シンボリルドルフと壊れたトレーナー   作:宮秋

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ルドルフかシービーか休日か

トレーナーの一日は遅い、朝起きた時は既に時間は11時だった。今日はオフの日とはいえいつもの事だ、別に遅くに寝た訳では無い。

 

 

「はあ、今日は病院の日か…」

 

 

そう言って俺は重い腰を上げてベッドから起き上がり洗面所へと向かう。

洗面台の前に着くと鏡を見ながら歯を磨く。そして口を濯ぎ顔を洗い終わると、俺の私用のスマホが鳴る。手に取って確認すると相手はルドルフからだった。

 

 

「もしもし」

 

『おはよう』

 

「ああ、おはよう」

 

 

電話越しでも分かるほどルドルフの声は疲れていた。

 

 

『ちょうど今生徒会の仕事が終わったところなんだ、これから空いているかい?』

 

「やだ」

 

 

速攻で電話を切る、流石にマナーが悪過ぎたかもしれない。だがこっちにも言い分がある。何せ昨日の夜はあんな事があったんだ、それ以来ルドルフが怖くてしょうがない。それにこの前も言ったけどまだ俺はルドルフへの想いを整理しきれていないのだ。

 

ちなみに昨日のルドルフの前科は『背負い投げ』『口移しで俺を児童化』『女装の強要』挙句の果てに「逃げたら性的に食べる、別に今の状態の君には生殖能力も無いだろうし、私が全力で隠蔽した場合は証拠1つ残らないから好きにしてくれ」などと言われ愛でられ弄られ齧られた。

 

 

「さて……どうするかな……」

 

 

再びソファーに戻りスマホを手に取り放置ゲーを起動しようとしたら、また着信が掛かってきた、俺はすかさず赤いアイコンの方をタップする。……がまたかかってくる。

これではキリが無いと思いUtubeの『嫌いな人に送ろう』って動画のURLを送る。内容はドライフラワーの「声も顔も不器用なとこも全部全部大嫌いだよ」と「もう顔も見たくないからさもう連絡してこないで欲しい」の2つだ。これ実は失恋系ラブソングだが一部を切り取るとただの悪口にも聞こえてしまう。

それ以来ルドルフの着信はパッタリと止んでしまった。これで少しは俺の心労も減ると思うのだが……。

 

 

「……やり過ぎたかな?まあいいか」

 

 

そんなこんなで昼になり俺は近くの蕎麦屋に行くことにした。冷蔵庫の中は食材が無くなっており、昨日から何も食べていなかったからだ。

玄関を出て外に出ると日差しが強く照りつけてくる。

 

 

「あっつあっつ!!」

 

 

俺は急いで家の鍵をかけて駅の方に向かう。しかし暑い。真夏になるとやはり地獄だ。

蕎麦屋に着くと涼しい店内に入りすぐに食券を買い、店員に渡して注文をする。セルフサービスの水を注ぐ、すると後ろから声を掛けられる。

 

 

「あれ?もしかして……シンボリルドルフのトレーナー?」

 

 

振り向くとそこには私服を着たウマ娘がいた。

 

 

「君は……確かミスターシービーかい?」

 

「うん!覚えてくれてたんだ!」

 

「そりゃあね、ルドルフと同じ生徒会役員だもの」

 

 

彼女はミスターシービー、ルドルフと同じ三冠バで、何故かルドルフより1歳年上なのに現在トレセン学園の生徒会副会長に甘んじている。生徒会役員の中では数少ない変人枠であり、普段は生徒会室に来ない。シンボリルドルフとは友人でもある。ルドルフからは彼女の事を親友だと聞いている。

 

 

「それじゃあお邪魔しまーす♪」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 

俺の制止を無視して勝手に席に座ってきた。

 

 

「あの、なんでここに居るんですか?」

 

「ん?だってお腹空いたんだもん」

 

「……まさか奢れとか言わないよね?」

 

「当たり前じゃん、私お金無いよ」

 

 

……本当にこの人は自由奔放というか、マイペースすぎる。

 

 

「ほら、早く座って一緒にご飯食べようよ〜♪」

 

「はいはい分かりましたよ」

 

 

仕方ないので彼女と食事をする事にした。するとそこに追加注文した天ぷらそばが届いた。

 

 

「いただきます〜」

 

「いただきます……」

 

 

箸を持ち麺をすする、そして次に天丼を食べる。美味い。そういえば最近まともに食事を取っていなかった気がする。

 

 

「ねえねえ、今度私のトレーナーになってくれない?」

 

「ゴフッ!!」

 

 

思わず吹き出しそうになった。

 

 

「大丈夫?」

 

「ゲホッ!!ゴホ!!」

 

「はい水、落ち着いて飲んで」

 

 

渡されたコップに入った水を一気に飲み干す。そして一息つくと俺は彼女に聞く。

 

 

「……どういう事ですか?」

 

「そのまんまの意味だよ、私にはトレーナーがいない、一応レースには出れるけど、私にトレーニングの知識がある訳でもないしね、だから君が良ければと思って」

 

「引き取りたいのは山々だが、正直俺も訳ありでね、。正直キャパはあるが、今は無いと言い張っている。別に理事長から担当を増やせとは言われているが、やっぱり訳ありを理由に断っているんだ。」

 

「なんかどっち付かずといった回答だね、まあ脈アリと言ったところかな?」

 

 

シービーが頬杖をつきながら言う。俺は少し考えてシービーに提案をする。

 

 

「とりあえず一度実力を見せて欲しい。ルドルフに勝ったら君を担当しよう」

 

「おっけー」

 

 

そう言って彼女は立ち上がり俺に握手を求めてきた。

 

 

「よろしく」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 

俺は手を差し出すと彼女は思いっきり握りしめてくる。

 

 

「痛っ!!」

 

「へへーん、まだまだだね、でもいつか君に勝つよ、そしたら改めてお願いするよ」

 

「その時まで乳首でも洗って待ってるわ」

 

「ふふ、面白い事を言うね」

 

 

こうして俺はまたルドルフをダシにしてしまうのだった。

俺は食った蕎麦を片付け外に出た、が何故かシービーが付いてくる。

 

 

「おい待て」

 

「ん?どうしたの?」

 

「まさか付いてくるつもりか?」

 

「特に決めてないけど、強いて言えば暇つぶしかな?」

 

「俺はこれから病院に行くだけだからおすすめはしないぞ」

 

「うーん、まあいいか」

 

「いいのかよ」

 

 

俺はシービーを連れてそのまま病院に行く事にする。

 

 

「ここだ」

 

「おお、大きな建物」

 

 

俺はとある総合病院に来ていた。俺は受付の人に話しかける。

 

 

「すいません、予約していた者ですが……」

 

「はい、では診察券と保険証を出してください」

 

「えっと、これとこれと…あとこれをお願いします。」

 

 

俺は診察券と保険証とある紙を差し出す。

 

 

「ではこのファイルを持って診察を受けてください」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「私も見てて良い?」

 

「ダメだ帰れ」

 

「ケチ!」

 

 

シービーをあしらいつつ俺は指定された部屋に入る。するとそこには白衣を着た主治医さんがいた。

 

 

「おや、あなたは確か……」

 

「ご無沙汰しております。」

 

「ついでにそちらの方は?」

 

「ああ、別に気にしなくてもいいです」

 

「ちょっ…」

 

 

俺の脇腹に直接抗議してくるシービーを他所に、主治医の診察を受ける。

 

 

「はあ、それでは早速問診をします」

 

「お願い致します」

 

「特に変わったところはありませんか?」

 

「いいえ」

 

「前回は右腕だったので今回は左腕に打ちますね。」

 

「はい」

 

「では次来る日は3ヶ月後の土曜日でよろしいですか?」

 

「はい、問題ないです」

 

「それでは診察は終わりです、お疲れ様でした」

 

「ありがとうございました」

 

 

椅子から立ち上がり部屋を出ていく俺、あまりの短さに驚きながら付いてくるシービー。

 

 

「もう終わりかい!?」

 

「いや、後は処置室で注射を打つだけだ」

 

「聞いた限り通院しているみたいだけどなんの病気なんだい?」

 

「ん?内緒♪」

 

「教えてくれても良くないか?」

 

「まあまあ、いつか話す時が来たら言うよ」

 

 

そうこうしている内に俺の名前が呼ばれる、どうやら注射の用意が完了したようだ。

 

 

「じゃあ行ってくるよ、シービーはそこで待っててくれ」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

俺は看護婦に案内され治療室に入っていった。

俺は治療室に運ばれるとすぐに消毒液を塗られる。そして腕に針が刺さり薬が注入される。

注射自体は何度も行っているので痛みには耐えられるが、時間が経つと副作用で気分が悪くなってしまうのが苦手だ。

注射を終え、処置室から出るとシービーが俺に近寄り心配そうに声をかけてくる。

 

 

「大丈夫かい?トレーナー君」

 

「まあ慣れてるからいいよ」

 

「そんなに重い病気なのかい?」

 

「流石にそこまではいかないが俺にとってはある意味致命的な病気さ」

 

「??」

 

 

心当たりが思いつかないのか首を傾げるシービー。

 

 

「ルドルフはこの事を知っているのかい?」

 

「いや、一応心配させない為に隠している、絶対に言うなよ?」

 

「ああ、分かった」

 

 

俺達は会計を済ませ病院を出るとシービーは俺に質問を投げかけてきた。

 

 

「この後はどうするの?」

 

「ん?ちょっと買い物だけして帰るわ」

 

「へー」

 

「どうせ付いてくるんだろ?」

 

「よく分かってんじゃん!」

 

 

俺は近くのスーパーに寄って必要なものを買って帰ることにした。

 

 

「へートレーナーってローブランドのコーラとかサイダー買うんだね」

 

「まあ正直味の違いがわからんしな、カロリーも低いし安いからな」

 

「そう言えばついでに買ってたその花は?」

 

「んあ?ルドルフにやるのさ、正直やり過ぎたしな、後で仲直りしようと思って」

 

「なんか喧嘩したの?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「でもなんで造花なの?」

 

「ん?ちょっと趣向を凝らしただけさ」

 

 

俺が用意したのは一本の青薔薇で透明なケースに収まっている。

 

 

「なぜ青薔薇なんだい?」

 

「まあ青が無難かなって、あとアニメに出てたし」

 

「へぇ、どんなアニメなんだい?」

 

「ソードホース・オンラインの『咲け!青薔薇っ!』ってやつがかっこよくてね」

 

「ふーん、そう言えば花言葉は考えたことあるの?」

 

「正直赤を送るのはやばいとしか…」

 

「確かにそうだねぇ」

 

 

俺はそんな会話をしながら帰路に着く。

 

 

「じゃあ私はここまでだね、お疲れさん!お大事にね!」

 

「ああ、サンキューな」

 

 

シービーはそのまま何処かに去っていった。

 

俺が家に帰ると既に訪問していたルドルフが出迎えてくれた。一応ルドルフには合鍵を渡してあるので特にこれといった問題は無い。

 

 

「おかえり、トレーナー君」

 

「ただいま、ルドルフ」

 

 

俺は玄関で靴を脱ぐ、すると不意に後ろから抱き着かれる。俺の背中に顔を埋めるルドルフ。

 

 

「……本当にすまなかった」

 

「良いよ別に、ほら、中に入ろうぜ」

 

 

俺はルドルフを連れてリビングに向かう。

 

 

「んで?今日は何しに来たんだ?」

 

「トレーナー君の看病だ」

 

「えっ……」

 

「トレーナー君実は病院に行ってただろう?」

 

「んなわけねーだろ」

 

 

流石にそこはシラを切り通す、流石にルドルフを詮索してボロを出してしまう訳にはいかない。

 

 

「嘘はよくないぞ?」

 

 

ルドルフが俺の顔を覗き込んでくる、ここでバレるのはまずい。

 

 

「なんの事だよ」

 

「君は私の為に色々と動いてくれたじゃないか」

 

「……」

 

「私が気付いてないとでも思ったか?」

 

「む…」

 

 

ここで打開案に気付き、方針を変える。

 

 

「その情報間違ってるよ、調べ方間違ってるんじゃない?」

 

「いや、そんなはずは…」

 

 

ここでルドルフは強く出れない。直接見た訳では無さそうだ、だとすれば位置情報が筒抜けだったという事になるのだが表立って声には出せないだろう。そのまま誤魔化しきれれば勝利だ。

 

 

「いや、そんなはずは…」スンスン

 

「あっ…」

 

 

ルドルフに匂いを嗅がれてしまう、ウマ娘の鼻は『結婚したら浮気はできない』と言われるほどの嗅覚がある。

 

 

「やはり病院の匂いがするな」クンクン…

 

「ちっ…バレたか、なあに…ただの健康診断だよ、個人で行ってるんだ」

 

「だとしたら最初に誤魔化すのはおかしくないか?」

 

「ほんとだって…」

 

「ほら、ここにだって採血跡あるでしょ?」

 

 

と言い二の腕を晒す、そこには今回注射した時の保護シールが貼ってある。

 

 

「ふむ、ならば問題ないな」

 

 

正直これは賭けだった、本来採血をする場所は二の腕ではなく肘だ、正直ルドルフが若くて採血の経験がない事が功を奏したか。

 

 

「だが何故トレーナー君からシービーの匂いがするのかは話が別だろう?」

 

「まあちょっと一緒にルドルフへのプレゼントを考えてもらっていたのさ」ガサガサ…

 

「えっ?」

 

 

たとえルドルフがその地雷を踏んだとしても対策はあった、病院の話からも逸れるし俺にとっては一石二鳥だ。

 

 

「ほれ」

 

「これは…薔薇か?」

 

「造花だけどな、受け取ってくれると嬉しいんだけど」

 

「勿論さ!ありがとうトレーナー君!」

 

 

ルドルフは満面の笑みを浮かべながら造花の薔薇を眺めている。

 

 

「あの時送った曲には最後があってね、『まだ枯れない花を君に添えてさ、ずっとずっとずっとずっと抱えてよ』ってなるんだ」

 

「また謎の意匠を込めるね君は…」

 

「その曲の名は『ドライフラワー』なのに送ったのは造花とはこれ如何に」

 

「ふふっ、確かにそれは言い得て妙だな」

 

 

ルドルフは嬉しそうに造花を見つめていた。

 

 

「今日はこれで帰るとするよ、ありがとうトレーナー君」

 

「おうお疲れ〜」

 

 

ルドルフは『ドライフラワー』の一番を思い返していた。今の自分たちを投影しながら…

 

 

多分 私たちじゃなくていいね

 

余裕のない二人だったし

 

気付けば喧嘩ばかりしてさ

 

ごめんね

 

ずっと話そうと思ってた

 

きっと私たち合わないね

 

二人きりしかいない部屋でさ

 

貴方ばかり話していたよね

 

もし何時かどこかで会えるなら

 

今日のことを笑ってくれるかな

 

理由もちゃんと話せないけれど

 

あなたが眠った後に泣くのは嫌

 

声も顔も不器用なとこも

 

全部全部嫌いじゃないの

 

ドライフラワーみたい

 

君との日々も きっときっときっときっと色褪せる

 

 

 

今回の敗因:ルドルフはブルーローズチェイサーのヒントを獲得した(?)

 

 

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