顔になかなか涼しい風を感じながら目が覚める、窓を開けっぱなしにしたからだろうか。時刻は朝の5時ほどかな?
「あれ、枕が違う……」
いつもはかなり大きめの枕を立てて寝てたはずだと思いながら、寝返りを打ち、見上げたその先にはルドルフの寝顔があった。枕が違うのはルドルフに腕枕をされていたからだ。
え、なんで? あぁそうか、昨日病気の面倒を見て貰って一緒に寝たんだったな……。体調もすっかり良くなったし後でお礼を言わないと……
「ふぅ……起きるか……うおっ!?」
ゆっくりと体を起こそうとするが逆にルドルフに引き込まれた上、足と尻尾を絡められ完全にホールドされてしまう。さすがに少し寒いのか、さらに毛布を被って全く動く事が出来ない!いい匂いもするし、ぬくぬくだし、カーテン越しの光の刺激も心地いいしで二度寝してしまいたくなる。人の快適な睡眠の条件としては視覚、聴覚、嗅覚の3つに僅かな刺激を与えながらが1番いい…らしい……zzz……
「いかんっ!起きろ俺!まだやるべき事がある!」
ルドルフが起きてしまう前に抜け出したい所だが……体が思うように動かない上に、抱き込まれてるせいで余計に抜け出せない……。仕方ないからちょっとずつ動いて抜け出すか…… 少しずつ体を動かして何とか脱出出来たと思った矢先、後ろから伸びてきた手によって引き戻された。
「これ、逃げるんじゃない……」
どうやら寝ているフリをしていたらしく、またルドルフの腕の中に収まってしまった。
耳の裏とか首筋を鼻息がくすぐったいし、背中には柔らかなものを押し付けられていて気持ち良いのだが今はそれよりも脱出しないと。とりあえずトイレに行きたい。
「ルドルフ、おはよう。とりあえず離してくれない?」
「うん……もう少し……」
返事なのかただの要望なのか分からんな。それにしても相変わらずの低血圧だこと。仕方ないので少しの間じっとしている事にしたが……そろそろ漏れる……
「ルドルフ……もう漏れちゃう……」
「もう出ちゃうのか……ふふ、トレーナー君は早いな……」
「そういう意味じゃない……」
結局、なんとか寝惚けているルドルフを説得し解放してもらうことに成功した。
その後、ベッドから降り、速攻でトイレに行き恐る恐る用を足すが、トラウマになっていた血尿は出なかった、腹痛もないし尿路結石は完治したということでいいだろう。まさか一日で治るとはな……
スマホを確認すると時刻は6時。
「本来寝る時間ですね私!」
てな感じでまたルドルフのいるベッドに潜り込んだ。
「起きるんだトレーナー君、朝ごはんの時間だぞ?」
せっかくいい感じに寝ていたところを叩き起されるが、俺の眠気はまだ取れ切ってない。
「うーん、あと1光年……」
「それは時間ではなく距離だ、それに1年だとしても長すぎるよ……」
「えー……今何時……?」
「8時だ、昨日寝てから10時間も経っているのだぞ?」
「俺は超ロングスリーパーなの……!」
「ロングスリーパーにしては程があるだろう!」
「だから超ってつけたじゃん……」
「なるほど、トレーナー君がほとんど朝練に来れないとはこういうことか……」
確かに俺は異常なほど朝に弱い、もう何らかの障害のレベルで、実際の障害はこれ所ではないがそこは気にすることではない。問題は睡眠時間が一日の半分を占めていることである。前に何度かルドルフにバレそうになったことがあるが、その時は睡眠時間を分割することでその場をしのいでいたのだ。じゃあトレーナー活動はどうするのかって?段違いに寝る分、パフォーマンスは良いんです!
「とりあえず寝かせろ……」
「では私もトレーナー君を起こすために一つ……」
目を閉じてルドルフを見ないようにしていると急にルドルフがのしかかってきて……
「目覚めのキスをするのはどうだろうか……」
「起きた!バッチリ目が覚めました!だからやめて!?」
俺は枕側の方へ逃げながら起き上がって枕の上に座り込み警戒する。
「ではおはようのキスを……」
しかしルドルフは諦めた様子はない。更に這い寄ってきて壁に追い詰められる。
「ちょ!?」
壁際に追い詰めておいてルドルフは突然抱きしめてくる。俺の体は簡単に抱き抱えられていて身動きが取れない。ルドルフが少し動く度に俺の体が擦れる。やばいっ……なんかドキドキしてきた……。というかこの状況はまずい……色々と。ルドルフを見ると顔はほんのり紅潮していて息遣いが荒くなっているような気がするが気のせいだと信じたい。
「ルドルフ……?」
そう声をかけるが返答はなくルドルフの顔が近づいてくる……このままだと本当にマズイ! ルドルフは唇を俺の首筋にあてがってくる。やばい、ゾクゾクして体が動かない!くっ、ルドルフのヤツ本気で狙ってきやがった!なんとかしなければ……何か、何でもいい!この窮地を切り抜ける手段……そう言えば習ったはずだ……人間がウマ娘に敵うはずがないと(諦め)……だからこそ距離感が大切だと……ルドルフをこんな状態にしてしまった俺にも責任があると……!
そう思った時だった、ルドルフは顔を離すと少し困ったような表情を浮かべた。あれ、ルドルフのヤツ様子がおかしい……。なんでそんな悲しそうな目してんだ……?………….
「なんてね、冗談だよトレーナー君」
ルドルフは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。俺を抱きかかえるのをやめ、体も起こしてしまう。俺はその言葉の意味がよく分からず困惑するばかりだった。
「今のは本気かと思ったんだけど……」
「ふふっ、少しからかい過ぎたかな?」
「いやいや……マジかと思ってびっくりしちゃったよ……心臓止まるかと思った……」
ルドルフの笑顔から察するに、俺を驚かすための演技だったらしい。ルドルフならやりかねない。しかし演技とは言え、一瞬だが本当に焦ってしまった。
俺はルドルフの方をチラッと見ると、頬が赤いものの、さっきまでの熱に浮かされた様な雰囲気は既になかった。いつも通りに戻ったルドルフの様子にホッとする反面残念でもある。まあルドルフのことだ、きっと恥ずかしかったんだろうなぁ……と。まあいいか……
「それで、そろそろ起きるつもりはないか、トレーナー君?」
言われてから窓の外を見る。空は完全に夜から抜け出して、朝日に照らし出されていた。
「確かに、朝ご飯の時間だな……」
俺達は着替えて食堂へ向かった。
今回の敗因︰トレーナーはルドルフに隠し事をしている限り素直になれない。