「──ここにはもう当分帰ってこないんだろうなぁ」
朝日が差し込む部屋で、少し寂しげな表情をしている少年。沫雪を思わせる様な柔らかな白髪を靡かせるその少年は、この光景を忘れないようにと、噛み締める様にゆっくりと周りを見回していた。
見た目は華奢であり、あどけなさが残る童顔をした少年。しかしその言葉の一つ一つからは、どこか決意の様なものが感じとれる。
「おじいちゃんが言ってた様に、僕……色んな出会いを経験してくるよ」
若干顔を紅潮させながら呟く少年。汚れのない真っ白な髪色と肌の白さのせいで、余計にその顔色が目立つ。
「それにね、おじいちゃん。あそこでなら、お兄ちゃんとも出会える気がするんだ」
俯きながら恥ずかしそうにもじもじとしていた少年だったが、顔を上げた時の少年は先程までとは全く違う、凛とした表情をしていた。
「じゃあ、そろそろ行くね」
まるで自分に言い聞かせる様に呟いた少年は、外への扉に手をかける。
「行ってきます、おじいちゃん!」
彼の名はベル・クラネル。その歳は14。彼はこれから、祖父や兄と共にかけがえのない思い出を刻んできた場所から旅立ち、新たな世界へとその身を投じる。
何が待ち受けているのか、そんな事はもちろん彼に知る由もない。しかしそれが冒険なのだと彼は心躍らせ、その一歩を歩み出して行くのだ──
「よぉし!行くぞ!《迷宮都市オラリオ》!!」
「──なんて、威勢よく飛び出したのは良かったんだけど……はぁ……」
夕焼けに染る人通りの少ない路地裏で、足を抱えて蹲る白髪の少年──ベル・クラネル。その表情は絶望仕切ったものとなっており、あの旅立ちの日に見せた、希望に溢れ輝いていたものとは全く違う有様となっていた。
「オラリオに来て三日目……まさかこんな事になっちゃうなんてなぁ……」
涙目になりながら、ぶつぶつと小さな声で呟くベル。だが、こうなってしまうのも仕方がないかもしれない。
彼は三日前、夢にまで見た《迷宮都市オラリオ》へと足を踏み入れていた。そして小さい頃から彼の憧れである英雄の様な存在となるため、まずは《ファミリア》に所属し、《
しかし、世の中はそれほど甘くなかった。
オラリオに存在する各ファミリアのおおまかな情報を前もって調べていたベルは、問題行動が少ない、つまり至って健全なファミリアへの門を叩いたのである。だが……その結果は散々であった。
「人手は足りてる」「子供は早く帰れ」「筋肉をつけてから出直してこい」「もやしが何か言ってる」「小動物は間に合ってます」、果ては「愛玩用なら大歓迎」などなど……本当に悲惨なものだった。
その様に断られ続け、夜には安宿の枕を濡らし、気付いたらもう三日目となってしまったのである。
「もうお金もほとんど無いし……どうしよう、おじいちゃん、お兄ちゃん……」
その声にも絶望の色が現れていた。小さく蹲るベルは、上を向くどころか前すら向く気力は無く、ただただ頭を抱えていた。
今日食べるものどころかどこかに泊まるお金も無く、いよいよ野宿か……と頭を悩ませていた時だった。
「ねぇ、君。こんな場所でどうしたの?何かあった?」
こちらを心配する様な声のする方向に、若干震えながら蹲っていたベルが目を向けると──そこにはオレンジ色の髪をサイドテールにしている少女が、身を屈めてこちらを見つめていた。
ベルが思っていたよりも顔が近かったのだろう。先程までは絶望一色であった顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「あっ、えと、そのっ、ちっ、ちかっ!」
「あ!ごめんごめん、近かったよね。あはは」
相当恥ずかしかったのか、急いで距離を取り、あたふたするベル。そんな彼の様子を見ながら、少女はけらけらと笑いながら屈んでいた姿勢を元に戻していた。
「で、どうしたの?何だか凄く落ち込んでたみたいだったけど」
「いや、そのぅ……」
先程のように心配そうに尋ねる少女。ベルは未だに少し顔が赤くなっていたが、自身の事を拒否され続け、時には罵倒のような言葉を投げかけられた事を再度思い出してしまい、どんどんと顔色が悪くなっていった。
「ちょっと……色々ありまして……」
「んん?うーん……嫌じゃなかったら、何があったか教えてくれる?力になれるかはわからないけど、一人で考え込んじゃうより二人で考えた方がいいと思うな!私は!」
また涙目になりそうになるベルに、弾けるような笑顔で尋ねる少女。そんな彼女の笑顔に見惚れてしまうベルだったが、少女の視線と自分の視線が重なるとまた照れてしまったのか、急いでその視線を逸らした。
そんな事を考えている場合ではない、と少年は思考を切り替える。
この笑顔が素敵な──いや、自分を心配して声をかけてきた彼女は、今さっき出会ったばかりである。そんな女性に自らが置かれている状況を話してもいいものなのかと。流石にこんな事を相談するのは厚かましいにも程があるのではないかと。
しかしベルは……既に限界であった。この三日間、至る所で拒絶され続けただけでなく、謂れのない暴言を浴びせられた事も少なくはなかった。そうして宿の枕を濡らし続けていたのである。故に彼は、少女の優しさに抗えなかった。
「実は──」
「──そうだったんだ。冒険者になるためにファミリアに入りたいんだけど、断られ続けちゃってるって事なんだね」
「そうなんです……僕ってやっぱり強そうには見えないと思うし、仕方ないですよね……あはは……」
隣に座った少女にこの三日間で起きた惨状を説明し、自嘲気味に笑うベル。そんな彼を、少女は笑う事なく見つめていた。
ベルはその顔色をまた絶望に染め、彼の事情を聞いた少女は「うーん、なるほどなぁ」「そっかぁ、うーん」と一人ぶつぶつと呟きながら何かを考え込む。
そんな少女の様子を不思議そうに窺うベルであったが、何かを決めたかのように自身を見つめてきた少女とまた視線が重なり、また恥ずかしくなってしまったのか視線を外してしまう。
そんなベルの様子を気にせずに、少女は口を開いた。
「あのね。もし君がよかったら、なんだけど……私のとこのファミリア、来る?」
ベルの事を嘲笑する事もなく、自分には関係ないと去るわけでもなく、また適当な事を言うわけでもなく、少女は彼に一つの提案をしたのであった。そしてその提案は、ベルにとって全く想像していなかったものであった。
「えっ、あの……でも僕、こんなですし、その、お役に立てるかわかりませんし、というか僕なんて誇れるような特技も全然ないというかなんというかその」
「いやいや。というか君、随分と自己評価が低いねー。低過ぎない?まぁほら、そういうのどうでもいいから安心して」
思ってもみなかった提案をされ自身を貶め始めたベルだったが、少女はそんなネガティブな自己アピールを全く気にしていなかった。頭をぽりぽりと掻きながら「どうでもいい」と口にした少女に、ベルは目を丸くする。
今まで訪れたファミリアとは全く違う言葉。どこも拒否する理由の根底には「力」というものがあった。しかし今目の前にいる少女は、それをどうでもいいと言ったのだ。
何が何だかわからず呆然とするベルに、少女は呆れながら笑いかける。
「まぁ今まで散々な思いをしてきてたみたいだし、そうなっちゃうのも仕方ないと思うけどさ。でもほら、私はそんなの気にしない。後は君がどうしたいかだよ?」
後は君次第と言われ、先程とは別の理由で目頭が熱くなるベル。もうダメなのかもしれないと思った事もあった彼が、オラリオに訪れ初めてかけられた優しい言葉。拒絶ではなく、自身を受け入れる言葉。
そんなベルの答えは、もう決まっていた。
「よろしくお願いします!!」
「こちらこそよろしくお願いします!!!」
さっ、と立ち上がり凄まじい勢いで頭を下げたベルに対し、負けるものかと彼に負けない勢いで立ち上がり頭を下げる少女。傍目から見たら異様な光景であるだろう。しかし当の二人は、顔を見合わせ笑っていた。
「じゃあ行こうか!私の──私たちのホームへ!」
「はい!楽しみです!!」
ひとしきり笑いあった後、彼女はホーム──ファミリアの家へ行こうとベルを促す。その言葉に少年は、旅立ちのあの日からずっと思っていた興奮の感覚を思い出す。そしてそれが遂に現実のものになったのだと。自分は遂にファミリアの一員となるのだと。彼の心は、喜びと希望でいっぱいとなっていた。
「あ、そういえばまだ言ってなかったね」
何かを思い出したように呟き、振り向いてベルに視線を送る少女。
「君を誘った相手のファミリア、つまり私ね?そして君が所属を決めたファミリアは《ヘスティア・ファミリア》。それと私は一応冒険者なのです!」
ふふん、と胸を張る少女。そんな彼女にベルは「おぉぉ!」と拍手を送る。ベル自身冒険者を目指しているからなのか、目を輝かせていた。
「そして私の名前は
「はい、リツカさん!僕はベル・クラネルといいます。好きなように呼んでください!」
「じゃあベル、って呼ぶね。それと敬語は要らないよ。改めてよろしく!」
「はい!あっ……うん!よろしくね、リツカ!」
「──ふむふむなるほどぅ……流石だよ、リツカ君!まさかまさかだよ!さっすがボクの眷属だよ全く!」
すっかり日も落ちてきた街並みの中を二人で歩き、少女──リツカの言っていたホームへと辿り着くと、そこは廃墟となっている教会であった。
まさかそんな場所がホームだとは思わなかったベルは少々、いやかなり驚いたようで言葉を失っていたが、中に入ると意外に綺麗……では無かった。普通に廃墟であった。内心、中は意外にと期待していたベルは「ここに……えっと、寝袋とか必要なのかな……」と顔色が悪くなっていたが、リツカはそんなベルを見てケラケラ笑っていた。
そして「ちょっとヘス──神様呼んでくるから待っとって」とベルの様子を完全に無視しながら告げ、このリツカを褒めながら抱き締めている少女──もとい神様を連れてきたのである。
「でしょおー?もっと褒めて褒めて」
「もぉぉ!このこのこのこのっ!」
寝袋をどうしようかと悩んでいたベルの前に現れた神様は──とても美しく、廃墟の事などもう頭から無いのか、ベルはまたしても見惚れてしまっていた。
「おっ?ヘスティアヘスティア、この少年、君に見惚れてるようじゃぞ?」
「何だって!?ふっふっふ。君ぃ、中々見る目があるじゃないか」
「えっ!?いやっ、ちがっ、これはその、違いますからぁぁ!」
いきなりの発言、もとい攻撃にまたしても顔を真っ赤にするベルと、そんな彼をからかうリツカとヘスティア。
それはそうと、冒険者になる理由が割と不純だったりするベルなのだが、彼には女性への免疫が全くない。初心もいい所なのだ。なのでこの状況は彼にとって味わった事のない、ハジメテの経験なのだ。所謂、初体験というやつである。
「──あははは、ごめんごめん。ちょっとふざけ過ぎちゃったね。さて、改めまして。ボクが《ヘスティア・ファミリア》の主神、女神ヘスティアさ!」
散々二人に玩具にされ、ようやく解放されたベル。その顔には疲労の色が滲み出ているが、嫌そうな顔はしていなかった。
そんなベルを見て流石にやり過ぎたのかと自覚したのか、素直に謝罪するヘスティア。リツカも「ごめんよー。怒らないでおくれよー」と頭を下げている。
「いえ、そんな、謝らないでください神様!リツカも、ほら。僕、全然気にしてないから……僕はベル。ベル・クラネルです。よろしくお願いします、神様!」
謝罪する二人に何故か慌てて答えるベル。そんな彼の様子を見たヘスティアとリツカは先程の様な邪悪な笑みではなく、純粋な笑顔をベルに向けたのだった。
「ありがとう、ベル君。そしてボクの眷属に……ボクたちの家族になってくれて、ありがとう」
何か暖かいものに包まれたかのような錯覚に陥るベル。そしてまた彼女に──目の前の女神に見惚れてしまう。だが今回は先程のとは違い、何か神聖なものに目を奪われるという様なもの、その優しくも強烈な神々しさに目が離せなくなってしまったのだった。
「いえ、あの。こちらこそありがとうございます。でも本当に僕なんかがいいんでしょうか……」
「あー!また言ってる!そんな事気にしないでって言ったのに。もー」
そのあまりにも美しい神々しさに、ベルはまた自らを卑下してしまう。そんな彼の自虐的な発言に、リツカは若干怒気を帯びた声を出しながら呆れていた。
「そうだよ、ベル君。リツカ君の言う通りだ。そんな事は全然関係ないんだ。だからそんな風に自分を貶めるのはやめてほしいな」
諭す様に語りかけるヘスティアに、ベルはまたしても涙腺が緩む。そんなベルを見てヘスティアは微笑み、先程までは呆れた様子だったリツカも柔らかな笑顔を彼に向けていた。
「《ヘスティア・ファミリア》にようこそ、ベル君。今この瞬間からここが、君の家だよ」
「はいっ!」
ヘスティアが手を差し伸べると、その手を両手でしっかりと握り締め、答えるベル。その様子を見ていたリツカが二人を抱き締め「まぁこんなボロっちぃお家だけどねー!」と笑い、ヘスティアに至ってはついさっきまでの神々しさはどこへ行ったのか「そっ、それは言わない約束だろっ!」と慌てふためき、ベルはそんな二人を見ながら、この地へ来てから初めて心の底から笑えたのだった。
そして、ヘスティアの眷属になれて、リツカと同じファミリアになれて良かったと、心の底から思ったのだった。
「──さて!じゃあ家族が増えたお祝いに、今日は外食と洒落こんじゃおうよ!」
三人で楽しくじゃれ合っていたのが落ち着くと、リツカがお祝いをしようと二人を促す。ベルは少々気恥ずかしそうだが、それよりも喜びが勝っているようだった。
「そうしたいのは山々だけど……リツカ君、うちにはお金が……」
先程まではずっと明るかったヘスティアが、急に声を小さくしながら落ち込み、元々小さい──とある部分を除いてだが──その体を更に小さくさせる。そんな主神の様子を見たベルは「僕はそんな、気持ちだけで十分ですから」と言ったのだが、そんな二人にリツカは、人差し指を二人に向けちっちっちっ、と左右に振った。
「実はですね……こんな時のために貯金してたのですよ!私!しかも昨日は運良くドロップアイテムがたんまり!という事は……?」
「「おおぉぉぉ!!」」
胸を貼りながらふふん!と誇らしげにするリツカに、賞賛の声と拍手を送るヘスティアとベル。ヘスティアはなんて頼もしい眷属なんだと目を輝かせ、ベルは「ドロップアイテム」という、いかにも冒険者らしいものを獲得している少女に対し目を輝かせていた。
「そしたらどうしよっか。流石に《豊穣の女主人》はちょっと高いし……」
「あそこは高いもんなぁ。うーん……」
「あ!あそこは?《
「おっ、いいね!あそこってさ、暖かい家庭料理って感じがして好きなんだよぅ」
オラリオに来てまだ日の浅いベルを置いて、どんどん話を進めていく二人。というのも、意見を尋ねられたベルが「二人が行きたい所に行きたいです」と答えたためなのだが。
そうして三人は和気あいあいと、祝いの宴へと向かうのだった。
「──えっ?まだ入ってから一週間だったの!?」
少女と女神がおすすめする《
そして何より──見つめていたベルに対し、リツカとヘスティアから冷たい視線があったようだが──店主の女性がとても綺麗であった。しかもその服装が、中々にセクシーなのである。
だがどうやら美しさだけではないようで、ヘスティア曰く「ああ見えて怒らせるとめちゃくちゃ怖い」らしい。《豊穣の女主人》という店の店主と同じぐらいに怒らせると怖い人だそうだ。
そうして料理に舌鼓を打ちながら雑談を楽しんでいたのだが──その中でリツカが「実は私もまだ入ってから一週間しか経っていない」と発言したのだった。
「うん、そだよ。なんかいかにも冒険者してますみたいな事言ってたけど、実はベルとそんなに変わらん」
「へぇー、そうなんだ。全然そんな風には見えなかったよ」
海鮮系のサラダをむしゃむしゃと食べながら答えるリツカ。ベルはかなり意外だったのか、目を丸くしている。食欲を刺激する香りを漂わせる肉料理を食べながらそんな二人を見ていたヘスティアは「まぁリツカ君はしっかり者だからねっ。というか、初心者って感じしないよなぁ、君って」とリツカの事を褒める様に答え、その言葉を受けたリツカは恥ずかしいのか、そんな表情を悟らせないかのようにジュースを勢いよく飲んだ。
ベルはその言葉を聞き、なるほど確かに、といった表情となる。まだ彼女とは出会って本当に間もないが、自分に対してあれこれとやってくれたリツカの事を改めて思い出し、しっかりしているというのは彼女の様な人の事を言うのだろうな、と考えていた。
それに初心者に見えない、それもその通りだとベルは納得した。自分も彼女の事を、今の今まで初心者だなどと一切思わなかったのであるからだ。
見た目は普通の──いや、可愛い少女なのだが、どこか何というか……雰囲気のようなもの、があるのである。
そんな事を考えていたベルは、まぁ僕はまだ冒険者ですらないからよくわからないんだけど、と心の中で一人、笑いを零したのだった。
そうして改めて食事と他愛のない会話を楽しんでいた時だった。
「──おい、聞いたか?この前一緒に飲んだ連中、いたろ。アイツらがよ、見たらしいぞ」
「あぁ、聞いた聞いた。アレだろ?18階層に向かう途中に、っての」
「そうそう、遠目からチラッと見えただけらしいが……全く怖ぇよな」
「本当だよ……何もんなんだろうな、《髑髏の騎士》ってよ」
ふと三人の元に聞こえてきた男たちの噂話。耳を立てていたわけではないが、たまたま聞こえたのである。
「うーん、《髑髏の騎士》?……なんか聞いた事あるような……」
最初に口を開いたのはリツカだった。どうやらその名前──異名に聞き覚えがある様子だった。
「《髑髏の騎士》……!なんかかっこいいね!」
おそらくその騎士の事を全く知らないであろうベルは、目を輝かせていた。そんなベルにリツカはえー、とその意見に賛成しないような声をあげる。
そしてヘスティアは……何やら神妙な面持ちをしていた。
「……どしたの?ヘスティア」
そんな様子のヘスティアに声をかけるリツカ。目を輝かせながらかっこいいと主張していたベルも、そんな様子のヘスティアに「もしかしてどこか気分が」と心配した言葉をかける。
「いや、その《髑髏の騎士》の事なんだけどね──」
曰く、そのものは髑髏の面をし、禍々しい鎧を身に纏っている。
曰く、そのものは一振りの恐ろしい大剣を有している。
曰く、そのものは闇に潜むものである。
曰く、そのものはモンスターが無視している。
曰く、そのものはダンジョンの守護者である。
曰く、そのものはダンジョンの暗殺者である。
曰く、そのものと出会ったものは死に至る。
曰く、そのものとは──死を告げるものである。
「──って話がかなり前からあってね。有名な話なんだ」
二人に真剣な眼差しを向けるヘスティア。その表情も口調も、怖がらせて楽しむ冗談の類ではないと理解するには十分だった。
「で、でもさ。ほら、今の男の人達の話でチラッと見かけたとか何とかって言ってたし……」
「そ、そうだよね。その話が本当ならほら、その人達だって……」
ヘスティアの話を聞いて思い出したのかはっとするリツカだったが、しかしそんな恐ろしい存在を認めたくないのか、先程聞こえてきた男たちの話を元にその存在を否定する。否、自らに言い聞かせるように呟く。
そして先程まではその存在に目を輝かせていたベルも、どうやら恐ろしくなってきたのか、リツカの言葉に同調する。そしてその言葉はリツカと同じように、まるで自らに言い聞かせるようなものだった。
「もちろん、ボクだってこんな話を信じてる訳じゃない。でも……でもね?ダンジョンというのは本当に何が起こるかわからない、それこそボクたち神ですらも何が起こるかわからないような場所なんだ。だから……」
「だから、気をつけてほしい。今の《髑髏の騎士》だけじゃなく、色々な事に十分過ぎるほどに気をつけて、そして無事にボクの元に帰ってきてほしいんだ」
帰ってきてね、という言葉で締めくくったヘスティアは二人に笑顔を向けたが、しかしその笑顔はどこか辛そうなものだった。
そんなヘスティアの表情を見た二人は、真剣な顔でヘスティアに向き合う。
「もちろん。しっかり五体満足で帰ってくるよ。それに私……痛いの嫌いだし。心配しないで、ヘスティア」
「僕も……まだダンジョンに入った事無いですし、これからなんですけど……それでもちゃんと、しっかり帰ってきます。神様」
二人の真剣な表情と、その
「うん。ありがとうリツカ君、ベル君。ボクは君たちみたいな最高の家族に恵まれて嬉しいっ!大好きだよっ!二人共!」
「何ー?もう酔ってるの?ヘスティア……私も大好きだよもー!」
「えと、あの、その、僕も……はい、嬉しい、です」
どんよりと暗くなってしまった雰囲気が一変、先程と同じように──否。それ以上に明るく、そして改めて絆が深まった三人であった。
「よぉし!今日は飲むぞぉ!!二人共、ボクに続けぃ!」
「飲むぞ飲むぞぉ!私はジュースだけどな!」
「あっ、はい!神様!でも僕もジュースでお願いします!」
「なんだいなんだい!ボクの酒が飲めないってのかい!?」
こうして更に仲を深めた三人。
《不滅の女神》にして《ヘスティア・ファミリア》の主神、女神ヘスティア。
《ヘスティア・ファミリア》の最初の眷属にして、少年を拾った少女、リツカ・ヘスティ。
夢と希望を抱きながらも挫折しかけ、しかし偶然──いや、運命の出会いにより《ヘスティア・ファミリア》へと導かれる事になった、ベル・クラネル。
この三人の出会いは、果たして希望の旅路なのか。それとも絶望の茨道なのか。
だが今は──ひと時の安らぎを。穏やかな喜びを。
「──ひっ、ひぃぃぃい!!あ、あああああぁ!!!!」
暗い暗い穴蔵の中。そこには一つ、闇がある。
「くっ、くるなぁぁぁぁぁ!!!」
こわいこわい闇がある。誰にも払えぬ闇がある。
「ほっ、本当だったんだ、あの話は本当だったんだ……!」
穴蔵にはご用心。そこには一つ、王が在る。
「やっやめ……なっ、なんでも、なんでもします!なんでも言う事を聞きますから!!!」
こわいこわい王が在る。誰もが逆らえぬ王が在る。
「おねっ、おねが──」
『晩鐘は、汝の名を指し示した』
「ひっ、ひぃぃぃい!!!!!」
『……首を出せ』
「ぎゃぷ──」
脆い脆い穴蔵の中。そこには一つ、天使がいる。
こわいこわい天使がいる。誰もが終わる、天使がいる。
どうも作者です。
第四話。ようやっと時間軸が原作に追いつきました。あんなに小さかったベルくんがもう14歳です。大きくなりましたねぇ。立派になって……。
そしてそんな彼が舞台であるオラリオで出会った少女、リツカ・ヘスティ。彼女は一体何者でしょう。とりあえず仲良くは出来そうですよね。
そして遂に遂に……!彼が……!首った……!!(?)
というわけで今回はこんな所で。次回にまたお会いしましょう!では!