「ん?なにこれ……」
ルドルフに首を絞められ、落とされた所までは覚えている。
気がついたのはいいものの体を動かすことが出来ない、椅子に座らせられた上で手首足首を頑丈な拘束用ベルトで固定されており、まるで囚人のような姿だった。
場所は理科室系のテーブルやその上に置かれている器具を見た感じ、タキオンの研究室のようで、よくこんな椅子があったものだなと考えている、こんな椅子を使った実験なんてろくでもなさそうだ。ちなみに拘束されてる事に対しては慣れているので気にならない。
「おや、起きたかトレーナー君」
そんな時、部屋の奥から声が聞こえた。この声はルドルフと言った所か。
「おいおい、これをやったのはお前か?」
「私の事を名前で呼ばない所を見るに随分とご立腹のようだね、その通りだトレーナー君」
「なんでこんな事したんだ……?俺なんか悪いことしたっけ」
そう聞くと彼女はこちらへ歩み寄りながら答えた。
「私は別に怒ってはいないよ、ただ君の事が好きなだけだ」
「それは知ってる、だがこんな事をする意味がわからない」
「ふむ……ではこうしようか、私の実験に付き合ってくれればここから解放してあげよう」
いつの間にか俺の後ろにいたタキオンがそう答える。
「……実験の内容は?」
「簡単な話さ、今から君に薬品を投与し、いくつかの質問に答えるだけでいい」
「その薬品とは?」
「君が知る必要は無い」
「断る」
「それは残念だ、1ヶ月はそのままでいてもらうよ」
「……」
別に1ヶ月程拘束された経験はあるので問題は無い、病院にも間に合うし、トレーニングメニューも向こう2ヶ月は組んである、だからと言って拘束されたいかと言われればされたくない。
「安全性さえ証明してくれれば受けないことは無い」
「正直君を1ヶ月好きにできると考えたらそっちの方がいいかもしれないな、安心してくれトレーナー君、下の世話は二つの意味で面倒を見てあげよう」
「ごめんなさい投与の方がまだいいです」
このままだと様々な物を失ってしまいそうだ。
「わかったよ、なら早速始めようか、まずは消毒からだね」
そう言うとタキオンは注射器を取り出し、消毒をしてから俺の腕に刺す。そして何かの液体を流し込む。
「痛くはないかい?」
「全然、それより何を注射した?興奮剤とか鎮静剤とかだったら……」
「心配しないでくれ、惚れ薬と自白剤だ、どちらも効果は高いものだよ」
「思いっきりダメだと言おうと思ってたんだけど……」
効果が真逆なものを混ぜて投与するとか正気かよ、鎮静剤と興奮剤と鎮静剤が混ざりあったら滅茶苦茶になっちゃうでしょ?
「安心したまえ、作用する脳の部位はそれぞれ違うから相乗したり相殺したりはしないよ」
「それを聞いて安心したよ……」
しかし俺はこの会話で違和感を覚える。なぜタキオンは俺の考えを読んだのか、という疑問だ。自白剤の効果で思考を読みやすくなったのだろうか。もしかして口に出てた?
「次は薬の効果が出るまで少し待とう、その間私達の話でもしないか」
そう言ってタキオンは自分の席に戻り、紅茶を飲む。
「まあ、暇だしいいけど」
「そうか、なら君は自分の担当ウマ娘の中で誰が一番好きなんだい?」
「えぇ……そんな事急に言われても……」
「早く答えてくれないか、時間は有限なんだ」
「そりゃみんな好きだよ、でもその中でってなると時間の長いルドルフかな?やっぱ」
「ふふん♪」
当の本人を尻尾見る限りかなりご機嫌のようだ。
「ほう、何故だい?」
「だって付き合い長いし、俺の事をある程度は理解してると思うからさ」
「成る程ねぇ、確かに君の考えることは大体わかるよ」
「だろうな、だからお前がこんなことをする理由が知りたいんだよ」
「ふむ、それは教えられないなぁ、教えてしまったらつまらないじゃないか」
「じゃあいいわ、どうせまた変なこと考えてるんでしょうよ」
「ふふっ、正解だ、よくわかっているね」
そうやって他愛のない話をしていると体が熱くなるような感覚を覚えた。
「お、そろそろ効いてき始めたようだね」
「何がだ……?」
「先程言ったろう?惚れ薬と自白剤だと」
「おいちょっと待て、お前まさか」
「そのまさかだ、君はこれからシンボリルドルフ会長に更に惚れることになる」
「ふざけるな!今すぐ解毒しろ!」
「残念ながらそれは出来ないな、一応数時間経てば効果が無くなるはずだよ、では私は買い出しにでも行ってくるからあとは好きにしたまえ」
と言いタキオンは部屋を出てしまった。取り残された俺とルドルフはお互い何も言わず、ただ見つめ合っていた。
「……」
「……」
沈黙が続く中、先に動いたのは俺の方だった。
「……とりあえず拘束具外してくれない?」
「ダメだ、私の質問に答えてからだ」
「手短に頼むぞ」
「ああ、では聞こうか、私のどこが好きか教えてくれたまえ」
「……全部だよ」
「ふむ……それは嬉しい言葉だな」
「まだ何かある?」
「じゃあ私よりもタキオンやシービーと付き合いたいと思うのはなぜだ?」
これは重要な質問だ、慎重に……って慎重ってなんだっけ?
「あいつらは知っているからだ」
「……どういう事だ?」
「俺が生きていられる時間が短い理由を」
「え……」
「睡眠時間が長いと相対的にそう感じてしまう」
「そういう事か、それなら寝ている時でも一緒に居れば良いのに、その事になんの関係があるんだい?」
「俺の睡眠時間が長いのはとある薬に起因する」
「どんな薬なんだ?」
その薬の名前を言うわけには……自白剤が……
「ゼ……なんだっけ?」
「惚けるつもりか?私がそんなに信用できないのか?」
「いや違う、名前を忘れただけだ」
「……まあ、いいさ、それで?その薬は?」
「何それ」
「とぼけても無駄だ、自白剤は既に投与済みだ、だから素直に話してくれ」
もう何を言われているのかよく分からない、タキオンめ、なんて薬を。
「その薬の名前は?」
「えーっと……」
「もう諦めた方がいい、私は君を逃がす気はないよ」
「うぅ……」
「さあ、白状したまえ」
「??」
「うーん、そろそろ意識が限界のようだね、じゃあ、最後に君の気持ちを聞こうか」
ルドルフが俺の顎を持ち上げ、自分の顔と向き合わせる。そしてキスをした。
「!?」
突然の出来事で俺は目を見開く。キスは長く続き、苦しくて逃げようと思っても拘束されている上に椅子の背もたれのせいで後ろに逃げることが出来ない。結局、そのまま数十秒が経過した。
「ぷはっ」
やっと解放されたと思い、息を大きく吸い込む。しかしそんな事は全く気にせずルドルフは再び顔を近づけてくる。
「ちょ、ちょっと待って……」
「待たないよ」
再び唇を奪われる、今度は舌まで入れてきた。
「……うぐっ……」
呼吸が出来なくて苦しい、脳への酸素供給が絶たれ、段々と頭がボーッとしてくる。するとルドルフは口を離した。
「君が悪いんだからな」
そう言ってルドルフはもう一度口付けをしてきた。さっきよりも長く、さっきよりも深く。
「はぁ……」
ようやくルドルフが離れる、俺は肩で息をしていた。
「トレーナー君、私の恋人になってくれるかい?」
「……はい……」
俺は無意識のうちに返事をしてしまった。それを聞いたルドルフは満面の笑みを浮かべており、その手には録音機が握られていた。だが自白剤の眠気に襲われた俺はそれに気づくことが出来なかった。
「ふっ、これで既成事実は作れたな」
「……」
「お疲れ様トレーナー君、後はゆっくりと眠るといい」
「zzz…」
こうして俺はルドルフに嵌められてしまったのであった……