僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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第八章 POWER to TEARER 4

 午後七時四五分。娯楽集積地帯跡。

 

 焦土化し、小ざっぱりした広大な空間にて、鎧と化物による死闘があった。

 

 純白の鎧、白柳香澄は、対面から向かい来る超極太の熱線に対し一歩も引かず、むしろ盾を構え、突撃する。

 彼女が持つセカンドとしての力が働き、高熱源の塊は完全に無効化。

 金色の奔流、その内部を突き進みながら、敵方に接近していく。

 

 彼我の距離はおおよそ二〇メートル。これだけ離れているにもかかわらず相手の全体像が足しか見えないのだから、やはり彼奴の図体は巨大に過ぎる。

 

 それでいて、機動性が高いときた。

 

 間合いが残り一〇メートル、二メートルと一気に縮まり、香澄は目的の部位である右足の前面外殻を斬りつけた。それにより外殻の一部が粒子となって飛散するが、その直後。

 

 敵の足が、躍動した。

 

 二本の前足をかがめ、力を溜めたかと思うと、そのエネルギーを爆発させて後方へと跳躍。その移動速度は時速三〇〇キロをゆうに超えている。

 

 とはいえ、今の香澄のスペックからしてみれば、このスピードは鈍重と言って良い。追いつけないものでは断じてないし、脅威とも思い難い。

 

 だが、この機動性こそ、香澄の敗因なのだ。

 

 大きく離れた敵を睨みながら、彼女は舌打ちする。

 時間が足りない、と。

 

 先刻から同じことを繰り返している。

 光線をかいくぐって近づき、斬りつけ、距離が離れ……これを何度も何度もやったことでいかな収穫があったか。

 それは何も、だ。

 

 依然として、香澄は敵方の部位を一つも破壊できていない。それなのに、セカンドでいられる時間は残すところ三分を切っている。

 

 奴はおそらく絶対順守型と外殻型の混合種。となれば、戦闘前に伝えられた部位の外殻を全て破り、部位毎に設けられたコアを破壊していかねばならない。

 それが、彼女にはできそうもなかった。なぜなら、火力が致命的に不足しているからだ。

 

 ついさっきの一撃で削れた外殻は、おそらく一〇かそこらであろう。

 奴の外殻層が一〇〇、二〇〇ならいい。されど、おそらく奴が身に纏う外殻の層は数千を超えている。

 香澄の攻撃能力でこれを破壊しつくすことは、まず不可能だ。

 

 しかし、それでも彼女は諦めない。

 

 ――やれやれ、面倒な敵だ。これは真正面からいっても無駄、か。

『彼奴めから離れよ、香澄。遠距離から創造を駆使し、正解部位を狙うのだ』

 ――街の被害をいたずらに増やしたくなかったが、仕方なし、か。

 

 上位相手にファーストとして挑む無謀。それを迷うことなく決定したのと全く同じタイミングで、敵方は大技を使ってきた。

 

 馬鹿馬鹿しいぐらいに大きな口を開き、内部を見せてくる。

 体色と同様の黒ずんだ茶色をした口内の中央に黄金色の粒子が集まっていき、やがて数十メートル規模の光球となった。

 

『汝はまさに無類の盾。その強度にて、これを見事防いで見せよ』

「……むちゃくちゃな真似はよせ、と小一時間説教をかましてやりたいな、全く」

 

 声には僅かな恐怖が滲んでいた。

 

 あれを受けて死ぬ可能性を恐れたから、ではない。

 あんなとてつもないサイズの熱源が地上にぶつかったなら、ここはどうなる? 

 下手をしたなら、地下にまで被害が及ぶ。そうなれば、避難者達は全滅だ。

 

 最悪に過ぎる想像が脳裏によぎる。

 そして、それが現実のものになるか否か、判然とする時が訪れた。

 

 セラフィムが、慈悲も容赦もなく巨大光球を放ったのである。

 

 両の盾を前面に向けて構え、全力で踏ん張り、着弾に備えた。

 かくなるうえは、祈るしかない。己の頭に流れる映像が、ただの妄想であることを。

 

 膨大な超高熱の塊が迫り来る。

 残り一〇メートル、五メートル、三メートル――

 

 瞬間、香澄の視界、盾の合間から見える景色に、異物が入り込んだ。

 

 それは、真紅の鎧。

 左拳に炎のようなエネルギーの奔流を纏わせた、見知りの姿。

 

 その乱入者は彼女の前で身構え、殺到する熱塊に拳を叩き込んだ。

 すると信じがたいことに、先刻まで猛威を振るっていた黄金色の巨大球体が完全に消滅。危機は回避された。

 

 

 

 仲間の窮地に颯爽と駆けつける。そんなヒーロー然とした行いをしても、天馬の心に童(わらべ)のような昂揚はない。

 ただひたすら、間に合ったことが嬉しかった。

 

 真紅の鎧となった彼は背後を向くと。

 

「お前はこっから離れて、下位の相手をしてろ。こいつは、オレが必ず仕留める」

 

 その言葉で、香澄は全てを察したらしい。

 激励や喜びの一声など何もなく、敵方の情報のみを伝えた後、背を見せようとする。

 

 その直前、天馬は一つの問いを投げた。

 

「お前のヒーローは、目の前にいるか?」

「……下らんことを抜かすな、“馬鹿ヒーロー”」

 

 そう返答し、彼女は離脱した。

 鎧となっているがゆえに、その表情はわからない。だが天馬には、香澄がどのような顔で、どのような気持ちで先刻の言葉を送ったか、しっかりとわかった。

 

 それに満足すると、彼は敵方を見やり、

 

「行くぜ、化物」

『……此方(こちら)の戦士もまた、中々の勇者と見える。よかろう、かかって参れ』

 

 紅い鎧が攻撃姿勢となった。

 その両の拳に紅蓮色の奔流を滾らせ――踏み込む。

 

 自分は人間でしかない。しかし、それがどうした。

 大切なものを守る。大切なものを傷つける人外を打ち倒す。今したいこと、すべきことは、その二つのみ。

 

 神代天馬という名の炎が今、灼熱の時を迎える。

 

   ◆◇◆

 

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