。リツカお姉ちゃん苦しそうだよ?」
蒔の後ろからとことこと遅れてやってくる更に二人の幼女。一人は腕を組みながら蒔を睨みつけ、もう一人の幼女は息を切らしながらも、優しく叱る様な口調で蒔に視線を送っていた。
腕を組んでいる眼鏡をかけた幼女、本名を氷室・カーニィ。皆からは「カネ」「カネちゃん」と呼ばれている。
彼女は前髪を眉の上で切り揃えた鼠色の髪を、ロングヘアーにしている幼女である。幼いながらも大人びた口調……というよりも独特な口調と、そのミステリアスな雰囲気を以て、《てぃあまとほーむ》の子供達からは「くうるびゅうてぃ」と呼ばれている。更には子供とは思えない程に頭脳明晰であり、オリオン曰く「戦いのセンスがヤバい」らしい。
そして未だに息を切らしている幼女、本名をサエグサノ・雪姫。皆からは「雪姫」「ユキちゃん」と呼ばれている。
リツカよりも少し暗めのオレンジ色の髪を肩まで伸ばし、垂れ目が特徴的な幼女である。普段はニコニコと優しく、幼女でありながらティアマトに続いて第二のママなどと呼ばれたりしているのだが、キレるととんでもなく怖いらしい。
「大丈夫だよ、カネちゃん、ユキちゃん。私、鍛えてますので!」
ふん!と力こぶを作るアピールを三人にするリツカ。その腕からは特に筋肉の山は見当たらなかったが、ユキちゃんと呼ばれている幼女のみは、感嘆の声をあげながら拍手をしていた。
蒔は「もっと鍛えた方がいいんじゃないの?」と反論していたが、カネちゃんと呼ばれている幼女から「お前は少し黙ってろ!」と拳骨を見舞われたのだった。
「リツカちゃん!奇遇ね。あなたも色々回ってるの?」
「いやぁ、実は突然一人になっちゃって、これからどうしようかなって。あはは」
幼女達に構われていると、そんな子供達の母──ティアマトが、いつの間にかリツカの傍に来ていた。今日も今日とて彼女は暖かな笑顔に満ちており、そんな彼女の様子を見たリツカの顔は、自然と綻ぶのだった。
「あら。そうなの?そっか……ねぇ、もし良かったら私達とお祭り、楽しんじゃう?」
「嬉しいけど……でもさ、私、邪魔になっちゃわない?」
「なーに遠慮してんだ。むしろガキ共の面倒を見てくれる奴が増えて大助かりだっての」
頭を掻きながら遠慮がちにしていたリツカの前に、子供達に引っ付かれているオリオンも現れる。そんな彼の言葉に子供達は抗議の意を表していたが──蒔とカーニィが特に強く抗議していたが──その事を気にしている様子は全くなかったのだった。
「そうかな?なら嬉しいんだけどさ」
「そうでちよ。お前様も来てくれるなら助かるでち」
鳥の羽根の様な装飾の、臙脂色の和装の幼女──もとい、《てぃあまとほーむ》の食を司る守護神こと紅閻魔が、残りの子供達を引き連れてリツカ達の元へとやってきた。
そんな彼女を見たリツカは、「べーにちゅわああああん!」と凄まじい速度で彼女に抱き着き、抱き着かれた紅閻魔は悲鳴をあげながら脱出しようとする。しかしどうやら諦めたのか、そのままされるがままに頬擦りされるのだった。
そうしてリツカはティアマト、オリオン、紅閻魔、そして蒔・ディラなどの子供達と共に、祭りを楽しむ事にしたのだった。
「──雪姫ぇ、そのアイスちょっとちょーだい」
「いいよ蒔ちゃん。はいどうぞ」
「蒔の字。ちゃんとお前のも雪姫にあげるんだぞ」
そのままティアマト達と行動を共にしたリツカは、祭りを全力で楽しんでいた。子供達が自由気ままに動き回るのに注意したりなど、そういった面倒さはあったのだろうが──しかしリツカは子供好きであり、そういった事を面倒だと思ってはいなかった。
出店を巡り、こういった祭りならではの様々な食に舌鼓を打ち──紅閻魔は難しい顔をしていたが──子供達も楽しそうな表情をし、その様子を見て改めてリツカは一緒に回れてよかった、と思うのだった。
そうしてずっと歩きっぱなしだったため、飲み物を購入し、現在は人通りの少ない場所で休憩を皆で取っている。しかし子供達はまだまだ元気一杯の様子だった。
「それにしても凄いねー。《
「うん。《ガネーシャ・ファミリア》だけじゃなくて、《ギルド》も力を入れてるからね。年々盛り上がりも規模も大きくなってる、って感じなの」
誰に言うでもなく呟いたリツカの言葉に、ティアマトが元気に動き回る子供達を眺めながら答える。その表情は愛おしいものを見つめるかの様なものだった。
「なー!しかもよ、歓楽街の方も──」
「お前様は子供達の前で何を言うつもりでちか?」
「……なー。楽しかったかー?ガキ共ー」
「最低。最低ゴリラ。近寄らないでゴリ」
冷たい視線と冷たい口調をオリオンに浴びせるリツカと紅閻魔。普段は慈愛に満ちているあのティアマトでさえも、非難する様な視線を浴びせていた。
そしてそれらを一身に受けているオリオンは──逃げる様に子供達の元へと向かうのだった。
そうして子供達とじゃれていたりしていた時、オリオンと紅閻魔の表情が突然、厳しいものとなった。
「──なんかあったな……この気配、もしかしてモンスターか?」
「ちゅちゅん。何が起きたのかはわからないでちが、何やら面倒な事になってるみたいでちね」
きょろきょろと周囲を見渡すオリオンと紅閻魔。普段とは違う──特にオリオンに至ってはまず見る事のないその真剣な表情に、リツカは少々困惑する。
そしてそんな彼の口から出た「モンスター」という言葉。一体何があったのかとリツカが口を開こうとした、その時──
「女将!!ティアマトとガキ共、嬢ちゃんを守れ!!!」
辺りに凄まじい大きさで轟く、オリオンの怒号の様な叫び。その直後──
退路を阻む様に現れた二体のモンスター。一匹は銀色の体毛に包まれた大型の人型モンスター、シルバーバック。残るもう一匹は黒の鬣に薄紫色の体毛、そして身体中に濃い紫色の模様がある大型の四足歩行の獣型モンスター、ライガーファング。その二匹が出口を塞いでいた。
「何なの?今回の祭りって、こういうテイストなの?」
「そんなわけないでち。どこかのおバカさんがやったんでちょう」
軽口を叩き合うオリオンと紅閻魔。二人はティアマトや子供達、リツカを守る様にモンスターに相対していた。
オリオンに立ち塞がるのはシルバーバック。その身長は、大柄なオリオンよりも更に大きい。そして紅閻魔が凄まじい速度で相対したのはライガーファング。元々割と大きめのモンスターなのだが、体躯の小さい紅閻魔と比べると、更に大きく見えてしまっていた。
「そんじゃあまぁ」
「片付けまちょう」
その言葉の直後、一番最初に飛び出したのはライガーファング。ちょっとした金属ならば、簡単に切り裂いてしまうその爪を紅閻魔へと伸ばし、そして──ライガーファングは凄まじい勢いで横っ飛びに吹き飛びながら、壁に衝突したのだった。
当然の様にライガーファングに向いている紅閻魔と、壁に叩きつけられて伸びているライガーファング。そしてその一人と一匹へ、交互に視線を送るリツカ。口をあんぐりとしながら見つめるリツカの表情は、一体何が起きたのかという困惑したものとなっていた。
あまりにも一瞬の事でリツカには理解出来なかったのだが、ライガーファングがその爪で紅閻魔を挽肉にしようとした時、その爪が到達する前に彼女は跳躍し、そしてそのまま凄まじい勢いで回し蹴りをライガーファングの顔面に決めたのだった。
リツカがその光景に目を見開いていると、紅閻魔はゆっくりとライガーファングに指を指す。
「──"お仕事でち"」
紅閻魔がそう呟いた瞬間、彼女の周囲に光の粒子が出現し輝き始め──
突如出現したその雀達は紅閻魔が指差す方向、倒れたまま動かないライガーファングの元へと、目にも止まらぬ速さで羽ばたいていき、そして──その小さな雀達は次々とライガーファングを貫いていく。そうしてボロボロとなったそのモンスターは霧散し、紫紺の結晶へと姿を変えたのだった。
「紅ちゃん、こんな強かったの……?」
「ふふふ。紅ちゃんはね、お料理が上手なだけじゃないの」
口をあんぐりとさせながら呆然とするリツカに、ティアマトがウィンクをしながら答えた。しかし、リツカは未だに信じられないといった表情で呆然としていたのだった。
「おー。やるなぁ女将……んじゃ、俺らもとっとと始めようかい」
横目で紅閻魔の勇姿を見ていたオリオンは、シルバーバックへと視線を移す。その表情には、どこか余裕を感じる笑みが浮かんでいた。
シルバーバックはそんなオリオンの態度が気に入らないのか、怒りの形相を露わにしていた。
「いや、ティアマト様!オリオンってば大丈夫なの!?どう見ても丸腰なんだけど!?」
「そうねぇ。でも大丈夫よ、リツカちゃん。
「私のメイス渡す!?投げる!?」と動揺するリツカを落ち着かせるティアマト。彼女はリツカとは違い、全く心配していない様子だった。
一体何が大丈夫なんだ、とリツカが動揺を抑えられていなかった、その時──オリオンに襲いかかるシルバーバックの姿が、リツカの目に映ったのだった。
シルバーバックの両腕に装備されている──否、おそらく鎖で繋がれていたのだろうか。その腕に残っていた鎖をオリオン目掛けて振るい、その肉体を破壊しようとしていた。その勢いは凄まじく、もし仮にあそこにいるのが自分だったのなら簡単に肉塊になってしまうだろう、とリツカは喉を鳴らす。
そして、リツカがオリオンに向けて何か叫びだそうとした、その時──
「──え?」
リツカは手を伸ばしながらその光景を見つめていた。リツカが飛び出していかない様にティアマトがその身体に抱き着いており、向かう事は叶わなかったのだ。しかし、そんな彼女の目に飛び込んできたのは──
何かあったのか?と言わんばかりに、その鎖を片手で掴んでいるオリオンの姿があったのだった。
「なんだよしけてんなぁ。お前さん、ふざけてんの?」
つまらなそうに溜息を吐くオリオン。リツカはまたもや口を開けながらその光景を呆然と見ていたのだが、どうやらシルバーバックも動揺しているらしい。鎖を振るったモンスターも口をあんぐりとしながらオリオンを凝視していた。
「え?もしかしてもう終わりなの?……そんじゃあ、次は俺の番ね」
そう呟いたオリオンが鎖を掴んだ腕を上げると──シルバーバックが
そしてオリオンが鎖を握り締めたその腕を凄まじい勢いで振り下ろすと、その鎖の先に繋がれているシルバーバックが、何かが爆発したのかと思う程の轟音と共に、地面へと叩きつけられる。そしてその直後にとんでもない量の砂煙が周囲を襲い、皆の視界を覆い尽くす。
そしてその砂煙が晴れ視界が鮮明になると、既にシルバーバックの姿はなく、深く陥没している地面に紫紺の結晶だけが残されていたのだった。
「腹ごなしにもなんねぇなぁ。まぁしょうがねぇか」
「えぇ……怖いんだけど……」
腕をぐるぐると回すオリオンに、呆然としながら本心を口にするリツカ。そんな彼女に、ティアマトはどこか可笑しそうに微笑んでいた。
子供達にも一切の被害なく、そしてティアマトとリツカも全く怪我をしていない。最善の結果で終われたな、と誰もが思っていた、その時。
突然地上から、緑色の蛇の様な姿をしたモンスターが出現したのだった。
オリオンと紅閻魔はすぐにその気配に気付いたのだが、しかし遅かった。二人は少し離れた所で戦っていたのである。
そしてそのモンスターが出現したのはティアマトやリツカ、そして子供達が集まっていた場所。もう一刻の猶予もなかったのだ。
不味い、これは
その時、何が起きたのかリツカには全く理解出来なかった。
轟音と共に地上から現れた蛇の様なモンスター。目の様な部位は見当たらなかったが、しかしその巨大な体躯でこちらを見下ろしているかの様だった。
頭が真っ白になるリツカ。オリオンと紅閻魔が何か叫んでいる様な気がしたが、何を言っているのかはわからなかった。
そしてリツカは──子供の泣き声で我に返ったのだった。
その声の主は、リツカがユキちゃんと呼ぶ女の子、サエグサノ・雪姫。彼女はこんな恐ろしいモンスターを間近で見るのが初めてだったのか、その場で腰を抜かしてしまっていた。
カネちゃんと蒔ちゃん──氷室・カーニィと蒔・ディラが彼女の名を叫ぶ。しかしサエグサノ・雪姫は身体を上手く動かせないのか、涙を流しながらその場で固まってしまっていた。
そんな彼女に目星を付けたのか、蛇の様なモンスターが、凄まじい勢いでサエグサノ・雪姫に突撃しようとする。ティアマトが彼女の名を叫び、オリオンと紅閻魔も凄まじい叫びをあげていた。そして──
「オリオン!ごめん後は頼んだ!!」
「"
「へ?」
「え?」
リツカが両手を胸の前で交差させながら叫ぶと、オリオンとサエグサノ・雪姫の
一体何がどうなっているのか全くわからない様子のオリオンとサエグサノ・雪姫だったが、しかしオリオンは目の前に迫るモンスターで我に返る。そしてその突撃を真正面から受け止め、一歩も後ろに退く事なく完全に停止させたのだった。
「よくもやりやがったな、てめぇ……うちのガキに手ぇ出そうとした落とし前、きっちりとつけてもらおうじゃねぇか!!」
蛇の様なモンスターの頭の様な部分にヘッドロックをしながら、そのモンスターの動きを完全に止めていたオリオン。そして怒りの形相で叫びながらその力を強め──締められていたモンスターはその圧力に耐え切れず、弾け飛び絶命したのだった。
「あは……間に合った……」
その常軌を逸した怪力による、圧倒的な暴力の光景を見つめていたリツカは、全身の力が抜けたかの様にその場に座り込み、そして大きく安堵の溜息を吐いた。
そんなリツカに、ティアマトは勢いよく抱き着き、何度も「ありがとう」と涙ながらに口にする。その他にも蒔はその場で座りながら号泣し、カーニィは「雪姫を助けてくれてありがとう、リツカ姉」と目を潤しながら震えていた。
雪姫はまだ上手く動けなかったのか、紅閻魔が抱き抱えてリツカ達の元に戻る。雪姫も涙ながらに感謝の言葉を口にし、紅閻魔は笑みを浮かべながら、同じ様に感謝の言葉を口にしていた。
「いやぁ、マジでびっくりした……すげぇなリツカの嬢ちゃん。ありゃなんだ?魔法か?」
「ダメよオリオン。そういう事は仲が良くても秘密にしなきゃなんだから」
リツカを抱き締めながら、涙目で答えるティアマト。ティアマトだけでなく、子供達まで抱き着いてきたリツカは、少々苦しそうにしながら笑っていた。
「いきなりごめんね、オリオン。驚いたでしょ」
「おいおい、そんなちっさい事気にすんなって。むしろ助かったぜ、マジで」
「そっか、うん。ありがと……えっとね、別にティアマト様達に隠す様な事じゃないからいいよ。オリオンの言った通り魔法なんだけど、使い勝手が悪いんだよね」
あのモンスターを片腕で爆散させたオリオンって何なんだろう、とリツカは疑問に──というよりも若干引いていたが、助かった事には変わりないしいいか、とその事を気にせずに話を進めた。
"
しかしこの魔法はダメージを与えるものではなく、完全に補助魔法なのだ。その効果は、「指定した二人の位置を入れ替える」というもの。かなり癖のあるトリッキーな魔法なのである。
しかも中々に制限があり、まず生物でなければ指定出来ないというもの。そして自身や指定した生物と敵対している生物を指定する事は出来ず、更には自分自身を指定する事も出来ないのだ。そして一度使用すると、30秒のインターバルが必要になる。
つまりまず大前提として自分を含め、最低でも三人──正確にいえば自分を含め二人でも出来ない事はないのだが──でなければ、意味のない魔法という事になる。
ソロであればほぼ100%使う事がなく、この魔法を初めて聞いた時のリツカの落ち込みようといったら……それはもう酷いものだった。
この話を聞いたベルは、いつもの通り「凄い!使い様によってはとんでもない魔法だよ!」と言っていたが、リツカは未だにその言葉を信じられないでいるのだった。
「──って感じ。どう?いくら凡人っていっても酷くない?」
「リツカちゃん……いくら私達だからとはいえ、そんな事細かに説明しちゃダメよ……」
自身の魔法を細かく説明するリツカに対し、少々呆れた様に顔を引き攣らせるティアマト。そんな彼女に「うーん。ティアマト様達だったらいいよ」と、笑顔で返すのだった。
「んー……でもまぁ、使い方次第じゃねぇの?これからダンジョンに潜ってくっつぅんなら、もっと多い人数でパーティ組む事になるんだろうしよ。そしたら使い道も増えるんじゃね?」
「ちゅちゅん。あちきもそう思うでち。世の中には無駄な事なんて、ほとんどありまちぇんからね」
モンスターを縊り殺した事で体液が服に付いたのか、いつの間にか上半身が裸になっていたオリオン。その筋肉が凝縮している肉体は、まるで《
「そっかぁ。確かにそうかもなぁ」
それはいつになるんだろう、と思いながらも、しかしこれから先、ベル以外の人物も含めたパーティで、ダンジョンに潜っていく事を想像するリツカ。しかしまだまだ現実味のない話だな、と苦笑してしまう。
まだリツカとベルは駆け出し、まだまだひよっ子もいい所なのだ。そんな二人が立派なパーティを組んでダンジョンを潜っていくなど──どこか夢物語の様な感覚だったのだ。
「──まだ何があるかわからないし、一度ホームに戻りましょうか。リツカちゃんもどうかな?もし良かったら、私達の所でお茶していかない?」
「うん!行く!お祭りはもうお腹いっぱいって感じだし」
「んじゃあ俺はちょっとばかし──」
「はいはい。好きにすればいいでち。でもホームに着くまではダメでちよ」
「よっしゃあ!!女将、愛してる!」
「気持ち悪いでち!はーなーすーでーちー!!」
「大丈夫か?雪姫」
「怪我してない?痛い所ない?」
「ありがとう、カネちゃん、蒔ちゃん。大丈夫だよ」
そうして《てぃあまとほーむ》へと向かうティアマト達。先程のモンスター襲撃からは考えられない程に、和やかな雰囲気だった。
そんな中、リツカはとある人物に思いを馳せる。
今何してるのかな、シルちゃんには会えたのかな、お祭りを楽しんでるかな、それとも──ベルもモンスターと出くわしたりしてないかな、と。
リツカはベルと、そしてここ何日か会えていない女神に思いを馳せ、その無事を祈りながらティアマト達と歩いていくのだった。
作者です。
第十六話。ティアマト達&リツカsideのお話でした。レフィーヤ達が走り回ったりじぃじに会ったりしてた時に、愉快なあの子達はこんな感じだったんですね。
そして新たに登場した穂群原三人娘……じゃない間違えた、オラリオ三人娘。幼女です。一人だけ漢字が違いますが、まぁカーニィとか言ってる時点で漢字が違うも何もないかなと。
オラリオ三人娘が脚光を浴びる日はあるのか!?乞うご期待!
というわけで今回はこの辺りで。また次回お会いしましょう!