ホグワーツには、1年生向けの必修科目がある。
変身術、呪文学、魔法薬学、魔法史、闇の魔術に対する防衛術、天文学、薬草学だ。
これらの科目に加えて、飛行訓練も必修となっている。
2年生になると、少なくとももう2つ、自分が学ぶ科目を追加しなければならない。
一流の魔法使いになるのも簡単ではないということだ。
しかし俺たちのクラスには天才がいた。
本人にその気があれば魔法界を牛耳れる魔法使いになれる可能性すらある。
それはハリーではなく、俺の隣の席に座るハーマイオニー・グレンジャーのことだ。
先生が問題を出せば真っ先に手を挙げて、完璧な解答をしたかと思えば、どんな難しい課題のレポートであろうと秒で終わらせ、呪文を伴う魔法の実技も朝飯前。
最早、生ける辞書と言っても過言ではない程の知識を1年生ながら持っているハーマイオニーだが、今日は様子がいつもと違った。
手は挙げないし、実技にも参加せずに見ているだけ。
ハリーやロンもそれに気付き、声を掛けたのだが、俯いたまま何も喋らなかった。
「何だか今日、ハーマイオニーの様子おかしかったね」
ディナーが用意されてる大広間に向かう廊下の途中でハリーがそう切り出す。
「本人が何にも喋らないんだからどうしようもないよ 人が心配して聞いてやってるのにさ」
まぁロンの言う事も一理あるのだが、もうちょい言い方ってのがあるだろう……。
それにしても昨日まではあんなに元気いっぱいだったのに何故、ああなってしまったのか……。
「ハヤトは何か心当たりない?」
「ない」
そんな唐突に聞かれても分かるわけがない。
何故ならまともに会話したことがないから。
授業中の席は隣が多いのに何故か……。
やはり考えられる理由としては最初に会った時に癖でハーマイオニーの顔を近くで凝視してしまったからだろう。
少なくとも良い印象は持たれていないことは確かだ。
ハリーやロンとは普通に喋るのに俺とはまともに会話すらしてくれない。
「もしかしてさ、ハヤトがジロジロ見てたから怖くなっちゃったとかだったりして」
俺はニヤニヤと笑いながら、不謹慎なことを言うロンが無性に腹立たしく思えたので頭にゲンコツする。
勿論、手加減はしているがそれなりに痛みを感じるくらいには強めに。
「痛いなぁ……冗談だよ そんな怒るなって」
しかし可能性が0%ではないというのが怖いところではある……。
もしクラスメイトへのセクシャルハラスメントで退学なんてなってみろ。
末代までの赤っ恥だ。
「ちょっと用事を思い出した お前らは先に行っててくれ」
「どうせトイレだろう? 恥ずかしいがらずに言えばいいのに」
恥ずかしがっていつも言えないのはロン、お前だろう……。
どの口が言っている……。
「もしかしてハーマイオニーに謝りに行くつもりとか?」
頼むからハリーも余計な詮索はやめてくれ……。
しかも俺がやろうとしてることを当てるな……。
「まぁとにかく、すぐ追いつくから先に行っててくれって話しだ それ以上でも以下でもない」
俺はハリーとロンから背を向け、図書室に向かって道を戻る。
ハーマイオニーはディナーの前に図書室で必ず、勉強しているとハリーやロンたちとの会話で本人が言っているのを聞いたからだ。
ちなみに俺自身の名誉の為に言っておくが、盗み聞きや盗聴ではないので勘違いしないように。
あくまで席が近いので会話が自然と耳に入っただけである。
まぁ一部の超ガリ勉タイプの奴ら以外はこのまま食事会場に向かうので人の流れに逆行していく中で知ってる顔の奴らもチラホラ。
ネビルはポカンとしたまま歩いてたし、俺たちのルームメイトであるディーン・トーマスとシェーマス・フィネガンはいつも通り仲良く二人で行動している。
パーバティ・パチルはグリフィンドール屈指の美人でその隣を歩くのはパドマ・パチル、彼女たちは双子で姉がパーバティ、妹がパドマ。
正直なところ見分けはまだついていない……。
ただ二人とも魅力的なのだけは確かだと言っておこう。
「ハーイ ハヤト ちょっといい?」
おっと……パーバディに呼び止められてしまった。
こんな時に何の用だろうか。
「何だ? 今、忙しくてな 手短に頼む」
美人に呼び止められたら勿論、悪い気はしない。
彼女との会話を楽しみたい気持ちもあるが、今はそんな時間はないのだ。
ハーマイオニーが図書室にずっといるとも限らないわけだし。
「ディナーの後、校門の入口まで来てくれない? 大事な話しがあるの」
「大事な話し? ここではできない話しか?」
「ここではちょっと……」
モジモジして、恥ずかしそうにしているところ見て察するに彼女は俺に気があると見た。
俺はここでニヤついてしまったら、台無しになると思ったので必死に無表情を貫き、冷静を装う。
「分かった 中庭だな? 約束しよう」
「ありがとう じゃあまた後で」
俺の女好きの血が雄叫びをあげている……。
まぁ、と言っても特定の奴と付き合う気は今のとこないのだがな……。 ただ男として好意を持たれるというのはやはり嬉しく思う。
パーバディとパドマが去っていく後ろ姿を見ながら、悦に浸っていると誰かに両肩を叩かれた。
「ハヤト、ディナーは」
「食べないのか?」
そこにはパーバディとパドマよりも見分けるのが難解な双子の先輩、ジョージとフレッドがいた。
ロンの兄である二人はかなりの悪戯好き。
しかし性格は俺たち1年生にも優しく、いつも気にかけて楽しませてくれるから嫌いじゃない。
「早く行かないと」
「冷めちゃうぜ?」
「だから俺たちは」
「「先に行く」」
この息の合ったコンビプレーは逆に魔法使いにしておくのは勿体なく思う……。
マグル界の下手なコメディアンより明らかに面白いし、才能もあるように思えるのだが……。
いやいや、そんな事は今、どうでもいい。
こんなところで油を売っている暇は俺にはないのだ。
図書室に着くと、俺がハーマイオニーを見つけるのに時間はそうはかからなかった。
この時間帯はいくら勉強熱心な生徒であっても、大体の奴らは食事会場に行くので、図書室に目的の人物がいるのが分かっていれば探すのには苦労しない。
「よ、よう……」
ハーマイオニーは本こそ目の前に置いているものの、それを読むわけでもなく、暗い表情で下を俯いていた。
俺から見たら、本を読んでるフリをして、俯いているのを誤魔化しているように見えるが……。
「あぁ……ハヤト、どうしたの? そろそろディナーの時間でしょ? 行かないの?」
反応を見るに俺に怒ってるわけでもなさそうだが、まだ根拠としては足りない。
「それはこっちのセリフだ もう何回も聞かれてると思うが、どうした?」
俺はハーマイオニーの隣に座り、彼女が落ち込んでいる原因を探ろうと考えた。
昨日までの元気な彼女からの落差が激しすぎて、もう普通に心配でしかない。
「その前にハヤトの正直な意見を聞かせてほしいの ハヤトは私の事どう思ってる?……」
愛の告白……って訳ではなさそうだな。
何故、最近会ったばかりの俺にそんな事を聞くのか、意味が分からない。
まだ同じルームメイトに聞く方がよっぽど合理的だろう。
「さぁな……それをまだ会って間もない奴に聞いて何か意味があるのか?」
「確かにそれもそうね……アナタだけに言うんだけど……何だか私、浮いているような気がするの……」
「と、言うと?」
「本当はレイブンクローに入るべきだったのかもって、思っちゃう自分がいて……」
まぁハーマイオニーが浮いてると言うのは思い込みでもなく、実際そうだ。
しかしグリフィンドールだからレイブンクローだからとかではなく、ハーマイオニーに問題があるからに他ならない。
「魔法界に来たら同じ境遇の皆と仲良くなれる、友達も沢山できるって楽しみだったの……でも現実は友達が全然できなくて……私がマグル生まれだから? これから先もこのままだったらどうしよう……」
まぁハーマイオニーが落ち込んでたのは俺のせいじゃないってことか。
それさえ分かれば、退散するつもりだったが、ハーマイオニーのこの世の終わりみたいに辛気臭い顔してるのを見ると放っておくのも気が引ける……。
あまり女を傷つけるような事は言いたくはないが、はっきりとここは言ってやるべきだろう。
「だったら何か努力してみたか? 自分からコミニュケーションを取ってみたりしたか? いつも教科書と睨めっこして、周りの奴とろくに喋らないのに友達なんかできるわけないだろう?」
まだ会ったばかりだが、今のハーマイオニーは常に魔法に関する本を読んでいて、その知識があるから傲慢というか空気が読めないところがあるように感じる。
だから彼女自身が変わらなければ、友なんぞできるわけない。
「な、何よ……私だって分かってるわ! でも、どうしたらいいのか分からないのよ!……」
「レイブンクローだのマグルだのただの言い訳でしかないぞ?」
ま、マズイ……。
少し強く言い過ぎただろうか……。
ハーマイオニーの目から涙が溢れ始めている……。
こんなところを見られては俺がイジメていると勘違いされるかもしれないではないか。
「一ついいか? 友達なんか沢山作る必要なんかないだろう 薄っぺらい口先だけの関係ならすぐに出来るさ だが、一生の友を見つけようものならそうはいかない」
交友関係が広いのは悪い事ではない。
しかし俺は広く浅い付き合いより、狭く深い、自分の命ですら預けられるようなは言い過ぎかもしれないがそんな友を作るべきだと思う。
「まだホグワーツでの生活は始まったばかりじゃないか これから見つければいいんだ なんなら俺も一緒に探してやる それが友達ってものだろう? まぁ、君の最初の友達が俺なんかで良ければの話しだがな」
俺はさり気なく俺はポケットからハンカチを取り出し、ハーマイオニーに渡すと、涙を拭うよう促す。
ハーマイオニーが涙を拭うと、少し笑顔が戻っていた。
雨が降っていた曇り空から少しだけ太陽の光が射し込むように。
「ありがとう……アナタに話して良かったわ 恥ずかしいから、今日のこと周りには内緒にしてほしいんだけど、絶対に言わないって約束してくれない?」
「するわけないだろう 君が友達が欲しいなんて話しをして誰が得するんだ?」
俺たちはガッチリと握手をする。
まぁこれで少しは彼女の気が晴れるのなら無駄な時間ではなかっただろう。
「さて、ハリーやロンが待ってる 君も食事をしに行くだろう?」
「うん」
案外、時間が掛かってしまったな……。
そろそろハリーやロンも俺が来ないのを心配している頃合いだろう。
何とかハーマイオニーも機嫌を直してくれたので、二人で食事会場に向かおうと図書室から出ようとしたのだが、その途中で厄介な教師に遭遇してしまう。
「おや、知ったかぶりのMs.グレンジャーに女性には目がないMr.ナイトウではないか……食事もせず、こんなとこで不純異性交遊でもしてたのかね? 非常に不健全な行いである故、グリフィンドールを10点減点としよう」
セブルス・スネイプ……。
顔は土気色で、大きな鉤鼻が目に付く。
髪は黒くねっとりとしており、肩まである長髪の前髪を左右に分けていて、黄ばんだ、不揃いな歯。
重たげな漆黒のローブがさらに不気味さを増幅させている魔法薬学の教授だ。
スリザリン生を露骨に贔屓してグリフィンドール生には理不尽な減点を行うなど評判は頗る悪い。
だが、何不思議なことに俺はこのスネイプが嫌いにはなれない……。
理由は全く分からないのだが……。
「先生、私たち減点されるようなことなんてしてません!!」
「理由がどうであれ、皆で食事をして親睦を深めるというのがホグワーツの方針だ つまり他の生徒とのコミニュケーションの場を放棄しホグワーツの方針に逆らったと見なす 異論は認めん」
「話しが通じる相手じゃない ハーマイオニー行くぞ」
「でも!……」
「いいから行くぞ 正論言うだけ時間の無駄だ」
他の教授なら食ってかかるのに、スネイプには強く出れない。
スネイプが怖いからか?……。
いや違う……。
俺の勘がスネイプとは争うなとそう、告げているから……。