とある日のトレーニング終わり、過酷な筋トレを終えて疲れているルドルフが話しかけてくる。
「トレーナー君、釣りに行こう!」
「は?いつ?」
「明日の朝!」
「??」
あれー、明日平日じゃなかったけなぁ……?
「授業と生徒会とトレーニングはどうするの?」
「サボる!」
「ん?」
おかしいな、ルドルフ壊れちゃったのかな?
「いや、休日ならまだしも平日に行くわけねーだろ」
「では、オフの日に行くとしよう、言質も取れたしね。安心したまえ、学校をサボるのは冗談というものだ」
……なんか、勝手に予定を決められてる気がするのは気のせいだろうか? ていうか最初からそのつもりだったのか……
「だったら最初からそう誘えよ」
「最初に無茶な要求をふっかけることで、あたかも難易度が下がったかのように見せる交渉術だ。提案する前にトレーナー君の方から切り出してくれて助かったよ」
「行くのやめようかな……」
「まあ待ちたまえ」
「何?遺言か?」
「違う、例えば私が1人で釣りをしていたとして他の殿方に話しかけられたりしたらどうする?」
「普通に話せばいいと思う」
「むう……」
なんせルドルフである。
誰からも尊敬され、慕われ、人気者の彼女が釣りなんてマイナーなものに興味を示すことはありえないだろう。
というわけで別にルドルフに話しかけてしまうのは普通だと思う。
うん、大丈夫だよね? でもなんだろうこの嫌な感じ……まあいっか。
「あのさあ、俺がいないと1人って言ったよね?」
「確かにそう言ったが?」
「他に友達いないの?」
ちょっと気になってたんだ。ルドルフに友達とかいるんかね……皇帝だから恐れ多いってことはあっても嫌われるようなタイプじゃないし。
もしいたとしてもそれはもう人間を超えたレベルだとしか思えないけど。神レベルの友情力持ってるよね絶対。
「友人は大勢いるとも、皆素晴らしい人物ばかりだよ。だからこそ気軽に声をかけることができないんだよ、私は」
……んん?どういうことだ?ルドルフにはもっと親しい奴がいるはずだろ……? まさかこいつもぼっちなのか?!嘘だろ……!こんな超ハイスペックがぼっちなわけないじゃん!
「せめて親友のひとりやふたりくらいいるだろう?」
「トレーナー君」
「は?」
「だからトレーナー君だと言っているだろう?」
はあああぁ!?意味わからん!どうしてそうなった!俺はお前のことをそんな風に思ったことは一度もないし、これからもずっとねえぞ!? 確かに俺が迫られた時に友達の関係を提案したこともあったがまさか本気にしていたとは……てっきりその場限りのものと思っていたのだが……。しかもなんかちょっと怒ってる気がすんだけど……。怖い。ほんと怖いよこの子……。
しかしこればっかりは何を言っても聞いてくれなさそうだ。
「はいはい、次のオフの日に釣りね。記憶に入れとくよ」
「よろしい」
「たまには休日に永眠でもしたいもんだ」
「その時は笑って見送ってあげるよ」
翌日の放課後、寝起きの俺はスマホを片手に生徒会室の扉を開ける。
「ならない言葉をもう一度描いて〜、赤色に染る時間を置き忘れ去れば〜♪」
「やあトレーナー君、その調子だと今頃起きたということかな?」
「もートレーナー!一体何時に寝ているのさ!」
お、今日はルドルフだけではなくテイオーもいるのか、まあテイオーにもやらせたいこともあったしそれでもいっか。
「ん?1時半!」
「寝すぎだよ」
「そうなの?」
話の通じるルドルフと通じないテイオー。まあ、最初はそうなるだろうね。
「テイオー、トレーナー君はロングスリーパーでね、今日は14時間も寝ていた事になるんだ」
「ゔぇ!? 14時間も寝てたの?」
「うん、そうだけど」
え、なんかめっちゃ引いてますやん……。そこまでドン引きする事かよ、失礼すぎるぞ全く……。
「いやー、ちょっと譜面作りに没頭しちゃってさ、はいルドルフ!これやって!」
と言い俺のスマホを渡す、起動していたアプリは『太鼓さん次郎』。ドンとカッなどで構成された譜面を画面の太鼓をタップして叩くゲーム。無料ゲームでもあり広告が出るが出た場合は1度ホーム画面に戻るだけで広告を飛ばすことも出来るのでとても重宝している。様々なアプリを駆使して譜面を作ってそれをプレイすることも出来る。
「次のウイニングライブで踊る曲だ」
「今回の曲は『閃光』か……」
「あ、ボクそれ知ってる!踊ったこともあるよ」
「私もこれを知っている、トレーナーが稀に踊るからね……」
何故こんなことをするのかと言うと、リズム感覚を養うためだ、ウマ娘にウイニングライブは欠かせない、ましては試合に勝ってしまうルドルフには必須だ。別に勝てないからと言ってウイニングライブの練習をしない訳でもないが。俺が作る譜面は難易度が10〜11のえぐいものばかり、前にyoutubeで動画を出したがムズすぎるという通知が止まらなかった。ルドルフがここまでできるようになるには少し時間がかかった。だが今ではぎこちないながらも16分音符の3連打から7連打に簡単な多連打にその繋がりの8分音符などある程度は捌けるようになっている。『なぜこんなことをしなければいけないのか』と悪態をつかれたが『この程度の音ゲーが出来ない奴にダンスを任せられるか?』と適当なことを言ったら納得して黙ってしまった。
ちなみにこの『閃光』という曲、俺でもフルコンできるが傍から見るとかなり難しい。
『Blinding lights are fading out from the night、あどけない夢掲げた痛みを知らない赤子のように♪』
「この曲速すぎないか!?」あせあせ……
「おいおい、まだ序盤じゃないか……」
「確かにこれ歌いながら踊るとなったら大変そうだね……」
無理もない、この曲の速さを表すBPMは208、1分に208拍子分、これが16分音符で飛んでくるとなると片手ですら最速で毎秒7回の速さで親指を動かさなくてはならない。さらにノーツが2種となると難易度はさらに上がる。
『鳴らない言葉をもう一度描いて、赤色に染まる時間を置き忘れ去れば♪』
「くっ!」タタタンタタタン……
「会長、その調子!」
「ここで焦るようじゃなぁ……」
俺のスマホには1番のサビでちょいちょい10コンボが出ては消えを繰り返している、まあ、初見というのもあるか……。
ちなみに俺の作る譜面の傾向はサビで譜面加速1.2倍の上に、2番になると難易度が跳ね上がり、間奏または最後になるとまだ難易度がピークになる設計だ。
『Now I’ve learned to fly、これ以上泣かないよ明日にはいないから♪』
「??」
「ここ適当に作ったでしょ……」
「あっバレた?」
16分から12分の緩急にはまだ慣れてないか、この先のサビは3連符と3連符が繋がって7連打や多連打になる所だ。
『くだらない言葉をもう一度叫んで、誰にも染まらない心抱いたなら♪』
「っ……」ボッ……
「うわあっ!?会長の目にウマ娘の炎が!?」
「熱っ、エアコンつけよ……」
ダダダダ……
さてこのゲーム、いや、このスマホには1つ欠点がある。
『A long time ago there was a king of worlds who led me down my path♪』
「あれ?」
「どしたの会長?」
「ああ、やっちまったな」
そう、強く叩いてはいけないのだ、俺のスマホはウマホじゃないし、ましては保護シールなんて貼ってない、そんな代物を強く叩きすぎるとタッチバグが発生してしまうのだ。
『OH OH OH OH……♪』
「あっ……」
「曲は終わってないのにノーツが流れてこないよ?」
「ああ、途中まで作ってやめたんだった、あとルドルフは時間を置いてからやり直しね」
「くっ……!こんな所で……!トレーナー君の鬼畜!!」
ルドルフは最後でタッチバグが発生しノルマクリアに失敗していた、まあ、ウマ娘のパワーと瞬発力なら2種のノーツを別々の手に担当させるという手もあるのだがそれは俺が許さない(理不尽)。
「トレーナー!ボクにもやらせてよ!」
「いいゾ」
タッチバグが回復したスマホをテイオーに渡すと。テイオーは適当に俺が自作した譜面のタイトルを流し読みしていく。
「なんか『次回「城之内死す」』っていうのがある、面白そう!」
「あっ、死んだわこいつ……」
音ゲーにアニメの予告が入っているというあからさまな地雷を踏むテイオー、ちなみにルドルフに初めて渡した時も同じ轍を踏んだ。
『やめて!ラーの翼神竜の特殊能力で、ギルフォード・ザ・ライトニングを焼き払われたら、闇のゲームでモンスターと繋がってる城之内の精神まで燃え尽きちゃう!』
「えええええっ!?」
「お願いww死なないでテイオーwww」
「ふふふ……」ぷるぷる……
この曲もといこの予告、曲のBPMは165だが如何せん、飛んでくるノーツが32分音符なので、一秒に22回と桁違いの量が飛んでくる上に最後には僅かだが64分音符が飛んでくる。テイオーも最初は間に合ってはいたもののあまりの強引さに一瞬でスマホがタッチバグに陥り
「むーりぃー!?」
『「次回、『テイオー(城之内)死す』、デュエルスタンバイ!」』
「可哀想に……」
なぜそんな譜面を作ったのかって?俺でもクリアできるからです!えっ?どうやるのかって?
「そんなん指を4本使えばええやん」
「無理があるよ!?」
「無理ではないぞテイオー、この男は『真っ黒ナイト・オブ・ナイツ』をクリアすることが出来る程度には指が使えるんだ」
「ええっ!?うそぉ!!」
「本当だけど?まあ、他人に見せるほどの正確さはないがな」
俺が作って遊ぶ分の譜面は基本的に初見殺しだった、そもそもノーツ数で言えば2000を超えている。それを俺は指だけで攻略しているのだから、実際に叩いている人と比べてそんなに大変ではないとしても、人間を辞めているレベルかと言われれば一応人間のはずなんだがなぁ……
「じゃあそこまで言うならやって見せてよ!」
「いいよ」
「85万点か……最高得点より10万点下で勘弁してやる」
「「……」」
今まで2人がやっていたものとはレベルが桁違いでありそれすら軽くこなしてしまう姿にもう言葉も出ない。
「そういえばトレーナーのスマホの背面にさ、なんか変な紙刺さってるよね?」
「えっ?」
「どれ、見せてみろ!」ばっ!
「あっ!?」
ゲームを隣で見ていたルドルフはスマホを手に取るなり素早く裏面を見る、俺のスマホは手帳型のスマホケースなので開くとちょうど背面がカードケースになっており、ルドルフはそこに刺さっていた紙を抜き取った、
「トレーナー君これはなんだろうか?」
「えーっと、それはだな……」
ルドルフが俺に突きつけたのは、次回の病院の予約票だった。俺はある病気で通院していることはルドルフに隠し通さなければならない。
「健康診断に引っかかっちゃって……」
「次は7月と書いてあるのはなぜだ?」
「経過観察ってやつです……」
健康診断も経過観察も全くの嘘だ、といったところでついに核心を着く質問をしてくる。
「病名は?」
「メタボリックシンドローム」
「えぇ!?メタボ!?そうは見えないけど」
「テイオーの言う通りだトレーナー君、私達からすればむしろ細すぎるぐらいじゃないか?」
ルドルフのその一言は別に、俺が恐れていた訳では無い。
「あまり人を見た目で判断しない方がいい。俺は睡眠時間が長いせいで基礎代謝が少なくてな、食べる量は変わらないので血中のコレステロールはやばいんだよ」
もちろん睡眠時間が長い程度で基礎代謝が減る訳では無い、寝ている間は動かないので消費カロリーが少ないのは合っているがな。
「ほう、皇帝の杖ともあろう者が己の管理も出来ないとはな」
「いや、今はタキオン製の痩せ薬を使ってるから今は問題ないがな」スっ……
俺はタキオン製の痩せ薬を見せる。
「ウマムスコンドリアを摂取して基礎代謝を上げるタイプのやつだ、人間用だけど」
「「ウマムスコンドリア……?」」
「ウマ娘の力の源といった所さ」
2人とも首を傾げるが当然の反応だろう、しかしこれを服用すると体温が上がるというデメリットはあるものの体重が劇的に減少する、副作用はないと本人は言ってた。
ちなみにウマ娘にも効果があるのかと言う疑問があったが、元からウマムスコンドリアを持つウマ娘には効果は薄いが効くっちゃ効く。
「……」
「な、なんだ……?」
「では今は君の体調に問題は無いと?」
「そういうことになりますね」
「「はあーっ……」」
2人のため息が重なる、この嘘は今回限りだ、次からは予約票が見つかりそうな所に隠さないといけなくなるだろう。
「トレーナーの体って不便だね」
「全く、余計な心配をかけるんじゃない」
「別にルドルフは関係ないだろ」
「確かにそうだが……」
「じゃあ俺はワクチン接種に行ってくるから、その曲ノルマクリアしとくんだぞ?」
「えー……」
次からは予約票の管理に気をつけないとな。