この土日はゴールデンウィークの一部なのか分からないが、ルドルフが休みとは限らない。別に今はイベントは無いから仕事量も少ないだろう。
「僕達は一歩踏み出すよー、激しい向かい風の中、それでもMy way〜♪」ガチャ
「『My way』ではなく『前へ』だトレーナー君、二度と間違えるんじゃない!」
「だよねー!なんか変だとは思ってたんだ!他のウマ娘の持ち曲の歌詞を覚えているとは流石ルドルフだね!」
「……」
「……」
俺が生徒会室に入ってやり取りをしたきり、しばらくの静寂が続く。無理もない、先日は俺に惚れ薬を飲ませた上で迫ってきてそれが最終的に失敗に終わってしまったのだから。(※自分が先に危害を与えようとしたことを忘れています)
「もしかして昨日来なかったこと、根に持ってる?」
「い、いやそんなことは……!」
明らかに目が泳ぎまくってるが。まぁいいけどさ……。こっちとしてはあれくらいの事じゃ怒らないんだけどな。惚れられた側だったし。それにルドルフだって恥ずかしかっただけで悪気があった訳じゃないし、俺だってちょっと調子に乗ってふざけすぎたところもあった。
「いやー、ちょっと区役所で手続きをしてただけさ、そう拗ねるなよ」
「そっ……うむ、ならば仕方がないな。私は寛大だ、それで許してあげようじゃないか。しかし、今後私にあの様な事を仕掛けてきたら、ただでは済まないとだけ覚えておいてくれたまえ」
何気にめちゃくちゃ根に持つタイプだった。
「そんで仕事は終わったの?」
「もちろんだ、全て終わらせてきたとも」ドヤァッ
なんならドヤ顔もしているのだが?というか普通はあの量の仕事を午前中だけで終わらせるなんて出来ないと思うぞ。しかもその仕事をほぼ無償でやらされてるルドルフに涙が出そうになる。
「もう罰ゲームの類だよな」
「別にそう感じたことは無いな、私が善くあることで1人でも幸せになれるウマ娘がいるのならばそれは本望というものだよ。トレーナー君はどうなんだい?君の担当である私の仕事を手伝ってくれるのか?」
「それはもちろん。俺は今週中に片付けないといけない案件があるし。あとはトレーニングメニューの確認とか色々」
俺はノートパソコンを取り出して画面を見せる。そこには既にトレーニングの予定が書かれているので、確認をするには問題ないだろう。しかしこれに関しては特に何か言われることもなかった為安心することが出来た。ちなみにスケジュール帳にも書いているがパソコンにも書いていた方が忘れることが無く便利だという理由もあっての事だ。まぁ実際忘れた時に限って予定変更になる事が多いのだけれども……。
「よしっと……今日はこれで終わりにするよ。明後日から本格的に練習が出来るように、しっかりと疲れを取っておこうね。とりあえず昼食にしようか、なにか奢るよ」
「本当かい?ではラーメンはどうだろうか」キラキラッ
目力が強い。そこまで期待されると少し緊張するがまぁ大丈夫だろうと思い了承した。
今回は学園内の食堂ではなく、外のラーメン屋に向かうことになった。
この学園内には学生向けだが美味しいと評判のお店が数店ありその中のひとつに案内された。ここは学園の生徒も良く使うようで結構な人気店のようだ。店内は賑わっており席はほとんど埋まっているように見える。しかし運の良いことに奥にある二人用の個室がまだ空いているとの事でそこへ通される事となった。確かにこんな混んでいる時に2人で座る場所が無いからと言って他の人の邪魔をしに行く程常識の無い奴はいないもんな。そんなことを考えつつ、俺達はメニュー表を見ながらそれぞれ注文するものを決めて行った。ちなみに今回、ルドルフは初めて来る店で味の感想を求められても答えられるか不安だったので俺が選ぶことにした。正直どれも食べたいと迷っているみたいだし。結局悩んだ末、味噌ラーメンにした。俺のオススメは豚骨だがな。ちなみにルドルフはというと……
「私は、味噌のチャーシューダブルのメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ!」
「!?」
『お連れさんの方はどうしますか?』
「豚骨チャーシューのメンカタでお願いします……」
『かしこまりました』
ルドルフの唱えた謎の呪文に反応せず淡々と対応する店員さんを見て少しだけ尊敬してしまったかもしれない。しかし……ルドルフってそんなに大食いなのか?いつも俺と一緒にご飯を食べてる時はあんな小食そうな印象なのに、どこに入ってるんだろうな……
「君は今、私の体重のことを気にしているだろう?」
「あっ、バレた?」
「私は太りにくい方なので気をつける必要はないのだがね。それにトレーナー君に隠し事は出来ないと言うことだよ。ほら……ここを見てくれ。ここに私のスリーサイズが書かれている」
…………えっ? ルドルフのスマホに映し出されているのは俺が作った彼女のプロフィール。それをよく見てみる。身長、体重などの基本情報、スリーサイズの欄に書かれていたのはこの前の測定値よりも明らかに増えていた数字であった。
「えぇー……嘘ぉー?」
「嘘などつかないさ、全て事実だよ。最近、生徒会室でトレーナー君の持ってくるお菓子や甘いものが食べやすくてな……いやぁ本当に悪いとは思っているんだが、中々辞められなくてな。気付いたらこの有様だよ。いやはや困ったものだ」
はぁ〜マジかー。確かに俺は今週の初めにスリーサイズを記入してもらったんだけどさ……あの時も確か1cmくらいしか変わっていないようなことを言っていた筈だったんだけど……それが今見たら5kgも増えているじゃないか。
まぁ別に良いんですけどね?ただもう少し気にしてほしいだけですかね。だってなんか……ねぇ?俺だって男の子ですし。まぁ別に気にしてる訳ではないんですよ。うん。全然大丈夫ですよ。ちょっと心配になっただけですし?それにあれですよ。ちょっと前にルドルフも言ってたじゃないですか、私は太りやすい体質だと。
「そうか、ならもっとカロリーのあるものを食べれば良くなるかもな。今日はたくさん食べていこうか」ニッコリ
あかん、怒っとるがや……。しかしだ、いくら何でも女の子が大食いとかあんまり言わない方がいいと思うぞ。特に年頃の女子はデリケートなんだ。ルドルフもまだ若いとはいえその辺のことには理解があってもいいんじゃないかと思うぞ俺は。だから俺は優しく彼女に言い聞かせるように言う。決して怖いわけではない。怖くはないのだ。
「でもそんなことはどうでもいいんだよ。今はそれよりもルドルフは痩せるべきだと思う。健康のためにな」
「そ、そんなことはない。私が食べた分がエネルギーとなり私というウマ娘を育て上げてくれる!そして私はいずれ全てのレースで1着を取ってみせる!!その時、勝利を噛み締めながら食べるラーメンはとても最高だ!!!今ここで宣言しておく!!」
なんという事だ。これが若さというものなのか。
「シンボデブドルフ……」ボソッ……
「ん?なにか言ったかい?」ニコッ
うわ、聞こえてしまったのか……。しかも目が本気になっている。これもう逃げられないんじゃ……。しかし俺としたことがつい口に出してしまうなんて不覚にも程があるだろうよ。これは俺の失言だ。謝るのは当たり前である。だが、ここは俺が大人になって許してもらおう。そしてまたラーメンを食べに行ってあげればいいんだ!そうだろ!?(自己暗示)
俺は意地汚くて見苦しい男のプライドを捨て、潔白に彼女を許した。すると彼女は先ほどとは一転して嬉しそうな表情を見せた。
「ありがとう。君は優しいな。しかしそこまで気を使わなくとも良い。そもそも、私の体はレースを走る為に作られ、育てられているのだ。食事のことなど気にせずに全力を尽くせば、結果、私は一番を取れると信じている。それにこの程度ならば問題無い。この学園に来る前は、山を駆け回っていたからな」
ルドルフが語る言葉はまさに理想そのもの。この世の全てが美しく思える。彼女の走りに魅了された者は少なくないだろう。
しかしだ、そんな彼女がこの程度で音を上げるとは思えないのだがなぁ。
その後昼食代を全て支払ったのは俺だった、確かに奢るとは言ったが少しモヤモヤするのは何故だろうか?