僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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喧嘩するほど仲がいい? 後編

 某日。駐屯所待機エリア内、テニスコートにて。

 

 香澄、義人、天馬は隊服を、椿はスポーツウェアを着用しており、運動の準備は万端といった調子である。

 

「よし、ではペアを決めるぞ。私と椿さん、義人と天馬だ」

「「異議あり」」

「却下」

 

 即座にノーを突きつけてやると、香澄は椿と共に彼等と対面のエリアに行く。

 そしてゲーム開始。

 

 先攻は香澄・椿ペア。よって、香澄がサーブを行う。

 ポニーテール状にまとめた黒髪を躍らせながら、彼女はボールを打った。

 小気味いい音と共に相手コートへと向かう球体。

 それを義人が打ち返した

 

 轟音。

 音の壁を破りかねない凄まじい速度で推進するテニスボール。

 こんなショット、身体強化系の異能でも使わなければ反応できない。

 

 香澄も椿もそうした異能持ちではないため、当然ながら、先制点は向こうに入る。

 

「……おい義人。異能を使うのは禁止だ」

「ご、ごめん。僕の場合オートで発動しちゃうんだ。だから力を使ってるって自覚がないんだよ」

「………………早くも詰みの匂いがする」

『挫けるでない。まだまだ始まったばかりではないか』

 

 励ましてくる相棒に、香澄は盛大な嘆息を返す。

 

 それ以降、展開はまさに義人の独壇場であった。

 マッハサーブ、マッハ返球などなど、ボールの速度が音速並みのレベルに到達しており、とてもではないが手に負えない。

 

 だが、香澄はそれを不満に思ってはいなかった。

 別に勝ち負けなどどうでもいいのだ。このテニス勝負は、スポーツを通して義人と天馬が仲良くなってくれればと思い企画したこと。

 ゆえに勝敗など二の次である。

 

 それは椿とて同じ。

 彼女はさっきからめんどくさそうに突っ立てるだけで、ほとんど動いていない。

 そのやる気のなさには思わずイラッと来てしまうものがある。

 

 が、香澄の抱えるストレスなど、彼のそれに比べれば微々たるもの。

 

 次の瞬間、天馬は己のうっぷんを爆発させた。

 

「らぁッ!」

「痛ぁッ!?」

 

 栗髪の少年が打ったサーブ。それが義人の後頭部に炸裂した。

 

 相当痛かったのだろう。頭を抱えてうずくまる白髪の少年。

 それに対して天馬はにこやかな顔となり、

 

「あっ、わりぃわりぃ。ちょっとコントロールミスっちまったわ」

「…………とだろ」

「ん? なんだって?」

「わざとだろって言ったんだよ、この難聴野郎おおおおおおおおおおおッッ!」

 

 鬼の形相となりながら立ち上がり、絶叫する義人。

 その後も、彼の口は止まらなかった。

 

「自分が活躍できないからってボールぶつけんじゃねーよッ! 何もかもお前がどん臭いから悪いんだろーがッ!」

「あぁん!? なぁぁぁんだってぇぇぇぇぇ!?」

「それ言っときゃ場が収まるとでも思ってんのか、この腐れ主人公野郎ッ! ていうかイヴ! なんでバリア展開しないんだよ! ……あぁ!? 僕の痛がるところが見たかったから!? つーか笑ってんじゃねーよ、この地獄落ち確定幼女!」

 

 地団太を踏み怒りを爆発させる白髪の少年。

 

 彼の口から放たれる凄まじい罵声が、大喧嘩開始のゴングとなった。

 その様子を眺めつつ椿が呟く。

 

「なんだ、こんなもんか。この程度可愛らしいもんじゃないの。“あいつら”みたいにガチの殺し合いに発展しないだけ全然マシよ。むしろ微笑ましいぐらいだわ。あの二人は喧嘩するほど仲がいいを地で行ってるだけ。気にする必要なんかどこにもない」

 

 過去を思い返しているのだろう。椿は遠い目となっている。

 だが、香澄は彼女のように考えることができなかった。

 

「……ああああああああもうッ! やかましいわ、この馬鹿共があああああああああッッ!」

 

 振るわれたハリセンが、気持ちの良い音を鳴らす。

 

 キラリ輝く青春作戦、大失敗。

 

   ◆◇◆

 

 休暇日。天馬の自部屋にて。

 

 昼を摂り終えてから、香澄は栗髪の美少年に対しおすすめの特撮を見せてほしいと頼んだ。

 特撮になどほぼ興味のない彼女がかくのごとき発言をしたことで、天馬は怪訝となる。が、彼は断らなかった。

 誰かと共に特撮番組を見たい。彼にはそういう願望が常にあるのだ。

 

 ついでに義人も誘い、三人で鑑賞会を行う。

 

 天馬の部屋はヒーローグッズの塊だ。右を見ても左を見ても、ついでに上下を見ても、ヒーロー成分が存在しない部分が皆無。

 

 ――昔から思ってきたが、ごちゃごちゃしすぎだろうこの部屋。あの玩具などろくに手入れされておらんではないか。全く、私の宝部屋を見習え馬鹿者が。

『あれのどこを見習えばよいのか、私にはとんとわからんのだが……ともあれ、二人の雰囲気は今のところ最高の状態だな』

 

 ユキヒメの言う通りだった。

 

「お、こっからがいいとこなんだよ。見逃すんじゃねぇぞ香澄」

「スーツアクターの高山さんがとんでもない動きするんだよねぇ。……そうこれ、この動き。痺れるなぁ。異能者でもないのになんでこんな風に動けるんだろ」

「だよなー! 前方後方のバク天ならオレでもできっけどさぁ、真横に回転とかぜってぇ無理だわ! さっすがミスター特撮ヒーローだよなぁー」

 

 わいわいと盛り上がる両者。

 それを見て、香澄は思う。最初からこうしておけばよかった、と。

 

 この二人は共に特撮好きである。義人はあくまでもフィクションとして楽しみ、天馬は現実に動きを取り入れるなど、考え方は正反対だが、特撮愛好家同士であることには変わりない。

 

 ――思い返してみれば、こういうものに関して話してるときだけは喧嘩をしたことがなかったな、こいつら。やれやれ、ようやっと突破口が――

 

 安堵の息を吐こうとした直前、彼女は思い知ることとなる。

 愛好家同士ゆえに、譲れぬものがあるということを。

 

「これこれ! 必殺技をやる前のこの溜めがいいんだよ! やっぱアルトはかっこいいよなぁ。この作品内でナンバーワンのヒーローだぜ!」

「……は?」

 

 白髪の少年が顔をしかませ、天馬の顔を見やる。

 そして。

 

「何言ってんの君。アルトとか主人公補正満載の甘ったれ野郎じゃん。そんなのをナンバーワンに据えるとか、感性腐ってんじゃないの?」

「……あぁ?」

 

 ドスの利いた声を吐き出し、瞳を鋭くさせる天馬。

 しかし、義人は微塵も気にせず言葉を続けた。

 

「この作品内でナンバーワンのヒーローはギースでしょ。こんなにも不幸なヒーローは平成どころか昭和もひっくるめて存在しないよ。この哀愁漂うカッコよさこそナンバーワンに相応しいと思うのが普通の感性――」

「ギースぅ? そいつってアレだよなぁ、変身した姿が気持ち悪いあのギースだよなぁ? あんなもんをナンバーワンヒーローとか言っちゃうんだお前。ぷぷっ。やべぇ、マジやべぇ」

「…………アルトだって似たようなもんだろ。何あの最終フォームの顔。カニかよ。マジださい」

 

 睨み合う両者。

 しばらしくて、感情の堰が互いに切れ――

 

「よくもアルトの悪口言いやがったな、このゲテモノ野郎おおおおおおおおおおおッ!」

「事実を言ったまでですが、何かあああああああああああああああ!?」

 

 特オタ同士による大喧嘩が始まった。

 その様子に、ユキヒメが一言。

 

『ダメだこりゃ』

 

 その言葉の後、香澄はブツリという音を聞いた。

 直後。

 

「……うるせええええええええええええええええッ! このクソッタレ共があああああああああああああああああああああああああッッ!」

 

 もはや女を捨てたとしか思えぬ大絶叫の後、ハリセンが千切れんばかりのフルスイングが放たれる。

 

 馬鹿二人への折檻中、彼女の脳内に相棒の声が響く。

 

『一生このままの関係になりそうだなぁ、ヌシ等は』

 

 その応答として、香澄は美貌を崩壊させながら叫んだ。

 

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

完 

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