波動の獣の英雄端   作:夏夕日空

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一章一幕 蒼い英雄

暗い……何処までも暗く静かな空間。

ポチャポチャと垂れる水滴のみがその場に水がある事を教えている様だった。

 

どれだけの時間そこに居たのか獣自身は分からないが水滴の音が何千何万と聞く位には長くそこに居たのだろう。

 

何時まで暗いこの空間に居るのか、ずっとこのままなのでは無いかと思える程何も変わりの無い状況で獣は過ごしていた。

 

しかしそんな現状も突然終わりが来た。

 

突如として暗い暗い空間に亀裂が入りそこから薄っすらと"光"が見える。

 

産まれる前の赤子が外に押し出されていくように獣も何かにゆっくりと優しく押し出されて行く……。

 

獣は産まれて初めての外に強く閉ざされていた瞳をゆっくりと開け外の世界を見た。

 

そこはとても広く、何処を見渡しても岩や砂利といったものが広がる空間だった。

 

何も知らない獣はその光景に戸惑い、獣は産まれる前から聞き続けた雫の音に惹かれるように目を向けるとそこには天井から滴る雫とその雫が溜まっている小さく窪んだ岩がそこにあった。

 

戸惑い落ち着かなかった心がその雫の滴る音がまるで子守唄のように獣の心を落ち着かせた。

 

獣は落ち着いた心のまま改めて広く薄っすらと明るいだけの空間に目を向ける。

 

そこには獣以外の存在は居らず、只々獣の鼻息や雫の滴る音色しか聴こえない程静かな空間だった。

 

余りの静けさに獣はやはり不安なのか、その口から「クァン」とう言う子犬の鳴き声の様な声が空間に響いた。

 

しかしその囁く声に応えるものは居らず虚しく静けさに飲まれて行った……その時だった、遠くで何かが吠える様な声が微かに聴こえ、獣はその声に惹かれる様にしっかりと二本足で地を踏みしめた。

 

獣がその声の元へ歩みを進めるとそこには獣よりも遥かに大きく立派な角、大きくな身体、獣の様に二本足で立ち"何か"に対して声を荒げていた……。

 

その巨獣の放つ"威圧感;とも言える物に獣は気づいた様子もなく初めて出会う獣以外の命に獣は喜びを抱いて獣はその巨獣に近づいた。

 

巨獣との距離が近くなる度に獣はようやくその異様な"気配"に

気づいた。

 

巨獣を覆うように薄っすらと蒼く光るものに。

 

そして近づいてようやく分かった、巨獣の体に隠され見えずにいた地面に横たわる存在に。

 

獣には横たわる存在が何なのかは分からないがその存在に纏わりつく蒼い光が巨獣の物よりも遥かに薄くなっている事に気づいた。

 

巨獣の纏う光と横たわる存在の光を見た時から獣の中にある知るはずの無い何かが浮かび上がってきた。

 

"波動"と言う何かが。

 

何故今そんなものが浮かんできたのか獣は知らないがコレだけは獣は理解した。

 

その波動は獣にとって重要な何かであるということを。

 

そして今、その波動が目の前で消え掛かっている。

 

獣はそれを理解した瞬間巨獣の前に飛び出した……。

 

 

 

 

 

 

 

……少女は夢見ていた、物語のヒロインみたいにピンチの時に自分を助け出してくれる英雄が目の前に現れてくれる事を。

 

そしてその英雄と恋に落ち、幸せな家庭を築く事を夢見がちな少女は夢描いていた。

 

そんな事もあってか少女は出会いを求めて"ダンジョン"のある迷宮都市オラリオへとやって来た。

 

 

そこでいくつもの冒険を乗り越えて"レベル二"へと至りこの中層で数多の"モンスター"達と相対した。

 

しかしダンジョンはそんな少女の夢を知るかと言わんばかりに否定する様に多くの苦難を少女達に与え、少女達を割いた。

 

少女の仲間達は離れ離れになり一人残された少女はボロボロに傷ついた体にムチを入れ気合で立ち上がり眼の前で咆哮する巨獣、ミノタウロスにに刃を向けるも傷ついた体では満足に戦う事は出来ずミノタウロスの固く強い拳を腹に受け血反吐を吐きながら横たわって仕舞う。

 

「……ぐぅぅ、ぅぅ」

 

 

痛みに嘆く少女は今この瞬間自分の前に勇猛果敢な英雄が現れてくれる事を願いつつもそんな事はあり得ないと諦めるように乾いた笑い声を小さく響かせた。

 

「はは、本当に私ってこんな時まで……何処まで幼稚なんだろう」

 

自分に呆れ果てる様にかすれ声で言うその言葉は誰にも拾われる事はなくダンジョンに埋もれた。

 

「英雄に救われるヒロインに憧れていつか自分もそんなヒロインになりたいって思って、友達からも幼稚だって笑われて……」

 

力の入らない体を無理やり浮かせ天に願う様に顔を上げ泥に汚れた茶髪が目に掛かりその目からは大粒の涙が零れ出ていた。

 

「でも、それでも……せめて最後は英雄様の腕の中で終わりたかったなぁ……」

 

そんな少女の願いが天に届いたのか、蒼い背が少女の瞳に写った。

 

「クァァッンヌ」

 

その声と共に少女は天を向いた顔を下げた。

 

「……え」

 

そこには全身が蒼く耳や足が黒いまるで仔犬のような二本足で立つモンスターの姿があった。

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