シンボリルドルフと壊れたトレーナー   作:宮秋

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ルドルフが釣りに連れて行ってくれるようです。

朝の日がやっと登ってきた頃、まだまだ眠い時間なのに電話に叩き起される、ルドルフからだ。

 

 

『トレーナー君!釣りに行こう!』

 

「は?」

 

 

何故こんな日に……思い出した、今日はゴールデンウィークでオフの日だった。だがしかしまだ起きるには早い。なんたって朝の5時なのだからな、俺はもうひと眠りしたい。なので断ろうと思ったのだが…….

 

 

「今寝る時間なんです……」

 

『構わない、車で行くので君は助手席で寝ていればいいさ!』

 

「……」ガクッ……

 

『トレーナー君?』

 

 

俺はあまりの眠気にそのまま寝落ちしてしまう、しばらくしてドアの開く音が聞こえたような気もするがその頃にはもう夢の中だった。

 

 

 

 

 

心地よい振動に揺らされ微睡みから目が覚める、えっ?振動?

 

 

「あれ?」

 

「おはよう、トレーナー君」

 

「ん!?」

 

 

あまりの情報量に思考が追いつかない。

まず、今俺が居るのは車の中だ、しかもルドルフと一緒の空間だ。彼女はいつものようにトレセン学園の制服を着ているが今は休日だからかラフな雰囲気だ。そして彼女の運転する車の助手席に乗っているということ。

これって拉致では?そう思った瞬間俺は助手席から出るために反射的にシートベルトを外そうとしたその時である。

 

 

バシッ

 

 

ルドルフに手を叩かれた、めっちゃ痛い。手加減してるとはいえウマ娘のパワーで叩かれるとかなり痛いぞ。

 

 

「どこにいくんだいトレーナー君?君は今日一日フリーだろう?」

 

「いや、でも俺にもプライベートというものがあるんですよ!」

 

 

必死に訴えるが聞き入れて貰えず車は動き続ける。諦めた俺は流れる景色を見ながらルドルフに問う。

 

 

「なあ、生徒会の仕事は?」

 

「心配しなくていい、今日の分は昨日終わらせておいた。念の為エアグルーヴを代わりとして置いてあるがね」

 

 

どおりで昨日ルドルフの体力が死んでいたわけだ。

ふと俺の服装を見ると寝巻きではなく私服に着替えさせられていることに気づいた。

 

 

「まさか……脱がしたのか?」

 

「ああそうだよ」

 

 

恥ずかしさの余り顔から火が出そうなほど赤面してしまった、それを見ていたであろう彼女が笑い出す。くそぅ、覚えていやがれぇ……。

さり気に靴下や靴も履かされており、ポケットをまさぐると財布とスマホがあった。

 

 

「なあ、財布の中身見た?」

 

「いや、見てない」

 

 

ほっ、見られていなかったようだ。良かったぁ……。

 

 

「釣りに行くとは言っていたが道具は揃っているのか?」

 

「大体揃ってはいる、足りない分は道中で買うつもりだ」

 

 

どうやら俺の分も揃えているらしい、聞くと他のウマ娘に譲ってもらっただとか……

 

 

「その前に朝食にしよう、君の好きな蕎麦屋でいいかい?なあに、今回は私が無理やり連れてきたんだ、私が奢るよ」

 

「いいのか?一応財布はあるのだが」「良いともさ!君が釣れなければただ無駄遣いをしただけの話だ」

 

「……それ結局お前の懐事情が悪化するだけじゃん」

 

「今回の釣りはいかに君を釣れるかにかかっていると言っても過言ではないからな!」

 

「接続語がおかしいですねぇ!上手いこと言ったつもりか!?」

 

 

はしゃぎながら運転する彼女を他所に俺はため息をつきながらも大人しく連れていかれるのだった。

 

 

 

この蕎麦屋はチェーン展開している、特に朝定食は安く、クーポンでトッピング、カレー、蕎麦、ネギ多めでたったの390円までしかいかない。しかも天かすかけ放題!

 

 

『256番、257番のお客様ー!』

 

「よっしゃ!」

 

 

厨房からトレーごと受け取りセルフサービスの天かすをかけて箸とスプーンと水を用意して……と順調に進めているとルドルフに声をかけられる。

 

 

「トレーナー君、それでは蕎麦が食べられなくないか?」

 

「え?そうなの?」

 

 

実は俺、あろう事か天かすをそばつゆの方に盛っていくという暴挙をしていた。蕎麦好きとは一体……

そばつゆを塞ぐ天かすに悪戦苦闘しながらようやく食べきったのだが、実はぶっかけ蕎麦にした方が良かったことに気付いたのは後の祭りである。

 

 

 

今度はその近くの釣具店、ルドルフが言うには竿はあるが、仕掛けや餌がないとの事。

 

 

「何を釣るつもりなんだ?」

 

「アジを釣ろうかと思っている」

 

「アジか、無難……なのか?」

 

 

ルドルフはアジの仕掛けをカゴにシュートし、今度は餌を吟味する。

 

 

「確か大きなアジを釣るならキビナゴという物が……あった!」

 

「うぉ……うねうね動いてる……」

 

「トレーナー君、何を見ているんだい?」

 

「正直釣具店と言ったらこのゴカイみたいな生き物が醍醐味だろうなって……」

 

「それはゴカイではなくイソメだよトレーナー君……」

 

 

呆れたように言われたが、俺の中ではゴカイ=イソメなのだ、多分間違ってはいるが。

ちなみにゴカイも釣れないことはないが基本的に釣ってもあまり喜ばれないので、普通にイソメの方が人気だ。そして何よりも安い。別に買わないが。

今度は重りを見繕う、種類は豊富にあるように見えるがルドルフはお目当てのものが見つからないと嘆いている。

 

 

「どんな重り探してるの?」

 

「棒状の重りを探しているんだ」

 

「棒状?なぜに?」

 

「単純に安いからだ、形が縦に長い物もあるにはあるが値段が高いだろう?」

 

「ほんとだ……」

 

「仕方ない、重りは車にないわけではないのでそちらで妥協しよう」

 

 

ちなみに棒状の色付きの重りは600円もしていた。店員に聞いてもないと言われ、仕方がないのでそのまま会計へ向かう。

会計は順調に進み支払いとなるがここで少し問題が……

 

 

『ポイントカードはお持ちですか?』

 

「お餅?」

 

「確かポイントカードは借りてたはず、これでいいだろうか?」

 

 

ルドルフが提示したポイントカード、そこには英語でメンバーズカード、上〇屋と書いてあり

 

 

『すみませんここは上〇屋じゃないですね』

 

「えっ、ここって〇州屋じゃないの?」

 

「あっ、しまった!すみません、ポイントカード持ってないです……」

 

 

店を出る時に看板を確認するとキャ〇ティングと書いてあった。もうわかんねぇなこれ……

 

 

 

ちなみにルドルフは高等部1年生で年齢は15歳、なのに車を運転している、別に免許を持ってない訳ではない。実はウマ娘には『ウマ娘限定普通免許』という物があり、難易度はかなり高いが15歳で普通車を運転出来る、原理としては『ウマ娘のような動体視力があれば問題ないだろう』理論である。ちなみに俺は原付免許しか持ってない、あとルドルフの運転する車はウマファードでワンボックスのハイブリッド車だ。

 

 

「ぐ……眠い……」

 

「そんなに眠いのなら寝ればいいじゃないか」

 

「お前一応ペーパードライバーだろうが、急な加減速を感じると心配になって寝れないんだよ」

 

「私は大丈夫だ、安心して眠れ」

 

 

そう言われると何も言えないが、この助手席に乗るというのはかなり緊張する。だって美人さんの隣だし……運転は上手いし。

すると目の前のバスが急に右に避けていき前に出た時、目の前は赤信号だったのにも関わらず車の速度が落ちない。

 

 

「ルドルフ!?ストップストップ!!」

 

「!?」

 

キキーッ!

 

 

車は急停止し、しばらくの静寂が訪れる。

 

 

「まさか私が信号を忘れていたとでも?」

 

「嘘つけ!思いっきり停止線超えてるじゃねぇか!」

 

「済まない、目の前のバスに気を取られていて……」

 

「そんなもんか?」

 

 

実はあのバス、信号手前がバス停になっており、発進する時にその信号手前15mを三車線を跨いで右に曲がろうとしていたらしい。なんだその欠陥バス停は……

 

 

 

「そうだトレーナー君、近くにスーパーがないか探してくれないか?」

 

「何を買うつもりだい?」

 

「氷と飲み物を買うつもりだ、流石に長時間釣りをするとなると喉が渇くだろう?」

 

 

なるほど、確かにクーラーBOXに入れておいた方が保冷剤の役割を果たす。俺はスマホでスーパーを検索しルドルフを案内する

 

 

「ふむ、そこの通りを右だ」

 

「分かった」

 

 

そういう事で近くにあるスーパーへ立ち寄る、俺はルドルフに「眠いんだろう?ゆっくり寝ていてくれ」と言われ俺を放置していった。

 

 

「おい待てよ、こんな状態で置いていかないで……」

 

 

10分くらい経った後、ようやくルドルフが戻ってきた

 

 

「トレーナー君、これを」

 

「これは……アイスか?」

 

「あぁ、氷替わりだ、釣りをしながら食べてしまおうと思ってね、もちろん君にもあげるからな」

 

「……」

 

 

袋の中に入っているのは明らかに2人で食べるような量ではない量のハーゲン〇ッツが入っていた。俺はルドルフを白い目で見ながら後ろのクーラーボックスに飲み物ごとぶち込む。

 

 

「なんか他に変なの買ってないよな?」

 

「アイスに飽きないように煎餅も買ってあるぞ!」

 

「年寄りかよ……」

 

「偏見だ!?」

 

 

というわけで俺たちは再度海に向かう、ルドルフはまだ昼過ぎなので釣れると言っていたが……果たして何時間かかることやら。

 

 

 

そんなこんなで目的地の公園に到着する、有料駐車場で駐車券を取るルドルフを傍らに俺は料金の説明を見ているとある文言に目を取られてしまう。

 

『次に掲げる手帳の交付を受けている方が運転する場合又は交付を受けている方の付添者が運転する場合には、駐車場利用料金を免除いたします。

(1)身体障害者手帳 (2)戦傷病者手帳 

(3)被爆者健康手帳 (4)療育手帳

(5)精神障害者保健福祉手帳 (6)公害医療手帳』

 

「……」

 

「どうしたんだいトレーナー君?」

 

「いや、料金がちょっと気になっただけさ」

 

 

俺は何も知らないフリをしてルドルフに車を停めてもらう。そして俺達はクーラーボックス二種に釣竿2本、折りたたみ椅子2個、小道具類、水汲みバケツを下ろし釣り場へ向かった。

 

 

 

公園には釣り目的の人が多く、釣りをしていつ人が海岸沿いにずらりと並んでおり、しばらく歩いてようやく空き場所を見つけることが出来た。

 

 

「ここいい感じじゃない?」

 

「そうだね、ここにしよう」

 

 

そう言い俺達はここを陣取り、釣り道具を展開していく。

 

 

「仕掛けと重りちょうだい」

 

「これでいいだろうか?」

 

「さんきゅー」

 

 

俺は手際よく釣竿に取り付けていく。

 

 

「よし、後は餌と付けるだけだな、何処にある?」

 

「そこにあるだろう?」

 

「煎餅か」

 

「ふふふ、違うぞトレーナー君、その箱の中のキビナゴをつけるんだ」

 

「きびだんご?変なの……」

 

「キビナゴだ!小魚のことだよ」

 

「なんだ?食えってか?」

 

「やめるんだトレーナー君……」

 

 

俺はかなり解凍してしまっている冷えた小魚を手に取るが付け方が分からない。

 

 

「どう付ければいいんだ?」

 

「頭に刺せばいいのではないか?丈夫そうだし」

 

 

なるほどと思い小魚を付け竿を投げるが、投げ方に失敗してしまい慌ててリールを巻いたところ小魚は既に無くなっていた。

 

 

「取れたんだが」

 

「では目玉に刺すのはどうだ?」

 

「ふーん……」

 

 

なんか理にかなっていない様な予感を抱えながら針を小魚の目に刺すと今度は目が取れてしまった。俺はルドルフの嘘つきと目で訴える。

 

 

「おい……」

 

「じゃ、じゃあお腹を縦に刺すってのはどうだい!?」

 

「それなら問題なさそうだな……」

 

 

そう言って俺は針をお腹に刺し、餌を付けた釣竿を軽く海に投げた

 

 

「トレーナー君……2m程しか飛んでいないのだが……」

 

「別に遠くに飛ばせばいいというものでもないだろう?」

 

「確かにそうだが……」

 

 

そう言うとルドルフは少し不満そうな顔を浮かべるがすぐに元の表情に戻り、釣竿を投げ入れた。

 

 

「喉乾いたな、なんか無い?」

 

「そこのクーラーボックスに入っているよ」

 

「どれどれ……おっ、コーラがあるじゃん!」

 

「一応君が好きそうなものを買ってきたんだ」

 

 

俺はコーラを取り出し、立ち上がってから片足を上げ、コーラを振りまくった。

 

 

「YO、SAY!夏が、胸を刺激する!生足魅惑のマーメイド♪」

 

「ほう、炭酸抜きコーラか……」

 

「出すとこ出してたわわになったら、宝物の恋はやれ爽快!」プシュ

 

ボ!

 

「おっと!」

 

 

コーラをルドルフに掛けようとするが避けられる、俺はこっぴどく怒られた。

 

 

 

俺達はハーゲン〇ッツを食べながら数時間は釣れないままでいた。

 

 

「なかなか釣れないな……」

 

「気長に待つのが醍醐味と言ったところさ」

 

「運がないのか……ん?」

 

 

ふと運気を良くする方法が閃いた俺は、おもむろに財布の中からタキオンに貰った薬を取り出す。

このカプセル、実は日本ダービー優勝レイを素材にしており、1つ飲めば運が良くなり天文学的確率を引き寄せるえげつない代物だ、副作用として効果が切れたあと運が悪くなるというものだが。俺はルドルフに見られないようにこっそり口に含み飲み込む。

 

 

「おぉ……なんか運が良くなったような気がする……」

 

「トレーナー君、どうかしたのかい?」

 

「なんでもないよ」

 

 

俺は怪しまれない様にいつも通り振る舞うが、効果は抜群でみるみるうちに調子が良くなっていく。

 

 

「おっ……キタコレ!」

 

「凄いじゃないかトレーナー君」

 

 

俺はウキウキ気分で釣竿のリールを巻く。

 

 

「あれ、魚の力が強すぎないか!?」

 

「どれ、私も協力しよう!」

 

 

ルドルフも釣竿を引っ張り上げるが、あまりの力に俺達は後ろに倒れそうになる。しかし何とか踏ん張り体勢を立て直す。

 

 

「これは大物だな」

 

「あぁ、間違いない」

 

 

俺は立ち上がり再びリールを巻こうとした瞬間、釣竿の重みが消える。

 

 

「えっ!?」

 

 

俺の目の前には体長2メートル程のサメが現れていた。

 

 

「ほあああああ!?」

 

「トレーナー君!落ち着いてくれ!それは鮫ではなくて海豚だ!!」

 

「ほんとだ、どうしようこれ……」

 

「大丈夫、私がなんとかするよ」

 

 

そう言いルドルフは俺の前に出て、俺の後ろへ下がるように指示をする。そして彼女は釣竿を構え、釣竿を振り上げた。「ふぅ……」

 

 

「釣れたね」

 

「うん、釣ったけどさ、これ釣る意味あったかな?」

 

「まあまあ、せっかくだから食べようではないか」

 

「正気か?なんか可哀想だからやめようぜ?リリースしようよ……」

 

「そんなことをしてみろ、きっと彼は一生のトラウマを抱えることになるだろうね……」

 

 

そう言われてしまうと、もう何も言えない。俺は仕方なくクーラーボックスに入らない海豚を放置し、釣りを再開した。

 

 

「お、また来たぞ」

 

「今度は何が来るんだろうね」

 

「わかんねぇ……」

 

 

そう言いながら俺は釣竿を引くと、かなりの重さを感じる。

 

 

「重いな……」

 

「頑張れトレーナー君」

 

 

俺は渾身の力を込めて引き上げると、釣竿から現れたのはエイだった。

 

 

「は?」

 

「これは驚いた……」

 

 

俺達は唖然としながら釣竿を離す。するとエイは暴れ出し俺達の元へ勢いよく飛んできた。

 

 

「うおっ……」

 

「トレーナー君!」

 

「危ねえ……」

 

 

間一髪のところで避けた俺達は、お互い無事を確認し合う。

 

 

「怪我は?」

 

「無い」

 

「なら良かった、それにしてもこいつはどうしたものか……」

 

「とりあえず逃がすか」

 

「そうだな」

 

 

俺は針を外し、エイを海に返す。まさか悪運がここで猛威を振るってくるとはな……

 

 

「なんか運が悪くなってきたな……」

 

「奇遇だね、私も同じことを考えているよ……」

 

 

そう言ってルドルフはため息をつく。

 

 

「そろそろ帰るか?」

 

「そうだな……」

 

 

そう言いルドルフは釣果である海豚を担ぎ、残りの荷物を俺が持つ、めっちゃ重かった。

 

 

「今日はありがとうなルドルフ、楽しかったよ」

 

「こちらこそだよ、こんなにも楽しいと思ったのは初めてだ……」

 

「大袈裟な奴だな……」

 

「ふふっ、それでは帰ろうか」

 

「そうだな……」

 

 

俺達は車に乗り、学園を目指す。その間、俺はずっと考え事をしていた。

 

 

(タキオンに貰った薬、どうしよう……)

 

 

俺は薬を財布に入れっぱなしにしていたことを思い出し、ルドルフに見つからないように注意する。

 

 

「ん……?」

 

「どうかしたかい?」

 

「いや、なんでもない……」

 

 

俺は財布を取り出し、薬を確認する。特に変化はないようだ。俺はホッと胸を撫で下ろす。しかしタキオンに貰ったものなので安心はできないが。

 

 

「トレーナー君、着いたよ」

 

「うん?ここどこ?」

 

 

ルドルフが車を路肩に止め、エンジンを切る。周りは車通りのない海岸の外れ、するとルドルフがおもむろにシートベルトを俺の分ごと外す、何事かと思い困惑しているとルドルフが急に覆いかぶさってきた。

 

 

「ちょっ……!?」

 

「ふふふ、言ったはずだ、たとえ君を手に入れるためなら何でもするとね」

 

「いやいやまてまて」

 

「待たないよ」

 

「待って、心の準備がまだ……!」

 

「大丈夫、優しくするから……」

 

 

そう言うとルドルフは俺の首元に顔を近づける。そして次の瞬間、首筋に痛みが走った。

 

 

「痛っ……!?」

 

「んっ……」

 

「えっ、今噛んでない??」

 

「うん、噛み付いたね」

 

「なんで!?」

 

「血を吸っているんだよ」

 

「えぇ……吸血鬼じゃん……」

 

「失礼だな君は」

 

 

そう言いルドルフは口を離し、俺から離れる。そして自分の唇についた血液を舌なめずりしながら拭き取った。

 

 

「美味しいよトレーナー君」

 

「そうですか……」

 

「ふふ、君の味を知ってしまったらもう我慢できないな……」

 

「怖いんですけど……」

 

 

ルドルフは俺の膝の上に座り、両手を広げる。

 

 

「おいで」

 

「え?」

 

「抱っこしてあげる」

 

「まじか……」

 

「ほら、早く」

 

 

俺は恐る恐るルドルフを抱き寄せる。彼女の体は暖かく、そして柔らかかった。

 

 

「暖かいな……、それにいい匂い……」

 

「私の香りが好きかい?それは嬉しいことだね」

 

「うん、好きだよ……」

 

「ふふっ、素直なのは良いことだよ」

 

「ルドルフの体も柔らかくて気持ちいな……」

 

「もっと触っても構わないよ?」

 

「ほんとか!じゃあ遠慮なく……」

 

 

俺はルドルフの体を撫で回す、すると彼女はくすぐったそうな声を上げた。

 

 

「こそばゆいよトレーナー君」

 

「ごめん、つい夢中になって……」

 

「謝ることではないよ、むしろ私は嬉しく思っているからね」

 

「そっか、よかった……」

 

 

俺達はお互いの体温を感じながら会話をする。するとルドルフは何かを思い出したのか、俺の耳元に口を寄せ囁いた。

 

 

「トレーナー君、少しだけ目を瞑っていてくれないかな?」

 

「別にいいけど……」

 

「ありがとう、それでは開けてくれるまで待つとするよ」

 

 

俺は言われた通りに目を閉じる。すると頬に柔らかい感触を感じた。その正体はすぐにわかった。ルドルフがキスをしているのだ。それも軽く触れるだけの優しいキスを何度も繰り返している。

 

 

「これでよし……」

 

「なにしてんの……?」

 

「君へのお返しだよ、それと……」

 

 

ルドルフはそう言うとまた俺の唇を奪った。

 

 

「好き」

 

「っ……!」

 

「ふふっ、真っ赤じゃないか」

 

「うっせ……」

 

「これから毎日これぐらいのことはしていくから覚悟しておくといいよ」

 

「勘弁してくれ……」

 

「嫌だ♪」

 

 

ルドルフは楽しそうに笑う。本当にタチが悪い女だな……、そんなことを思いながらも、俺はルドルフのことを抱きしめ続けた。

 

 

「じゃあ帰ろうか」

 

「ああ……」

 

 

そう言うとルドルフは元の位置に戻りトレセン学園に向けて運転を開始した。

 

 

「ほら、着いたよ」

 

「あぁ、ありがと」

 

「気をつけて帰ってくれたまえ」

 

「あの海豚はどうするの?」

 

「そうだな……学園の食堂に提供するのはどうだろうか」

 

「なるほど、いいアイデアだと思う」

 

「よし決まりだ」

 

 

俺達は海豚を職員室へと持っていき、調理担当の職員に引き渡す。そのあとは解散となり俺は寮に帰ることにした。

 

 

 

今回の敗因:ルドルフの思い通りになってしまったこと。

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