朝7時は俺にとってはまだ早い、本来なら二度寝する時間帯だが……
「うう……痛たた……」
起きてすぐ腹痛に気づく、まさか下痢でもしたのではないかとベッドから降りトイレに篭もる。
「うーん……なかなか出ないな……」
10分ほど籠ったがなかなか出ない、どうしたものかと諦めながら便座から立って流そうと思い振り返るとそこには想像を絶する光景が広がっていた。
「ほあああああ!?」
目の前に広がるのは真っ赤に染まった便器、その赤は手前側にまで伸びている。
「まさか……血尿か……?」
一瞬死期を悟ったがこのような症状が当てはまる病気を俺は知っている、そう尿路結石だ。あのかなり痛いやつ、俺の腹痛も耐えられない訳では無いがよっぽどの激痛ではある。流石に病院に行った方がいいとは思うが今日はゴールデンウィーク真っ只中、実は詰んだのではないかと思いとりあえずルドルフに助けてもらおうと電話を掛ける。
『あぁおはようトレーナー君』
数秒の呼び出し音の後すぐに出てくれるあたり本当にいい奴だと心の底から感じる。
「すまない急患で休日にも関わらず病院に行きたいんだが……どうしたらいいのかよく分かんなくて……助けて……」
1番信頼できる人に頼るしかないと思って必死に訴えかける。
『ふむ、君が私に助けを求めるとは珍しいね、一体どんな症状なんだい?』
いつもと変わらず優しい声で答えてくれるルドルフ、こういう時に頼れる人が居るというのは非常に嬉しいものだ、普段からの感謝も込めて事細かに説明する。
『ふぅん……血尿か、恐らくそれは結石の類だろう。痛みはあるかい?』
「生活に支障が出るくらいには……」
『ふむ、病院はこちらで探しておくよ、君は保険証を用意してくれ、私も付き添おう』
「恩に着る……!」
さすがは生徒会長というべきか、迅速な対応だった、やはりこの学園で一番頼りになる存在は彼女だと思う。
「おおん……」
ルドルフが運転する車の助手席にて、俺はあまりの腹痛に身悶えする。最初は耐えていたが、この痛みがずっと続くとかなりきついものだ。
車を走らせてから30分は経っているがまだ目的地に着く気配はない。ちなみに今は朝の9時で渋滞している様子もなく順調に走っている、あと20分もあれば到着出来るとの事だ。それまでに俺の精神が持つかどうか……。
「もう無理……」
「トレーナー君!?」
20分ほどしてついに耐えきれず座ったまま伸びてしまう。幸いにも助手席なので問題はないがこのまま気絶したいほど痛かった。しかしそこでふと思う、こんなに長く続いたらもっと辛くないだろうか?そんな不安を傍目にふと気づく。
(あれ、尿路結石の治療って高かったような……)
現在の所持金は約3万、残りは株にぶち込んである、今売却してもすぐに引き落とすことは出来ない。それは置いといて単純計算で受けられる治療は10万までとなる、初診料を鑑みればさらに余裕はないだろう。試しに調べてみると治療費は10万を超えていた。
「やはり俺は死んだ方がいいかもしれない……」
「こんなところで諦めないでトレーナー君!?まだ生きているだろう!?それに結石程度じゃ人は死なないから!ほら元気を出すんだ」
死にかけている俺を見て慌てるルドルフ、正直言って今の俺は彼女に甘えたくてしょうがない気分なのだ。だがここで素直になれるわけもないのだから黙るしか選択肢はなかった。
「何か君を陥れるものでもあったのかい?」
「結石を砕くのに金が……」
「残念ながら今日は休日のため今回向かうのは診療所だ、そこまで大した治療は出来ないのは済まないとは言いたいところだが、薬を処方するのみならそこまで掛からないだろう。それでも足りなかった場合は私が出すから……」
「ほっ……良かった、てっきりルドルフに借りを作って逆らえなくなってしまうのかと……」
「……」
「ルドルフさん……?」
『その手があったか』と言わんばかりの顔をするルドルフに若干恐怖を感じつつ安心したところで車は目的地に到着したらしい。
診療所に到着すると俺は早速待合室へと向かう。受付に行くとその診療所の規模に対してかなり空いていた。そして保険証を提示し、問診票を書いて提出する、そして暫くもしないうちに俺の番が来る。
コンコンコン
「どうぞ」
「よろしくお願いします」ガラガラ
診察は順調に進み、問診、触診、尿検査にX線検査をした後に医師から説明を受ける。
「特に腸にガスは溜まっていないようですね」
「はあ……」
「やはり血尿と痛みを鑑みるに尿路結石の可能性が高いでしょう、薬を処方しておきますね」
てな感じで薬を処方されたがここらへんの記憶は腹痛により曖昧だった。要約すると痛み止め、痛み止め用の胃薬、尿管を拡張させる薬の3つを処方し様子を見るとの事、休み明けに体調が回復しなかったら泌尿器科に行くようにと言われたらしい。今回の受信料は初診料、検査代、薬代込みで5000円ほどだった。
俺は早速貰った薬を1錠ずつ水無しで飲み込む。
「トレーナー君、この薬……服用は毎食後と書いてあるようだが……」
「え……」
時間は10時、腹痛が胃痛になったのを傍目に朝食を奢る流れになる、結局移動はルドルフを頼るのだが。ちなみに朝マックを買って食べた、うまかったけどなんか悔しい。
「なあ……なんでいつも俺の事を助けてくれるんだ?そのせいでお前の評判まで落ちて、俺に構わなくても誰も文句は言わないはずだろ?」
食事を終えて再び車に揺られながらルドルフに問いかける、何故いつも助けてくれるんだろうとずっと思っていた疑問をぶつけてみたのだ。
「ふふっ、そんなことか、簡単だよ、君が私を信頼してくれているからだ、君は私の事を誰よりも頼りにしているだろう?だから私も君の力になりたかった、それだけだ」
彼女はそう言って窓の外を見ながら答えてくれた。確かにその通りである。しかしここまで言われるのは恥ずかしいし申し訳ないという気持ちがある。
「ちなみに、また人通りの無い所まで連れて行って襲うつもりは無いよな?」
「はぁ、私もそこまで情欲が強い訳ではないよ、ただ単に私は君との時間を大切にしたいだけだ、それに君は今は病人だからね」
「完治したら気をつけよう……」
俺のつぶやきを聞きながら苦笑いを浮かべて頬杖をつきながらもこちらを見つめる彼女の表情にドキッとして慌てて前を向く。
(こんな可愛い子が俺の担当バとか信じられねぇよなあ、マジもんの女神じゃん……)
なんて思いながら車に乗っていると学園に着いたようで車を降りて寮に戻ったのだが何故かルドルフも付いてくる。
「今日は一日中寝とくか……」
「……」
ルドルフは上目遣いでこちらを見ながら無言で何かを訴えてきた、尻尾もルドルフ後ろからチラチラ見えるほど振り回されている。
「もしかして一緒に寝たいの?」
「……!」コク
一瞬躊躇ったあと嬉しそうな顔を見せるルドルフを見て心拍数が急激に上がるのを感じる。
(やっぱかわいいわ……)
「じゃあ一緒に居て欲しいから部屋に来て貰ってもいいかな?」
「うん♪」ニパー
俺は満面の笑みを浮かべた彼女を部屋に招くのだった。
今回の敗因︰ウマ娘の体温は高い(3度目)