たまに何も考えず話を書きたいときがあります。
「暇だな」
俺は朝一のチームハウスで、コーヒーを飲みながらふと呟いた。
現在は登校時間だ。チームハウスには誰もおらず、俺と肩に乗るオニャンコポンがそこにいるだけだった。
先日のチャンピオンズカップでは、我がチームのダートの王、スマートファルコンが見事な一着を取った。
勝利を共に喜び、走りを褒めて、レース後の脚のダメージも確認したところ一般的なそれを超えてはおらず、何の問題もなくウイニングライブを踊り終えた。
最近はレース後に脚に異常が見つかることが多かったため、ほっと一息といったところだ。
ライバルたちを圧倒し、レコードを記録するあの素晴らしい走りを見せても、砂の隼に消耗はなかった。
間違いなく、全盛期に入っているだろう。
今後の好走も期待できるな。
さて、話は冒頭に戻り、今日はそんなレースが終わって3日後。
今後のレースはフラッシュの有マ記念が待っており、それについて仕上げる日々だ。勿論、年末のファルコンの東京大賞典にも同時に備えている。
しかし今日は、そのフラッシュとファルコンの練習が休みの日だ。
フラッシュは昨日まで脚を練習でだいぶ使ったため、疲労を抜く一日。明日はマッサージをする予定だが、今日はとにかく安静にする必要があるため、午後の練習には参加しない。
ファルコンも同様だ。彼女の脚はレースの疲労を取る必要があるためここ一週間はマッサージがメインだが、マッサージは毎日やるだけでは効果がマックスにはならない。適度な間隔があってこそ、ウマ娘の脚は回復するのだ。
ではアイネスはどうなのかと言う所だが、つい先ほど朝のマッサージを終えて授業に向かったところである。
現在はウマ娘達の登校時間だが、アイネスには早い時間に登校してもらうようにお願いしていた。電動キックボードで登校したらチームハウスに顔を出すように言ってあった。
ジャパンカップから一週間と少し経過したが、彼女の脚はようやく炎症が抜けて、リハビリの時期に入ったため、マッサージで脚の回復を促していたというわけだ。
ジャパンカップでの激走の後に軽度の関節の炎症を患ってしまったアイネスフウジンの脚だが、こちらも俺の経験からくる予想を超えて回復が早い。
後に残ってクセになってしまいそうな兆候が全く見えていないことが何よりで、早い回復はやはりゼロの領域に入ったことによるものだと思うが、しかし俺はこの回復を計算に入れて有マも…とは、考えたくはない。
特に秋のGⅠは激戦が連続で続くため、脚の負担は極力かけたくはない。一瞬の油断が文字通り命取りとなる。
ここまでのチームのウマ娘達の脚のケガは体幹トレーニングによる地固めの効果もあってなんとか軽く済んでいるが、次もそうだとは限らないし、そもそも次があってはいけないのだ。
SSとも相談しているが、この後どれほどアイネスの脚が順調に回復したとしても、彼女の次走は来年となる。
練習に早めに戻ったりなどはしてもいいとは思うが、出走予定は変えるつもりはない。アイネスにもここは理解してもらっている。
そして今日の俺の予定は、それだけであった。
つい先ほどアイネスの脚のマッサージを終えたため、この後は練習も学園の仕事も、何の予定も入っていなかった。
俺にとっては珍しく、どフリーの一日になる。平日なのに。
ちなみに、本来であればこの時間にはちゃんとチームハウスに出勤してきているはずのSSだが、生憎今日は彼女も一日不在である。
今日はトレーナー同士の知識共有、研究のための定期研修会があり、そこにSSも参加してもらえないか、と打診を受けていたのだ。
SSの持つ経験、知識は他のトレーナーにとっては貴重なものだ。ウマ娘への接し方や、ウマ娘の視点から見た学園の事、トレーナーの在り方などについての意見も出せる。
俺も学園全体のトレーナーのレベルアップと交流につながるその研修には何度も出たことがあり、今回はSSが参加しているというわけだ。彼女だって既に何度か出席した経験がある。
今日はSSの意見発表、指導理論の講義の時間を貰っていると言っていた。昨日まで気合入れて資料を作っていたな。
勿論資料作成は俺も手伝い、それなりの物が出来ていると思っているが。
後はSSが人前での発表を上手くできるか…だが、言葉遣いはともかく、彼女は元GⅠウマ娘で人の前で話すことに慣れていないわけではない。肝も据わっているし心配もないだろう。
「……暇だな」
オニャンコポンにも猫缶を食べさせてやってから、時計を見ればまだ朝の9時を回ったところだ。
生徒たちはちょうど一限目の授業を受けていることだろう。
普段であればこの時間はSSと共にチーム運営について話をしながら、練習の準備や、他のウマ娘のレースの情報収集などをするところなのだが。
今日は練習がないし、情報収集にしても今日に至るまでもしっかりやっており、今急いで集めなければならない情報などはなかった。
トレーナーとしての学園に携わる業務についても同様だ。俺はこの学園で誰よりもトレーナー業の経験がある男であり、業務処理のスキルについてはそれなりの自負がある。
今月の仕事はぶっちゃけ今できる範囲は全部終わっている。
暇になった。
「…とりあえず今日のオニャンコポン撮るか」
俺はせっかくなのでまず、日課であるウマッターへのオニャンコポンの写真を上げることにした。
最近はこれが結構な楽しみとなっている。
忙しい時は雑に撮影して上げるだけでもいいし、余裕がある時は映えなどを考えたり、色んなウマ娘と絡めた写真を撮ったりしても楽しい。
撮影機器にも力を入れて先日新しいデジカメを買ってしまったし、俺の新しい趣味の一つとなっていた。ウマッターでオニャンコポンの写真がバズるの楽しいし。可愛いし。
しかし今日は暇な一日である。
折角だし今回はなんかすごい感じのオニャンコポンの映え写真を撮ろうかな。
いや映像がいいか?なんかいいネタないか?うーん。
何か面白いネタはないかなとスマホでバズってる動画などをウマッターで眺めていたところ、面白い映像を見つけた。
「……!これだ!」
その時、ふと閃いた!このアイディアは、今日のオニャンコポンに活かせるかもしれない!
これは絶対に受けるぞ、とそのウマッターでバズっている映像を見つけて俺はにやりとほくそ笑む。
そんな顔を猫缶を食べ終えたオニャンコポンがじっと眺めてきて、なんかまたろくでもない事思いついてない?って感じで俺を見つめている気がするが気のせいだろう。
俺はオニャンコポンをちょいちょいと指で招いて、スマホの映像を見せる。
そこには、ロマンスの神様のリズムに合わせたフェイスダンスのアバターの動画が再生されていた。
「オニャンコポン、今日はこれ二人で踊ってみないか?いけそうか?どうだ?」
ニャー。
…行けるか!助かる。よし、最高画質でこれを踊り切ってやろうぜー!
俺はオニャンコポンの返事を肯定と捉えて、ゴルシ並みにテンションをブチ上げながら、二人でフェイスダンスの練習に取り掛かる。
オニャンコポンは賢い猫だ。実際、猫と言うものは人間でいう所の2~3歳並みの知能があり、人の言葉も多少は解するとはネットの記事で見たが、しかしこいつは特別だ。とにかく人懐こくて頭が切れる。
伊達にトレーナーズカップ第一回の覇者ではない。時々中に人でも入ってんじゃないかってくらい頭がいいやつだ。
過去にも猫ダンスの動画などを今日のオニャンコポンとしてアップしたこともあり、その全てが大好評を得ている。今回もウケるであろう。
ワクワクしてきた。うへへ。
…とまぁ急にアホなことを思いついてテンションの上がる俺。
以前からわかっていたことだが、俺は周りにウマ娘がいないと結構ガキっぽいところが出てくるらしい。
1000年以上の時を過ごしたって俺のこのワクワクは誰にも止められねぇんだ!
絶対バズるぞこの動画!うひょー!俺もキレッキレで右側の子の方のダンスをキメてやるぜぇー!
・
・
・
30分後。
「よし…!振り付けもリズムも完璧…!位置取りもヨシ!流石だぜオニャンコポン!」
ニャー。
俺とオニャンコポンはしっかりと振り付けを覚えきり、角度を調整してベストなダンス映像を作り上げた。
オニャンコポンは手前側なので腕による振り付けが少なくて済み、ばっちりとその表情を可愛らしいものに仕上げている。
後ろで踊る俺がテンションの上昇によりキレッキレで踊りぬいているがまぁ愛嬌だろう。今日はSSRだぞ世間の皆さま。
ではアップロードっと。ぽちっとな。
一時間後には10万超えのウマいねがついていることでしょう。
バズり具合でカレンチャンにライバル視されている我がチームフェリスの公式ウマッターだが、今日は勝ったな。
なおその後一日ずっと世界一位のトレンドを独占し続け、このフェイスダンスが俺たちの持ち芸になったのだがそれはどうでもいい話である。
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「………どーしよ」
さて、今日のオニャンコポンも撮影し終えてテンションも戻った俺であるが。
オニャンコポンのお腹をもみもみしながら、改めて今日は何をするべきか悩む。
やる事は全部やってしまった。手持ち無沙汰の極みと言える。
どうやら俺は、暇をつぶすのが苦手な人間になってしまっているようだ。
ワーカーホリックのつもりはないし、残業も少なくするよう努めている俺ではあるが、この世界線ではこれまでになかったチームトレーナーとして過ごしており、3人+1人の面倒を見ていたこともあって、仕事中に暇になるということはほとんどなかった。
これまで、専属トレーナーとして1対1で接していた時にはそれなりに空き時間もあったと思うんだけどな。
あの時の俺って何してたっけ?オニャンコポンもいないのにどうやって暇つぶししてたっけ?
「……あー。とりあえずぶらつくか…」
俺はオニャンコポンを肩に乗せて、学園内をぶらつくことにした。
暇なのだ。たまには何の目的もなく、のんびり学園内を散歩してもいいだろう。
他のトレーナーにあったらそこでお話などして時間を潰そう。
この世界線では、チームトレーナーをしていることもあり、また先日のファン感謝祭でさらにトレーナー同士の縁が広がっている。
なんならトレーナー室に行ってそこで話をしても……あ、いや。駄目だ。
「…今日、研修会じゃん」
俺はそこで改めて思い至った。
今日はSSも参加している、トレーナー同士での研修会がある。
もちろん、俺の様に参加していないトレーナーもいるにはいるが、大体のトレーナーなどはそちらに参加しているはずだ。新人トレーナーは全員出席だし。
つまり、今日の午前中はトレーナーはほぼ不在。
トレーナーと雑に話して時間潰そうという俺の目論見は脆くも崩れ去ったという事である。
「えー…?どうしよ…?オニャンコポンどこか行きたいところある?学園内で…」
俺はほとほと困りながら肩に乗ったオニャンコポンに声をかけるが、耳元でニャー、と返事が返ってくるのみだ。
今日は友人である理事長の猫とも会合の予定はないらしい。ご主人様に任せますよと言う全幅の信頼が感じられた。
どうするか。俺も学園内をこうして散歩するのは嫌いではないが、それにしたって勝手知ったる学園内である。目を閉じたって歩き回れる自信があるこの学園を、ぶらぶらし続けるのも限界がある。
そうして、うーんと悩みながらあてどなく歩いていたところで。
「……ん?LANEか?」
俺はポケットのスマホのバイブレーションで、LANEによる着信が入ったことを察する。
誰かからメッセージが飛んできたのだろう。しかし、この時間となると誰だろうか?
生徒たちは授業中だし、トレーナー達も研修中だ。
理事長かたづなさんか…とはいえあの二人もそんなLANEしてこないし…とスマホを取り出して名前を確認する。
そこには意外な人物の名前が書かれていた。
「…ブライアン?」
それは、ナリタブライアンからのLANEであった。
珍しいこともあるものだ。確かに、彼女は生徒会役員であって、日中でも生徒会の業務を行っていることも多く、LANEをすること自体は授業中だろうと咎めるところもない。
この世界線では俺は生徒会とも仲良くやっており、以前彼女らの業務を手伝ううえで生徒会や寮長、委員長たちそれぞれとはLANEは交換していたが。
しかし彼女はご存じの通り基本的に唯我独尊だ。人付き合いは悪くはないが積極的にこういったコミュニケーションツールを使う方ではない。
何なら恐らく彼女からLANEが来たのは初めてじゃないだろうか。
つまりは、何かしら俺に火急の用件があって連絡してきたのだ。
俺はスマホを操作して、そのLANEの内容を確認した。
「──────マジか」
俺はその内容を見て、こりゃいかんと目を見開いた。
そして急ぎ足で生徒会室へ向かい───いや、その前に学園の校門前に向かって所用だけ済ませてから、改めて生徒会室へと早足で駆けて行った。
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「……悪い!待たせた!」
「なっ…立華トレーナー!?なぜここに!?」
「私が呼んだ。私たちじゃ対処しきれないと判断して、今日はアンタが研修会に参加してない事を思い出してな。悪いが助けてくれ、立華トレーナー」
「ブライアン!勝手なことを…」
俺は生徒会室にノック無しで飛び込んで、生徒会のメンバーたちに顔を向けられ、エアグルーヴからの驚きの声と、ブライアンからの頼みを受けた。
緊急事態と言えるだろう。俺もこの問題に全力で取り組むつもりだ。
ちなみに、先程の会話順だが。
俺。
エアグルーヴ。
ブライアン。
エアグルーヴ。
となっている。
誰か足りねぇな?
そしてその誰かである、この学園の生徒会長にして絶対の皇帝たるシンボリルドルフが今どうなっているかと言うと。
「………………もうやだし…」
ソファの上で、たぬき*1になっていた。
「あー……
俺はそんなルドルフの様子を見て、ため息をついた。
ブライアンから届いたLANEの内容はこうだ。
『会長がストレスで爆発した。生徒会室にいる。助けてくれ』
この文面を見て、俺はルドルフがストレス過多によって起きるあらゆる変化を脳裏に描き、対策を考えていた。
これまでの世界線でも、激務たる生徒会長の仕事をしているルドルフは、時々、ストレスが溜まり過ぎて爆発することがある。
彼女の誇り高きその夢への想いが強すぎることで起きる部分があると思っており、俺はあらゆる世界線でそんな彼女を助けてやりたいと思っていた。
そして彼女の爆発したときの変化はある程度パターン化されており、今回はこの変化だったというわけだ。
他のパターンとしては、幼児化してルナちゃんに戻ってしまったり、レースに出走しまくって皇帝の神威をぶちまけることに特化する獅子に変化したり、一番深刻なものとしては本気で精神的に追い詰められて涙を流すことなどもあったのだが。
しかし今回はたぬき*2であった。
これならばなんとかなる。
随分ともっちりした雰囲気を生み、ものすごくしょんぼりした様子のルドルフに、俺は先ほど学園の校門前で準備してきたものを渡してまず彼女のメンタルを労わる。
「ルドルフ…ほら、はちみー買ってきたから。これ飲んでゆっくりしていいよ。今日は俺に任せてくれ。オニャンコポンとも遊んでていいよ」
「ん……ありがとだし……」
俺が渡したはちみーを受け取り、ちゅーちゅーと飲み始めるルドルフ。
この状態の彼女は甘いものを補給すると回復が早くなる傾向にある。買ってきておいてよかった。
俺の肩からオニャンコポンも提供して彼女の癒しとして働いてもらう。オニャンコポンの投与は万病に効く。
ソファに座ってはちみーを飲み続ける彼女の頭を撫でてから、俺はエアグルーヴとブライアンに向き合った。
「エアグルーヴ、こうなってしまったルドルフを何とかしようと思ってくれていたんだろうけど…自分一人じゃやりきれないこともあるだろうさ。俺にも手伝わせてくれ」
「む、く………そう、だな…貴様ならば信頼できよう。すまない、助けてくれ。この件は生徒には他言無用で頼む」
「勿論。…ブライアンも良い判断だった。よく俺を呼んでくれたよ」
「フン…アンタは頼りになるからな。なんとかなりそうか?」
「なるさ。ルドルフが無理なく取り組めるくらいまで仕事を整理してやれば戻るだろう。状況は?」
俺は改めて現在の状況、ルドルフがこうなってしまった理由についてエアグルーヴ達に聞き取りを行う。
彼女たちの話を受けて、状況をシンプルに一言でまとめるとこうだ。
仕事がヤベぇ。
俺は生徒会長の机の上、山盛りになった書類の束に目を向ける。
成程。これはヤベぇ。
ルドルフの事だ、毎日しっかり仕事をしていただろうことは察せる…が、その上でこれほどの仕事が溜まってしまっているというのは、明らかなオーバーペースだ。
確かに年の瀬、12月でありこの時期は色んな仕事が増えることは理解を落とすところだが、しかしそれにいろんな要素が絡み合ってしまい、一度にドバっときてしまった結果、ルドルフがストレスで壊れてしまったというわけだ。
「…今年は、貴様らチームの世代が凄まじい活躍を果たしただろう。その影響で記者からの取材依頼やURAからの打診が多い。無論、生徒からの意見や要望も増えていてな。おおよそはレースに向けた前向きな要望が多かったため、出来る限り便宜を図ろうと会長も尽力されていたのだ……が、それが一気に動いてしまってな」
「あー…なるほど、ね。確かに、色んな予定が不意にブッキングすることはあるよな」
「界隈全体も張り切っていてな…業者から予定してた見積もりなどが想像以上に早く上がってくることも多いんだ」
「OK、理解した。じゃあまずは仕事を整理しようか。エアグルーヴ、ブライアン。手伝ってくれ」
俺はルドルフの代わりに会長の席に謹んで着座して、書類の束に目を通し始める。
既にこれまでも何度も生徒会の仕事の手伝いをしており、生徒会役員からの信頼を得ているところである。二人も特に文句は言わず、俺のそばに備えてくれていた。
俺は卓上の書類の束、それをバーーーーーーっとめくってすべての内容に目を通した。
説明するまでもないが俺は速読も会得している。これは脳の使い方の問題なので、一度覚えるとその後はずっと文を読むのに強くなれる。本気でお勧めの技術だ。
大体の書類の内容を理解して、俺は大至急やらなければならない仕事、いつでも取り掛かれる仕事、数日空けても大丈夫な仕事、来年になってからでOKな仕事に振り分ける。
決裁権も把握しているので、ブライアンの判断で進めていいもの、副会長権限でエアグルーヴの代理決裁で問題ないもの、ルドルフの確認許可が必要なもの、たづなさんに相談しなければいけないものなどに分類を作りつつだ。
もちろん、書類に目を通す中で、アドバイスできそうなところがあれば付箋にそれをメモ書きして貼り付けておくのも忘れない。
こういった生徒会の仕事、学園の運営にかかわる仕事を俺は1000年近く見てきたのだ。これくらいのお手伝いは軽いものだ。
「……貴様は、どんな仕事に就いても大成したのだろうな。貴様がトレーナー以外の仕事をしていることなど考えられんが」
「どうかな。自分ではそんな大したやつじゃないと思ってるけどね。…エアグルーヴ、これ押印だけで済むやつだ。ハンコ押してファイリングしておいて」
「…オイ、立華トレーナー。この仕事、姉貴に手伝ってもらってもいいか?」
「そうだね、ハヤヒデなら最適なアドバイスをくれると思う。問題ないよ。これと…これもまとめて相談してきてくれ」
そうして俺は、一時間ほどかけて、一先ず卓上の書類の山をなんとか整理し終えた。
実際にやらなければいけない仕事はまだまだあるが、これでだいぶ楽に進めることが出来るはずだ。
あとはルドルフに皇帝の威厳を取り戻してもらうだけである。
じたばたしながらソファの上でたぬきっていたルドルフに近づいて、俺はその頭を撫でてやりながら声をかける。
「…ルドルフ。君が、いつも学園の事を想って頑張ってくれているのはみんな分かってる。俺はさ、むしろこうして疲れた時にメンバーに甘えられるようになった君の成長を嬉しく感じてるよ」
「………たちばな…」
「君が困ったら、助けてくれる人がいっぱいいる。自分一人で抱え込まないようにね。生徒会の二人や、たづなさん、理事長、東条先輩…もちろん、俺にだって。いつだって相談してくれていいから」
「……うん……」
しょんぼりしている彼女に、俺は改めて労りの言葉をかけた。
この学園で、誰よりもウマ娘の事を想ってくれているのは彼女だ。
そんなルドルフを俺は心から尊敬している。これはどの世界線でも常にそうだ。
ファン感謝祭で自分も含めてみんなで楽しめるような企画を通してくれたり、また日々の学園生活においても尽力してくれている彼女には頭が上がらない。
だからこそ、俺はこうしていつでも彼女を手伝ってあげるのだ。
彼女の夢を、共に見るために。
俺は改めてソファの上の彼女に手を伸ばし、腕の下に手を通してその体をひょいっと抱え上げた。
じたばたしているが可愛いものだ。そのまま運んで、先ほどまでお借りしていた彼女愛用の椅子の上まで運ぶ。
だいぶ整理された仕事を見れば、彼女も普段の状態に戻るだろう。後は俺の方で最後の一押しをしてやるだけだ。
俺はウマ娘の体については誰よりも熟知している。無論、この状態のルドルフを戻す方法も覚えている。
安心沢さんに教わった笹針技術は伊達じゃない。
ルドルフの尻尾の付け根に手を伸ばして─────ぐりっとな。
「み゛っ………!?!?」
そのツボの一押しで、いつものシンボリルドルフにその佇まいが戻った。
よし。これで万事オッケー。
「………ブライアン。私はどうにも目が疲れているらしい。この歳で眼精疲労は考えたくないところだ」
「安心しろ、私も同じ感想だよ。今日の仕事が終わったらブルーベリーパフェでも食べに行くか」
ブルーベリーは眼にいいからな。ぜひルドルフも連れて行ってやってくれブライアン。
さて、そうしてすっかりいつものルドルフに戻った彼女は、卓上の俺が整理した各書類を目に通して、一息ついてから。
「…すまない、迷惑をかけたね、立華さん。本当に、君にはいつも助けられている…」
「気にしないでいいよルドルフ。俺は君のファンだからね、嬉しいくらいさ。…もう大丈夫かい?」
「ああ。…エアグルーヴもブライアンも、悪かったな。いつもありがとう」
「お気になさらないでください、会長。会長が困った時の為に私たちはいます」
「フン、アンタはいつも気を張り過ぎなんだ。立華トレーナーほどとは言わないが、もっと肩の力を抜け」
「ひどくない?まぁ反論はできないな、毎日エンジョイしてるから。……エンジョイしてるのが世間にバレないようにしないとな。炎上なんてイヤだし…
「ふっ……ははは、成程な、エンジョイで炎上イヤ、か!それはそうだ!よし、立華さんを炎上させないためにも、一簣之功、頑張るとしようか!」
よしよし、ルドルフもすっかり調子が戻ったみたいだ。
何故かエアグルーヴのやる気が下がった音が聞こえるが、ルドルフのやる気が上昇するのと引き換えなので許してほしい。今度花壇の手入れ手伝うからさ。
「よし、それじゃ俺は今日は戻るよ。今週は午前中は毎日手伝いに来るから、雑に使ってくれて構わないからね」
「本当に、何から何まで有難う、立華さん。遠慮なく頼らせてもらうだろう。落ち着いたときにお礼をさせてほしいな」
「今日は助かったぞ、立華トレーナー。またよろしく頼む」
「呼び出した身でなんだが、助かった。また頼む」
「うん。それじゃ」
無事回り始めた生徒会を見て安心し、俺はルドルフを癒すという大任を果たしたオニャンコポンを回収して生徒会室を後にした。
ちょうど暇をしていたこともあって、こちらとしてもいい暇つぶしになって助かったところだ。
ああ、やはり俺は、ウマ娘達の為に働くのが性に合っているらしい。
ワーカーホリックじゃないとさっき己を表現したが、まったく、俺ってやつは度し難い。
さて、昼飯でも食べに行くか。
(ガチャ報告)
ゴルシ欲しい…けどアニバあるしな…
よし星3出るまで回そう!すり抜けなら諦める!あわよくばゴルシお願いします!!
天☆井(すり抜け0)