僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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第二章 密林の悪魔 1

 六月一五日。午前三時二五分。太平洋、南鳥島付近にて。

 

 日本の領海守護のため、護衛艦うずまきとその乗組員達は本日も忠実に職務を全うしている。

 

 そう、現在進行形だ。一般人であれば、大半の者がこの時間帯には休養を取るだろう。

 だが、彼等海上自衛隊にそんなものはない。

 

 江田島一曹及び東二曹は、本日寝ずの番の担当であった。

 うずまきの甲板には、全方位五〇キロ圏内を監視する高性能カメラが設置されている。

 その映像は艦内のモニタールームに常時配信されており、それをじっと見守るのが二人の任務であった。

 

「江田島さん、俺いつも思うんですけど、この仕事って必要なんスかね」

「あぁ? そりゃオメー、必要に決まってんだろ。最近じゃオメー、ステルス艦なんてもんまであるんだぜ? レーダーに映らねぇから肉眼が要るってわけよ。どんだけ科学が発展しても、やっぱ人力に勝るもんはねぇってこったな」

「いや、そういう意味じゃなくてですね、こんな風にガチガチな監視なんか必要なのかなぁってことなんスけど」

「あー、そういうことか。まー、そうだわな。最近っつーか、ここ一〇年は領海侵犯なんざ滅多に起こってねぇもんなぁ」

「領海侵犯の常連国が、もはや仮想敵国じゃなくなってますもんねぇ。まっさかクーデターが成功するなんて、誰も思ってなかったんじゃないっスか?」

「だなぁ。ベヒモスが現れて以降、歴史的な事件がガンガン起き過ぎだぜ。俺みてぇな年寄にゃついていけねーよ」

「はは、まだまだバリバリでしょう江田島さんは。三八なんて若者ですよ、若者。……話が戻りますけど、中国でのクーデター後、なーんで他国は介入しなかったんスかねぇ? 特にアメリカとかロシアとか、絶対やるでしょ、常識的に考えて」

「そこは俺もわかんねぇよ。あの王死龍(ワン・スーロン)にビビっちまったか、はたまた、あのクーデターが米露の手引きによるもので、王は奴等の駒でしかねぇ、って線もあるな」

「永遠に解かれない謎になりそうっスよねぇ……」

 

 雑談に興じながら、ズラリと並ぶモニターを眺める。

 

「はぁ、退屈っスねぇ。海の上にはベヒモス共が来ねぇからなー。……あ、そうだ。俺いいこと思いつきました。ドデカい島を造るんですよ。そんで、皆そこに住むんです。そうすりゃ、ベヒモスの脅威は完全になくなるんじゃないっスか?」

「んなわきゃねーだろ、馬鹿。そんときゃその島にベヒモス共が現れるだけだぜ」

 

 笑いながら返す江田島一曹。

 だが、彼はすぐさま神妙な顔となり、

 

「……なぁ東。オメー、ベヒモスとやり合ってみてぇって、そう思ったことねぇか?」

「あー、俺はそういうのパスっスね。いや、やらにゃならん時はちゃんとやりますよ? これでも自衛官っスから」

「ははっ、そいつぁ頼もしいこった。…………俺の同期な、ほとんどがカラーズになってんのよ。んで、どいつもこいつも割といい感じに戦果上げててよ。……こんな気持ちは、本来下衆なもんだと思うんだが……俺もな、あいつらみてぇに国民を守りてぇんだよ。誰かを守りてぇから自衛官になったわけだしな。あいつらみてぇに活躍してぇわけよ。けど、現実はこのザマ。くそつまんねぇ海の上で波に揺られることしかできねぇ」

 

 暗い語調で言う江田島に、東は少々言葉を選びつつ、応答した。

 

「うーん……俺等の仕事も、立派に人を守ってるんじゃないっスか? 国民脅かすのは、別にベヒモスだけじゃないでしょ。そりゃ中国はもう仮想敵国じゃないっスけどね、でも、今後未来永劫そうってわけじゃねぇでしょう。……つーかそもそも、俺等は戦っちゃいけない連中じゃないっスか? 俺等が功績あげるってことはつまり、結構大勢の人間が不幸になるようなイベントが起きちまったってことでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「江田島さんや俺が英雄にならねー代わりに、守りたい国民達が平穏無事に暮らせるって思えば、気も張れるってもんでしょう?」

「……あぁ、わかってるよ。俺は英雄ってやつに魅せられた大馬鹿野郎だ。いい歳して、みっともねぇよな。けど、やっぱ憧れちまうんだよ。ヒーローって奴にさ」

「はぁ。まー、わかりますけどねぇ、その気持ち。俺も現在進行形で憧れてるヒーローがいるんスよ。江田島さんも知ってるでしょ? ブラックナイトって名前――」

 

 言葉の途中で、東の顔に緊張が満ちた。

 緩い空気が、一気に引き締まる。

 

「……ねぇ、江田島さん。あれ、なんスかね?」

「あぁ?」

 

 東二曹の指さす先。モニター画面の一つを見やる江田島一曹。

 と、次の瞬間、彼の顔が一気に青ざめた。

 

「おい、一体なんだよ、ありゃあ……!」

 

 この時、彼等は身を持って理解した。

 

 退屈を埋めるための対価は、相応に大きい、と。

 

   ◆◇◆ 

 

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