「出る!☆」
「出ます!」
翌日、チームフェリスのミーティングで。
昨日の会議で打ち合わせた内容、ドバイワールドカップミーティングへの参加についてメンバーに説明した瞬間に、まず二人から勢いよく参加の返事が返ってきた。
スマートファルコンと、エイシンフラッシュだ。
「……ん、OK。ファルコンはそういうと思ってたけど…」
「勿論!!ドバイワールドカップのことは私だって知ってるもん!いつか走りたいって……いや、絶対に走りたいって思ってたから!!」
俺はファルコンのその様子…ああ、去年の春先のころ、ベルモントステークスへの出走を打診したときにも見せた、海外レースへの情熱の高まり、それと同じような……いや、それ以上の熱が彼女に生まれているのを見た。
やはり、ファルコンは海外レースに強い出走の希望があるようだ。
まるで魂が嘶いているようなそれ。
気合が満ちている。間違いなくいい成績を残してくれるだろうと確信できる。
だが、もう一人。
フラッシュも、同じように瞳に熱を宿し、参加を熱望してくるとは、正直なところ思っていなかった。
「……フラッシュも、参加でいいんだな?その、何というか…君がそうして即決するのは珍しい感じも受けるが」
「はい。絶対に走ります。……ああ、私も自分のこの気持ちを上手く言葉に表現できません。ただ、ただ……どうしても、
「…わかった。君のその強い戦意を俺は信じる。ファルコンに続いて、君もまた海外の、世界のウマ娘達にその閃光を魅せつけてやろう」
「はい!」
フラッシュのその激情の理由については、彼女自身も言葉に表すことはできていないようだった。
ただ、己の内に熱の様に生まれた信念。
走るのだと。
ドバイの舞台で、勝ちたいのだと。
ファルコンの熱にも負けないその彼女の、ともすればギャップすら感じるほどのレースへの渇望、熱は……俺の目に、普段の彼女よりも眩しく映った。
美しく、輝いているように見えた。
まるで今日のこの決意が、彼女のバ体をさらに仕上げたかのような錯覚すら見せて。
好走する。
レースの三か月前だってのにそう期待したくなるような、そんな様子。
問題ないだろう。
この二人の参加については決まった。
先程の説明の中で、ドバイワールドカップミーティングへの招待が入ったこと、出走レースは自由に決められること、参加不参加は自由だがどうするか……という問いかけをした時点で、まず二人が参加表明し、決定した。
話が早いのは助かる。
だが、うちのチームは現在メンバーが3人だ。
その3人目、ソファの端に座り腕を組んでいるアイネスに俺は声をかけた。
「……さて、アイネス。君はどうする?よく悩んでくれていい話だからね……二人は即答だったけど、別に今日参加を決めなきゃいけない物でもないよ」
「んー……急な話で結構びっくりしてるところはあるの」
んー、と口元に人差し指を持ってきて悩むアイネスの顔を見る。
本来、今日は今年の上半期で出走するレース、それを大まかに決める予定の日だった。
ドバイの話がなければ、ファルコンはとりあえずフェブラリーステークスから帝王賞。
フラッシュは恐らく春三冠。
アイネスは大阪杯→マイル2連戦かヴィクトリアマイルからの宝塚か……と、年明け直後にはある程度彼女たちのレースプランについても考えていたところだったのだが。
ドバイの話が入ってきたことで、仮組のレースプランがぶっ飛んだ。
今日はそのあたりも詰めていくつもりである。
「えっと、一先ずトレーナー、ドバイワールドカップミーティングの……あたし達が参加を選ぶレースの一覧、見せてくれる?授業でもやったけど確認しておきたいの」
「あ、そうだな。二人が即答だったんで出すの忘れてた。SS、プロジェクターにレース一覧と招待ウマ娘の一覧出してくれるか?」
「おォよ」
「……確認するのを忘れていましたね。ただ、私の場合は走るレースは1択になりそうですが」
「ファル子もまぁ、選ぶレースは一つかな…☆?メンバーからすると私は一人で出走しそうな予感するなー☆」
アイネスの声に応じ、俺はSSに指示して室内のプロジェクターにアプリの画面を映し出してもらう。
なお、当然のことだが、今朝の時点でSSには今回の話を共有済みである。
もし我らチームフェリスのメンバーが全員参加するようであれば、二人でドバイへ。誰かが日本のGⅠへの参加を希望するなら、俺だけドバイへ向かい、SSは日本でのチーム運営を任せる手筈であった。
さて、そうしてプロジェクターにレース一覧が表示される。
【第一レース】
ドバイカハイラクラシック(GⅠ ダート2000m)※アラブウマ娘限定
【第二レース】
ゴドルフィンマイル(GⅡ ダート1600m)
【第三レース】
ドバイゴールドカップ(GⅡ 芝3200m)
【第四レース】
UAEダービー(GⅡ ダート1900m)
【第五レース】
アルクオーツスプリント(GⅠ 芝1200m)
【第六レース】
ドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ ダート1200m)
【第七レース】
ドバイターフ(GⅠ 芝1800m)
【第八レース】
ドバイシーマクラシック(GⅠ 芝2410m)
【第九レース】
ドバイワールドカップ(GⅠ ダート2000m)
改めての確認にはなるが、この9レース。
先程参加を表明した二人……フラッシュは、このレースの中ではドバイゴールドカップかドバイシーマクラシックが適正距離だ。
とはいえフラッシュは中距離2400mこそがその閃光の末脚の神髄。シーマクラシックへの出走で間違いないだろう。
そしてファルコンだが、走ろうとも思えばどのダートレースでも距離適性としては難しくはない。
だが、これらのダートレースの中でも世界最高峰の権威と、世界最高峰のウマ娘が集まるであろう…ダート2000mのドバイワールドカップ。これをターゲットとしているはずだ。
これら9つ…正確には第一レースを除いた8つのレースの中で、アイネスが出走を希望するレースがあるかどうか。
表示されたレース一覧にアイネスが目を通して、内容を確認する様子を俺は見る。
しばらくの思案。そして、彼女の出した答えは。
「……ん、やっぱり問題ないね。よし、あたしも参加するの!チームでドバイ行き決定!!」
参加するという意志。
その瞳、確かな熱を持っている……嘘をついていないことははっきりとわかる。
だが、俺は僅かな懸念を持つ。それはアイネスがお姉ちゃん気質のウマ娘であるという点。
それを早い段階で、念のため口に出し確認することにした。
「……アイネス、君の為を想って今、あえて口に出すよ。その、他の二人に合わせて自分も……って気持ちがあるなら、そういう遠慮はいらないからね?今のチームフェリスにはサブトレーナーもいてくれるし、日本のGⅠへの参加希望が強くあればそっちへの出走でもいい。全然遠慮せず言ってくれていいからな?君は……その、周りをよく気遣ってくれるからな。一応」
「おー、誰かが日本のGⅠ出走するならアタシがこっち残るからよォ。本心から行きてェってんならいいが、日本の3月のレースへの未練があるなら遠慮すんな。その辺は詰めていけるからな」
そう、他の二人の乗り気に水を差すまいと、自分も付き合って参加しようとしているのでは……と言う点。
アイネスフウジンはお姉ちゃんウマ娘である。何よりも周囲への気配り、気遣いが出来る娘だ。
自分だけ日本に残って、チームの足並みがそろわないことを忌避しての、ドバイ参加……というのは、最終的にいいものを残さない感じもする。
そのための確認だ。彼女の選択を否定するつもりのものではない。
しかして、そんな俺達トレーナーの懸念に対してアイネスの出した答えは、とてもシンプルなものだった。
「んーん、大丈夫!あたしの走りたいレースがあったからドバイを選んだの!!確かに、二人に比べるとそこまでの急な想い……ってんじゃないけど、ドバイのレースに参加する分には迷いはないの。というか、ぶっちゃけ
「ん、そうか……?君がそう言うのなら、その意志を尊重するよ。すまんな、水を差して。……あと改めて言っておくけど、今日決定した内容が絶対に撤回できないとかってわけじゃないからな。2月中旬くらいまではいくらでも変更が利く。フラッシュとファルコンもだけど、参加意思や、出走レースの変更の希望があればまたいつでも相談してくれ」
「はい、わかりました」
「オッケー☆」
アイネスは彼女なりの考え……意志をもって、俺に答えを返してきた。
その瞳に、確かな熱を、後悔のない選択をした自信を感じたため、俺は一先ずそこで野暮な質問を閉じる。
彼女なりの理由があり、ドバイを選択したのであればそれは尊重するべきだからだ。
しかし、気になる一言も最後に零れていた。
日本もドバイも同じ、というそれ。
……何だろう?彼女の今年のレース出走に、彼女なりの理由がある、と言う事なのだろうか。
そこも出走レース決定で確認していくか。
「よし、それじゃあ一先ずは3人とも参加で予定を組みます。では次に、ドバイでどのレースに参加していくかも決めていこうか」
「はい。─────ドバイシーマクラシックでお願いします」
「ドバイワールドカップ!!!!!」
「即答過ぎない?」
続いてプロジェクターにレース一覧を表示したまま、それぞれがどのレースへ出走するかの確認を取ろうとしたところで、閃光と隼からカットインが入った。
早い、早いよ!
「……あー、まァお前らはこの2つのレースだよなァ。フラッシュは距離適性が一番合致する2400m。ファルコンは中距離2000m。……ここは即決でもいいだろ。しかしドバイワールドカップか……アタシの時はオールウェザーだったんだよなァ、懐かしいぜ。出走しないか打診来てたなァ……洋砂じゃねェしあの頃あまり修道院空けられなかったから断ったけど*1」
「へー、サンデーさんにも打診来てたんだ☆?」
「ああ、いちおー年度代表ウマ娘だからなァ。当時ダートレースだったら悩んだかもなァ。……っと、アタシの話はどうでもいいんだ。お前らが気持ちよく走れるレースを選ぶのが大切だぜ」
「SSの言う通り、だな。フラッシュとファルコンについては、俺もまぁ、このレースかなって思ってたから……じゃあ、二人はこのレースで決定、でいいか?」
「はい。……実を言うと、ドバイワールドカップに
「私もOK!!2000m以上なら隼の
俺は二人に再度確認を取り、二人の意志が固いことを察した。
勿論、この二つのレースは彼女たちのまさしく得意距離だ。適性に心配はないだろう。
後は俺達トレーナーが、どんな風にコースを攻略をしていくか、どんな相手がライバルとなるかよく調査し、彼女たちを勝利に導けばいい。
「んー、二人ともすっげぇ気持ちの強さなの。あたしの挟まるタイミングなかったのー。はーなの」
「ああ、ごめんよアイネス。君を蔑ろにする気持ちは全くないからね」
「申し訳ありません、アイネスさん。どうにも気持ちが昂ってしまって……よくないですね、落ち着かなくては」
「だね、なんかもう、心がぴょんぴょんしてる感じで……えへへ☆」
そうして二人の出走するレースが決定したところで、アイネスからはーなのが出てしまった。
ごめんて。君の選択だってとても気にしている次第なんだ。
というか、アイネスの選択こそがむしろ俺にとっては気になるところだ。
彼女は、どんな思いで、どのレースへの参加を希望するのか?
先程の言葉の真意も確認したいため、俺は続いてアイネスに意思確認を取る。
「じゃあ……アイネス、君が出走を希望するレースを教えてくれ。君は走れる距離のレースも多いから、出来れば理由まで、な」
「ん、わかったの。あたしは────────────────」
そして、アイネスが出した答えを聞いて。
その場にいたアイネス以外の全員が、驚愕に目を見開いた。