僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――   作:下等妙人

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第二章 密林の悪魔 18

「黒幕探しはあくまでもサブの目的として考えよう。僕等がメインに据えるのは、あくまでもこの怪獣に関する調査だ。討伐した際になんらかの問題がないか。それを調べることが、僕等の任務。誰がこんなものを用意したのか。何が狙いなのか。そういったことは、一度頭の片隅に置こう」

 

 彼の提言に、皆は一様に頷いた。

 

「そうだね、君の言う通りだ」

「危うく敵の罠に引っかかっちまうところだったぜ」

「まったく、小賢しいことをするやつだ。正々堂々真正面から来いと説教してやりたいな」

「そんな間抜けな敵、居るわけな――」

 

 レベッカの声が、強制的に終了させられる。

 

 それは、本当に唐突だった。なんの前触れもなく、脈絡もなく、“奴”は唐突に訪れた。

 レベッカの背後に突如出現したそいつは、人型の怪物。

 

 二メートルを超える体躯と、爬虫類の様な体。頭部は仮面状の何かで覆われており、全貌は視認できない。その仮面に似た装着物、その後頭部から伸びるドレッドヘアーの様な管状の器官が、妙に見覚えを感じさせた。

 

 そして、奴の両腕には巨大な爪を思わせる武器が装着されており――

 義人が動くよりも前に、怪物はレベッカを背後から突き刺した。

 

「ぇ……ぁ……?」

 

 彼女の口から、小さな声が漏れる。

 後ろから心臓を一突き。その衝撃により眼鏡がずれ、それが地面に落下する頃、レベッカの命もまた落ちていた。

 

 刹那、誰よりも先に、ナンシーが戦闘行動を開始する。

 

 彼女は口を開き、声帯を震わせた。それが凄まじい衝撃波となり、敵方へと向かっていく。

 しかし、それはレベッカの遺体と、射線上にあった木々を破壊するのみであった。

 

 ナンシーの異能、おそらくは音響操作によって生み出された衝撃波。それが怪物に到達する寸前、奴の姿が消失した。

 六人が周囲に警戒の目を向ける。それをしないのは、義人のみであった。

 

 彼は思考する。

 

 ――何がなんだかわからない。けど……一番意味がわからないのは、僕自身の心境だな。

 

 襲撃者への興味は、さほどない。なぜなら、大きな脅威とは全く思えないからだ。

 それゆえ、彼が気に掛けるのは、自身の心である。

 

 目前で人が死んだ。それなのに、何も感じない。

 守ることができなかったという悔恨。殺害した相手への怒り。

 そうした人として当たり前の感情が、全く湧き上がってこない。

 

 ――紛争問題の解決とか、そういう活動をしてるからか……人の死に、慣れ過ぎたのかな? だから、僕は他人の死に無頓着になってるのか? ……いや、そんなことは――

『ありますよ。あなたは本質的にそういう人間です。こいつらのことなど、あなたは今に至るまでどうでもいい存在としか見ていません。よって、例え死んだとしてもなんら感じるものなど皆無です』

 

 相棒の言葉を否定したい。だが、頭をひねっても反論の言葉が出てこなかった。

 なぜなら、眼前にて緊迫感をまき散らす彼女等を、守ろうという気がまったく湧かないからだ。

 いや、正確に言えば“ただ一人例外が居る”のだが、それでもなお、彼の心には闘争の意欲が生まれない。

 

 そんな心境に、違和を覚える。そうしている間にも、状況は進行していき――

 怪物は第二の犠牲者を定めたらしい。

 今度は、ソフィアの背後に現れた。

 そして彼女に対し、レベッカの時と同様、凶器を振るう。しかし。

 

「――ッ!」

 

 短い茶髪を揺らめかせながら、彼女は体を横へ移動させ、攻撃を目視することなく回避して見せた。

 それからすぐに後ろを向き、前蹴りを放つのだが、それが命中する直前、敵の姿が消失する。

 そうした様子を眺めながら、義人は分析を行う。

 

 ――敵の能力は瞬間移動だな。それはもう間違いない。で、ソフィアの異能はさっきの動きから察するに、天馬と同じ身体強化、もしくは五感強化あたり。感覚や神経を鋭敏にさせて、背後の気配を瞬時に察知。そうすることで、回避とカウンターを可能にする。そこまでできるのなら、凡庸とは到底言い難い。けど――

 

 思考の最中、背後に気配を感じる。

 瞬間、義人は最小限の横移動を行った。直後、今しがたまで居た場所を、刃が通過。

 そして、彼は背後を見ることなく僅かに後ろへ体を倒しながら、右肘を背面へと打ち込んだ。

 

 強烈な手ごたえ。同時に、粉砕と破裂の音が耳朶を叩く。それから何か大きなものが地面に倒れ伏せたことで生まれた衝突音を聞きながら、心中で吐かれた言葉の続きを口にした。

 

「天馬の方が、遥かに上だな」

 

 この場には居ない少年の顔を脳内に浮かべつつ、彼は嘆息した。

 

 スペシャルチームと銘打ちながら、その実、さほど高レベルの者は居ない。これでもう、ほとんど本決まりになった。彼女等は義人を籠絡するためのハニートラップでしかない、と。

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