俺は、夢を見た。気がつくとひとつの部屋の中にいて、いくらドアを開けて出てもすぐに眠気が襲ってきて倒れてしまい、気がつくとまた同じ場所に戻される夢だった。何度も同じことをしているうちに焦燥感が生まれ、もうダメかと思った時に目が覚める。
「大丈夫かい?トレーナー君……」
「おはよう……」
目が覚めるとここはトレーナー寮の寝室でルドルフも居た。隣で一緒に寝ていたのであろうか。少し汗をかき、息も上がっていて、心配をかけてしまった事だけは分かった。ルドルフを見ると少し涙ぐんでいる。
「どうして泣くんだよ、俺は大丈夫だから」
そう言いながら抱きしめて、頭を撫でるが泣き止まない。しばらく経って落ち着いた頃に俺は聞いた。
「俺どれくらい寝てたか分かる?」
「15時間程かな」
「となると今は朝の6時くらいか」
ベッドから起き上がり、リビングへと向かう。冷蔵庫からラベルの貼ってない2リットルのペットボトルのお茶を取り出し、大きめのプラコップに注ぎ一気に飲み干した。そして再びソファーへと腰掛ける。
「そのお茶はなんのお茶なんだい?前に飲んだこともあるが、とても美味しかった記憶があるよ」
「これはね、ルイボスティーとごぼう茶を2対1で沸かしたものだよ」
「へぇ……初めて聞く組み合わせだね」
「ルイボスは健康に良さげでごぼう茶は味の傘増し的な感じで入れてる」
「沸かし方にこだわりはあるのかい?」
「さあ?ひたすら煮詰めるだけだけど?」
「やはり君は大雑把なようだね」
「98度が対流のような感じが起こるって言ってたけど弱火で良くね的な感じ」
「そのペットボトルは使い回しているってことかい?」
「ちゃんと中は洗ってるよ?専用の道具もあるし」
「ふむ……私もやってみようかな……」
ルドルフは興味津々といった様子で聞いてきた。
「ルドルフの寮ってそんなスペースあったっけ?」
「トレーナー君の寮を使えばいいだろう?」
「一応茶葉はあるけど……じゃあ今度の休みの時にでも来れば?」
「ああ、言い忘れていたが私は毎日ここに泊まるつもりだ」
「は?」
え、何言ってんのこいつ……という顔をしながら聞き返したら
「もちろんタダで泊めろと言っているわけではないよ。掃除や洗濯などの家事を手伝うつもりで居るからね。これなら対等ではないだろうか」
「どうしてそんな事をするのさ」
「君が言っていたでは無いか、人生の半分は眠っているから生きていられる時間が短いのと一緒だと、それなら一緒に寝ることで君の睡眠に価値を見いだせるのでは?」
ルドルフが急に訳の分からんことを言い出す。
「そんなこと言ったかな?」
「自白剤が効いている時に言っていたよ」
「その時の記憶はないんだわ」
まあ、実際この生活を始めてからまだ数ヶ月だし問題無いか……。それに今まで通り一人で寝ても悪夢を見てしまうかもしれないし。ただひとつ懸念点を挙げるとするならば
「お前は俺に手を出さないのか?」
と質問すると顔を真っ赤にして
「そっそれは、私がもっと大人になってからで良いと思うぞ!」
と誤魔化すような返事をする。まあ、多分俺の事を心配して側に居てくれるのだと思う。
「でも俺は手を出すのかもしれないぞ?」
と聞くと更に動揺して言葉を発するまで5秒ほど要したがやっと喋り出した。
「それでも……いい……と思っている自分がいるのが悔しいのだけれど、今はそれで納得して欲しい……あと三年くらい我慢してくれ……」
と言って頭を抱える。そしてまた少し経つと落ち着きを取り戻し、こちらを向いて言う。
「君と一緒に生活していて分かったことがあるのだが、どうやら君には人肌が無いとダメらしいね」
確かにその説は俺の中で有力である、何故なら俺が金縛りや悪夢を見るのは決まって周囲2m以内に人がいない時だし金縛りを解除するのもかなり精神を使うのである。一応今回悪夢を見たのはルドルフと一緒に寝ていることを知らなかったからなのか。
「それにトレーナー君の恋人になれたのだ、これくらい構わないだろう?」
「ん?」
あれー?ルドルフと恋人になった覚えなんてないんだけどなー?そう思っていると
「ほら、言ったじゃないか、『私の恋人になってくれるかい?』に対して『はい』と」
確かにそんな事言われた気がする。そういえば、あの時は薬のせいで正常な判断が出来てなかったし、何より眠かったのもあってあまり深く考えてなかったがそういうことだったのか。
「分かってんのか?自白剤に証拠能力はないんだぞ」
「その件については心配しなくていい、生徒会の権限を使い学園側を通して君の同意の元行ったと言う証明をしておいた」
まじかよ……そこまで根回し済みだったとは。ていうか発言ひとつに証明いる?
「何とかする方法はないのかな」
元はと言えば俺の睡眠時間が問題だからそこさえ何とかすればいいんだよな……
「後でタキオンに相談するか」
「どうしてほかの雌の名前を出すんだい?」
ルドルフが不機嫌そうな表情で聞いてくる。
「あ、いやなんでもない」
危ない、危うく殺されるところであった。そういや昨日の夜すら食べていなかったよな?
「朝ごはんポテチしようぜ」
「変なこと言ってないで食堂にいくよ」
そう言われて腕を引っ張られながら連れて行かれるのであった。
ー
「それで相談ってなんだい?」
ここは研究室でアグネスタキオンと話をしていた。
「睡眠時間が短くする方法を一緒に考えて欲しい」
「ふむ……君はどんな方法が良いと考えているんだい?」
「正直眠りが浅い時間が多い、強力な睡眠薬とか都合のいいものないかな?」
「それならニトラゼパムとかはどうだい?依存性もある分効果が強い、よく効くよ」
「よく分からんが強めのやつで頼む」
「少し待ちたまえ」カタカタ
「なにしてんの?」
「処方箋を出そうと思ってね」
「は?」
タキオンがパソコンを操作しそばにあったプリンターが動き出す、手に取ってみると処方箋らしきものが出てくる。そこに書かれていた内容は
商品名:ニトラゼパム 90日分
用法・用量/使用法:睡眠導入に服用する
効能または効果:寝つきが良くなる、熟睡できる
受け取り場所:トレセン薬局
「お前医者かよォ!?」
「何を隠そう医師免許も取ってあるんだよ」
「マジでなんでもありだなお前、まだ高等部3年だろ?」
「そんなことは置いておいて早く薬局に行った方がいいよ、そしたら夜に薬を飲んで眠れるか試したまえ、診察料は君からふんだくるのは難しいからね、300円でいいよ、念の為保険証系を見せてくれるかい?」
「済まないね、助かるよ」
こうして俺はタキオンに保険証等を見せ300円を渡してからトレセン学園敷地内の病院の薬局に行くことにした、 もちろん薬を買うためだ。しかし、処方箋を渡し保険証等を見せた後に気づく俺、今お金持ってなくね?と思い財布を確認すると札類がなく小銭も500円ほどしかない、なんでタキオンに支払った時に気づかなかったんだろう……
「お困りのようだねトレーナー君」
「は?え?なんでルドルフがいるの?」
「生徒会室で経理の仕事をしていた時に急にタキオン研究所から収入が報告されてね、それを調べると君が薬を処方されたそうじゃないか、心配になって来たんだ」
なんかとんでもない情報の辿り方をされたような気がするがそのことは置いておく。
「ちょうどいい、金貸してくれ」
「はぁ……私が代わりに払おう、薬を買ったらトレーニングを見てもらうぞ」
「あいよー」
ルドルフに奢られてから、薬を受け取りトレセン学園のグラウンドに向かう途中にルドルフに聞かれる。
「どうしてトレーナー君が眠剤を飲むんだい?寝不足なのかい?」
「そもそも俺睡眠時間が長いじゃん?その分見る夢も多くてね、眠りが浅いってことならいっその事深い眠りにでもつこうかなって……」
「深い眠り?まさか自殺でもする気なのかい!?」
「んなわけないでしょ、レム睡眠とノンレム睡眠の話してんの!」
その後、グラウンドで集まった皆でトレーニングをした。
そして寮に戻り夜になった。
俺は早寝早起きを目指すために早めに睡眠薬を飲む、俺は薬は水で流さない派でそのまま飲み込む、少し苦味を感じた。
その頃に寝室のドアが開きルドルフが入ってくる。
「お邪魔するよトレーナー君」
「じゃあ帰れ」
「酷いことを言うね」
「元はと言えばルドルフのせいだろ、一緒に寝たいだの何のって」
「その点に関しては悪かったよ、だけど恋人同士だから仕方がない事だろう?それともトレーナー君は私のことを嫌いかい?」
悲しそうな目でこちらを見るルドルフ、罪悪感が半端ないが構わず続ける。
「嫌いだよ、こんな屑を好きになるだなんてどうかしてるよ、精神病院にでも連れてってあげようか?檻の中は楽しいぞ?」
「君はそうやってすぐに自分を悪く言うだろう?私は君に幸せになって欲しいだけなんだ、だから……君が苦しんでいる姿を見るのが辛いんだよ」
泣きそうな顔でそう言われてしまう、これでは本当にこっちが悪いみたいではないか。
「は?幸せに決まってんだろ!こうやってルドルフと話ができるだけでも幸せなんだよ!」
つい感情的になってしまう。
すると、いきなり抱き寄せられそのままベッドに倒される、そしてルドルフの顔が近づいてくる。まずい、これはキスをするつもりだ。
「ちょっ待ってルドルフ、流石にそれはまずいって」
しかしルドルフの動きは止まらない、それどころかより顔を近づけてくる。俺は諦め目を閉じてその時を待つがいつまで経っても何も起こらない、おかしいと思って目を開けると目の前には天井が見えるだけだった。
どうやらルドルフは俺を抱き寄せただけでそれ以上は動かなかったらしい、少しほっとしたような少し残念な気持ちが混ざった微妙な感覚が胸を支配する。
しかし次の瞬間耳元で甘い声が聞こえる。
「ふふ……君はかわいいね、さっきの言葉は本当かい?」
「俺は咄嗟に嘘をつくのは苦手だ」
「それを聞いて安心したよ、なら遠慮はいらないよね」
「だからと言って一緒に寝ていい訳ではないのだが」
「細かいことは気にしないでくれ、それに今日は眠れるのだろう?」
「確かにそうだが……」
ルドルフは一度離れたと思ったらまたもや密着してきた。今度は腕を背中から前に回されて逃げられなくなってしまった。
「なあ、人間がウマ娘に勝つ方法って無いの?」
「ほとんど無いと言えよう、これは戦闘の話にもなるが、速い、ただそれだけで脅威足りえる、人間側は逃げることも出来ないし追いかけることも出来ない、最早敵対した時点で詰みだ、一応ウマ娘には人間の雄がいないと繁殖できない、食料を多く消費する等の欠点はあるが、それは短期決戦の場合は関係ないだろう。最早その為だけに生きていると言っても過言ではない」
「食物連鎖1位じゃん……」
俺は絶望的な現実に項垂れている中、突然ルドルフに抱きしめられる、そして頭に手を添えられながら頭を撫でられた。まるで子供をあやす母親のような動作だ。しかし俺はそんなもので簡単に落ちるほど単純ではなかった。だが、心地よかった、そのせいか次第に睡魔に襲われてきた。俺は抵抗せずその身を任せることにした。
「絶対に屈するものか……」
そんな言葉を口にしながら、俺は深い眠りに落ちていった。