「チィーっすタキオン!」
「シンボリルドルフのトレーナー君じゃないか、今日は何の用だい?」
最近アグネスタキオンの研究所に行く事が増えたような気がする、正直あそこは掘り出し物というか製品が良いので俺のような物好きな性格だと中々楽しい場所だ。
そんなわけで今日はいつものように実験器具や薬品を仕入れて研究に励んでいるタキオンと会話していた。
「あのさあ、男を無理矢理妊娠させる技術を開発中あるってまじ?」
「それは本当さ、かなり難航はしているがね」
「なんでそんな物騒なものを……」
「いやいや、これさえあれば私も色々と自由になるからねえ……ウマ娘を産ませるなんて朝飯前だよ!ああ安心したまえ、あくまで男性側の同意の上で使うものだから犯罪ではないよ?ただ私の遺伝子を持った子どもができるだけだしね、そう考えるとなかなかロマンのある話だと思うけどねぇ……」
…………うん、この女だけは怒らせない方が良いな。マジモンのマッドサイエンティストだった。
あとこいつなら多分俺でも孕ませられるんじゃなかろうか?だってこいつヤバめの惚れ薬作ったりするくらいだし……いかんいかん考えてはいけない事を考える所だったぞ……。
「ねえ、その技術を誰かに渡したりするの?」
「金を積まれれば考えないでもないね。そもそも私が作れる時点である程度の再現性はあるだろうし……まあ私はお金じゃ動かないタイプだけどねぇ、そういう意味も含めてロマンがあるのさぁ~……あっそうだモルモットくん、ちょっと待っていてくれないか?」
急にタキオンが立ち上がったと思ったら、部屋の奥へと歩いて行った、一体何をしてるんだ? そして戻ってきたタキオンの手には見覚えのない眼鏡ケースがあった。
それを開封すると中には小さな黒い眼鏡が入っていた、どうやらタキオンはそれを俺に掛けてきた。うわ似合わん……なんか俺までマッドになった気分である。
「ほぉれモルモットくぅん私を見給え、何か私のステータスが表示されないかい?」
「ん?62の30%……なんだこれ」
俺は目の前に浮かび上がる数字を確認してみる。確かにこれは数値だ……どういうことだ!?こんなの今まで無かった筈なのに!というかこれってまさか!?
「それは好感度と告白成功率を表しているんだよ!これで君は相手の心を完璧に掌握できる訳だねぇ!流石は私だ!」
「それぞれの数値の違いは何?」
「好感度は友人としての仲の良さ、告白成功率は深層心理から読みとった文字通りの恋人への発展のしやすさだね」
なるほど、つまりこれはギャルゲーで言うヒロイン攻略チャートって奴なのか。
「試しにタキオンも着けて俺の好感度を確認してみてよ」
「ふむ、分かったよ」
俺はケースからもう一個の眼鏡を取り出しタキオンに手渡す。彼女もまた俺と同じく装着すると俺の顔を見た後少し残念そうにしながらメガネを外し小さく口を開いた。
「78の30%……その好感度の高さでこの成功率は一体なんだい?」
「別に、理由くらいタキオンは知ってるでしょ?」
「君は自己肯定感が低いねぇ、もう少しくらい欲を出してもバチは当たらないだろうに……」
「生まれる時代が悪かったら野垂れ死ぬくらいだ、生きて日常を過ごせるだけで万々歳なのにこれ以上何を求めろって言うんだ……」
……俺みたいな屑人間にとって今生きているこの世界はあまりにも眩しいものだった、正直このまま生き続けてたら俺は一生この世界の光を浴び続けてしまう気がしている。それではあまりにも罰ゲーム過ぎないか? だからこそこうして色々と無茶をしているのだが……やっぱりこういう風に生きるというのは難しいもんだ。
「そうだシンボリルドルフのトレーナー君、一つ賭けをしないかい?」
「内容は?」
「トレーナー君のシンボリルドルフ会長への告白成功率が一定のラインを超えていたらその場で告白するというのはどうだい?」
「暗にルドルフと付き合えと言ってるようなものじゃないか……」
「なあに、この眼鏡でカップルができるのであれば作った甲斐があるというものさ」
「それで、そのラインは?」
「80%でどうだい?」
「そんなにあると思う?」
「私にはわかるさ、なんせこのメガネは……おっとこれ以上は言わない方が面白いかな」
「分かった乗ろう」
タキオンの提示した確率はなかなか有り得る数字だ、なんせこの前掛かったルドルフに求婚されたくらいだしな……あれ、これって不味くないか?
「まあいいや、とりあえず行ってくるね!」
「行ってらっしゃい、二人の仲に幸があらんことを祈るよ……」
そんな言葉を残してタキオンの部屋を出ていく。これからやることを考えれば、俺はかなり勇気が必要で緊張しているのだ。もしこれで100%とか出てしまった時は……うん、逃げ切ろう!
さてまず最初にどこに行くべきかな……いや待った方が良いのか? しかしこんな状態で学園中を探し回って見つかるだろうか……?そう考えると逆に見つけられなくなりそうだ。……こうなったら仕方ない、あまり気乗りではないが生徒会室に行ってみるか。
「ドキドキってもっとファンタジア、手を伸ばし、煌めく♪」
「こんにちはトレーナー君、おや?そのメガネは……」
「ああ、これかい?これは好感度メガネと言ってね、タキオン製のやつで、お互いの距離が近いか遠いかを判別してくれるものなんだ、ちょっと失礼……っと」
「うっ……?」
……俺達は互いの距離を測るため顔を合わせることになったのだが、なんというかさっきからルドルフの様子が変だった。まるで熱に浮かされているかのような感じだった。……あっそっか俺も好感度上がってたもんね……いやまあそんなの知らないんだけど……。
「いや……これは凄いな……!流石だタキオン、私はここまでの物を作ったとは思っていなかったよ……!まさか好感度まで測れるようになるとは……!!」
なんか勝手に感動していられると俺としてはあまり良い気がしなかった。
「あーあ、ルドルフがこんなんじゃなかったら俺は迷わず逃げるのにね……」
「ふふふ……なら早く逃げれば良いんじゃないのかい?私は今すぐにでも追う用意はあるぞ?」
そう言って腰に手を当て微笑んでみせるルドルフ、うんカッコいいなぁおい!でも残念、俺はルドルフから逃げることは叶わないぜ。だって……!!
「好感度100の告白成功率100%……なんだこれ、壊れてんのか?」
……俺の人生における最悪のイベントが幕を上げたのであった。
「そ、それで……君は私に何か言うことがあるんじゃないか?例えばほら……私のこと好きだ、恋人になってくれ……みたいな」
照れ臭そうな様子で俺から顔を逸らすようにして話すルドルフ……なんだか可愛いと思いつつもこの状況でそんなこと言える度胸は俺は持ち合わせていないのである。というか好感度100ってもうプロポーズじゃん、完全に負け確定じゃねえか。しかもルドルフがそれを望んだときって確実に俺は消されるよな。絶対勝てないし、俺が逆の立場だとしても俺は同じ選択をするし、それにしてもこんな事って現実にあるんだなぁ……としみじみ思った。
タキオンとの賭けのルールでは、俺がルドルフに告白しなければならないのだがそういうわけにはいかないので、話を逸らそうとする。
「そうだ、ルドルフもこの眼鏡着けてみる?」
「私もちょうど君の気持ちがどうなっているのか気になっていたところだ」
俺はそう言いながら自分が着けていたメガネを外しルドルフに渡す。流石の俺もこれを装着したまま会話を続けるほどのメンタルを今は持っていない。
「ちなみにそれを着けたタキオンが俺を見た時に出た数値は好感度75の告白成功率20%だったね」
正直この発言は間違いだったと後に語ることになる。
「どれどれ……ん!?」
俺の数値を見たルドルフが固まった、耳がぴくぴくと震えていて動揺している事が手に取るようにわかる。
そして数秒の後彼女は俺の肩を掴むとぐいっと自分の方へと引っ張った。そのせいでルドルフの方へとよろけてしまい彼女に抱き留められてしまう。そして彼女はそんな状況のまま口をゆっくりと開いた。
「君は……君は何でそんなことを平然と言ってしまうんだ!」
どうやらルドルフは今の状況にとてもご立腹なようで、いつもは綺麗に整えられている銀髪が若干乱れていた。
しかしどうしてそこまでご機嫌斜めになるのかがわからないので取り敢えず素直に謝ることにしよう。
「ごめんごめん……でも別にルドルフが気にすることじゃないと思うんだけど?」
するとルドルフは「うぅ……」と小さく呟き、そのまま黙ってしまった。その顔はほんのりと赤くなり俺と目が合わないように目をキョロつかせており、少し面白いと感じてしまう程だ。そんな風にルドルフを見つめ続けていると彼女は俺の視線に気付きこちらをチラリと見てきた。
そしてルドルフが口を開く。
「君はアグネスタキオンと私、どっちが大事なのかね……?」
「……はあ」
「何故そこで溜息をつく!」
「ええ……ルドルフはそんな事を本気で聞きたいの?そんなこと聞かれたら困るって分かってるでしょ……」
「だが!だがな!やはり不安なのだ……!もしも……もしも君の中で私が二の次三の次だとしたら……私は一体どうすればいいのだ!」
ルドルフの声がどんどん大きくなっていく、それと同時に俺の顔の横でわななくルドルフの尻尾が見えてそれが俺の心を刺激してくるのだ。ルドルフのこういう子供っぽさって普段あんまり感じられない分余計に俺としてはグッとくるものを感じざるを得ない。これが惚れたが負けというやつなのだろう。
「一体どうしたのさ」
「好感度98だが、告白成功率はあろうことかたったの10%だ……」
「……」
10パーセントか……たとえ10回告白されても全て失敗する確率は約40%程もある。
「教えてくれ、残りの90%には一体何が隠されていると言うんだ!」
「強いて言うなら世間体かな……」
「なっ……私が会長であることがそんなにダメなのか……?」
「逆だ、ダメなのは俺の方なんだ……もしルドルフと付き合ったなんて噂が流れてしまったら、不利益を被るのはルドルフの方なんだ」
「何を言って……私はただ純粋に君の愛の言葉を聞きたいと、そういう話だった筈では?」
ルドルフから放たれた疑問に俺は「違うよ」と一言答え、それから続ける。
「それはきっと……建前だよ。ルドルフが望んでいる言葉を言うだけならば俺にだって出来る」
「なら、君はアグネスタキオンの方を選ぶというのかい?」
「そういう訳じゃない」
「実際にそう数字が示しているではないか」
確かに数字上はそうだ、俺の秘密を知らないルドルフよりも俺のことを知っているタキオンの方が必然的に付き合いやすいだろう。
「だがそんなことは最早どうだっていい、どの道君は私に告白しなくてはいけないのだから」
「なんのことだ?」
「私が知らないと思っていたのか?君がアグネスタキオンと賭けをしているのを……いや、あれは賭けとは言えないか、だってそれは私が仕組んだことだからな」
自分で言っちゃったよこの人……
「『好感度メガネ』の開発に出資したのは私だ、トレーナー君が私に告白するように仕向けてくれるという条件付きでな、まあ、私の気持ちをトレーナー君に知って欲しいのもあるが」
俺はルドルフと目を合わせることが出来なかった、俺の頭には先ほどまでの彼女の行動が全て計算されていたものだったのだという衝撃の事だけが頭を駆け巡っていたからだ。しかしそんな中でふと思ったことがある。俺とタキオンとの賭けでは告白の成功率100%ということなのでルドルフがこの賭けで負けることはないのではないか、そもそも賭けとして成立していない気がするのだが、そこについてはどうするつもりなのか。
「ねえ、その……賭けの勝率についてタキオンと話し合ったりとかしなかったのか?」
「勿論話し合ってないよ」
その言葉を聞いて安心した。もしかしてタキオンは嘘でも吐いているのかと一瞬疑ってしまった。
しかしよく考えてみればあのアグネスタキオンが自分の持っているカードを相手に見せるわけが無いのだ。そう考えると少し恥ずかしくなってくる、俺は今まで散々振り回され続けてきたせいですっかりと彼女を侮るようになってしまっていたようだ。
「ルドルフ、残念だが俺は君に告白しない」
「なんだと?」
ルドルフは俺の諦めの悪さに腹を立てるかのようにこちらを見てきた。しかしその顔はどこか悲しげにも見える。
「なぜなら……告白というものが許されるのは学生までだからだ!!」
「なにっ!?そ、それじゃあ……!」
勝率が0%の戦いでもひっくり返せば100%になる、ルドルフは大人しく五分五分の戦いを仕掛けるべきだったな!勝ったっ!!第三部、[完]!
「それじゃあトレーナー君をショタ化させれば告白してくれるということだな?」
「そういうとこやぞ!」
……ルドルフに勝てる気しない。
「なれば早速アグネスタキオンの所へ行こう!」ガシッ
「ちょっ……離せっ!」
ルドルフに抱えられ、運ばれそうになった時、1人の救世主が迷い込んできた。
「やっほールドルフアンドトレーナー!仲睦まじくて何よりだよ」ガチャ
「やあ、外回りが終わったようだね」
「助けてシービー!」
俺はルドルフの手から逃れた、シービーの後ろに避難したルドルフを見て彼女は笑っているが少しは心配して欲しいものだ。
「お?なになに修羅場中?面白そうだね、それで、ルドルフが付けてるそのメガネは何?老眼鏡?」
「失礼なことを言う、これでも私はまだ15だ」
「どれどれ〜貸して!」ヒョイッ
「おい!何をする!」
シービーはルドルフが掛けていたものを取上げてまじまじと見つめている、正直俺からするととても怖い絵面に見えて仕方がなかった。
シービーはそれを自分の顔の前に持ってきて言った。
「なんかルドルフに数字が書いてあるけど、73ってどういう意味?」
「それは……」チラッ
「……好感度」
俺がボソッと呟くとシービーは驚いて俺の顔を見る。
「へぇ、トレーナー君のを見ると別の数字が追加されるみたいだね!72の30%って何?」
「「へぇ」」
俺たちが呟いた言葉は発音は同じだがその内心は全く違っていた、ルドルフは怒りを込め、俺は死期を悟った風に。
俺は覚悟を決めて、シービーの顔の前でピースサインをしてこう告げるのだ。
「これが、俺の人生」
ルドルフの視線を感じた、まるでお前の負けだとでも言いたげな雰囲気を感じるが気にしている場合ではない、もうすぐ殺される。俺の命の危機が迫っているのだ。俺は命乞いをするべく必死でシービーに話しかける。
「シ、シービー……頼むからさぁ、今だけは俺の味方になってくれよ〜」グズッグスッ
俺は涙ながらに訴えかける、そしてシービーの服を掴むのだ。だが彼女は俺に目線を合わせず「ん?」と言うだけで俺を助けてくれる気配は無いようだった。ルドルフの尻尾が大きく揺れているのが見えたので彼女の方を向く。
そこには鬼の形相があった。俺は悟ったのだ、ここで下手なことを言えば俺は確実に殺されると。ルドルフの瞳はハイライトオフになっており殺意が篭っていた、その表情から読み取れることは唯一つ。
「絶対に許さない、逃すものか」それだけである。
「トレーナー君はどうやら私よりシービーの方が好きらしい」
「は?え、いやいや、違うんだよルドルフ」
「タキオンの所に行って、惚れ薬、飲もっか♡」ガッ
「グエッ!?ちょっ、首はっ……!」
「安心してくれトレーナー君、死ぬことはないと思う」ギリギリ
安心出来る要素がないんだが? 俺が首を絞められてる横で「うわぁ」とドン引きしながらルドルフを見上げるシービー。
なすすべもなく気絶した俺はルドルフに抱えられたまま、俺達はタキオンの研究所に向かうことになった。
「生徒会の事務はは全て終わらせておいたので後の時間は好きにするといい」
「あ、うん……」
「それじゃあ行ってくるよ」
「お幸せに……」ヒラヒラ
シービーは俺達にハンカチを振って見送ることしか出来なかった。