【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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124 新たなる戦いの舞台

 

 

「お、立華君も呼ばれてたのか。お疲れさん」

 

「沖野先輩、お疲れ様です。今年もよろしくお願いします」

 

「ああ、初詣ん時も言ったが、こちらこそよろしくな」

 

 練習の途中で抜けだして、呼び出されていた会議室に向かう途中に、沖野先輩とばったり遭遇した。

 軽く挨拶を交わしてから、肩を並べて歩き出す。

 沖野先輩とは既に年始の初詣でご挨拶をさせていただいている。毎年恒例としているスピカの初詣の神社に今年もお邪魔させてもらっていたからだ。

 あの神社は人入りも多すぎることなく、落ち着いて初日の出を見られるスポットのため、今後も毎年お会いすることだろう。

 

「しかし、新年早々から何の呼び出しかねぇ。立華君、心当たりある?」

 

「んー、俺と沖野先輩が呼ばれてますからね。もしかすると年度代表ウマ娘の通知かもな、とは思いますよ」

 

「あー……それかもな。ウチも今年はウオッカやヴィイが頑張ったからな。立華君の所は言わずもがな、だしな」

 

「ははは。自慢の子達ですよ…本当に、去年はよく頑張ってくれました」

 

 お互いに、今日呼ばれている内容を知らないままに、軽く雑談を交わしながら廊下を歩いていた。

 新年早々に呼び出しが入るというのは、これまでの世界線でもそうそう無い事だった。

 年度代表ウマ娘の通知のタイミングはこれまでも色々前後があり、桐生院トレーナーなどと一緒に過ごしているところに連絡が入ることもあれば、年が明けて少し落ち着いてからたづなさんに伝えられるケースなどもあったが。

 今年は革命世代がかなり世間を騒がせていたから、まとめての発表ということになったのだろうか?わからん。

 とはいえ、いきなりお叱りの言葉でもないだろう。それならLANEで個別に呼び出しが入るはずだ。

 

 俺たちは首をひねりつつも、会議室にたどり着き、中に入る。

 そこには既に呼び出しに応じていた、他のチームトレーナーが集まっていた。

 

「おや、お二方……お疲れ様です。今年もよろしくお願いします」

 

 糸目の柔和な笑顔を浮かべ、挨拶を返してくる南坂先輩。

 

「おー、沖野さんに立華クンも呼ばれてたか。お疲れさん。一体何の集まりかね…」

 

 気だるそうに椅子に座り、首だけ振り返って挨拶する北原先輩。

 

「あー、やっぱ立華さんも呼ばれてたか。んじゃ世代の話か…?あ、沖野先輩もお疲れ様です!」

 

 立ち上がり、律儀にお辞儀もして挨拶する俺の同期の初咲さん。

 

「かもしれませんね。今年からメジロライアンは私のチーム所属となりましたから…」

 

 その隣で同じく立ち上がるが、身長差が凄いのでまるで大人と子供のように見えてしまう、小内先輩。

 

 その4人が、既に会議室に集まっていた。

 

 なお、先ほど小内先輩が言った内容だが、メジロライアンの所属チームについて。

 革命世代の一人であるメジロライアンだが、これまで彼女は専属のトレーナーと二人三脚で走っていた。

 メジロ家に縁のあるそのトレーナーは、俺の4つ上の女性の先輩で、ライアンが二人目の専属のウマ娘である。

 トレーナーとメジロライアンの仲はとてもよく、まるで姉妹の様にライアンが懐いている姿を見たこともある。

 ライアンが宝塚記念で勝利した時、感涙しながら彼女を抱きしめていた映像はとても感動的なものだった。

 

 さて、しかしそんな理想的なコンビを組んでいたライアンがなぜ小内先輩のチーム『レグルス』に移籍することになったのか、と言う話だが。

 理由はとても前向きなもので、彼女がご出産のための産休に入るからだ。

 

 ライアンのトレーナーである彼女にはお付き合いしていた男性がいて、昨年の9月に入籍をした。

 出産予定は今年の5月頭ごろらしい。

 お腹も先月ごろにはだいぶ大きくなってきており、こうなるとトレーナー業は肉体労働も兼ねた多忙な業務でもある事から、早い時期での産休を学園側から勧められ、メジロライアンともしっかりと相談した結果、今年1月から出産が落ち着くまで長期のお休みを取られることとなった。

 小内先輩のチーム『レグルス』に移籍することになったのは、メジロライアンがそれまでもメジロブライトの勧めでレグルスと併走練習で一緒していたこともあり、一番縁の深いチームだからだ。

 勿論、小内先輩もよく相談したうえで了承し、ライアンも快諾した。

 「LANEでもよくお話しできますし、赤ちゃんが生まれてくるのが楽しみです!」と年末ごろに笑顔で話していたライアンの顔が印象的だった。

 姉のような存在のトレーナーがご出産という事であれば、それこそ彼女にとっては喜ばしい事だろう。

 俺としても祝い事である、無事なご出産を心よりお祈り申し上げる次第だ。

 

 なお、10月10日と言われる妊娠期間から逆算すると、6月末の宝塚記念のライアンの劇的な勝利の嬉しさで……うん、まぁ、そういうことなのだろう。

 生まれてくる子供がウマ娘になる予感がなぜかひしひしとする今日この頃である。

 

 

 閑話休題。

 

 

 さて、そうして会議室に集められたメンバーについては、俺にとっては特にお世話になっている方ばかりだ。

 小内先輩は今年からメジロライアンが所属する形になるが、南坂先輩はサクラノササヤキとマイルイルネル、ナイスネイチャにツインターボがいて、沖野先輩はヴィクトールピストやウオッカ達シニア組、初咲さんはハルウララ、北原先輩はカサマツダート組。

 我がチームフェリスのメンバーが昨年鎬を削りあったウマ娘を担当するトレーナーが集められている。

 

 となれば、やはり脳裏に浮かぶのは年度代表ウマ娘だ。

 自慢ではないが、去年のクラシックレースはフェリスのウマ娘を軸として世間で盛り上がっていたとは俺も感じている。

 受賞の通知、と言う事なのだろう。さて、今年は誰がどの賞を受賞することやら。

 

 そうして俺と沖野先輩が席に着いたところで、理事長とたづなさんが会議室に入ってきた。

 

「感心ッ!!まだ時間前だというのに、しっかり集まってくれているな!!感謝ッ!!」

 

「年明けのご多忙の所、お時間を割いていただいてありがとうございます。皆さんお疲れ様です」

 

 俺達全員がお疲れ様の挨拶を返し、理事長が会議室の前列に座るのを見る。

 ふと、俺の肩からひょいっとオニャンコポンが降りていき、理事長の方へ向かっていった。それを見て理事長の猫も帽子から降りて、二人仲良く部屋の隅の方に歩いていき、ぷにぷにと前脚でじゃれあっていた。

 あいつら仲いいな。

 

「早速始めていこうッ!!たづな、進行を頼むッ!!」

 

「はい。……今日お呼び出ししたトレーナーの皆様に、とても重要なご連絡があり、こうして集まっていただきました。資料を配布しますね」

 

 重要な連絡。

 となればやはり、年度代表ウマ娘の事だろう。

 たづなさんが一度席を立ち、資料のプリントをトレーナー達に配布する。

 俺はその分厚い資料を受け取って、表紙に目を通して、

 

 

 

 ────────予想外の内容に、息を呑んだ。

 

 

 

「………えぇ!?」

 

 これは初咲さんの叫び声だ。

 驚愕。その感情がありありとわかる声。

 実際、ここにいるトレーナーの全員がそうなのだろう。俺も相当驚愕している。

 沖野先輩らベテランのトレーナー達も、流石にこの内容には絶句している。室内がざわついたのが分かる。

 

 その資料には、こう書かれていた。

 

 

 

『ドバイワールドカップミーティング 参加申請の手引き』

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「たづなさん……これ、本当ですか?ドバイ……ええ?」

 

「はい。これから説明させていただきますね」

 

 俺は思わず零れた質問をたづなさんに投げてしまう。

 それを受けたたづなさんが、資料をプロジェクターに映しながら説明をしてくれた。

 

「まず……ここに集まってもらったトレーナーの皆さまは、昨年、大変にご活躍された方々になります。小内トレーナーは現在メジロライアンさんが所属するチーム、となりましたので、そういう意味でお呼び出しさせてもらっていますが……」

 

「ええ、そのような趣旨であることは私も理解しています。話を続けていただいて結構ですよ、たづなさん」

 

「有難うございます。……革命世代、そう世間では呼ばれるようになりました皆様を中心に、ドバイワールドカップミーティングに開催されるレースへの招待の対象となりました。具体的には、以下の皆さまですね」

 

 たづなさんがプロジェクターを操作し、ウマ娘の名前の一覧が示される。

 内容は以下の通りだ。

 

 

【チームフェリス】

 エイシンフラッシュ

 スマートファルコン

 アイネスフウジン

 

【チームスピカ】

 ヴィクトールピスト

 

【チームカノープス】

 サクラノササヤキ

 マイルイルネル

 

【チームレグルス】

 メジロライアン

 

【チームカサマツ】

 フジマサマーチ

 

【専属】

 ハルウララ

 

 

 革命世代として、CMにも名前を挙げられている8名と、ダートの精鋭たるフジマサマーチ。

 この9人が、今年の3月に開催されるドバイワールドカップミーティングへの参戦を打診されていた。

 

 ドバイワールドカップミーティング。

 それは、3月末の土曜日にアラブ首長国連邦のメイダンレース場で行われる、世界的なレース大会だ。

 1日に芝、ダートあらゆる距離のレースが一気に開催され、そこに世界各国から優駿たちが集まり、世界一の称号をかけてレースが繰り広げられる。

 かつて俺の経験した世界線ではオールウェザーのコースで開催されていたこともあったが、この世界線ではオールウェザーは過去に実施されていたもののアメリカ等からの評判が悪かったため、通常のダートと芝にコースが整備され直し、その分開催されるレースが増える形となっていた。

 今年のドバイワールドカップミーティングで行われるレースは以下の通り。

 

 

 【第一レース】

 ドバイカハイラクラシック(GⅠ ダート2000m)※アラブウマ娘限定

 

 【第二レース】

 ゴドルフィンマイル(GⅡ ダート1600m)

 

 【第三レース】

 ドバイゴールドカップ(GⅡ 芝3200m)

 

 【第四レース】

 UAEダービー(GⅡ ダート1900m)

 

 【第五レース】

 アルクオーツスプリント(GⅠ 芝1200m)

 

 【第六レース】

 ドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ ダート1200m)

 

 【第七レース】

 ドバイターフ(GⅠ 芝1800m)

 

 【第八レース】

 ドバイシーマクラシック(GⅠ 芝2410m)

 

 【第九レース】

 ドバイワールドカップ(GⅠ ダート2000m)

 

 

 このうち第一レースはアラブの国内レースとなるが、それ以外は他国からウマ娘が参加する国際競走で、そのグレードもとても高く設定されている。

 特にドバイワールドカップ、ダート2000mは世界最高峰のダートレースとも称されており、その賞金額も、栄誉も、ダートのレースで世界一と評してもいいだろう。

 

 そんなレースの祭典に、革命世代が挑む。

 

「トレーナーの皆さまはご存じのとおりですが……ドバイワールドカップミーティングは、国際招待競走となります。日本の場合はURAの推薦により参加枠を取ることになっており、これまでは多くても2~3名のウマ娘の参加となっていましたが……今年はURAがドバイと強く交渉されまして、9名の参加枠を獲得しております*1

 

 たづなさんの説明に、俺はこの事態にある程度の理解を落とした。

 革命世代。昨年日本を震撼させたスマートファルコンの世界レコードでの海外GⅠ制覇から、凱旋門賞での好走など、海外レースへの関心が日本でも高まっているところだ。

 そんな中、ダートを盛り上げたいというURAの意向の下で、世界一のダートレースを含むこの国際競走で、史上最強の世代とも評される革命世代をぶつけて、日本でのレース界隈をさらに盛り上げたい、という意向なのだろう。

 無論、そこには夢も多分に含まれているものだとは思うが。

 

「たづなサン、ちょっと気になるんだけど……なんで革命世代の中にウチのマーチが入ってんだ?いや、栄誉なことだとは思うんだけどよ…シニアをだいぶ長く走ってる子だぜ?」

 

「北原トレーナーのご質問もごもっともですが、URAの推薦ですので……恐らくは、ダートレースも多いドバイに日本から複数名参加させるのに、ダートを走れるウマ娘を参加させたかったのかと。シニアを走るウマ娘の中では、特に安定した実力を持った方ですからね、フジマサマーチさんは」

 

「あー……ナルホド、了解す。いや、しかしドバイかぁ…!海外挑戦なんて考えてもいなかったぜ…!」

 

 北原先輩が零した疑問だが、しかし俺はフジマサマーチの選出については特に違和感なくとらえている。

 確かに現状のダート界隈はクラシック世代、特にうちのファルコンが名実ともにエースではあるが、フジマサマーチだって立派なGⅠウマ娘だ。

 冷静な戦術眼と激情の勝利への執念を備えた素晴らしいウマ娘で、ハルウララと並んで今後のファルコンのライバルとしていの一番に名前が挙がるであろう相手。

 レース経験の長いベテランでもあり、先輩としても頼れる存在だ。是非とも共に世界に挑んでいきたいところだ。

 

 さて、衝撃的なニュースと共に始まった会議だが、ある程度資料にも目を通し、今回の世界挑戦についての様々な質問がトレーナーから投げかけられた。

 

 

「たづなさん、これ、ウマ娘たちが出走するレースってのはまだ決まってないのかい?各レースの資料はあるが、誰がどのレースに出るかってのは書かれてないようだが…」

 

「はい、沖野トレーナーの仰る通りです。トレーナーとウマ娘で相談のうえ、ご自身の適性に合った、走りたいレースに参加していただくようURAからも話を頂いています。遅くとも、2月末の登録締切までに決めていただければ大丈夫です。ただ、レースへの参加意思自体はホテル手配などもありますし早めにお返事を頂ければ助かります」

 

「……遠征予定は3月初旬から、ですか。たづなさん、これは参加するウマ娘が決定したら、その全員でチームとして団体行動…という認識でよろしいですか?」

 

「はい。南坂トレーナーの言う通り、おおむねその予定ですね。チームJAPANとして、宿泊場所や練習するコースなどは一括で学園とURAで手配する予定です。勿論、そこも要望をお伺いしてこれから決めていくことになりますが……」

 

「確認にはなりますが、これはウマ娘のほうで乗り気でない場合は参加を断ることもできるもの……ですよね?」

 

「はい。勿論、出走したいレースに参加されるのが一番ですので、そこはウマ娘さんとよくご相談の上で決定していただいて結構ですよ、小内トレーナー。日本のレースに参加されるのも勿論、選択肢としてございます」

 

「た、たづなさん……俺、パスポート更新してないかも……あ、いや、ウララもどうなんだ!?パスポート取ってんのかなぁ!?発行ってどうやるんでしたっけ!?」

 

「急いで取ってきてくださいね初咲トレーナー。相談には乗りますから」

 

「オニャンコポン連れてっていいですか?」

 

「愚問ッ!!私も専用ジェットで連れて行くぞッ!!」

 

 

 それぞれのトレーナーが、資料やたづなさんの説明の中から聞きたいことを確認し、風通しよくその後の会議は進んでいった。

 その中で決まったことを、大まかに以下の通り記しておく。

 

 ・レースは3月最終週の土曜日開催

 ・遠征は3月初旬に出発、ドバイのホテルで1か月程度の遠征の予定

 ・どこに泊まるか、どのように生活するか、誰が行くか、何を準備するかは今後トレーナーやウマ娘の意見も絡めて詰めていく

 ・ウマ娘の参加は本人の意思次第、不参加もOK

 ・出走するレースもウマ娘の希望でOK

 ・併せウマ娘の同行もOK、出来ればサブトレーナー資格を持つ子がベスト

 ・大前提は無事にウマ娘を送り届け、無事にウマ娘が帰ってくること。それを第一に

 ・パスポートは早めに準備

 

 ……と言ったところか。

 

 成程、これは新年早々に伝えなければいけない内容だ。

 レースプランを新たに組み直す必要もあるし、参加意思についても早い段階で確認を取れたほうがよい。

 それぞれのチームのウマ娘が参加するかどうかは分からないが…ウチのチーム、少なくともスマートファルコンは間違いなく参加するだろう。

 海外遠征は当然、準備などの苦労も多いが、楽しいことも多い。しかもそれが世代のウマ娘達と共に、と言う話であればなおのことだ。

 全員が参加することになれば高松宮記念や大阪杯などのGⅠで今年のシニア世代の出走が無くなるのは寂しいが、しかしそれを考慮しても話題性には事欠かないだろう。

 俺も冷静になってきて事態を飲み込めてから、テンションが上がってきている。

 

 面白いじゃないか。

 革命世代の旋風を、日本のみならず、世界に巻き起こしてやろう。

 

「……では、ドバイに関するご連絡は今日の所は以上となります。今後は毎週、定期的にご準備等に関する打合せを行わせていただくこととなりますので、そちらもお含みおきください」

 

「奮励ッッ!!かつてない大きな試みになるッ!!トレーナーの皆様には苦労を掛けるが、何卒より一層の奮起を期待したいッ!!」

 

「それと、こちらは今週末にまた該当のトレーナーにご連絡させていただきますが、年度代表ウマ娘についても内示が出ております。1月中旬にURAの合同表彰式がありますので、受賞されるウマ娘の担当トレーナーは日程調整をお願いしますね」

 

 理事長による激励のお言葉と、たづなさんの事務連絡が終わり、新年早々の特別会議は幕を閉じた。

*1
現実のドバイワールドカップの招待制度とは若干違う。独自設定

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