僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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第一部:歯車と世界の中心
プロローグ 僕が主人公を目指す理由(わけ) オレがヒーローを目指す理由(わけ)


 主人公。それは、物語の世界における中心人物を指す単語。

 

 創作物を好む人間なら、きっと誰にだって憧れの主人公がいると思う。けれど、それはあくまでも憧憬でしかない。真剣にそうなろうとする奴がいたなら、そいつは確実に頭のおかしな人間だ。

 

 そんなわけで、僕はおかしな人間そのものということになる。

 きっと生まれたときにネジが一〇〇本ぐらい抜け落ちたんだろう。

 

 僕は主人公になりたい。

 なぜなら、主人公って奴は他人と自分両方を救える存在だから。

 

 僕は物心ついた頃から一人ぼっちだった。両親は既にあの世。写真を残さない人達だったから顔もわからない。

 

 といって、彼等のことを気にしたことはなかった。

 生まれた時点で親がいなかったのだから、それが僕にとっては自然なことで、だから、他人と違うということによって嫌な気分になったことはない。

 でも――

 

 寂寥感(せきりょうかん)は、耐え難かった。

 

 育ててくれる人はいる。でも、真の愛情は得られない。だから僕はいつも寂しくて、いつも哀しかった。

 そんな日々を過ごす中で、僕は一冊の漫画に出会う。

 

 そのタイトルは、“NIGHT・騎士(ナイト)”。

 

 うん、正直ダサい。

 内容もそんなに良くはなかった。主人公が皆に持ち上げられ、ご都合主義満載で、あらゆるキャラが主人公のために存在するような、三流作品だ。

 

 それなのに、僕はこの作品に感銘を受けた。

 強きを挫き、弱きを助け、それで皆を幸せにして、自分も幸せになる。そんな主人公の姿に自分を重ねて、僕もこうなりたいと思った。

 主人公になりたいと、心底から思った。

 

 それから僕は努力を始める。

 主人公になるためになんでもした。主人公らしいことはなんだってやった。全ては“皆を幸せにして、その結果、自分も幸せになる”ために。

 

 そう、過去の僕は、本当に“それだけ”だったんだ。

 

   ◆◇◆

 

“あんな経験”をすれば、誰だって理解する。

 この世界にヒーローなんか存在しないんだ、って。

 

 何が正しいのかわからない世の中だけど、オレ達が出した結論は間違いなく真実だ。そうでなければ――

 

 オレ達だけが生き残るなんて結末は、ありえない。

 

 あれからもう一〇年以上過ぎた。でも、オレは昨日のことのように思い出せる。

 

 あの日は幸せな一日だった。

 オレの母、あいつの父が再婚して、オレ達が名実共に家族になった日。

 さらに、オレ達が“選ばれし者”になった日。

 

 全てがオレ達を祝福していた。

 この幸福は永遠に続くものだと、そう思っていた。

 

 それを、“あいつ”が破壊したんだ。

 

 あいつは街を壊し、人を殺し、オレ達から全てを奪っていった。

 オレ達も殺される。その直前で“あの人”がオレ達を救ってくれた。

 

 そしてあの人が新しい親になってから、オレ達はこれからの生き方を決めたんだ。

 

 オレが出した答えは、“ヒーローになる”、というもの。

 

 この世界にヒーローはいない。都合のいい時に助けてくれる奴なんかいない。

 だったら、オレがそうなってやる。

 オレがこの世界のヒーローになって、オレ達みたいな人間がもう二度と生まれないようにしてやる。

 そのために、オレは自分の力を使う。自分の命を使う。

 

 親の墓前で誓ったその決意を、オレは今まで精いっぱい守ってきた。

 けど――

 

 いつしか、オレは気づいちまった。自分が“ただの人間”でしかないってことに。

 

 

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