【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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100 ブレイクスルー

 

 

 

『強い!!やはり強いぞスマートファルコン!!この雨の中、不良バ場を物ともせず先頭をただひたすらに駆け抜けるっ!!これが世界の隼だ!!』

 

 JBC当日、そのGⅠ初戦であるJBCレディクラシック、そこを走る我が愛バ、スマートファルコン。

 その走りを見て……俺は、感動と共に、一種の畏怖を感じ始めていた。

 

 簡潔に、一言で表そう。

 ()()()()()()()()

 

「…ここまで走れるようになってたのか…ファルコン…!!」

 

 SSの現役時代のレースを見たときの様な、それ。

 …いや、言いにくい事だが脚の形というハンデのある彼女と比べれば、スマートファルコンは走るウマ娘だ。

 当然、俺がこの日の為に仕上げた脚は、この雨の中でも一着で駆け抜けてくれるだろう、と信じていた。

 先程控室でオニャンコポンを吸って、俺の心音を聞きながら頭を撫でてもやり、絶好調でレースに送り出していた。

 

 しかし。

 俺の想像を超えて、砂の隼が荒ぶっている。

 

『1800mのレースも残すところあと400m!最終直線を残すのみっ!!ここで先頭のスマートファルコンが直線に入る!!後ろからはノルンエースが来ているぞ!だが差が広い!!これは決まったか!?』

 

 いつもの如く好スタートを切ったスマートファルコンは、大逃げとは表現できず、しかしただの逃げにしては大きすぎるほどの、自分なりの加速を持って、まずスタート地点で先頭をキープした。

 この時点で競る事ができるウマ娘はいなかった。彼女のスタートはアメリカ遠征で更に磨きがかかっていた。

 

 そしてその後の最初のコーナーに入ったところで、SSの教えの通り速度を落とさず曲がり抜ける。

 体幹を十分に鍛え上げたこともあり、その曲がりはブレがなく、スタミナの消耗を抑える走りにもなっていた。

 ダートは芝に比べれば踏み込む力が必要になり、コーナーも当然スピードが乗らなくなる…が、彼女の豪脚にその常識は通用しなかった。

 

 そうして中盤、1000m地点に差し掛かったところで彼女は領域(ゾーン)に突入。

 ただ砂を駆ける、その心象風景は砂塵の王たる隼の猛りを感じさせるもの。

 さらに加速して後続との距離を放す。

 

 そうして最終コーナーに入っていき、再度SSのコーナリングで後続に差を詰めさせないままに、セイウンスカイから学んだ加速も重ねて最終直線に向かっていた。

 

『速い、速いっ!!これが不良バ場の走りか!?これが世界の走りなのかっ!!スマートファルコンが独走だ!!後ろからノルンエースとミニーザレディが上がってくるが届かないっ!!今っ!!スマートファルコンが一着でゴーーーーーーーーーーーールッッ!!!』

 

 最終直線、ここでファルコンは速度をさらに上げるという選択肢を取らず、冷静に速度をキープして、そのまま後続との距離を詰めさせずに一着を取った。

 余りにも冷静だ。完璧と言っていい。

 最終直線でさらに加速という手段もとることはできただろうが、しかし今日は雨が降っており、不良バ場である。

 ラストの直線でデッドヒートを繰り広げる可能性もあるため、レース前にあえてその話はしなかったが、最終直線ではできれば無理をしてほしくなかった。

 

 一般的に最終直線は、どのウマ娘も思い切り加速し、脚に力を籠める。

 必然、()()()()()()()()

 今日のレディスクラシックは第8レースで、これまでも7回レースが開催されており、その最終直線のバ場は荒れていた。

 そのため全力で走った際に足が滑る可能性も考慮し、無理のない速度に抑えてそのまま走り切ったのだ。素晴らしい判断だと言わざるを得ない。

 

 そして、そんな彼女のゴールタイムはレースレコードに迫るもの。

 雨の、不良バ場であるこのコースで、最終直線を流したうえで、レコードまでコンマ5秒であった。

 無論、レース途中で後続のノルンエースら、牽制を得意とするウマ娘達からの圧や牽制を受けてなお、だ。

 

 隙が無い。

 スタート、序盤、コーナー、中盤、最終コーナー、そして最終直線。

 すべてが連なるように、どこでも強い。

 …俺が彼女に、逃げウマ娘に求める走りの完成系に、極限まで近づいていた。

 まだクラシック期だというのに、である。

 

「…とんでもない、レースでしたね…絶対、その二文字が頭によぎりました」

 

「強くなってるの…ファルコンちゃん、砂の上じゃあ無敵なの」

 

「あー………脚が疼くゥー………はー………あれと()りてェー………」

 

 チームメンバーも、ファルコンのその圧倒的な勝利に、祝福の気持ちの傍ら、畏怖を感じているようだった。

 いや、SSだけは武者震いか。彼女も現役時代はダートをメインに走ったウマ娘だ。疼くよな。

 

「…よし、みんな。素晴らしい走りを見せてくれたファルコンを祝いに行こう。フラッシュはバッグを、アイネスはタオル頼む」

 

「っと、そうですね!ファルコンさんの日本のダートGⅠの初勝利なのですから!」

 

「うん、流石なの!!行こ行こ!雨の中だし、よく拭いてあげないとね!」

 

「おー、ライブで見栄えよくなるようにしっかり泥落としてやろうぜェ」

 

 そうして俺たちは、勝利後に観客席に手を振るファルコンを祝福に向かった。

 

 

 なお、このレースでは2着であったノルンエースだが、こちらも地味にすさまじい時計でレースを駆け抜けている。

 ファルコンには敵わなかったが、しかし純粋にタイムが雨の降る不良バ場のそれではない。ルディやミニーも続いてよい走りだった。北原先輩も、悔しさを顔ににじませながら、走りをよく褒めていた。

 

 これには理由がある。

 不良バ場…特に、今回の様に雨まで降ったダートで、路面が荒れている場合、地方出身のウマ娘にとっては好条件となる。

 少しばかり際どい話になるが…荒れたダートのバ場というものは、地方を走るウマ娘にとっては走り慣れた物なのだ。

 何故なら、彼女たちが地方で走るレース場と言うものは、中央のそれと比べてバ場が荒れていることが多い。整備にまで手が回っていないのが現状だ。

 怪我の危険性も高まるので、その辺はURAがしっかり頑張ってほしいと心底思っているが、しかし事実として彼女たち地方出身のウマ娘は荒れたダートに強かった。

 

 

 

 つまりだ。

 この後に残る2つのGⅠレースについても、俺は勝者を予想できていた。

 

 

 

『─────来た来た来た来たーーー!!残り400m、最後方から!!ハルウララが一生懸命上がってくるぞ!!JBCスプリント!!短距離でも負けないと!!私も世代のウマ娘だと叫ぶようにぶっ飛んできた!!先頭まであと少し!!行けるのかハルウララ!先頭が譲らないか!!いやッ!!ここで更にハルウララが加速!!これは行った!!ブッ差したッッ!!今ゴーーーーーールッッ!!!ハルウララだ、ハルウララだッ!!頑張ったハルウララ!!クラシック世代のダートはスマートファルコンだけではないっ!!泥にまみれたその晴れ着が輝いているっ!笑顔で勝ち取ったダートスプリント王者の冠!!ハルウララが一着ですッ!!』

 

 

 

『─────ここまで冷静にレースを観察していたフジマサマーチが来た!!先頭のウマ娘に追いつくぞ!!シニアの意地!!ダートで若造にデカい顔はさせないと!!凄い形相で加速するッッ!!これは新旧ジャパンダートダービー覇者の共演だ!!強いッ!!突き抜けた!!最終レース、荒れたバ場など何のその!!やはり強かった『砂の麗人』!!これがカサマツの底力だッ!!今!!後続を突き放してゴーーーーーーーーーーーールッッ!!主役をクラシックウマ娘には渡さない!!砂には私がいるんだと!!砂の麗人がいるのだと!!そんな嘶きが聞こえるような素晴らしい走りでしたっ!!JBCクラシックを一着で駆け抜けたのは、フジマサマーチだーーーーッ!!!』

 

 

 

 ハルウララと、フジマサマーチ。

 共に地方出身のこの二人が、残る二つの冠を見事に射貫いていった。

 

 それぞれ、可能性を、成長を感じる走り。

 チャンピオンズカップで、彼女たちがスマートファルコンと鎬を削ることになるだろう。

 

 

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────────────────

 

 そうしてJBCのGⅠを勝ち取り、次にチームが挑むGⅠ…ジャパンカップを来週に控えた、練習日。

 今日の練習は併走となっており、特にアイネスが己の脚をレースに仕上げるために、熱を入れて練習に取り組んでいた。

 

「その角度だ!それを意識して曲がれェ!絶対頭を上げるんじゃねェぞ、すっころぶからな!!」

 

「はいなの!!……だああああああああっっ!!」

 

 SSも以前に増して指導に熱を入れて、彼女の走りを仕上げるために併走を繰り返していた。

 先日のマジェスティックプリンスの襲来の件で、彼女の後ろにライバルであるイージーゴアがいることが分かり、絶対に負けないと熱意を燃やしているのだろう。

 有難い事である。俺の眼から見ても、彼女のコーナーでの走りは芸術品だ。

 スマートファルコンもエイシンフラッシュも、そのコーナーの技術が馴染んできていた。この走りが完璧になれば、うちのチームは今後すべてのコーナーで上位に立てるだろう。

 アイネスフウジンも、たとえ領域に入れなくても一着が取れるようにと、己の走りを更に磨き上げていた。

 

「いいペースです!そのまま、残り300m!」

 

「いけー!アイネスさーん!!」

 

 ゴールまでフラッシュとファルコンが時計を構えて走る二人を見守る。

 フラッシュとファルコンは今日まで走る練習をさせていない。疲労の、怪我の回復に努めている。

 二人ともほぼほぼよくなっているので、走らせるのは来週からだ。

 フラッシュは痛みが長引かないか懸念もあったが順調に回復しており、ファルコンは前にも感じた通り、その脚の治りが異様に速いため、二人の脚については懸念はなかった。

 

「…よし、お疲れ!いい時計だったぞアイネス!SSもお疲れ様、1000m地点からの合流とはいえ、いっぱい走ってくれて有難うな」

 

「……っぜー、ぜー!!領域はもう、一旦忘れちゃうの!練習でも出ないし…純粋にあたしの走りでジャパンカップで勝ってやる!」

 

「その意気だぜ……っふー。マジで、領域抜きならお前の走りはピカ一なんだから、そこは自信持っていけよ」

 

 タオルで汗を拭きながら、先ほどのアイネスの走りをSSが講評する。

 俺も同意見だ。アイネスの走り……それ自体は、素晴らしい仕上がりになっている。

 

 そもそも、アイネスは日本ダービーの後も、練習に真剣に取り組み、アプリで管理する成長曲線でも伸び悩む気配は見せていない。

 言ってしまうと、領域無しでチームの3人がよーいドンで走ったとすれば、恐らく最も勝つ確率が高いのがアイネスだ。

 素の力は、相当に仕上がっている。

 先日の秋華賞で領域抜きでレコードを取ったのがその証拠だ。秋華賞くらいのレースになれば、過去のウマ娘も領域を使ったうえで記録を出しているが、それを素の実力で超えることが出来る脚をアイネスは持っている。

 

 だからこそ、問題はレース中の走りに限定される。

 練習で出せている彼女の実力が、レースで発揮しきれていないような、それ。

 スランプ、その表現が一番合っている。実力を余す事なく発揮できれば、領域抜きでも勝ちきれる力をつけてやれているとは思うのだが、しかし秋華賞ではそうはならなかった。

 それを何とかするために…まず、彼女が己の走りに改めて自信を取り戻す必要がある、と俺は考えていた。

 

「…アイネス。ジャパンカップに出走するウマ娘は先日発表があった通りだ。マジェスティックプリンスに加えて、間違いなく強敵になるだろうウマ娘が…二人いる」

 

「うん、わかってるの。……()()()()ちゃんと、()()()()()()ちゃんね」

 

「ああ。…スピカの二人だ。あの沖野先輩が仕上げて…そして、天皇賞秋であれほどの激戦を見せた、シニアの二人が来る」

 

 俺はアイネスに改めてジャパンカップで注意するべきウマ娘について話した。

 先日出走ウマ娘が決定し、マジェスティックプリンスのほか、スピカからウオッカとダイワスカーレットが参戦してきた。

 その二人は先日の天皇賞秋で大激戦を繰り広げ、コースレコードを更新し、5cm差でウオッカが勝負を制した。劇的な決着に、日本中が驚喜した。

 そんな二人が、来る。

 

 なお、菊花賞を走った後のメジロライアンはグランプリ連覇を目指し有マ記念一本に集中するとのことで、11月のレースには出走しない。

 サクラノササヤキはエリザベス女王杯に挑んだが、メジロドーベルに差し切られて惜しくも3着。

 マイルイルネルはマイルCSに挑んだが、こちらもダイタクヘリオスに逃げ切られての2着だった。

 ササヤキとイルネルは有マ記念には出走せず、脚を休めて1月からの重賞に挑むという噂だ。

 

 俺は息を整えたアイネスに近づいて、改めて俺の想いを伝える

 

「アイネス。…君は、ウオッカにもスカーレットにも、マジェスティックプリンスにも負けてない。練習通りの走りが出来れば、勝ちきれる。嘘じゃないぜ?俺はウマ娘に嘘はつかないのが信条だからな」

 

「アタシも保証するぜ。プリンスの脚を4か月見たアタシが言うんだから間違いねェ」

 

「……うん。自信を持って挑んでやるの…!」

 

「ああ。…俺は、君に勝ってほしい。トレーナーと言うよりは、俺一個人として…選抜レースのあの時、君が言った強い想いが嘘じゃないって、信じてる。だから、頑張ろう。頑張って、勝とう」

 

「……はいなの!!」

 

 熱が、戻ってきている。

 アイネスの瞳には、これまでの練習で積み上げた己の脚への信頼が、勝ちたいという熱が、燃え上がっていた。

 調子は好調に向いている。

 

 ────────あとは、その想いを、レースにぶつけるだけだ。

 

 

 ジャパンカップが、来る。







100話なので活動報告上げてます。
今後の更新頻度についてなども書いてるところさんです。
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