日常生活描写で性癖を零していくのをやめないか!
「フーフーフーフフーン…フフフフフフーンフーフフーン……フフフーフーフーフーフーフーフフーン……♪」
俺はご機嫌に鼻歌を鳴らしながら、自宅の台所で仕込みをしていた。
今日は大晦日、年の瀬である。今年も昨年同様、チームフェリスのみんなで我が家で年越しする予定となっている。
愛バ達に渾身のソバを食べさせるべく、その下準備と言うわけだ。
先程ソバ自体はばっちり打ち終えている。今年はSSも参加するのでウマ娘一人分追加……と思ったのだが、しかしSSはウマ娘の中でも食が細いほうだ。
タマモクロスやナリタタイシン並み、人間の分量で十分…と言うほどではないが、しかし人間でいう大盛りで十分に満腹になるという話だ。
であれば今年のソバの分量については少し融通を利かせ、昨年よりも微増と言う所で留めておいた。
その代わり、今年一年彼女達みんなが頑張ってくれたお礼とご褒美に、ソバのほかにあるものを出前で注文している。
それとソバを食べてもらってみんな満腹にしてやろうと考えていた。
「……ヨシ、と。ソバの付け合わせはこんなもんでいいかな」
昨年同様、ソバの付け合わせとして天ぷら、とろろ、コロッケ、油揚げ、ネギの千切り、大根おろしを準備。
肉類はSSが来るから今年はなし。その代わり、山菜ソバとしても楽しめるように、わらびとなめことシメジを刻んだものを準備した。
さらに今年は極めて浅く漬けたキャベツときゅうりも準備だ。酢の匂いが殆どしないレベルのそれは、シャキシャキした食感を伴い味覚のリセットにちょうどいい。新生姜を混ぜているためさっぱりする効果もプラスだ。
今年はソバだけではなく、出前で来るものもあるからな。さっぱりしたものは必須と言えるだろう。
「…よし、時間通りに大体準備できたな!渾身の出来…!!」
調理工程をすべて終えて、後は大鍋に熱湯を張り、すぐにソバを茹でられるように備えて、時計を見れば17時55分。
完璧なタイムキープだ。フラッシュと共に過ごしたことで俺自身の時間管理能力も鍛えられたのかもしれない。
軽く手を洗い、食器などを準備していると、ちょうど18時、時間ピッタリにチャイムが鳴った。
俺はエプロンを着用したままで玄関に向かい、彼女たちを迎える。
玄関を開いて、そこにいたのはやはり俺の愛バたちで、そしてそんな彼女たちを見て俺は固まった。
「こんばんは、トレーナーさん。時間ちょうどですね」
「ふふー、エプロン姿似合ってるー!おじゃましまーす!」
「お邪魔するの!あ、ソバつゆの匂いするね…お腹減ってきたのー!」
「おー、邪魔するぜェ。タチバナの家、近くて広くていいよなァ。アタシも学園近くに家借りるかねェ…」
「───────────────────────────────ああ。いらっしゃい。寒かったろう、上がってくれ。リビングでゆっくりしてね」
動揺を努めて隠し、俺は彼女たちを家に上げる。
30秒くらい意識が飛んでた気がするが気のせいだろうな。気のせいであってくれ。
なんてこっただよ。
全員が、髪型を普段のものとは違う装いにしてきやがりました。
フラッシュは普段ボブカットで肩にかかるくらいで、マッサージとかで髪型を変える時はおおよそうなじが見えるように髪を後ろでまとめてくることが多いが、今日はめちゃくちゃ気合が入っていた。
人間であれば耳があるあたりの上のほうから三つ編みを左右二つずつ作り、それを後頭部で縛る様にピンでまとめて、その下から髪を流し、随分と首元が強調される形を以て、前髪を流していた。
思わず手を伸ばさなかった俺を褒めてやりたい。
髪型を変えてくるだろうなと言う前置きがあったからこそこらえきれたもので、例えば日常の練習が終わった後に急にこの髪型でやってこられたら俺は無意識に彼女の髪を撫でてしまっているだろう。
やばいやばい。俺のトレーナー資格がヤバイ。懲戒免職ものですよ今日のフラッシュの髪型の可愛さは。
そしてファルコンだが、こちらはシンプルに破壊力を高めてきた。
しなやかに軽くパーマをかけた上で、アンダーに向かうポニーテールを施し、ふわふわした髪が引き締められるような美を以て俺の目前に晒される。
普段まんまるなツインテールの様子を見ているからこそのこの破壊力。今日のファルコンはファン向けではない何か大人びた様相を見せていた。
いけませんいけません。俺の心は掛かってしまっているようです。一息吐けるといいのですが。
続いてアイネス。彼女はそもそもバイザーを外した時点で俺に10のダメージを与えてくる。
今日はそんな彼女がサイドポニーをほどいているのでさらに+20ダメージ。
重ねて、今日は彼女は髪を縛らずにやってきた。髪型競技自由形世界一決定戦でいい成績が残せるだろう。+30ダメージ。
素材の味を活かしたその髪型は、毛先だけ軽くふんわりするように頑張ったのだろう。上下に分割し下段は外ハネにワンカール、上段に波ウェーブを作り毛先を外ハネと内巻き交互に作りランダムなカール感を演出している様だ。恐らくはカールアイロンを用いたのだろう、毛束の毛先から外ハネ→内巻きが余りにきれいに仕上がっている。+40ダメージ。
髪型の話になると早口になる俺キモいな。合計100ダメージで見事に俺のライフは0になりました。あーあ。アイネスのせいです。
さて、そして昨年はいなかったSSだ。今日は何と彼女までヘアアレンジをされて弊社へお越しになられました。
普段は長髪を縛らずに流すだけで、そのサラサラで艶のある黒髪はCMにも出られるほどのそれだとは思っていたが、それがヘアアレンジの形を以て攻めてきたためライフポイントがマイナスを超えて裏返り満タンになってしまった。
アイロンを入れてきたのだろう、普段の真っすぐした印象と違い髪全体にふんわりとした印象を生み、後ろ髪を下目で結んだうえ、サイドの根元部分をねじってローブ編みを作り両サイドから髪をまとめ、極めて上品に後頭部で一つにし、背中に向けて広げている。
どちらの若奥様でございましょうか?
俺だけが猛烈に感じてしまう色気。カフェにこの味は出せない。すでに成人しているからこその色気だ。
え、マジで。
俺今日この4人と年越しするの?死ぬが?
「……ほら、やっぱり効いてるでしょう?」
「びっくりするほど効いてんなァ…魂が震えてたぞアイツ」
「ふふ、髪型変えるとちらちら見てくるのが可愛いよね…☆」
「なの。気合入れてきてよかったのー。大体好みもわかってきたの」
リビングでそれぞれ上着をハンガーにかけて、長方形タイプに買い替えた炬燵に座りながら、俺の方を見て何だかひそひそしている愛バ達の気配を感じる。
しかし俺は台所でソバを茹でているところであって振り返る余裕はなかった。
去年は…去年はもっと穏やかな年越しだったはずなのに!
どうしてこうなっちまったんだ。俺が髪型の変化に弱いのがいつバレた?*1
とはいえ、まぁ、俺も精神的にはすっかり大人のため、そんな動揺も無心でソバを茹でることで一度己の心の奥にしっかりと仕舞い込んでおいた。
何のことはない。いつも可愛い愛バたちが今日はなお可愛いというそれだけだ。
カレンチャンと過ごした3年間に比べればまだ優しいくらいだ。あの頃はカレンが何故か髪を伸ばしてヘアアレンジに目覚めたおかげで毎日が試される大地だったからな。心頭滅却。
そうして俺はばっちり茹で上がったソバを大鍋から氷水に晒し、艶と腰の入ったパーフェクトなそれを完成させた。
彼女たちの髪に勝るとも劣らない出来ですよ。*2
「はい、ソバできたよ。運ぶの手伝ってくれ……んで、今日はもう一つ料理があるので、食べるのはちょっと待ってな」
「え、今年はおソバ以外にも何か準備されていたんですか?」
俺がお願いする前に、配膳を手伝いに来てくれたフラッシュが俺の言葉にきょとんとした表情を見せた。
まあね。昨日みんなと別れてから思いついた事なのでまだ言ってなかったが、絶対に外さない料理なので特に事前に伝えなかった。サプライズと言うやつである。
「ああ、準備ってほどじゃなくて出前なんだけどね……お。来たな」
そしてフラッシュとアイネスに配膳をお願いしていると、ちょうど家のチャイムが鳴り、出前が来たことを伝えてくれる。
俺はそれを受け取りに玄関に向かった。ソバとの相性抜群で、そしてお祝いにも十分な高級料理で、SSも食べられるそれ。
「ん……この匂い……まさか☆!?」
「え、マジなの!?絶対美味しいじゃんこんなの!」
「え、何、アタシ嗅いだことのねぇ香りなんだけど。めちゃくちゃ美味そうだけどこれ何だァ?」
「これは………ウナギ、ですね!うな重を頼んでいてくれたのですね、トレーナーさん」
「そゆことー。量はウマ娘サイズがなかったから人間サイズの大盛りだけど、ソバとの付け合わせならちょうどいいだろ。ふっふっふ、今日はソバとうな重です」
両手に出前のうな重を抱えてリビングに運ぶ。
匂いが既に戦略兵器だ。うな重の香りはあらゆる人間、ウマ娘に空腹を促す。
ソバの付け合わせと言うにはいささか豪華だが、今年一年の彼女たちの活躍に報いる一品としてはまだまだ足りないくらいであろう。
お吸い物の代わりにソバが爽やかに口の中の油分を流してくれるし、浅漬けもある。食い合わせは問題ないだろう。
「わ……すごい。だめぇ、この匂いを前にしたら今日絶対いっぱい食べちゃうぅ…☆」
「…このウナギ屋さん、名前知ってるの。これめちゃくちゃ高級店なの…香ばしい香りが、ああ…!」
「ずるい、ですね…トレーナーさん、また今年も私達を満腹で眠くするつもりでしょう?こんな、抗えないじゃないですか…!」
「抗う必要ある?ま、今年みんな本当に頑張ってくれたからね、美味しいもの食べさせてあげたくて。勿論ソバも渾身の出来です。味わってくれよな」
「タチバナ、この匂いずるくねェか?まだか?もう食っていいか?」
「もうちょっと待ってSS…オニャンコポンの分もよそってあげないと。せっかくだしちゃんとみんなでいただきますをしよう」
俺は己の分のうな重に載ったウナギの端っこを箸で切り、表面をお湯で漱ぐ。猫にかば焼きのタレや山椒は味が強すぎて毒になるからだ。
そうして猫用の皿に移し、ご飯も載せて、もう一つの皿には去年と同じくこまぎりにしたおソバと薄めたつゆを入れて、オニャンコポンに差し出してやった。
彼女も随分とご満悦な顔をしている。早く食わせてと言わんばかりの満面の笑顔だ。
これを今日のオニャンコポンにしよう。パシャリとな。
「…よし、準備出来たな。みんな、本当に今年一年お疲れ様。いっぱい食べてってくれ。いただきます」
「いただきます」
「いただきます☆」
「いただきますなの」
「…………、いただきマス」
ニャー。
全員に配膳がようやく終わり、俺は手を合わせていただきますの挨拶を行い、みんながそれに続く。
SSは修道女でもあるため、いただきますの前に十字を切って両手を組み、感謝を捧げてからの挨拶だ。
オニャンコポンもしっかり両手を額の前に併せてぺこりと頭を下げる。賢い猫だ。
そうして、俺たちの今年最後の夕食が幕を開けた。
「……ああ、このソバの味…!
「はっはっは。もっと褒めて」
「んまーい☆ソバもホントに最高だけど、このうな重…すっごい…☆とろける…!うっま…☆」
「絶対今しちゃいけない顔してるの…美味しすぎて勝手に笑顔になっちゃう……!うな重食べて漬物食べてからのソバがさっぱりして最高…!」
「はっはっは。マジでこのうな重美味いよね。お勧めの店なんだよ」
「……は?美味すぎんだろ?キレるぞ?」
「はっはっは。急にどうしたのSS」
みんな思い思いに美味しいと言ってくれながらパクパクですわ!している中で急にSSがキレだした。
しかしその表情を見ればわかる。口に合わなくてキレているのではない。
美味すぎて感情がオーバーフローした結果の激怒だ。
「この…ソバ!美味ェ!!!なんだァ?アタシがこれまでコンビニで食ってたソバは何だったんだ!?こんなにいい香りがするもんなのかソバって!!んでもってこのウナギ!?何なんだァ!?」『何よこれ!こんな、美味しいものがこの世にあっていいと思ってるの…!?英国でellied eelsはクソマズいって聞いてたからうなぎ屋って日本に来てから行ったことなかったけど!!日本のウナギはこんなに美味いの!?どうしてもっと早く教えてくれなかったのよタチバナ!?ああ、駄目、堕落する…!主よお許しください、私は日本料理に魂を奪われました…!!今日は満腹になるまで食べてしまうことを決意してしまった暴食たる私をお許しください…!!』
『英語になってるね?そこまで感激してくれたなら準備した甲斐があったよ。掻っ込みすぎてのどに詰まらせないようにね。それに、今日は大晦日だから神様も許してくださるよきっと』
SSが感極まって涙を零す姿に苦笑を零してしまった。
彼女は日本料理が好きだ。フラッシュに布教された納豆などはよく食べていると聞くし、米もかなり気に入っている。チームハウスで毎朝必ず味噌汁を飲むくらいだしな。
しかし一人でお店を利用したりはあまりしないため、これまでうな重を食べたことがなかったのだろう。
ソバだって、コンビニで食べたことはあるらしいが、しっかりとしたお店のものは俺たちチームでレースのための遠征をしたときくらいにしか行かないし、そもそも俺の作るソバはそんじょそこらの店の味には負けない。香りでウマ娘の脳を破壊し、特製めんつゆと付け合わせで舌も満足させる特効兵器だ。
大満足のSSの様子に、俺もすっかりと気分を良くしてしまった。
ああ、やっぱり笑顔で食事をするウマ娘はいいものだ。
この瞬間を見るために俺はトレーナーをしているのかもしれない。
「トレーナーさん、おソバお代わり☆!」
「ああ、すぐ茹でてくるよ。付け合わせも追加しようか」
「お手伝いしますね。山菜ソバも大変美味でした…山菜に下味までつけてあって」
「あ、ズルいのー、あたしも手伝うの!やっぱりとろろが好きだなーあたしは。うな重とも相性バッチリ!」
「美味ェ……駄目だ、箸が止まらねェ……」
「ははは。みんなが満足してくれてよかったよ。すぐにソバ追加するからね」
ニャー。
俺たちはそうして、騒がしくも楽しい夕飯時を過ごしたのだった。
────────────────
────────────────
そうして食事も終わり、順次彼女たちにお風呂に入るように指示して、パジャマに着替えさせて、いつもの如く炬燵に入ってもらいながらトランプなどで時間を潰し、10時半を回ったころ。
「………すぅ……」
「……むにゃ……もう食べられない……☆」
「くー………くー………」
愛バ達三人は、ものの見事に炬燵で横になり、寝落ちていた。
今年は事前に、無理な年越しをしないでよく寝て初詣に備えよう…と話もしていたため、抵抗もなく気持ちよい眠りに入ったらしい。
風呂上がり、髪型を就寝に備えてラフなものにしていた彼女たちが横になって眠っている姿を見ると、ほっこりとした気持ちが浮かんでくる。
『……すっかり眠っちゃったわね。まだまだ子供ね、この子達も』
『よく食べてよく運動してよく寝るのが健康的な証拠さ。夜更かし気味になっちゃ困るしね』
『ふふ、そうね……来年はもっと強くなるわ、きっと』
『ああ。俺達も頑張って、彼女たちを導いていこう』
俺とSSは、彼女たちが炬燵で丸くなり寝落ちた後に、一杯だけワインを開けて晩酌を楽しんでいた。
お互いに酒の限界はすっかり把握している。この程度ならほろ酔いにも満たないのでこの後彼女たちを部屋に運ぶのは支障は出ない。SSが眠ったら俺も風呂に入るが、長風呂するつもりもないし問題ないだろう。
去年にはなかった、大人の時間を楽しむことにした。
『……ねぇ、タチバナ。貴方、これまでのリフレインの中で…3年以上先まで経験したことは、無かったのよね?』
『ん……そうだね。一つの世界では3年しかいられなかった。……なんで?』
『貴方の指導理論を聞いたときにね、その部分が欠けていたのよ…3年から先を指導するような部分…ピークを維持するような指導理論のそれ、ね。貴方には、どうしても得られなかった経験の部分…そこは、私の方が一枚上手ね?』
『ああ、成程…そうだね、確かに俺は、一人のウマ娘を3年から先を指導した経験がない。周りのウマ娘やトレーナーを見て知識だけはつけているけれど、経験と言う意味では…その行程を己の体で踏破した君には敵わないだろうね』
『…ふふ。でしょう?だから、後1年。そのあたりをしっかり貴方にも教えてあげるわ。これから先、
『……嬉しいな。君と言うウマ娘とここまで深い縁が出来たのはこの世界が初めてだからね、そんな君から学びを得られるのは、本当に得難い経験になるよ。……来年もよろしくな、SS』
『ええ。こちらこそ、来年も……そして、その先もずっと。貴方と離れるつもりはないからね、タチバナ………』
ふんわりした表情を作る、炬燵で俺の隣に座るSSが、僅かに肩を寄せ、俺に体重を預けてくる。
ワインを飲んだことで酔いが回ってしまったのだろうか?俺はそんな彼女の体を支えるように、腰に手を回してやった。
そうすることで、尻尾をしゅるりと俺の腕に絡めて、さらに体を寄せてくるSS。眠いのだろうか?ワインも入ったしな。
_──勝ったわ!!今日はうちのSSが勝ちました!!
_──でもちょっと待って!?教え子がすぐそばにいるのよ!?
_──クソボケは絶対まだ自覚ないから!!だから生徒を部屋まで運んだらその後クソボケの部屋に向かおうSS!!それで行ける!!!
_──ここから先はクソボケ野郎とSSの二人の時間だ。俺たちは入れない。少し離れて様子をうかがうぞお前ら!!
なんだか急に寒気がしてきたな。
いかんいかん。暖房も効かせているし炬燵もあるとはいえ、真冬の大晦日だ。
このまま酒を深めて全員で炬燵で寝落ち、風邪をひきました、なんてことになったら目も当てられない。
少なくとも愛バたちは布団まで運ばねばなるまい。
だが俺の隣のSSが、先ほどよりも体を密着させてきている。ふわりと石鹸の香りが彼女の髪から香る。
就寝に向けて髪を一纏めに結い、胸の前に流した彼女のそんな様子に僅かに胸の内にしまっていた動揺がまた頭をもたげかけてきた、その時だ。
ニャー。
オニャンコポンが、俺の胸に飛び込んできた。
そしてしゅっしゅと猫パンチを俺に向けて繰り出す。
これは彼女なりのおねだりだ。お風呂に一緒に入りたい、というそれ。
そんなオニャンコポンの様子を見て、SSがくすっと苦笑を零す。
『……ふふ、そうね。ごめんなさい、雰囲気に流されてしまったわね…今日は、貴女に譲るわよ』
『ん、SS、なんて?』
『いいの。…私も眠くなってきたから、この子達と一緒に寝ることにするわ。部屋まで運びましょう、タチバナ。貴方もお風呂に入るのでしょう?明日も朝早いんだから』
SSが身を起こし、ううん、と背伸びをしてから立ち上がる。
その様子に深い酔いは見えない、足取りもしっかりしたものだ。
うん?となるとさっきのは何だったんだ?と思わなくもないが、しかしお酒の場だとたづなさんとか桐生院トレーナーも過去の世界線だとあんな感じになることが多いしな。大人の女性特有のものなのだろう。
俺はそう理解を落とし、俺も愛バたちを寝室に運ぶために炬燵から出た。
二人で慎重に、起こさない様に彼女たちを別室に準備した布団まで運ぶ。
SSの身長もあるので、俺がフラッシュとアイネスを運び、ファルコンはSSに任せた。力はあるので問題なく運んでくれたので助かる。
そうしてSSもそのまま、部屋に準備した4つの布団の内自分のそれに横になった。
『それじゃあ、お休みタチバナ。明日は6時前に出発よね?』
『ああ、身支度もあるだろうから5時過ぎには起こしに来るよ。お休み、SS』
ええ、と彼女がつぶやいたのを見届けて、俺は彼女たちの寝室を後にした。
この後は俺も風呂に入って寝ることになる。
肩の上に座るオニャンコポンからも、先ほどからずっとお風呂まだ?と催促猫パンチを受けているので、しっかりコイツも洗ってやらねばなるまい。
「…よし、んじゃ風呂入るか。行くよ、オニャンコポン」
その後、俺はオニャンコポンと共に風呂に入った。
SS謹製の石鹸で俺の体と一緒にオニャンコポンもよーく洗ってやり、毛並みをつやつやなものに整えてやる。
オニャンコポンを泡だらけにしながら、俺は改めて今年一年を振り返っていた。
今年は、去年以上に様々な経験をした一年であった。
これまでのループの中でも、ここまで密度の濃い一年と言うのは初めてかもしれない。
年が明けてすぐの初詣。
その後すぐに、ファルコンの精神的なスランプがあり、共に解決策を探して取り組んだ。
バレンタインは大変だったな。今年もまたすごいことになるのかもしれない。何か対策を考えておかないと。
春のGⅠ戦線は、3人ともよく走ってくれた。ダービーでフラッシュとアイネスがほぼ同時にゴールに飛び込んで、結果が出るまでの10分間は永遠のように感じられた。
その後の、ファルコンのベルモントステークスに向けたアメリカ遠征。ああ、あれは本当に楽しかった想い出だ。スズカもタイキも本当によく助けてもらった。
ファルコンの見せた、奇跡のラスト400mを俺は忘れることはないだろう。
その後の夏合宿では、世界線を跨ぐ俺のしがらみを、彼女たちが晴らしてくれた。何よりも、俺は彼女たちに掬われたのだ。
ああ、それで9月には、SSに出会ったな。これまでの世界線でも初めて会うことになった彼女は、悲しい過去に負けない強いウマ娘だった。一日で随分と気に入ったのを覚えている。
SSの助けもあって挑んだ秋のGⅠ戦線…しかし、そこでアイネスが精神的な不調に陥った。これは中々に骨を折ったな。最後は彼女自身の強さで、ジャパンカップで乗り越えてくれた。本当に、みんな強い子だ。
フラッシュが菊花賞で3冠を達成したときは感無量だった…しかし、その後の有マ記念では惜しくも敗着した上に、俺と同じ十字架を背負わせてしまった。
そして、俺の正体も知った彼女が…ああ、俺の事を受け入れてくれたことには、感謝しかない。勿論SSも、だ。俺と言う特異点に、しかし信頼の色を見せてくれたのだ。
それはファルコンだってアイネスだってそうだ。俺の事を、心から信じてくれている。
俺は、その信頼に応えたい。
彼女たちの想いに、報いてやりたい。
これからも、みんなが全力で走って行けるように、寄り添っていこう──────
ニャー。
……はっ。
「うお、あぶね。寝落ちかけてたな…悪い、助かったよオニャンコポン」
風呂につかりながら目を閉じて、気持ちよく今年一年の振り返りなど行っていたものだから、俺も随分とリラックスしてしまったらしい。
酒精の手伝いもあって寝落ちかけた意識に、オニャンコポンの鳴き声が響いて目が覚めた。
危ない危ない。ついさっき、風呂くらいはちゃんと入れるとか言っておきながらこのざまだ。
俺は気合を入れ直して、ざばりと湯舟を上がる。オニャンコポンも併せて彼女専用の手桶風呂から上がった。
「うし、体拭いたら寝るかー。今年も楽しかったな、オニャンコポン」
バスタオルでオニャンコポンの体をよく拭いてやりながら、俺自身もよく水気を切り、風呂を上がった。
ドライヤーはすでに寝ているウマ娘達に聞こえない様に出力を最小にして、自分の髪とオニャンコポンの体を乾かす。
ドライヤー浴びる時のコイツいつも気持ちよさそうな顔してんな。なごむわ。
さて、そうして俺もようやく就寝だ。
家の中の電気を消して周り、自室に入って、オニャンコポンと共にベッドにつく。
横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。
目を閉じて、それに身をゆだねる。
──────来年も、楽しい一年になりますように。
これにて第三部 クラシック期が終わりになります。
この後は第四部 シニア期となっていきますが、以前活動報告でも申し上げました通り、ここまで毎日更新して来ましたが、一休みといたしたく、しばらく更新が止まります。
更に書き溜めをして再開のめどが立ったら活動報告などでも通知していきますのでよろしくです。
ここまでお付き合いいただいて感謝やで。
次回更新をお待ちください。多分9月ごろになると思います。
よろしければここまでの作品の評価をいただけると嬉しいです。
あといつもの20話刻みの活動報告あげてます。