僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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第三章 Double-Action 4

 地面に着地したそいつは、先刻二人が片づけた雑魚とは格が違う。

 

 その姿は、例えるなら巨大な全身を甲殻の鎧で包んだサーベルタイガー。

 

 サイズは目算で、全高三メートル、全長一〇メートル。

 長い二本の牙と、まるで日本刀のような鋭さを感じさせる爪が印象的だ。

 

 全身に纏われた甲殻が部位毎の継ぎ目を生んでおり、その部位数は合計二九。

 それぞれ前足後足両三肩両一、顔面一、首周り一、背部両三、臀部両一、胸元一、腹部一、両脇腹一、尾一である。

 

 体を構成する色合いはオレンジがほとんどだが、爪と牙、眼、背面、胸部、腹部は紫だ。

 

 体色が二種なので、こいつは中位ベヒモスということになる。

 

 新たに現れた敵を見た瞬間、義人の中で一つのプランが思い返された。

 香澄にいいところを見せ、尚且つ自分のフラストレーションを僅かでも減らせるような、戦闘プランが。

 

「おいおい、マジで出ちまったよ。うーっし、そんじゃいっちょ――」

「ちょっと待った。こいつは僕が貰うよ。君と白柳さんは見学してて」

 

 変身しようとする天馬よりも早く、義人は黒い鎧へと総身を変換させる。

 そうしてから、目前に一台のバイクを“創造”した。

 

 全長三メートル半。

 カラーリングは義人の鎧同様、黒が基調で各所に赤黒く発光するラインといった調子。

 龍を連想させるデザインで、突き出た両前足のような部位の間に前輪が、丸まった両後ろ足のような部位の間に後輪がある。

 

 さらに特徴的なのは、後方付近、両サイドの膨張した部分。

 そしてヘッド回りにある、後方に反り返った角のようなブレード状の部位、片側四本、合計で八本。

 

 義人とてこの一〇日以上何もしてこなかったわけではない。己の力を把握し、格好の良い敵の倒し方などを研究し、プラン作りを行っていたのだ。

 

 ちなみに、力については未だ詳細不明である。イヴに聞いても「わからない」の一点張り。もしかするとイメージ可能なことはなんでもできてしまうのかもしれない。

 

 創り出したそれに乗っかると、自動的にエンジン音が鳴り響く。

 獰猛な唸り声が敵方の興味を引いたのか、中位ベヒモスが義人の方を向く。

 その直後。

 

『うん? 貴公は……』

 

 言葉を、送ってきた。

 

 セカンドとなった者は原因不明であるが、ベヒモスの言語を理解できるという。義人はセカンドではないが、どうやら同じ特性を持つらしい。

 

 ともあれ、少年は己のプランを進行させる。

 

「ついてこいこのデカ猫。怖ければここに残るといいよ。天馬はそれを望んでそうだし」

 

 そう挑発してから――発進。

 大胆にも敵の真横を通り抜けて、車体を加速させる。

 

 長い長い道路の只中に血色のラインを引く一台のバイク。それに対し、敵方は追走を選んだらしい。

 奴は驚くべき速度でアスファルトを駆け、瞬く間に並んできた。

 そして。

 

『我と疾さ比べとは、味な真似をしおるわ。よかろう。この戦にて、神に我が疾さを見せつけてくれようぞ。――――我は駆け抜けし者! 駆け抜けし者ディゼルヴァ! 頂きに立つ者よ、我が疾さを知れッ!』

 

 名乗りを上げる中位ベヒモス、ディゼルヴァ。

 その直後、敵の全身、各部位を隔てるラインから、紫色の光波が噴出した。

 

 脚部から地面へと伸びるそれがアスファルトに接した途端、その場所に切断痕が生まれる。

 この現象から、あの光波には相当な切れ味があることが予想できた。

 

 ――全身ブレード野郎ってことか。まともな接近戦をやったら不利だな。

 

 その判断は正解だったらしい。

 四脚で大地を駆けていたディゼルヴァがジリジリと近寄ってきて――

 カーブに差し掛かった際、曲がると共に急激な接近を敢行。

 

 それが車体の側面及び鎧の腕部を掠め、裂傷を生む。が、敵方の突撃と同タイミングで義人も加速していたため、傷は浅い。

 そのダメージは自己再生機能によって一秒とかからず消失し、鎧とバイクは何事もなかったかのように戦闘行動を続行する。

 

 走行ルート変更。

 車体を真横に曲げ、ビルの壁面へと推進。

 普通なら激突するのがオチだが、彼が駆るマシンは違う。

 

 ぶつかる直前、進行方向に漆黒の霧が発生し、瞬時にレールを形作った。

 そこにタイヤが乗っかり、次の瞬間、車体が真上に進む。

 

 重力に喧嘩を売るような調子で壁面を爆走。

 されど、敵方にもそれは可能であったらしい。

 ディゼルヴァもまた、天を目指して垂直に駆け抜ける。どうやら、奴には重力操作に類する機能があるようだ。

 

 奴は外見上“外殻型”にカテゴライズされる個体であろう。

 このタイプの調理法はまるで発掘作業だ。

 

 体を覆う外殻は複数の層が存在し、それを全て壊すことで生身が晒される。

 いずれかの部位の奥底にコアや機能を生む器官が存在するので、それを探し当てて破壊。というのが基本的な倒し方となる。

 

 このディゼルヴァの場合部位数は現在二九存在するので、狙ったものを発掘しようとするなら二九分の一の確率を引き当てることになる。

 

 なんとも面倒だと思いながら、義人はバイクのギミックを発動させた。

 

 車体後方、膨張した部位が展開。内部に詰まった無数の小型ミサイルが発射される。

 

 火を噴いて推進するそれが少年を追いすがる四足獣へと殺到するが――此度もまた、敵に同じ手を使われた。

 

 ディゼルヴァの背面部位にある穴から、オレンジに輝く小さな球体が次々と飛び出て、飛来する弾頭を迎え撃つ。

 結果として、バイクから放たれたミサイル達はことごとく相殺されてしまった。

 

『まだまだ行くぞッ!』

 

 その宣告通り、輝く光球は間断なく射出され、走行する少年へと一直線に向かう。

 それらの大半は命中する寸前といったタイミングで推進力を失い、彼が一秒前に駆け抜けた場所に着弾。刹那、小規模の爆発を起こす。

 中にはギリギリで義人に到達するものもあり、それらは車体を右へ左へと動かすことで、どうにか回避した。

 

 そしてビルのてっぺんへとたどり着くが、ここはまだ終着点ではない。

 というか、終わりなどないのだ。何せ、走れぬ場所など存在しないのだから。

 

 闇色のレールが曲線を描く。それが示す方向は、蒼穹。

 逆さまの体勢で、鎧を乗せたバイクが天空を駆ける。だが、それは敵も同じこと。

 

 上空数百メートル地点にて、ニュートンをあざ笑うかのような軌道で走る一人と一匹。

 果てのない道を往きながら、両者共に飛び道具を使っての戦闘を続ける。

 

 絶え間なく続く爆発音の中、少年は思考した。

 

 ――これじゃ埒が明かないな。ゴリ押しが通じないなら、少し頭を使おうか。

 

 策を一瞬で作り、即座に実行する。

 

 まず手始めにミサイルの性質を変更し、やや後方を走る敵方へと射出。それは当然のように迎撃されたが、少年からすれば予定通り。

 

 爆発した弾頭が敵の周辺に高濃度の煙を発生させる。

 

『ぬぅッ!?』

 

 突然視界がベールに包まれたからか、ディゼルヴァは吃驚(きっきょう)した様子で停止した。

 

 刹那、待ってましたとばかりに義人は急旋回する。

 

 その最中、ヘッド部にある八本の反り返ったブレードが血色の鈍い光を放ち、車体が敵正面を向いたと同時に前方へ展開。刃の先端が龍を模した頭部の真ん前、中央一点に集結する。

 

 そこから間髪入れず、突貫。

 未だ不意打ちの煙幕によって身動きを取らぬ敵目掛け、猛然と進む。

 狙うは顔面。そこから直線状に敵の総身を突き破る。

 

 コアというものは大抵体の中心に存在するものだ。ゆえにこの攻撃が決まればそれで戦闘は終わるだろう。

 

 一般的なカラーズであれば外殻を一々壊していくという過程を踏まねばならないが、義人は直感的に、それをすっ飛ばすことができるものと理解していた。

 

 つまり、天馬と同じだ。

 道理を無視して敵を倒す。そんな理不尽さが、自分の力にはある。

 

 そして一カ所に集まったブレードの先端が煙幕を払いのけ、ディゼルヴァの顔面へと到達――する寸前、奴は驚くべき瞬発力で以て首を右下へと持っていく。

 結果、刃は顔面の半分を削るのみに終わった。が、これは想定の範囲内。次のフェイズに移行する。

 

「さっき疾さがどうとか言ってたよねぇ? 随分息巻いてたけど、それにしちゃ大したことないな。お前のチンケな疾さなんか、僕にはなんの脅威にもならないよ」

 

 嘲笑うように言ってから、バイクを今度は地上へと推進させる。

 その後方で。

 

『おのれぇ……! 我が疾さを愚弄するかッ! たとえ貴公といえど許さぬぞッ!』

 

 笑ってしまうような引っかかりようだった。

 

 義人は大きく加速する。

 速く。もっと速く。その思いに応え、マシンが際限なく加速していき――

 

 突如“不可思議な快感”が襲ってきた。

 

 これが俗にいうドライバーズハイというやつなのだろうか。いや、それとは別種の何かのような気がする。

 

『戦闘に集中した方が良いのでは? 無駄なこと考えてると失敗しますよ、この詰甘男』

 

 相棒の口から初めてまともな内容が飛んだ。

 それを不気味に感じながらも、少年は戦いの決着に向けて邁進する。

 その帰結として、車体が地上へ着地。続いてすぐさま角を二回曲がって方向転換し、ビル壁面へと加速。今度は上空に進むようなことはしない。

 

 集結した刃の先端が壁を貫通する。

 車体は建物の内部を突き破りながら猛スピードで推進し、跳躍。

 

 最後の壁面をブチ抜いた先にあったのは、遅れてやってきた敵の脇腹だった。

 

 この区画は碁盤状。その地形を利用し、義人はディゼルヴァに不意打ちを叩き込む策略を考案した。

 

 それは相手を大きく突き放して地上へと行き、カーブを曲がって着地地点へと突き進むというもの。

 そうすることにより、大きく遅れて到着した敵目掛けて突撃をかますことが可能である。

 

 これは互いの速度差が重要な要素となるため、ディゼルヴァの敗因はまさに、疾さ比べで負けたことに他ならない。

 

 そして戦いが終わる。

 側面からの攻撃に敵はなんの反応もできなかった。

 四足獣の脇腹が八本の刃によって貫かれ、幾層かの外殻、その先にあったコアが砕け散る。

 

 かくして、中位ベヒモスは瞬く間に虹色の粒子へと変わり、虚空に霧散した。

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