迷宮死告譚 アズライール・ストーリア   作:湧者ぽこヒコ

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第三話 運命(フェイト)

 

 

「──それで……私の所に連れてきたってわけ?」

「いやぁ―……あはは……」

 

 

 もはや一切の抗いなく連れてこられたのは、とある武具店、そしてその店の奥にある部屋だった。しかし幸いにも既に夜も更け、全くという程では無かったが人とすれ違う事はあまり無く、あまり怯えずにここまで辿り着く事が出来た。

 もしかしたら、もしかしたらではあるが……私をここまで引っ張ってきた彼女のおかげという事も少しはあるのかもしれない。

 

 

「はぁ……アンタねぇ。養ってもらってるって事、忘れてない?」

 

 

 刺々しい口調に加え、面倒事を増やさないで、と言わんばかりに燃えるような赤髪をかきあげる女性。この女性は彼女の……ヘスティアの、知人──それも中々に親しい間柄なのだろう。言葉自体はキツいものがあるが、無下にしない辺り、この女性も優しいのかもしれない。

 

 

「うぅぅぅ。だってさぁ!あんな格好で、しかもあんなに泣きそうにしてたら無視なんて出来ないだろう!?それとも何かい、君はそんなに薄情だったのかい!?」

「薄情って、アンタねぇ……まぁ、言おうとしてる事はわかるけれど……はぁ……」

 

 

 むむむむ、と若干の唸り声をあげながら女性の言葉を聞いていたヘスティアが一転攻勢に出ると、彼女からヘファイストス、と呼ばれた女性は呆れた様子でため息を吐きながら、今度はこちらに視線を移した。

 ヘスティアにはどこか冷たい視線だったが、私に向けてきたそれは……勘違いでなければだが、どことなく優しいものを感じる。

 

 

「えっと、そうね。今さっきそこの金食い虫が言ったけど、改めて──私はヘファイストス。まぁ知ってると思うけど……」

「は、はぁ……」

 

 

「金食い虫だなんて酷いじゃないか!」と猛抗議しているヘスティアを無視してこちらに名乗る女性──ヘファイストス、は自分の名に誇りでもあるのだろうか。その表情は「まぁ当然知ってるわよね?」と言わんばかりのものだった。

 しかし、繰り返すが私は此処に来たばかり。故にこの世界における彼女の事は知らないし、彼女の名前も()()()()()()で知っているだけ。

 

 

「……えーっと、私の事、知らない?」

「あっ、はい……すみません」

 

 

 まさか知らないとは思っていなかったのだろうか。ヘファイストスの表情は、明らかに驚いたものとなっている。どうやらこの世界において彼女は──いや、もしかしたらこの街でという事かもしれないが、かなり有名らしい。

 

 だが私は正直、そんな事はどうでもよかった。

 今目の前に居る女性。驚いた顔をしながらこちらを見つめてくる女性、ヘファイストスは……()()()()()()()()()()()()()この世界で出会った、二柱目の神、なのである。

 

 

「まぁほら、そりゃ君がいくら有名神だっていっても、全員が全員知ってるとは限らないだろう?それにほら、彼女が怯えちゃってるじゃないか」

「あっ……えぇ、そうね。冒険者みたいに武具と密接な関係がある存在じゃなきゃ知らないってのもあるわよね……ごめんね?怖がらせちゃったかしら」

 

 

 怯えている様に見えたのだろうか。彼女達は気遣う様子でこちらを伺ってくる。彼女達は違う意味でそう捉えた様だが……。

 動悸が少しずつ落ち着き、俯いてしまった顔をゆっくりと彼女達に向ける。そこには二人の優しそうな女性が、こちらを心配そうに見つめていた。

 

 大丈夫。大丈夫だ。この二人は──少なくともヘスティアは、私の知る神々とは違う。そう……思いたい。

 そしてそんなヘスティアと親しい女性、ヘファイストスも多分……きっと、おそらく、そうであってほしいという願望が強めだが、あの神々とは違う。

 

 

「い、いいえ……大丈、夫、です。怖くない、です」

「……ごめんなさい。やっぱり怖がらせちゃったみたいね」

 

 

 勇気を振り絞って答えたのだが、効果は無かった様だ。見惚れてしまう程鮮やかな赤髪の彼女は、成熟した女性にも関わらず、しゅんした様子がとても可愛らしく思えてしまったのだが、おそらく今こんな事を言ったとしても効果は期待出来ないだろう。

 そんな彼女の様子を見て、悪い事をしてしまったかな、と若干の罪悪感にかられる。彼女は悪い事など何もしていないというのに。

 

 

「大丈夫、何も怖がる事はないさ!確かにヘファイストスはちょーっと怖い雰囲気があるかもしれないけれど、でも実際はめちゃくちゃ良い(ヤツ)なんだぜ!」

「アンタに言われても裏がある様にしか思えないわね……言っとくけど、これ以上無駄遣いするってんならもう本当に追い出すわよ?」

「あははは……」

 

 

 これが彼女達の日常なのだろうか。正直、信じられないという気持ちで一杯となっている。私が()()()()()()()()()からは決して考えられない有様なのだ。

 神には──あくまでも()()()()()()()()()()()だが、神同士の戯れが全く無かったのか?と聞かれれば、それは否、である。確かに戯れのようなものはあった。しかし、この様に純粋なもの──微笑ましいようなものではない。なんというか、気が休まる事が無いのだ。

 

 そんな理由もあり、私はこの様な神同士の他愛のない戯れを見るのは初めてだったので、渇いた笑いしか出す事が出来なかったのである。

 

 

「──はぁ。もういいわ。そんな事よりも今はこの子の事でしょ?見た目は獣人っぽいけれど……そう言えばまだ名前も聞いてなかったわね」

「追い出すだなんて──あ、あぁ、そうだったね、うん」

 

「……ヘファイストスに自己紹介、してくれるかな?」

 

 

 私の話からいつの間にかヘスティアの居住についての話になっていた二人だったが、ヘファイストスが先に折れたのか、呆れた様な視線をヘスティアに向けた後に疑問の表情をこちらに向けてきた。

 そしてその事に同調するように、ヘスティアも懇願の様な表情をヘファイストスに向けた後──何故か一瞬言葉が詰まっていたが、柔らかな笑みをこちらに向けてきた。

 

 

「あっ、えと……ティア、マト。ティアマトといいます」

 

 

 私も少しこの場と、そして彼女──ヘファイストスに慣れてきたのか、未だに少々言葉は詰まってしまうが、それでも自然な笑みで彼女に名乗る事が出来た。

 ヘスティアに比べると少々厳しい印象を受ける彼女だが、しかしその心根には慈しみがあると感じられる。

 

 故に彼女もヘスティアと同じ様に、「良い名前ね」と微笑んでくれると思っていた。

 

 

「は……?ちょっと待って、ティアマト……ですって……!?」

 

 

 元々小さくは無い目を、更に大きく見開いてこちらを凝視するヘファイストス。その表情からは驚愕や動揺、困惑の様な感情を感じ取れる。その他にも、疑念のような感情も含まれていた。

 

 

「え……?あっ、その、私、えっと……その……」

「ヘスティア!どういう事!?この子……いや、そうじゃなくって……あぁ、もう!どうなってんのよヘスティア!!」

 

 

 想像していた反応と全く違うどころか、その対極の様な反応に戸惑いを隠せない。私は何か不味い事をしてしまったのだろうか。彼女を不快にさせる何かをしてしまったのだろうか。

 ヘファイストスは混乱しているのか、彼女から受けた落ち着いた大人の女性、という印象からは考えられない程に取り乱している。ヘスティアに詰め寄り、先程までの親しげな様子とは一変してしまっている。

 

 

「落ち着くんだ、ヘファイストス。落ち着いてくれ」

「落ち着くってアンタ……大体なんでアンタはそんな落ち着いて……はぁ、わかったわよ」

「うん、ありがとうヘファイストス。君ならそう言ってくれると思ったよ」

 

 

 この混沌となってしまった場の元凶であろう私を置いて、半ば修羅場の様な状態となっていた二人は、ヘスティアのあの優しく包み込む様な──包容力、とでも言えばいいのだろうか。そのおかげで、熱を帯びていた場が落ち着きを取り戻していた。

 

 

「……さて、ティアマト君。君には幾つか聞きたい事があるんだ。いいかい?」

「は、はい……」

 

 

 落ち着きを取り戻したとはいえ、未だに何がどうしてこうなってしまったのか、と困惑している事は変わらない。おそらく私が何かしてしまったのだろうが、理由がわからないのだ。

「質問をしたい」とこちらに問うてくるヘスティア。しかしその声色、表情は厳しいものではなく、今までと同じ様に優しく柔らかなものだった。

 

 

「君の名前はティアマト、なんだね?」

「はい、そうです。私はティアマト、です」

「そうか……君の名前は、()()()()()。それがフルネームなんだね?」

「は、はい……そうですが……」

 

 

 何度も同じ様に名前を尋ねてくるヘスティアの表情は、先程のヘファイストスの様な動揺を少し感じさせるものだった。こちらを厳しく問い詰めるようなものではなかったが、それでも困惑するには十分の要素だった。

 

 

「何度も同じ事を尋ねてすまないね。だけどもう一度だけ聞かせてほしい。君にはラストネームはあるかい?」

「ラストネーム……?」

 

 

 ラストネーム。それはいわゆる、家族の名。

 先程よりも更に緊張した面持ちでそんな事を尋ねてくるヘスティアに対し、疑問が生じる。何故私にそんな事を尋ねるのだろう。私は何かおかしな事を言っただろうか……否、そんな筈はない。何か問題となるような点は無かった筈だ。

 

 理解に苦しんでしまう。()()()()()()()()()()()()()()のだが。

 

 

「えっと……ない、ですよ?おかしな事を聞くんですね、ヘスティア」

 

 

 何かの冗談かと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。

 

 

「だってほら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 にこやかに微笑みながら──作った笑みではなく、自然に出た笑みだったのだが──その表情を向けた相手は、私が想像していたものとは全く違っていた。

 

 ヘファイストスは、何か信じられないものを見ているかのような目で私を凝視している。しかしそれは穢らわしいものを見たというよりも、何故?という疑問の様に感じ取れる。

 ヘスティアからも同じように「信じられない」というものを感じるが……しかし、それはあくまでも私ありきのもの、という様に感じる。それは、あの少女と同じような──

 

 

「神……まさかとは思ったけど……ティアマト、ってアンタ……」

「……ティアマト君。いや、ティアマト。君が覚えている事を……わかる範囲で構わないから、教えてくれるかい?」

 

 

 二人共少しずつ落ち着いたのか驚愕のような感情は収まっており、「信じられない」という反応ではなく、「何があったのか」という疑問へと変わっていた。

 そもそも、私が神ですらないと思っていたらしい彼女達の予想外過ぎる反応に戸惑いながらも、果たしてどこまで説明していいものなのか、と思い悩む。そもそもまず信じてもらえるのだろうか?という大前提すらある。だが話さないわけにもいかない雰囲気となってしまっている。

 

 どうすればいいか深く深く思い悩んだ結果……彼女達には本当の事──()()()を説明する事にした。

 それで嫌われてもいい。拒否されても構わない。拒絶されようが当然の反応だ。そもそも、私は救いを求めてこの世界に辿り着いた訳ではない。私は、罪の……咎の報いを受けるために流されてきたのだから。

 

 

「私は──」

 

 

 

 

 

 

 

「──まさか……ずずっ。そんな……大変だったわね」

「ううっ……そっか、そっか……ぐすっ」

 

 

 ……まさかこんな反応をされるとは夢にも思わなかった。嫌われるだろうとか、何か穢れたものを見る目で蔑まれるだろう、などと思っていた。

 だが、ヘファイストスは途中から涙目になり、今に至っては鼻水をかんだ紙が大量の山となっていた。

 ヘスティアに至っては早々に号泣し始め、説明の途中に「待って!一度休憩を要求する!ボクの心が耐えられないんだっ!」と訴え、結局何度も途中休憩、もといティータイムを挟む事となった。

 

 説明したのは、ほぼ全ての事。理解に苦しむであろう専門的な用語や名称は省いたが。

 私がかつて、こことは別の世界の神として在った事。そして裏切り騙され神の座を追われ、最終的に全てを失った事。その後とある特殊な状況に陥り、理性を無くされ災厄の獣として世に解き放たれた事。そして数え切れないほどの多くのものを傷付けてしまった事。それは理性を奪われて無理やり暴れさせられたものだったが、あくまでも私の中にあった人類や神々への果てしなき憎悪こそが利用された一番の原因であった事。最終的にはとある少女に──英雄たちに無事討伐された事。そしてその後……目覚めたらここに居た、という事。

 

 そしてここに辿り着いたのは、きっと自らの大罪の報いを受けるためだと考えている、という事。

 

 二人共最終的には涙が止まらなくなっていたが、私も途中から涙が溢れていた。泣いてはならない、私に涙を流す権利などないと十分理解していたし、そして決して流すまいとしていたのだが……気付いたら涙を止める事が出来なくなってしまっていた。

 

 

「……私は、許されない、から。許されてはならない、から。決して許されざる罪を犯した、から……だから、二人にも……嫌われなきゃ、ダメなの」

 

 

 嫌悪も嘲笑も侮蔑も否定も拒絶もせずに涙を流しながら話を聞いてくれた二人に、止まらぬ涙を必死に拭いながら最後の説明をする。あなた達には拒まれなければならない、と。

 

 

「だから、私は──」

 

「ふざけるな!!」

「バカにすんのも大概にしなさい!!」

 

 

 先程までの感情とは一変し、怒号の様な叫びをあげる二人。その突然の変貌に驚き、固まってしまう。

 

 

「罪?咎?そんなもん知ったこっちゃない!!」

「そうよ、アナタは今傷付いている。それにその暴れたのだって、自分の意思でやった事じゃないんでしょう?」

 

 

 真剣な眼差しで見つめてくるヘスティアとヘファイストス。その表情には怒りのような感情が現れているが、その怒りが何に対してなのか、理解してしまった。

 ダメだ。ダメなのだ。甘えてはならない。一度ならず二度までも縋る事など、絶対に許されない。

 

 

「でも、私の中に憎悪があったのは確かだから……果てしない黒い感情があって、だから……」

 

「そんなもの誰だってあるよ!あのね、ティアマト。君の言う黒い感情がない奴なんているわけがない!!ないんだよ!!!」

「アンタね。それが理由だってんならふざけんな!って話よ。そんなもんで許されないならね、この世に許されるものなんてひとっつもありゃしないわよ!!」

 

 

 こちらの主張を全く意に介さずに詰め寄ってくる二人。その目には、憐れみなどの感情はこもっていなかった。ただただ、私のその言葉が間違っている、と。そうではない、その事を間違えてはならないのだ、と訴えかけてきていた。

 

 

「で、でも……そんな、私は……多くのものを……」

「ティアマト。君はさ、今でも神々を……人々を憎んでいるのかい?」

 

 

 彼女達の優し過ぎる言葉に動揺し、もう何もかもがわからなくなりそうになった時、先程までは叫ぶように訴えかけてきていたヘスティアが、ゆっくりと穏やかに、柔らかく問いかけてきた。君はまだ、憎悪しているのか? と。

 

 私、は……私……は──

 

 

「私、は……も"う、にぐんでなん"が、ない"……全然、にぐぐ、な"い"……!」

「うん……うん……」

 

 

 感情が堰を切ったように溢れ出ていく。今まで必死に止めてきていたものが、限界を迎えて流れ出していく。

 

 

「も"う、にぐんでなん"が、ない"の……ただ、ごわ"い、ごわ"いだけなの"……!!」

「うん、うん……」

 

 

 誰にも明かす事は無いだろうとしていた事。明かす相手などいる筈がないとしていた事。なのにこんなにもあっさりと、こんなにも簡単に明かされてしまうなんて。

 柔らかな表情で頷くヘスティア。いつの間にか私の手を優しくぎゅっと握っていたヘファイストス。そうか、私は──

 

 

「なら、もういいんだ。もういいんだよ、ティアマト。もう君は、苦しむ必要なんてないんだ」

 

 

 ヘファイストスが両手で握り締めている手とは反対の──もう片方の手を両手で握り締めながら、ゆっくりと言葉を紡いでいくヘスティア。

 

 

「もしそれでも自分が赦されないと思うなら──ボクが赦そう」

 

「不滅を司る、神ヘスティアの名において……ティアマト。ボクが君を赦そう」

 

 

 私はずっと、赦されたかったのだ。許してほしかったのだ。私の存在を……此処にいてもいいよ、と。傍にいてもいいよ、と許されたかったのだ──

 

 

 

 

 

 

 

「──さて。落ち着いたかしら、お二人さん?」

 

 

 ホットミルクを配りながら、からかうように私とヘスティアに問いかける赤髪の女神。というのも、最終的に二人で抱き合いながら号泣する、という何とも恥ずかしい結果となったのだ。おかげで私とヘスティアは──ヘファイストスもだが──思いっきり目が腫れてしまっている。

 

 

「うん……ありがとう、ヘファイストス……」

 

 

 ずっとニヤニヤしているヘファイストスから優しい香りのするホットミルクを受け取る。そんな彼女の言う通り落ち着いたのはいいのだが、冷静になると先程の状況が改めて甦り、何とも恥ずかしい気分になってしまう。しかもヘファイストスがニヤニヤしているものだから、余計に恥ずかしくなってしまう。私は原初の母たる存在なのに……。

 

 

「ありがと!ヘファイストス!……うーん。もう朝になっちゃったねぇ」

 

 

 泣き腫らした顔で満面の笑みを浮かべながら受け取っているヘスティア。どうやらあのニヤニヤは気にならないようだ。

 そしてヘスティアが言った様に、既にもう夜が明けている。途中に休憩を挟んでいたとはいえ、まさかそのまま朝を迎えるとは思っていなかった。どうやら随分と長い時間話し込んでいたらしい。

 

 

「そうねぇ……とりあえず色々やんなきゃだけど、とりあえずこのホットミルクを飲んだら一眠りしない?私もう限界よ」

 

 

 先程まではこちらをずっとからかう様な態度を見せていたヘファイストスだったが、その言葉で彼女に視線を移すと、その表情はとろん、としていた。そういえば先程、「もう既に二徹してんのよ、私」などと言っていた気がする。何か夢中になるものでもあったのだろうか。

 

 

「ふぁぁ……そうだねぇ、ボクももうめちゃくちゃ眠いし……ティアマト、もう大丈夫?」

「うん。ありがとう……もう、大丈夫」

 

 

 ヘファイストスと同じようにとろん、としたよう表情で問いかけてくるヘスティア。その目はもうほとんど開いていないのだが、よくホットミルクを零さずに飲めるものだ、と感心してしまう。こんな事で感心してしまうのは、眠気のせいなのかもしれない。

 

 ──私は、ヘスティアからの赦しを受け入れる事にした。

 その後また三人……三柱で話をしたのだが、結論として「自分を赦す事」、「自身の罪は改めて人と向き合うという形で償う事」、「もう自分を責め苛む事はやめる事」というものとなった。

「人を憎んでいないのなら、これから人のために何か出来る事をしていくのが一番」というのはヘスティアの言だった。その言葉を受けた時、視界が開いて鮮やかな世界となった気がしたのは……気のせいではないと思う。ちなみにヘスティアは「ならアンタも働けよ?」とか言われていたが、彼女は普段何をしているのだろうか……? 

 

 そして、現在難問に直面しているという事が発覚したのだが……それは、()()()()()()()()()()()()()という事。つまり二人からすると、どう見ても神だとは思えない程に神威を感じないらしい。

 その問題をどうするのか……それは──

 

 

「──とりあえず……寝よっか」

 

 

 眠いので……起きてから考えます──

 

 

 

 

 

 

 

「──ん?」

 

 

 それはあまりにも唐突だった。じいさまが用事があると出かけたので、ベルに本を読み聞かせていた時の事。

 虫の知らせ……などという何とも微妙な感覚のものではない。何かはわからないが、今この時に()()()()()()()。それを共鳴といっていいのかはわからないが、何かと繋がった感覚がはっきりと今、あったのだ。しかし周囲を確認しても、何か異常があるわけではない。

 

 何かが呼んでいるような、その指し示す場所へと行かなければならないような……何とも不思議で、しかし嫌悪するような感覚ではない。むしろこの状態が自然とすら感じる。

 

 

「おにいちゃん?どうしたの?」

 

 

 くりくりと大きな目で赤い瞳を輝かせるベルが不思議そうに、それだけではなくどこか心配そうにこちらを見つめる。

 私が意識混濁をし、倒れて以降──正確に言うと知らないはずの記憶がある、というものなのでかなり不思議な感覚なのだが──ベルはちょっとした事ですぐに私を心配する様になった。じいさまが言うには「おにいちゃんがどこかへ行っちゃう」らしい。どうやら計り知れない程に心労をかけてしまったのだろう。

 

 

「大丈夫。何も心配しなくて平気だ。そんな事よりほら、続き、聞きたいだろう?」

「うん!読んで読んで!」

 

 

 こんな小さな子にそんな要らぬ心労をかけてはならない。それにこの子は、かけがえのないたった一人の弟。護らねばならない存在なのだ。

 故に私は……今度こそは……。

 

 ……今度……今度……? 

 

 

「むぅぅ。おにいちゃん、またぼーっとしてる」

「っ!あぁ。すまない。ちょっと考え事をしててな……それじゃ、読むぞ──」

 

 

 この時、ハサンは9つ、ベルは6つであった。

 少しずつ運命(フェイト)の歯車が回り出す。それは、決して途中で止める事は出来ない。

 この時はまだ、誰も知らなかった。この世界に何が起こるのかを。

 この時はまだ、誰も気付かなかった。この世界に隠された謎を。

 

 

 今はまだ、誰も知らない。

 運命(フェイト)とは、常に残酷である、と。

 

 






どうも作者です。
第三話となりました。なんかもういちいち「プロローグをいれると〜話」とかなるのは要らないかな?と思ったので、プロローグは話数にいれません。異論は認める!
さて。遂に、遂に?あの女神も登場しました。やっぱりドチビといったら赤髪のあの女神ですよね。かっこよくて素敵なオトナの女性!眼帯がまたクール!!抱いて!!!はい、ごめんなさい。

そんなこんなですが、今回はだいぶ長くなってしまいました。長くなるだろうなぁ、とは思っていたんですが、まさかこんなに長くなるとは。でもまぁプロローグよりは短いですから……(震え)
さて、そんな事よりも少しずつ話が進んできました。しかしそれでも時系列で原作の一話に全く届いていないという罠。大丈夫です!大丈夫ですから!!(?)

という訳で今回はこの辺で。では次回に!またお会いしましょう!
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