「それじゃあ、今年最初のミーティングを始めます。年明けにも言ったけど、まずは…今年もよろしくな、4人とも」
「はい、よろしくお願いします」
「今年もよろしくね、トレーナーさん、サンデーさん!☆」
「よろしくなの!今年もバリバリ頑張るの!」
「おー、頑張ろうなァ」
3が日を過ぎて、今年最初の練習日を迎えたチームハウス。
チーム『フェリス』のメンバーが集合し、今年最初のミーティングを始めようとしていた。
元旦には俺の自宅に泊まった4人と共に初詣に行き、初日の出をチームスピカの面々とも合流していつもの神社でみんなで眺めて、お参りをして。
その翌日にはゴールドシップの年始生配信にお邪魔させていただいたところ、何故かチームの3人が凸してきて参加することになり、そのままアグネスデジタルも入れてみんなで色んなゲームに興じることになった。
なんだかスパチャがとんでもない量飛び交ったとゴルシからは聞いており、後日なんらかの形にしてくれるとのことだった。断ろうかとも思ったが、そのあたりは配信に詳しくない自分が積極的に口を出すのもアレだし、俺のおかげではなく途中参加した3人のおかげだろうとも思い、気持ちに応じることにした。後で何が来るのか戦々恐々としている。
なお俺とフラッシュら3人とオニャンコポンを交ぜて行ったツイスターでは俺が勝利したことを後述しておく。その気になれば関節は増える。
閑話休題。
ソファに座る3人に向けて、タブレット片手に俺は口を開き、今日の予定から伝えることにした。
「えー、まず大まかに3点、今日のミーティングで話をすることがあります。少し長くなるのでそのつもりでね」
「はい」
フラッシュの返事に続いて他の二人が頷いてくれたのも確認し、頷き返して、俺は今日のミーティングで打ち合わせる内容を進める。
「まず一つ。昨年末にも話したことだけど……これからの練習方針についてです。2か月程度は体幹トレーニングを中心に鍛えていくつもりだ。勿論、2月のフェブラリーステークスにファルコンは出走するだろうから、その前はレースに備えるための練習にするけど…それ以外は、体幹をさらに磨き上げるトレーニングをしていくことにします」
「わかりました。……久しいですね、体幹トレーニング」
「勿論OK☆!フェブラリーステークスにちゃんと間に合えばファル子は全く問題ないよ!」
「あたしもOKなの!いやー、またあの筋肉痛地獄が来るのー……でも前より体仕上がってるから痛みもそこまでじゃないかな?」
まず一つ目、これからのトレーニングについてだ。
年末に話した通り、去年の怪我の多さを考慮し、俺達チームとして改めて体幹を鍛え直す事に時間を当てることにした。
その内容を聞いた3人が、了承の返事と各々の体幹トレーニングに対する感想を零している様だが、正直なところ甘いと言わざるを得ない。
今の彼女たちはジュニア期、メイクデビュー前のそれとは違う。
すっかり筋肉もつき、体幹も俺の目から見ればかなり仕上がっているところを、さらに密度を高めて極まった肉体に仕上げるという工程を踏むことになる。
これは俺一人の知識だけでは難しかっただろう。1000年近い俺の長いループの記憶の中でも、これほど早い時期に速度が完成に近い状態になったのは極めて稀であり、その状態からさらに体幹を磨き上げることについて、俺の知識にはない。
だが、この世界線では違う。
既に己の体でウマ娘向けの体幹トレーニングを実践し、磨き上げ、さらにピークを維持するためのそれを成し、完成系に至っているウマ娘が俺にはついている。
そんな彼女がにやりと笑い、3人に向けて言葉を紡いだ。
「言っとくが、アタシが実践して試した、今の時期にやる体幹トレーニングってのは笑って済ませられるレベルじゃあねェからなァ。こないだ出した論文に書かれているそれよりも数段ハードでキツいやつだ。お前らのジュニア期の練習についても確認してるが、
「なんですって?」
「なんて?☆」
「聞き間違いだって信じたいの」
「SSの言う通りで間違いないよ。あの頃やった練習よりも数倍厳しいトレーニングになるだろうね。道具もいっぱい準備してある」
俺は信じられないと目を見開いた3人に向けて、チームハウスに準備しておいたカラフルなアンクルウェイトの段ボールを開いて見せる。
ジュニア期に使っていたそれよりも重量をマシマシにしたやつだ。
これを付けた上で、かつ高い負荷をかけるトレーニングをみんなにはやってもらう予定だ。
ジュニア期にこれをやったら故障待ったなしだが、今の彼女たちなら耐えられる。俺はそう信じているし、彼女たちならば乗り越えられるだろう。
「………が、頑張ります…!」
「効果は分かってるからね…頑張ろう…!!」
「なの……さらに体を仕上げ切って、最強になるの…!!」
冷や汗を垂らしながらだが、3人は前向きに取り組む姿勢を見せてくれていた。
これからは彼女たちのやる気も頑張ってキープしていかなければならないだろう。
任せたぞ。オニャンコポン。
さて、では次だ。
俺は2つ目、今日のミーティングで話しておくべき内容について語る。
内容は、今朝トレーナーの全体会議で周知された、GⅠレースの増加についてだ。
「次、2つ目だけど、これはお知らせです。その内授業でもやると思うけど、国内のGⅠレースについて、来年から大きな変更があるので、そちらをお知らせします。……ファルコンには大きく影響が出る変更だから良く聞くように」
「ん…来年から、ですか」
「え、私?」
「ファル子ちゃんってことは……ダートレース?」
「ああ。幾つかの交流重賞レースが、GⅠレースに格上げされることになったんだ*1。同時に、来年からはクラシック期のダートレース3冠にあたるGⅠレースも追加される」
それはダートレースのGⅠレースへの昇格、増設の件だ。
今年中に整備をして、来年からはGⅠ扱いになるダートレースが相当に増えることになる。
俺はホワイトボードにそれらのレース……『全日本ジュニア優駿』、『かしわ記念』、『マイルチャンピオンシップ南部杯』、『川崎記念』、とそれぞれの時期と共に記していく。
また、クラシック期に3つのレースが増設されることも記載した。
「……来年からだから、今年はまだ交流重賞って扱いではあるけど、今年中に来年に向けて日程とかレース場を整備して行われることになる。全部がダートのレースになるから、ファルコンは来年からは目標にするレースの参考にしてほしい。ダートクラシック3冠は出走できないけどな」
「はえー☆一気にGⅠが増えるんだねー……交流重賞の中でも有名なものばっかりだもんね。ダートのレースを増やしたいってURAが考えてるのかな?」
「だろうな。歯に衣着せずに言えば、日本のダートレースは芝のレースと比べて……って所は否定できなかった。そこの格差を埋めつつ、ダートレースに注目も集めて、ってことなんだろうな」
「んー……まぁでも、ダートのGⅠが増えるってことなら嬉しい事だよね。来年からかぁ、楽しみだなぁ……全部出走しちゃうんだから!」
ここまで大きな変化が起きるのは、俺のこれまで過ごしてきた世界線でも稀なことだ。
そして、その原因は目の前の砂の隼にある、と俺は睨んでいる。
彼女がアメリカで余りにも眩い走りを日本国民に魅せつけた…その結果がSSとの出会いであり、革命世代の台頭であり、URAの重い腰が上がった原因なのだろう、とは思っている。
ウララとの約束を越えた先に、同じダートウマ娘である彼女と出会い、そしてオニャンコポンという相棒を得て、そうしてチームを組もうと考えるきっかけにもなったスマートファルコン。
彼女こそ、この世界の特異点、なのかもしれない。
しかし、あくまで彼女は俺にとって、大切な愛バの一人であり、チームの一員だ。
3年で繰り返す方の俺が彼女が新しいGⅠへ挑戦していく姿を見れないのは残念だが、それは3年を超えて彼女たちと共に歩む俺が寄り添い、手助けしていくだろう。
「ファルコンなら、全部のGⅠで勝つことだって夢じゃないさ。距離も君の脚質にあったものばかりのようだしな。頑張ろうな。……ってことでこれが2つ目でした。業務連絡に近いかな。多分、どこのチームでもこの話は出してると思うし、世間への正式発表は代表ウマ娘の表彰式の時に行われるらしいから、SNSとかでの呟きは気を付けてね」
「はい、わかりました。基本的には、私とアイネスさんには影響が少ないお話ですね」
「なの。でも、ダートも盛んになるのはいい事なの!うちのダートのエースがバリバリ勝つのを楽しみにしてるの!」
「ふふー、ファル子頑張っちゃうからね!」
「日本の芝主義はアメリカ出身のアタシの感覚からすると妙な感じなんだよなァ……まぁいいや。ダートの走りについちゃアタシもよく指導してやるからな」
「よろしくお願いします!☆」
地方ダートのGⅠ昇格。
これについては、基本的には今年の俺たちの出走レースには影響はでない。
ウララと初咲さん、またチームカサマツの皆は地方重賞にも積極的に参加しているが、今の所ファルコンはURAがGⅠとして扱っているレースを中心に出走する予定であるからだ。
その件は去年にも話して、その方針でレースに参加することでファルコンとも決めていた。
この世界線の、俺の愛バであるファルコンが求めるものは、レースでの勝利。
GⅠレースで勝ちたいという想いが根幹にあり、ウマドル活動などについては無理が出るほど力を入れていない。
これまでの世界線で見たスマートファルコンや、もしかすれば今後の世界線のファルコンであれば、また違う未来を選ぶ姿もあるのかもしれないが、少なくとも今、俺の目の前にいる彼女は、日本のダートGⅠ制覇を目指す砂の隼だ。
シニア級になった今年、彼女は今あるダートGⅠを改めて制覇していく…それを、目標としていくだろう。
さて。
ではここまでで今年のミーティングの内容としては2つ話して、最後の話である残りひとつとなるのだが。
ここにきて、俺の中で緊張が増してきた。
最後に話す話は、俺にとって、そして
「…じゃあ、最後の一つになるけれど。………フラッシュ、チームハウスのドアの鍵、閉めて来てくれないか。SSはカーテン閉めて、電気をつけてくれ。ハウスの周りに誰もいないと思うけど、いたら教えて」
「ッ。…わかりました」
「……おォよ」
「え、何?なんだかとっても大切な話?」
「……トレーナー、少し顔がこわばってるの」
「ん、ああ……ちょっとね。かなり重い話になる。けど、話すなら今しかないんだ……君たち二人にとって、とても真剣な話になる」
俺はこわばっていると指摘された顔を両手で解して、フラッシュとSSがハウスのまわりに誰もいないことを確認してくれるのを待った。
この話はチーム外の誰にも聞かれてはならない。
そして、フラッシュとSSは、既にそれを知っており……今日、その話をすることを事前に相談し、了解を得ている。
フラッシュとSSが問題なく周りに誰もいないことを確認してくれて、フラッシュがソファに戻り、SSが彼女用の椅子に座る。
俺も自分のチェアを動かして、ソファに座る3人…のうち、ファルコンとアイネスに正対する位置に移動して、そうして少し息をつく。
これからする話は──────
「……今から話すのは、
「っ☆」
「……!」
「………まずは、良く聞いてくれ。そして、話を聞いた後の君達二人の答えがどんなものであっても、俺はそれを受け入れる。……ファルコン、アイネス。俺はね─────」
そうして、少しずつ、ゆっくりと、二人が理解できるように、俺は語りだした。
俺の過去の話。
俺が、世界を跨ぐ、世界の理から外れた存在であるという話を。
……去年の末、フラッシュもまた一つ前の世界線の記憶を取り戻し、そうしてバレた俺の過去。
フラッシュ……強い意志と優しさを持っていた彼女は、そんな俺を受け入れ、共に歩んでくれることを約束してくれた。
そして、魂の色から察していたSSも、俺の事を受け入れてくれている。
この二人には、感謝してもしきれない……が、それと同時に、俺は一つの懸念を持つようになった。
それは、フラッシュとSSだけが俺の秘密を知っていることに対しての、アンバランスな感覚。
果たして、ファルコンとアイネスが、俺の事を知らないままでいていいのかと言う疑問。
誰もが知らないままであるならば、俺も一生隠し通していたであろう俺の秘密。
しかし、その秘密を二人が知ることになった。
それ自体はいい。先ほど言った通り、受け入れてくれて有難いという想いしかない。
だが、それによって……わずかではあるが、フラッシュとSS、この二人の俺に対しての態度などが変わる部分もあるだろう。
朴念仁である俺だが、フラッシュとの、そしてSSとの心の距離が縮まっていることは理解している。
何度も言うが、それ自体はいい。
問題は、俺の秘密を知らない残る2人。
ファルコンとアイネスが、その距離感を察し、疎外感を感じてしまわないか、という懸念。
俺にとって、ファルコンとアイネスは、フラッシュと同じ、俺にとってこの世界線で3年を共に歩む愛バ達だ。
誰が一番、などと言う序列をつけようとすることすら烏滸がましい。
俺を選んでくれた3人、その全員が大切な存在であり、それぞれに俺は平等に接してやりたいと思っていた。
だからこそ、俺のこの秘密について、二人にも打ち明けたいという気持ちが生まれた。
フラッシュとSS、二人は俺の秘密を絶対に漏らさない、と約束してくれていたし、それについては心底から信じているが、そうではなく……俺が、知ってほしいという気持ちになった。
記憶を引き継いでしまっているフラッシュはともかく、俺と言う存在について、彼女たちにも理解してほしいという願いが生まれた。
それは彼女たちへ甘えたいという俺の弱さであると同時に……彼女たちもまた、俺の事を受け入れてくれるだろうという信頼感。
そして、もしそれを二人に秘密にしたままで今後過ごしていく中で、ファルコンとアイネスが、フラッシュやSSに不信感……とまでは言わないまでも、疎外感のような物を感じ取ってしまうのではないかと言う心配。
そういった気持ちがないまぜになり、俺は年末年始で彼女たちと過ごしていたころから、早い段階で二人に話しておきたい、と思うようになったのだ。
この世界線での、俺にとっての始まりの3人には。
俺の事をすべて知ってもらいたくて。
しかして、二人に何の相談もせずに勝手に漏らしてしまうのもよくないと思い、LANEで事前に相談し、二人からは承諾を頂いている。
そして、善は急げ、一年の計は元旦にありという諺の通り、俺は今日のミーティングで二人に話をすることにしたのだった。
「──────だから、フラッシュとSSは俺の事を知っているんだ。フラッシュについては、前の世界線の事を思い出してしまった……それは、不慮の事故からだけどね。SSは付き合いの中で察してくれていた。……だから、俺の方からこうして説明するのは、君達二人が初めてだ」
「………………」
「………………」
「……これで俺の話はおしまい。俺が君達に適切な指導が出来たのも、勝たせることができていたのも……そういう事情があってのこと、だったんだ」
俺の話を、ファルコンとアイネスの二人はじっと黙って聞いてくれていた。
一言も質問は出なかった。
そして、俺が語り終えて……しばしの無言の間の後に、二人は。
「……トレーナーさん。私、トレーナーさんから伝えてくれて……嬉しかった」
「……あたしも。何かあるとは察してたけど……そんなに、大変な運命を背負ってたなんて…びっくりなの」
「二人とも……ああ、今まで秘密にしていてすまなかった。けどフラッシュとSSが知ってしまった今……君達に秘密にしているのは、不義理だと思ったんだ。俺の担当する、最初の3人だった君達には知ってほしかった。……けど、これは俺の唯の我儘だ。君達が俺に対して、どう思うか────」
俺はすっかりと事情を説明し終えて一息つき、二人の言葉を、俺に対しての答えを求めた。
だが、俺が答えを求める前に、二人は眼を合わせて、頷き、答えを返してくれた。
「トレーナーさん!ファル子はね、トレーナーさんが私の担当になってくれて、本当に嬉しかった!」
「あたしもなの!トレーナーじゃなくちゃ、…立華さんじゃなくちゃ、あたしはここまで走れてない!ジャパンカップで、あたしの目標を、見つけられてない……そこにたとえ過去の事があったって、この世界であたしと出会ってくれたこと、あたしを選んでくれた事、本当に嬉しかった!」
「私も…トレーナーさんが担当してくれなくちゃ、芝のレースも走れなかったし、ダートレースの楽しさも知らないままだったかもしれない。ベルモントステークスの奇跡は、トレーナーさんとじゃなくちゃ起せなかったって、断言できる。だから、これからもトレーナーさんがいい!トレーナーさんじゃないと嫌!」
「あたしも!もう立華さんから離れるつもり、ないんだからね!」
「っ。……二人とも、いいのか?こんな、俺で……」
二人とも、俺を正面から見返して、強く頷く。
これ以上ないほどの雄弁な、優しい答えを返してくれた。
俺の事を、受け入れてくれると。
これからも、俺と共に歩んでくれると。
フラッシュと同じように、想いを、まっすぐ言葉に乗せて。
「……有難う、二人とも……っ、君達が、俺を受け入れてくれて……俺はっ……!」
二人の言葉に、思わず涙ぐんでしまう。
俺が瞳を閉じ、涙を拭っていると……いつの間にかソファから立ち上がったらしい二人が、俺の頭を左右からぎゅ、と抱きしめてくれた。
俺は瞳を閉じたまま、二人の抱擁を受け入れる。
「トレーナーさん……今まで、秘密にしてて……大変だったよね。大丈夫、ファル子はずっと一緒にいるから」
「立華さん…あたし、貴方と出会った頃の、大変だった時期も、今ではあたしにとって、必要な運命だったな、って思ってるの。あの時、貴方に出会えてよかった……」
より強く、俺を抱きしめてくれる二人に、俺は両腕を広げて彼女たちを抱きしめ返すことで、言葉にならない思いを返す。
ああ、やはり、俺は駄目な男だ。
こうして、理解あるウマ娘達に支えられないと、駄目になってしまう男なのだ。
ウマ娘に甘えなければ存在できないような俺に、しかし受け入れてくれると言ってくれた二人に……いや、運命を共にしてしまったフラッシュにも、これから先の俺に託してくれると言ってくれたSSにも、まったくもって頭が上がらない。
何度でも誓おう。
俺は彼女たちの為に、俺の全てを懸けると。
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────────────────
「そろそろいいですか?」
「それ以上はライン超えるぞお前らァ」
「あ、そうだね……愛おしすぎて、抱きしめすぎちゃった。えへへ…☆」
「トレーナーが甘えてくれるの珍しいから……ってか、二人はもう先に知ってたってことでしょ?はーなの。これくらいは許してほしいの」
しばらくそうしていたところフラッシュとSSに無理矢理引きはがされ、俺は随分と柔軟性に差のあるクッションに挟まれた状態から解放された。
気持ちに熱が入っていたことで素直に受け入れてしまっていたが、いや、なんというか、よくないな。
いくら服の上からだとはいっても彼女たちはウマ娘であり女性である。しかも年下。
こう、何度も抱きしめあってしまうのはよくないのかもしれない。
ここ数百年、ウララ相手にはいつもぎゅーっとしていたことで俺の心理的な距離感がバグっている可能性がある。
こう何度も抱きしめたり抱きしめられたりでは、彼女たちも恥ずかしいだろう。
今後はちょっと肉体的な距離感も気を付けないといけないな。
「うん……でも、みんな、本当にありがとな。俺の、この世界線での初めての担当になる3人と…初めてのサブトレーナーになるSS、君たち以外にはこのことは話さないだろう。気付かれない限りはね。俺達だけの秘密にしてくれると助かる」
「それは勿論です。貴方の秘密は、私の口からは漏れません。私も同じように記憶を引き継いでいますし」
「私も大丈夫!これからも、付き合い方は変えないからね!」
「あたしもなの!ここにいる皆だけの秘密ってことで!」
「おォ。アタシについても心配すんなァ、口は堅いほうだ」
「…有難う。それじゃあ、これで今日のミーティングは終わりになります。この後はこれからの体幹トレーニングに備えて、今日は一日いっぱい柔軟中心のメニュー。本格的に筋肉をいじめていくのは明日からね」
改めて、今回話した俺の秘密については今後誰にも口外しない事につき理解を得て、今日のミーティングを終了とした。
この後は年始明けのトレーニングになるので、まずはしっかり柔軟から、体をほぐす運動のみの留める。
また、明日からの体幹トレーニングについても、1週間の内5日は鍛えて、1日は併走で走りのフォームを忘れないようにして、1日は休んで…と、走りの練習も2年前の頃よりは増やしていくつもりである。
さて、しかし、今日の練習には問題なく俺も付き合うのだが。
一つ、俺の予定については彼女たちに共有しておく必要があった。
「ちなみに俺は今日、4時からまたトレーナー同士の打合せに呼ばれてるんでそっちに出ます。悪いけどSS、練習の終わりと戸締り任せていいかい?」
「ああ、今朝の全体会議で何人か呼ばれてたやつな。構わねェぜ、慣れたもんだ」
「ん……となると、年明けですから、今日はそのまま夜も…ですか?」
「飲み会?あんまり遅くまで無理しちゃ駄目だよ?」
「迎えに行こうか?」
「いや、夜があるかはまだ分からないし。あってもそんな、新年早々だらしなくはならないから大丈夫だよ。ってか迎えに来るのはアイネスは駄目でしょ門限あるし。万が一の時は……」
「アタシを呼べよ。まぁ、タチバナならそんなこたァねェと思うけどよ」
そう、俺は本日の全体会議の際、たづなさんに声を掛けられ、午後からも別途打ち合わせに呼ばれていた。
練習の途中で切り上げてそちらに参加する予定となっている。
他にも呼ばれているトレーナーはいたので、何か俺達だけに伝えることがあるのだろう。
そうして、新年最初のミーティングは終わりを迎えたのだった。