「──犯人は
オラリオのダンジョン、その18階層。《
《ロキ・ファミリア》の団長フィン・ディムナは、その異常事態の元凶となっている光景を厳しい表情で見つめていた。その視界に広がっているのは、フィンですら初めて見る新種のモンスターが襲撃してきている状況だったのだ。
現在、フィンを含めた《リヴィラの街》の冒険者は──アイズとレフィーヤのみ別行動中なのだが──街の広場に集まっていた。その理由はこの街で起きた殺人事件、《Lv.4》の冒険者を殺害した犯人を見つけ出すためである。
この冒険者が殺害された現場は荒らされてはいたものの、しかし金品はそのまま残されていた事もあり、その状況から単なる物盗り目的による犯行ではないと推測したフィンは、未だ犯人が潜伏しているのではないかと考えた。
そしてこの街の顔役であるボールスに、フィンは街中の冒険者を広場に集める様に命令したのだ。
愚痴を零しながらもその命令を了承したボールスは、すぐに行動に移した。そうしてこの街にいた全ての冒険者を広場に集め、犯人探しが始まったのだが──その直後、突然モンスターが発生したのだった。
この広場にいる冒険者達ならば、《
モンスターと出くわすといっても、通常それは数匹。そして《
しかし現在この《
その様子を見つめるフィンは、険しい顔をしながら思考を巡らせていた。
今眼前に広がるモンスター達は、フィンですら初めて目撃するモンスターである。しかし、その特徴的な姿はとある一件により知っていた。
地上から突然出現する、
ティオネ達の報告によれば、この新種のモンスターは素手による攻撃ではあったものの、《Lv.5》であるティオネとティオナの攻撃が全く効かず──それどころか、逆に彼女達が拳を痛めるほどの防御力を有している。そしてその攻撃力は、《Lv.3》であるレフィーヤを一撃で戦闘不能に陥らせるもの。
防御に特化しているモンスターなのか、それとも単に《Lv.5》の冒険者ですら手も足も出ない強敵なのか。
ほんの一瞬の内に思考を巡らせていたフィンは、どう対処するべきかを思案する。
現在この広場に集まっている冒険者達は《Lv.2》がほとんどであり、《Lv.3》に至ってはボールスのみ。そして《Lv.4》以上は《ロキ・ファミリア》の面々のみ。という事は、ほとんどの冒険者が戦力にならないという事なのだ。
戦力にはならないにしても、囮程度には使えるかもしれないが、しかしフィンは《
そしてフィンはある事を思い出し、行動に移そうとする。それは、この新種のモンスターは
「リヴェリア!攻撃魔法を使えるもの達を率いて部隊を作り、後方より攻撃してくれ!回復魔法のみが使えるもの達は、更に後方で戦況に応じて被害の大きいものから治療!それ以外のものはボールスの指示に従って特攻せずに攻撃魔法部隊を死守だ!!ティオナはここでボールス達を守れ!そして僕、ティオネは遊撃に入る!各自すぐに展開しろ!散開!!」
その小さな体躯からは考えられない程の叫びに、各々すぐに行動を開始する。リヴェリアは攻撃魔法を有するもの達を集め簡易的な部隊編成に入り、先程は愚痴を零していたボールスも、文句一つ言わずに真剣な表情で行動し始める。そして、守りを命じられたティオナは若干不満そうな表情をしていたが──しかし既に『
アイズ達は今どういう状況なのかと思案したフィンだったが──しかし今は目の前のモンスター達をどうにかしなければ、と愛槍を握り締める。
そうしてフィンはティオネと共に、モンスター達へと向かっていったのだった。
「──あなたが、殺したんだ」
アイズが険しい表情をしながら、どこか睨みつけている様にも見えるその視線の相手。それは全身鎧を装備した男──否。殺した相手の顔の皮で変装していた女性だった。
アイズ、レフィーヤ、そして
何故アイズとレフィーヤがフィン達とは別行動を取っていたのかというと、広場に街の冒険者を集めていた時に、その場から逃げようとする女性、ルルネ・ルーイをアイズが目撃し、レフィーヤと共にその後を追いかけたからである。
フィン達にはその事を告げないで行ってしまったが──しかしアイコンタクトはしたので大丈夫だろう、というものだったのだ。
そうしてすぐにルルネに追い付いたアイズとレフィーヤ。そして彼女に何故逃げたのかを追求した所、殺害されたハシャーナが所持していたとある物を、現在はルルネが所持しているという事。おそらく彼を殺害した犯人は、そのとある物を狙っているのではないかという事。そしてこのままでは自分も殺されてしまうと恐怖したルルネは、その場から逃亡してしまったのだという事だった。
当然アイズとレフィーヤは、このルルネ・ルーイを容疑者の一人として見ていたのだが──しかし殺害現場である宿屋の主人、ヴィリーから聞いていた情報とルルネは合致しなかった。
ヴィリーの話によると、殺害されたハシャーナは女性と宿を共にしており、おそらく犯人はその女性だろうというものだった。そしてその女性は、かなりグラマラスな体型をしていたらしく──つまり、ルルネをグラマラスと呼ぶには、お世辞にしても無理があったのである。
そういった理由もあり、少し緊張の糸を解いたアイズとレフィーヤは、ルルネにそのとある物とは一体何なのかと聞いた所、彼女は大きめのショルダーバッグから、丸い水晶の様なものを取り出したのだった。
一体これは何だろう、とアイズが水晶の様なものを覗き込むと──その中には、
そしてその胎児の様なナニカはおもむろに目を開き、その直後アイズは激しい頭痛に見舞われ、倒れ込んでしまった。
あわやその水晶の様なものを落としかけたのだが、レフィーヤが地面に落ちる前に抱き抱え、ルルネはホッとした表情をしていた。どうやらこの水晶の様なものは
倒れたアイズを心配するレフィーヤだったが、しかしアイズは気を失ったわけではなく、少し目眩がしただけだから大丈夫、と心配するレフィーヤに告げるアイズ。
そしてすぐに立ち上がったアイズが、その水晶の様なものを訝しげに見つめた、その時だった。
凄まじい轟音と共に、突然地上からモンスターが出現したのである。
それはアイズやルルネは初めて目にするモンスターであり、そして──レフィーヤにとっては、二度目の遭遇となるモンスターだった。
脇腹に疼く様な痛みを感じながら、そしてあの時助けてくれた髑髏の騎士の事を思い出しながら──レフィーヤは簡潔に、そのモンスターの情報をアイズとルルネに伝えた。
そうして小さく頷いたアイズはその新種のモンスターの元へと迎撃しに行き、レフィーヤとルルネはフィン達と合流しようと走り出した、その時だった。彼女達の前に、全身鎧の人物が立ち塞がったのである。
ルルネが持っている水晶の様なものを、その全身鎧の人物は《宝玉》と言い、そしてそれを渡せと言ってきたのだった。
ルルネがそれを拒否する言葉を放った瞬間、全身鎧の人物は凄まじい勢いで二人に襲いかかってきたのだが──その行為をアイズが、彼女の相棒たるサーベル、
そうしてアイズ達はこの謎の全身鎧の人物と対峙する事になり──この人物はアイズに看破され、面倒そうに殺害したハシャーナの顔の皮を捨て去り、そしてその正体を現したのだった。
「──殺したからなんだと?お前達も
全身鎧を脱ぎ捨てながら、呆れた様に呟く女性。その言葉にはどこか、刺々しいものを感じ取れた。
苦々しい表情をしながらも、その女性から視線を外さなかったアイズだったが、しかしその言葉を吐いた女性が予備動作をほとんどせずに携えていた大剣で襲いかかり、アイズは戦いにのみ考えを向ける。
強い。というよりも強過ぎる。アイズがこの女性と幾度の剣戟を交えた率直な感想だった。
その大剣の一撃一撃の重さ、速さ、隙のなさ。そして時折交える体術の威力。その全てが、自分と同等──否、凌駕しているのではないかと思ってしまう程の実力だったのだ。
しかしアイズとて奥の手がないわけではない。彼女を《剣姫》たらしめるもの。それは数え切れない程のモンスターを屠ってきたもの。
まさかこんな所にこれ程の実力者がいるとは、一体どこのファミリアに所属しているのだろうとも考えたアイズだったが──しかし決着を付けるために、小さく息を吐く。
「──"
「っ!?……そうか、ははは。そうか、そうだったか。どうやら私は運が良い」
アイズが呟き風を纏うと、大剣を構えながら相対していた女性が、酷く愉しそうに笑い始める。そんな女性の様子を訝しげに視線を向けていたアイズだったが、しかしすぐ様行動に移す。
先程とは比べ物にならない速度で女性と間合いを詰めたアイズ。そのあまりにも段違いの速さに、女性は一歩反応が遅れた。
その一瞬の隙を見逃さなかったアイズは、フェイントを織り交ぜ、更に女性の体勢を崩す。
貰った──そう確信しながらアイズは、そのまま彼女の首を狙う。
本来であれば生け捕りにして情報を吐かせるのが当然なのだが、しかしこの女性はあまりにも危険過ぎる。背後にはレフィーヤ、そして知人と呼ぶには些か親交が無さすぎるが、しかし見捨てる事など出来る筈がないものもいる。それに、
故にアイズはその首を両断する一閃を放ったのだが──しかしその剣閃は、
しかしその威力までは殺す事が出来ず、吹き飛ばされていく女性。そのまま巨大な岩に衝突し、凄まじい砂煙がアイズ達の視界を覆う。
そして砂煙が晴れていき、彼女達の目に映った光景は──首を落とすどころか、アイズの渾身の剣閃を防いだ腕すらも無事のまま座り込んでいる、女性の姿があったのだった。
「嘘……」
その衝撃の光景に、レフィーヤは口を開いたまま呆然としていた。あのアイズ・ヴァレンシュタインの一撃、《剣姫》と呼ばれる第一級冒険者の、自分が憧れているあのアイズ・ヴァレンシュタインの決定的な一撃を以てしても斬れなかった。
その事実にレフィーヤは、信じられない、信じたくはないといったような表情を浮かべていた。
アイズも苦々しい表情をしていたが、しかしその手応えで理解していたのだろう。動揺した様子は見られなかった。
「ふふっ、ふふふ……まさか探し物が2つも見つかるとは……会いたかったぞ、
座り込んでいる女性が「アリア」と口にした瞬間、衝撃を受けた様に動揺するアイズ。普段はほとんど感情を表に出さないアイズだが、しかし現在の彼女は感情をはっきりと表していたのだった。
「何故、その名前を……あなたは、一体……」
「アイズさん……?」
小さく身体を震わせながら動揺しているアイズに、レフィーヤも動揺しながら声をかける。
レフィーヤの耳にも届いた「アリア」という言葉。それが一体何を意味するのかわからないレフィーヤだったが、しかしその言葉でアイズが動揺している事は理解出来た。
一体何があったのだと困惑するレフィーヤが、彼女に再度声をかけようとした、その時だった。
「──剣姫!!後ろ!!!」
「アアアアアァァァ!!!」
呆然としていたアイズだったが、しかしルルネの叫びにより我に返り、すぐ様に反応してその身を横に移し、回避の動作に入る。そして自身がいた位置に、絶叫をあげながら通り過ぎていったのは、女性が《宝玉》と呼んでいた玉の中にいた、
「ちっ!……面倒な事を」
大きな舌打ちをしながら、苦虫を噛み潰した様な表情をする女性。そしてその胎児はそのままモンスターの元へと辿り着いて張り付き、そのままモンスターに吸収されていった。
そして胎児を吸収したモンスターが変貌し始める。それはアイズやレフィーヤ、フィン達が50階層で遭遇した、あの巨大なモンスターと酷似していたのだった。
「──なんであのモンスターがここに……いや、悠長に構えてる場合ではないな。どうやらこちらに向かってきている様だぞ」
離れた位置からでもよく見えるその巨大なモンスターを、リヴェリアが険しい表情をしながら見つめ、呟く。
フィンの推測通り攻撃魔法には耐性が低かった事もあり、出現した新種のモンスターをなんとか全て討伐し終えた彼女達は、ようやく一息つける所だった。しかしそこに来て、あの巨大なモンスターが出現したのである。
リヴェリアは巨大なモンスターを見つめながら、以前に酷似したモンスターと遭遇した時の事を思い出していた。あの時はなんとかアイズが撃退したが、しかし今回は戦力にならないものが多過ぎる。撤退させるにしても、一体どれだけの被害が出るのか、とリヴェリアは苦々しい表情を浮かべる。
そしてそんな彼女が、此処に
「──リヴェリア!レフィーヤとこの子をお願い!!」
「アイズ!今まで何を──」
アイズが勢いよく現れ、両脇で抱えていた二人の人物を地面に置いたかと思えば、リヴェリアの呼び止めも聞かずに、そのままどこかへ駆けていってしまう。置いていかれたレフィーヤはどこも問題ないようだったが、もう一人の人物──ルルネは意識を失っていた。
一体何がどうなっているのだと困惑していたリヴェリアだったが、しかし巨大なモンスターがアイズを追いかける様な行動に移ったのを察知し、少ない情報から現状を把握する。そしてどうやらフィンも、同じ答えに至っていた様だった。
「何故かはわからんが、どうやらあのモンスターはアイズを狙っている様だな」
「ああ。おそらく間違いないね……ティオネ!ティオナ!僕に付いてこい!あのモンスターを迎撃する!」
「ボールス!皆を率いてあのモンスターと少しでも距離を取れ!レフィーヤは私と共に来い!行くぞ!」
状況判断を終えた《ロキ・ファミリア》の団長と副団長の下、その部下達も共に一斉に行動を開始する。その判断の早さ、行動の早さに、ボールスは口を開いたまま視線を送っていたが、しかしすぐに我に返り、自身のやるべき事を行動に移したのだった。
「……全く、嫌になるぜ。化け物ってのはよ」
誰に言うでもなく呟いたボールスの言葉は、誰が答える事もなく宙に消えたのだった。
「──追って、こない?」
あの巨大なモンスターが自身を狙っているのだと気付いたアイズ。捨て置いてはならないと感じながらも、しかしレフィーヤ達の身の安全には替えられないとして、座り込んでいる女性の事を一先ず無視し、レフィーヤとルルネをリヴェリア達の元へ届けた後、少しでも皆からモンスターを遠ざけようと一人駆けていた。
しかし何故か巨大なモンスターが追ってこないという事に気付き──そして自身の大切な仲間達が、そのモンスターと戦っている事に気付いたのだった。
それならば、とアイズも参戦しようとしたのだが──しかしそれを許さぬものがいた。その人物は先程捨て置いた女性、アイズの渾身の一撃ですら致命傷を与える事が叶わなかった女性だった。
「邪魔……しないで!」
「黙れアリア。こうなればお前だけでも連れていかねばならん」
モンスターと戦う仲間達の元へと向かおうとしたアイズだったのだが、しかし空中から大剣を振り下ろしながら現れた女性により、その行動を止められてしまう。その一撃を『デスぺレート』で受け止めたアイズだったが、しかしその見た目からは想像もつかない、圧倒的な膂力により押されてしまう。
「私、は……アリア、じゃない!」
「とぼけても無駄だ。あの風、あれこそお前がアリアだという紛れもない証拠。その身、
「王……?ぐぁっ」
女性の言葉に困惑するアイズだったが、その瞬間に強烈な衝撃が腹部を襲い、そのまま吹き飛ばされていく。そして地面に身体を何度も打ち付け、女性から離れた所でようやく止まったのだった。
「ちっ!もうやられたのか……だがアリアは確保出来た。良しとするしかない」
アイズの腹部に蹴りを食らわせた女性は、眉間に皺を寄せながら苦々しい表情を浮かべる。その視線の先には、《ロキ・ファミリア》の精鋭達から怒涛の攻撃を加えられ、退避しながらもトドメを刺された巨大なモンスターの姿があったのだった。
その女性の一撃を食らったアイズは相当なダメージを負ったのか、口から血を吐き出しながら噎せ、未だに立ち上がる事が出来ないでいた。視線は女性に向けられていたが、しかしもはや抵抗出来る程の力は残されていなかったのだ。
ゆっくりとアイズに近付く女性。モンスターを討伐した《ロキ・ファミリア》の面々もアイズの元へと急いでいたが、しかし間に合うには遠かった。
そしてアイズに少しずつ近付く女性がおぞましい笑みを浮かべた、その時だった。
「なんだ……なんだこの気配は。アリアの仲間か?いや、そんな筈はない。これは、人では──」
アイズに手を伸ばしかけた女性が、凄まじい勢いでアイズから距離を取り、周囲を警戒する。目を見開いたその表情には動揺と──そして恐怖の様な色が浮かんでおり、汗が額から流れ落ちていた。
状況から言えば助かった筈のアイズも動揺しており、この空間中に満ちる殺気の様なものに動揺──否、恐怖の感情を抱いていた。
そしてこれは、
「アイズ!無事か!?」
その中で聞こえてきた叫び声。その声の主にアイズが視線を移すと、そこにはリヴェリアが険しい表情をしながら自身の元へと向かっていた。そしてリヴェリアの後を、フィン、ティオネ、ティオナ、レフィーヤが追従していたのである。
アイズの姿を見て、一先ず安心したフィン達だったが──しかしその状況を見て顔を険しくする。アイズに相対しているあの女性が元凶なのかと理解したフィンだったが、しかしアイズに遅れてその気配を察知した。
この独特すぎる気配、ここに
どうやら同じくしてリヴェリアも気付いたらしく、周囲をきょろきょろと見回していた。そのすぐ後にティオネとティオナが、そして最後にレフィーヤも気付き、皆がその気配の主を探していた、その時。
「ふむ……貴様もまだ、か。何とも、しかし仕方のない事」
その声のした方向にリヴェリア達が振り向くと、彼女達の後方、そのすぐ後ろにその気配の人物──
「おま……いつの間に、私達の背後に……?」
動揺を隠せないリヴェリアの問いに、「少し前にな」と簡潔に答える
その感情を無視しながら歩き出した
「さて、貴様には色々と尋ねたい事がある。少々付き合ってもらおう」
アイズに回復薬を手渡した
その対応に痺れを切らしたのか
「怯える必要はない──命を奪う事はせん」
その瞬間、全員が目を見開いた。女性が後退したと思った瞬間、
「なっ!?お前、一体何だ!?」
驚愕した様子で
「何だ、とは失礼極まりない。見てわからないのか?」
「ふざけるな!ふざけるなふざけるなふざけるな!!何故お前のような存在がある!?有り得ん、有り得ん有り得ん有り得ん!!」
今度は距離を詰める事もなく、その場で答える
フィン達はその光景を──今この場で一体何が起きているのか全く理解出来ず、更に困惑した様子となっていた。特にアイズとレフィーヤはより困惑していた。それもその筈、目の前で狂った様に取り乱している女性は、あのアイズ・ヴァレンシュタインの攻撃に全く動じない程の実力者だったのだ。
そしてアイズに至っては、その女性が自身を圧倒的な実力で追い詰めた事を身体で理解している。現に、自身はこの女性の攻撃で戦闘不能に陥った。
その様な実力を有するものが、これ程までに動揺──否、恐怖するなど、黒面とはいよいよ本当に何者なのだろう、と驚愕していた、その時だった。
「──はぁぁ。まーたですかぁ?ほんっっっと邪魔してくれちゃいますね、アナタ」
張り詰めていた場の緊張を壊す様な口調で──呆れた様な、そしてどこかふざけている様にも感じる口調で、そのものは空中から突然現れた。
その人物は、アイズ達が50階層で遭遇し、そして手も足も出なかった相手。そして、レフィーヤにとって因縁のある人物。
《ロキ・ファミリア》の面々が苦渋を飲まされた人物、兎耳を生やした獣人の女性が、怯えた表情をしている女性の隣に着地したのだった。
「どうやら面倒な縁がある様だ。御託はいい、それで?」
「うふふっ。そんなつれない事を言わないでくださいまし。わたくし泣いちゃいますわ……そうですねぇ。レヴィスちゃんもめちゃくちゃビビっちゃってますし、今回はこの辺りで手打ちにしません?」
笑顔を向けながら
そんな兎耳の女性が口にした言葉に、「レヴィス」と呼ばれた女性は怒りを含んだ眼差しを兎耳の女性に向けたが──しかし兎耳の女性が、その視線を
「アナタもこれ以上は本意ではないでしょう?どうせ何も出来ないんで・す・しっ」
おぞましい笑みを浮かべながら問いかける兎耳の女性に、
「沈黙は肯定という事でよろしいですかぁ?うふふっ。という事で今回は失礼致します。それではまたお会い致しましょう、
ふざけたように笑っていた兎耳の女性は、最後に全身が凍てつく程におぞましい笑みをアイズに向け──そしてレヴィスと共に、
「……結局何も掴めず、か」
兎耳の女性とレヴィスがいた場所を見つめていた
「いや待て!何も言わずに去る気か!?」
ようやく我に返ったリヴェリアが、そのまま立ち去ろうとした
「だから待てと言っている!おまっ、ちょっ、待て!止まれ!無視をするな!私の言葉が聞こえていないのか!?」
まさか無視されるとは思わなかったのか、動揺した表情を浮かべながらも、凄まじい勢いで
そうして突然始まった
「──おま、えぇ……何故、逃げた……!どう、して、無視した……!」
「……突然鬼気迫る表情をしたものに追いかけられてみろ。誰でもそうなるだろう。身の危険を感じた、ただそれだけだ」
「なっ!?おま、そんっ、な、何を!べっ、別に私はそんな表情などしていない!していなかった筈だ!なっ、何を言い出すんだお前は!」
呼吸を整えながら、顔を若干赤らめてリヴェリアがハサンの言葉に反論していると、フィン達も二人の元に近付いてきた。フィンは若干呆れた様に笑っており、ティオネは興味なさげに
アイズはというと、彼女ももう既に回復したのか、フィン達と共に付いてきていた。そして感情がわかりにくくはあるものの、しかし
「またも助けてもらった、のかな?多分だけど、君がアイズの危機を救ってくれたんだろう?」
「救ったというには偶然に過ぎる。こちらにも事情があって此処にいただけだ。故に気にしないで構わない」
「だから、お前という奴は……私達の、沽券にも関わるのだ!だから、気にするなで、済ますな!」
未だに息が整わないのか、座り込んだまま息も絶え絶えに反論するリヴェリア。そんな彼女の様子を見たアイズは、彼女に近付いて座り込み、そして背中を摩るのだった。
「……では貸し一つ。何かあった時に手助けしてもらおう。その時は私の方から願い出る。それでこの件は終いだ。ではな」
相変わらず淡々と告げた
覚えがあるその状況に、
「申し訳ないのだけど、いくつか聞きたい事があってね。黒面、君はあのレヴィス、と呼ばれていた人物や、兎耳の女性の事を知っているのかい?」
微笑みを絶やさずに近付いてくるフィン。そんな彼の様子に
「……兎耳の人物に関してはほぼ何も知らん。情報でいっても貴殿らと大差ないだろう。レヴィス、と呼ばれた人物に関しても初対面だ。故にこちらも貴殿らと大差ない。向こうがどうなのかはわからんがな」
諦めたのか、しかし淡々と口にする
「じゃあもう一つだけ。これは質問というより疑問に近いんだけどね……黒面。君という存在は冒険者なのかそうでないのか、本当に全くわからない。しかしこうやって普通にダンジョンに、しかも深層にも到達出来ている。だけどその事は今はいいよ……でもさ。君は一体、
微笑みを浮かべ続けていたフィンだったが、急に真剣な表情へと変わり、
そんな緊張感の中でも
「その事について何も言える事はない。何か不満があるのかもしれんが、私から言える事は何一つない。それが答えだ」
どこか突き放す様に感じる口調で話す
「それは、私……私達が信用ならないから、という事か?」
皆が口を噤む中、リヴェリアが険しい表情をしながら一番に口を開く。既に息は整っていたが、しかし顔は俯いたままであり、視線を
「そうだな。貴殿らが信用に足る人物だと知るほど、私は貴殿らと交流を深めているわけでもない。故に信用云々はそもそもの話だ。しかし仮に貴殿らが信用に足る人物だと知っていたとしても、私からその事について言える事は何一つない。故にその理由は信用の問題ではない、という事だ」
淡々と説明する
「んー……難しい事はわかんないけど、黒面があたし達を信用してないってのは関わりがないから、って事だよね?じゃあさじゃあさ、これからいっぱい関われば問題ないじゃん!」
「いや違う、そうではなくてだな。そもそも信用云々の話では──」
「あのさあのさ、好きな食べ物って何?あたしはねー、お肉!お肉大好き!」
「いやだからだな、私が言いたいのは──」
「ふふっ、そうだなティオナ。お前の言う通りだ。これから関わっていけばいい。そうだ、簡単な事だったな」
珍しく動揺する
そしてどこか暗い表情を浮かべていたリヴェリアも──どこか晴れやかな笑みを浮かべていたのだった。
そんな
レフィーヤもその輪の中に混ざり、
「──もういいだろう……何度言ったかわからんが、私も暇ではないのだ。本当にこれで失礼させてもらう」
「えー!もうちょっとお話しようよー!」
「あなたの強さの秘密、教えてほしい」
「そうだぞ、黒面。お前はアレだ、少々生き急いでいる節がある。人というのはな、たまには休む事も必要なんだ。だからもう少し休んでいけ」
ティオナ、アイズ、リヴェリアの怒涛の質問攻めにより、疲れた様子を隠せない
そしてフィンは混ざる事無くただただその様子を──面倒そうにしながらも、質問には律儀に答える黒面を可笑しく感じながら──見つめていたのだったが、流石にこれ以上は、と助け舟を出すのだった。
「ほら、これ以上は彼に迷惑がかかってしまうよ。彼は僕達の恩人なんだからね。あんまり無理を言っちゃダメだ」
その言葉に頬を膨らませるティオナとアイズだったが、しかしその事を理解出来るからか、それ以上口にする事はなかった。
リヴェリアもフィンの言葉に我に返ったのか──はっとした表情をした後、恥ずかしそうに顔を俯かせるのだった。
「……ではな、次に会った時にはもう少し手加減してくれ」
疲労が溜まった様子の
「一つ、忠告をしておく。アレには手を出さん方が賢明だ。但し関わざるを得ないのなら……今の貴殿らでは何一つ足りん。力を付けろ。それと、これは忠告ではないのだが……もし万が一ローブを着た、いかにも怪しい輩に何か頼まれた時には私の名を出せ。絶対にだ」
「それはどういう──」
「そういえばさ、黒面ってば次に会う時はーって言ってたよね!これってさ、また会おうって事じゃない!?」
「はっ……その時はちゃんと、教えてもらわなきゃ」
「全くうちの娘たちは……所でリヴェリア。珍しく君もはしゃいでいたけど」
「なっ!そ、そんな事はない!ただ私は、その、アレだ!奴と親交を深めれば《ティアマト・ファミリア》とも懇意に出来るのではないかと、だからニヤニヤするのを止めろ、フィン!」
各々思い思いの事を口にしながら、ボールス達の元へと向かうフィン達。しかしティオネは
そしてレフィーヤは──未だに複雑な感情を消す事の出来ないまま、皆の後ろを着いていっていた。
しかしレフィーヤも、次にあの人に会った時は、その時はちゃんと──あの時の言葉の真意を教えてもらおう、と決意し前を見据え、歩を進めるのだった。
作者です。
第十九話となりました。すげぇ長い。しかし分けずにそのままとなりました。まぁその、前回が短かったから良しとしてください。お願いします。
今回登場した、ニューゴリラことレヴィス。果たして超人のゴリラとどっちがゴリラなんでしょう。この作品、その内ゴリラだらけになりそう。
そして再登場したバニー。相変わらずのムーブでしたね。好き。
一体彼女は何してるんでしょうね?新しい事業でも始めたのかな?
というわけで今回はこの辺で。また次回お会いしましょう!