【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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127 それぞれの選択 後編

 

 

「……と言うわけで……ササヤキさんとイルネルさんが、ドバイへの招待を受けております」

 

「なぁんですってぇ!?!?!?!?」

 

「年明け早々鼓膜にダメージが!……しかし、ドバイですか」

 

 そしてこちらはチーム「カノープス」のチームハウス内。

 南坂がミーティング内でドバイワールドカップミーティングの説明を行い、昨年の革命世代として名を馳せた二人が招待を受けたことを伝える。

 それにサクラノササヤキが驚いて大声を上げて、マイルイルネルの耳がぺたんと閉じた。

 

「出ますッッ!!!すごい、すごいことですよね!?ドバイのレースに参加できるのって!!」

 

「ええ、招待制ですからね……URAに参加を希望して出走するにせよ、実力と実績が認められたウマ娘でないと参加はできません」

 

「過去にドバイに参加したウマ娘ももちろんいるけど、ここまで人数多い事って初めてじゃない?」

 

「ですね。ネイチャさんの言う通り、これまでは多くても3名程度だったと記憶しています」

 

「ドバイってどこにあるんだっけ?」

 

「授業でやったよターボ~。えーっとねぇ、確か~……」

 

「アラブ首長国連邦、ですね。アラビア半島にある国……そこに、僕とササちゃんが……」

 

 ナイスネイチャ、イクノディクタスがサクラノササヤキへの南坂の説明に解説を加え、ツインターボとマチカネタンホイザが首を傾げたところでマイルイルネルが説明を添える。

 知能担当のネイチャ-イクノ-イルネルのラインと、勢い担当のターボ-マチタン-ササヤキのラインが綺麗に描かれ、南坂は苦笑を零した。

 

「ササヤキさんは参加の希望でいいですね?では……イルネルさんはどうしますか?」

 

「……そう、ですね。僕も、参加したくないわけじゃないんですが……」

 

 サクラノササヤキの明快な答えの後、南坂はもう一人の革命世代、マイルイルネルに確認を取る。

 マイルイルネルは南坂の言葉、ドバイへの参加について……逡巡が生まれていた。

 

「さっき見せてもらったメンバー……フジマサマーチ先輩以外は、いわゆる革命世代を集めてますよね。けど、その中で……言っちゃなんですが、僕たちは実力が足りてない様にも、思うんです」

 

「イルイル!?それは禁句だよ!?」

 

「そーだよイルイル~?GⅠ2勝と1勝のアンタらがそんなこと言うとネイチャさんも激おこしちゃうよ~?」

 

「GⅠ取ってるのにイルイルは自信が足りないもん!!」

 

「いや、お二人こそ去年は、特に有マですさまじい走りだったじゃないですか。……僕に、ドバイで走る実力があるのか……」

 

 マイルイルネルの悩みはそこだ。

 革命世代の中で、特に優秀と謳われるのはチームフェリスの3人。

 続いて凱旋門での僅差の三着、有マ記念で一着のヴィクトールピストと、宝塚クラシック期制覇のメジロライアン。

 ハルウララについても無論、優駿であるという理解…ダート短距離であれば隼相手でも引けは取らない、強いウマ娘であるとわかってはいるが。

 

 僕は、どうなんだ?

 勝利GⅠは革命世代が誰もいなかったオークスのみ。

 ササちゃんだって、僕と一緒に秋華賞で確かにアイネス先輩を破りはしたが、領域の発現無し、アイネス先輩がスランプの時だ。

 その後に挑んだエリザベス女王杯、マイルCSではお互いにシニアウマ娘に敗北し2着だった。

 

 確かにドラマはあっただろう。

 ティアラ路線でアイネス先輩とバチバチにやりあった、それは己の確かな経験と想い出として胸の内にある。

 だが、実力は?

 これまでにも似たようなウマ娘はいたじゃないか?

 世界を変える革命世代の一人に数えられるほど、本当に僕たちは強いのか?

 

 そんな、ある意味ではカノープスらしい、己への根拠のある自信のなさが、マイルイルネルにドバイへ参加するという返事を躊躇わせた。

 

 しかし、ここはチーム『カノープス』だ。

 そんな悩みなど、既にいくらでも経験している先輩たちがそこにいた。

 

「……イルイル、()()()()。あたしも昔、同じような悩みでヘラってた時期あるし」

 

「ネイチャさん……」

 

 その悩みの先達、筆頭たるウマ娘……ナイスネイチャが、マイルイルネルの肩に手を置き、言葉を紡ぐ。

 既に何年もレースを走り、そうしてサブトレーナーの資格まで取得した彼女は、その精神性が熟成され、頼られる存在となっていた。

 

「テイオーを相手にしてた時、何度も何度も…同じようなコト、考えてた。キラキラしてるウマ娘を相手にして、あたしは勝てるのか……いや、勝つって言うか、そもそも同じレースに出ていいのか、こんなモブキャラが……なんてね。ずっと、胸に棘は刺さってたよ」

 

「………でも、ネイチャさんは」

 

「うん。色々考えて、悩んで、悩み抜いて……でも、やっぱ、()()()()()()()()。テイオーと、当時の世代のウマ娘達と。レースに出る時だって、いやゲートの中だって悩んでたけど。でもね、そんな私だったけど……後悔は、無かったかな」

 

 ナイスネイチャの走りの歴史については、改めて語るべくもないだろう。

 GⅠの勝利に恵まれず、周囲の才能あるウマ娘達に挑み、伏兵として、おなじみ三着として周知される彼女のその物語が、しかし陳腐なものだなどとは誰にも言わせない。

 苦悩しながらも、ナイスネイチャは挑戦することを選んだ。

 戦う道を選んだ。

 走る道を選んだ。

 それはなぜか。

 

「─────()()()()()()。テイオーに勝ちたかった。テイオーがいない菊花賞だって、『テイオーが出ていればなんて言わせない、私の方が上なんだ』…って、叫んでた。負けて、悔しくて叫んでた。……叫ぶほど悔しかった。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!!」

 

「ねぇ、イルイル。アンタは頭が回るからさ、悩むこともあると思うよ。けど、もっとシンプルでいいんだよ、レースなんて。……チームフェリスに、ヴィイやライアン先輩に、アンタはどうしたい?」

 

「……僕は……僕、は……」

 

 肩に置かれたナイスネイチャの手から伝わる。熱い想いが、魂の鼓動が。

 マイルイルネルの答えは一つだった。

 

「……()()()()。勝ちたい、です!!万全のアイネス先輩に勝ちたい!フラッシュ先輩と、ライアン先輩と末脚勝負して、勝ちたい!ヴィイちゃんの領域を、知略で捻じ伏せてやりたい……!!そう、か、そうだ、僕は、勝ちたい……!」

 

「……決まり。アンタのその言葉、待ってたよ。ねぇ、南坂トレーナー?」

 

「ええ。貴方が勝てるように尽力するのが、私達の仕事であり望みです」

 

 マイルイルネルの想いの発現に、ナイスネイチャがまるで聖母の様に柔らかく微笑み、南坂もそれを見て頷く。

 レースに出て、勝ちたい。

 そんなシンプルな答えだが、しかし、それこそ絶対に見失ってはいけないものだから。

 

「…南坂トレーナー。僕もドバイに出ます。自分が勝てるかわからないから……なんて、恥ずかしい理由で悩むのはやめました。カノープスらしく、僕は僕の全力を以て、世界に挑む」

 

「わかりました。二人とも、完璧な調子でレースに出られるように…勝てるように、頑張りましょう」

 

「イルイル……!!!よかったよぉ、一人だけじゃ寂しいと思ってたから!!!」

 

「ササちゃん、ごめんね……少し自分を見失ってたよ。でも抱きしめて耳元で怒鳴るのはやめて」

 

 こうしてサクラノササヤキに次いで、マイルイルネルも出走を決定した。

 チーム全体に祝福の言葉が広がり、そうして暫く盛り上がったのち、落ち着きを見せたところで次に決める内容を南坂から口に出す。

 

「では、3月からの遠征には私とネイチャさんが同行するとして……」

 

「留守番はお任せください。完璧なチーム管理をいたしましょう」

 

「お土産楽しみにしてるもん!」

 

「応援してるよ~!えい、えい、むん!!」

 

「よろしくお願いします、イクノさん。……さて、ではお二人の出走するレースをどれにするか、ですね」

 

 レース一覧をホワイトボードに記載し、南坂が出走レースについての確認を取る。

 二人は芝を走るウマ娘だ。距離適性は主にマイル。

 サクラノササヤキはジュニア期に短距離の重賞を制覇しており、マイルイルネルはオークス、2400mで一着を取っている。また、二人とも2000mの秋華賞でレコードを記録していることから、それなりにレンジは広い。

 しかし、それぞれの己の脚への理解から、出走レースについてはあまり悩まなかった。

 

「…ぶっちゃけ、短距離はそこまで得意じゃないんですよね!!!ペース守ってると負けるから!!!」

 

「僕も、短距離だと速度が乗り切らないからね。中距離は2410mか……スタミナがたぶんギリギリになる。オークスの時はまだ他のウマ娘もスタミナが完璧じゃなかったから何とかなったけど……世界に挑むには不安だね」

 

「……ってことはやっぱ、ドバイターフかなぁ!?!?」

 

「かな。1800m……少なくとも、実力を発揮しきれなかったって言い訳の利かない、得意距離だ。そこにしようか」

 

 二人の結論はそこに落ち着いた。

 短距離はサクラノササヤキのペース走法、マイルイルネルの追い上げる豪脚がいまいち発揮できない。

 中距離は2000mであれば悩んだが、2410mとなるとスタミナに不安が残る。

 二人の実力をいかんなく発揮するのであれば、マイル戦。ドバイターフへの出走を二人とも希望した。

 それを聞いて、南坂もナイスネイチャも理解を深めて頷く。

 

「ま、アンタたちの得意距離はそこだよね。いいんじゃない?」

 

「ですね。では、お二人ともドバイターフへ……激戦が予想されますね。ヴィクトールピストさんやアイネスフウジンさんはこちらに出てくる可能性もあるでしょう。世界から集まるウマ娘、その全員が侮れない相手です」

 

「はい!!でも、出るからには勝つつもりです!!」

 

「僕もです。勝ちたいっていう自分の気持ちに嘘はつけない……何としても勝ちに行きますよ」

 

 無事に出走レースも決定し、チーム全体の今年の出走プランについても組み始める。

 チームカノープスの伏兵たる二人もまた、ドバイワールドカップミーティングへの参加を確定した。

 

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────────────────

 

「ドバイか………正直、あまり気はそそられんな」

 

「ま、だよな。お前ならそう言うとは思ってた」

 

「ええ!?すごい栄誉なことですよ!?」

 

 また場面は変わり、ここはチーム『カサマツ』のチームハウス。

 北原からドバイワールドカップミーティングへの参加を打診され、それを腕を組みながら聞いていたフジマサマーチは、しかし出走に対して前向きな答えを返さなかった。

 それに驚くベルノライトだが、しかし他のチームメンバー……オグリキャップやカサマツ三人組は、マーチの答えの理由に心当たりがあった。

 

「……()()()()()()()()()、か?」

 

「マーチのご執心の相手だもんなー」

「わかる。アタシらもぶっちゃけそーだし」

「中距離じゃ無理だけど短距離ならワンチャンあると思うんだよなぁ…!」

 

「ああ、そういうことだ。今の私は、どうやってファルコンに勝つか……そればかり考えている」

 

 フジマサマーチ。シニアを長く走る、ダートウマ娘としては安定して高い実力を持つウマ娘だ。

 そんな彼女は、去年の初対決を経て……最愛の後輩にして最大の強敵たるスマートファルコンへの執念を燃やしていた。

 

 一度でいい。

 あれに勝ちたい。

 あの砂の隼の視界に、己の背中を見せつけてやりたい。

 

「……まぁ、出るか出ないかで言えば出るさ。海外挑戦も勉強だ、己の糧になるだろうし……3月はスマートファルコンの出走する国内ダートレースはないだろう。そして、出るからには当然、勝つつもりで走る」

 

「おう。そんじゃ出走するとしたらどのレースにするよ?」

 

「ドバイワールドカップ────と、言いたいところだが。流石にそこまで己の脚を過信はしていない。中距離ではファルコンには勝てん。それを去年思い知らされた……当然、ファルコンはドバイワールドカップに出るだろう。そしてアイツが一着だ。それは確信できる」

 

「……マーチさんも、ジャパンダートダービーで一着でしたし、中距離だって……」

 

「ふふ、ベルノ。そう言ってくれるのは嬉しいが……天才はいるんだ、悔しいがな。一度アイツと走ればわかる。愛する後輩に対して、心から信頼し言い切れる。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 フジマサマーチの出走レースについて話が膨らみ、中距離ダートレースに話になるが、フジマサマーチはそこへの出走を回避した。

 ベルノライトも言ったように、フジマサマーチは中距離も走れるウマ娘だ。クラシックの時期にGⅠに勝利し、その後も帝王賞や東京大賞典で好成績を残している。まだ今年はGⅠではないが、川崎記念で1着も取っている。

 しかし、今年のスマートファルコンの東京大賞典での走りを見て理解した。

 

 中距離では、スマートファルコンには勝てない。

 

 ネガティブな感情とも思われるその内容だが、カサマツの三人組のうち、中距離も走れるノルンエースも同様の結論に至っている。

 自分たちの中距離への適正、脚の馴染みが十全でないことも確かだ。これがオグリキャップなら…もしくはアグネスデジタルといった、さらに中距離を得意とするウマ娘ならばわからない。

 だが、シニア級の今、さらに適性を伸ばせる見込みもない自分たちにとって、中距離は鬼門だ。

 今持っているカードで勝負するならば、中距離レースは選択肢から外さざるを得ない。

 

「……まぁ、しゃあねぇな。俺だって、勝てるから出走しろよ、なんて無責任なこと言えねぇし。そんじゃマイル以下のレース、ってなるとGⅡのゴドルフィンマイルかGⅠのゴールデンシャヒーンになるけど…」

 

「その二つならゴールデンシャヒーンだろうな。短距離ダートは得意中の得意だ、ウララもそこにくるかもしれんが……その距離なら、過不足なく走れるだろう。世界の強敵を相手に走るのは、いい経験になる」

 

「おう。じゃあ目下の予定はそこっつーことで打診しておくぜ。ただ、まだいくらでも変更はきくからな、出走レースの変更や……まぁ、もし参加自体取りやめたいって思ったらまた言ってくれ」

 

「ああ、世話をかける。……今は世界よりも、目の前を飛んでいる隼を捕まえるのに夢中だからな。むしろ、そっちの方で頭を使ってもらうぞ、キタハラ」

 

「おうよ、とんでもねぇ無茶振りだが、まぁ俺だって立華クンの先輩やってっかんな。一矢くらいは報いてやりてぇさ。ってことで……今年のレース、初戦は以前話してた通りでいいな?」

 

「ああ。……私はフェブラリーステークスに出る。ドバイまで間隔もあるし、ファルコンも出走予定は取り下げないだろう。そこで勝負だ。鍛え上げるぞ……私の走り、これまでの全てをそこに注ぎ込む」

 

 ドバイへの参加についてはあっさりと、悩まずに決定した。

 フジマサマーチにとって、降って湧いたような話ではある。すぐに熱が高まらないのは当然と言えた。

 スマートファルコンやエイシンフラッシュ、ヴィクトールピストの方が、一般的に考えれば異常な執着を見せていると考えられる。

 栄誉なことではあるし、間違いなくいい経験になる。参加自体は了承としたが。

 

 だが、それよりも。

 ()()()()()()()()

 スマートファルコンという、きっと己の競走人生で二人目となる、最後にして最大の強敵である彼女に勝ちたい。

 

 そちらの方への熱、執念、気魄をフジマサマーチは抱えていた。

 それであれば、北原のやる事も一つだ。

 ドバイの前に、まずはフェブラリーステークスに全力を尽くす。

 砂の隼に挑む。

 

「……ふふ。少しだけ、妬けるな」

 

 そんな、かつて自分に対して見せていたような勝利への執念。その矛先が後輩に向けられていることに、苦笑を浮かべて多少の嫉妬を覚えるオグリキャップであった。

 

────────────────

────────────────

 

「ドバイ!!!……って、どこ?」

 

「海外だよ。アラブって言う国にあるところでレースするんだ」

 

「えー!?外国なの!?すごーい!!ウララ、行ってみたいな!!」

 

「そか。そんじゃ、参加は決まりとして……問題は、どのレースに出るか、だな」

 

 ここはチームハウスではない。学園にある空き教室、その一室をトレーナー室として借り受けている。

 トレーナー3年目になった初咲と、その専属の担当であるハルウララが、ドバイワールドカップミーティングへの参加について相談していた。

 

「ねぇねぇ、トレーナー!ファルコンちゃんもマーチ先輩も一緒なのかな!」

 

「ああ…スマートファルコンは絶対来るだろうな、海外レースも経験あるし。フジマサマーチはどうだろ……北原先輩、あの場では乗り気って程じゃなかったし……まだわからないよ。けど、ドバイだからな。来る可能性は高そうだ」

 

「おおー!!みんなで旅行して、レースに出るんだね!!すっごい楽しそう!!」

 

 ハルウララの天真爛漫な様子に思わず笑顔がこぼれる初咲。

 彼女のこうしたとても前向きで明るい様子に、何度自分が助けられたことか。

 そんな彼女が、URAにも認められ、CMにも出演し、そして今ドバイワールドカップミーティングへ挑もうとしている。

 これが、嬉しくないはずもない。

 

 しかし。

 初咲には、一つ、懸念があった。

 

(……出走レース。ドバイワールドカップはファルコンが来るだろうし、中距離はやっぱウララには厳しい。勝ちに行くなら避けた方がいい……けど、じゃあ、ゴールデンシャヒーンで勝てるのか?)

 

 そう、それはハルウララの出走レースについてだ。

 彼女は短距離~マイルを得意距離としている。

 中距離への適正は、黒沼先輩の助けもあり、ある程度走れるようにもなって……ジャパンダートダービーも奇跡の勝利を果たしている。

 だが、やはり、中距離はハルウララにとって長すぎる距離なのだ。

 先日の東京大賞典でそれを確信した。

 完璧な適正を持つウマ娘に、ウララは中距離では勝てない。

 悔しいが、これは覆せない。俺の実力では、指導力では、無理だ。

 

 であれば、どのレースに出るか、と言う話になるが。

 初咲は、そこに、人一倍の悩みを抱えていた。

 昨日、家に帰ってから殆ど寝付けなかったくらいに悩んでいた。

 

(……距離だけ見れば、ゴールデンシャヒーンはウララの距離だ。だが……短い。1200mはウララの末脚が発揮しきれない距離だ。JBCスプリントは1400m*1だったから差し切れたけど……不安が残る……)

 

 本音は、ウララにGⅠで勝ってほしい。

 だが、勝てるかどうかが分からない。

 これまでの、実力や作戦を十全に事前にわかっていた日本国内のウマ娘が相手ではない。相手は世界の優駿、生粋のダートウマ娘達だ。

 距離も、出来る限りウララが得意なもので走らせてやりたい。

 

 そんな、捉えようによっては弱気ともとれる思考に、初咲は陥ってしまっていた。

 原因は推して知るべきであろう。

 JBCスプリントまで、素晴らしい好走を果たしていたハルウララだが……冬の、12月のGⅠ2連戦。

 そこで、隼の飛翔に食らいつけず、敗走した。

 その経験が、初咲を迷走させていた。

 

「……なぁ、このレースの中で、ウララが走ってみたいレースはあるか?」

 

「えー?んー……えっと、距離は全部2000mまでだよね?ダートなら、ウララはどこでも走れるよ!」

 

「うん、そうだな……」

 

 悩みの末に、ハルウララ自身の希望を聞くことを忘れていたことに気付いた初咲は彼女に確認してみるが、ウララ自身もどのレースに出走するかを悩んでいるようだった。

 言葉と表情だけ見れば、どんなレースでもいい、と受け取れるだろうが、しかしそんなウララが内心、どのレースに出ようか真剣に悩んでいることを、初咲は察した。

 

 彼女なりに、理解しているのだ。

 ドバイワールドカップにはファルコンが出て、しかし中距離で彼女に勝つのは難しい。

 ゴールデンシャヒーンはGⅠだが、1200mで、差し脚質の自分にとって距離が短い。

 UAEダービーも中距離と言っていい距離だ。スタミナが怪しい。

 ゴドルフィンマイルは適正距離で、ここならば実力は十全に発揮できるが……GⅡである。

 

 GⅠレースの権威はハルウララだって理解している。GⅠでの勝利と敗北を経験している彼女もまた、精神的に成長を見せていた。

 勿論、その経験を共に歩んだ初咲もまた、トレーナーとして十分なレベルアップをして。

 

 そんな経験が。

 彼らに、レース出走に対して勝率を求める苦悩を生んでいる。

 GⅠ勝利への欲求と、敗北の恐怖の狭間で揺れている。

 

 んー、むー、と二人で唸りながら数分。

 そして、出した答えは。

 

「……ゴドルフィンマイルにしようか、ウララ。GⅡだって言っても、世界一のダートレースの祭典の中の一つなんだ。相手は勿論みんな強いし、そこで勝てば十分に胸を張っていいレースだ。ウララが一番走りやすい距離だしな」

 

「……うん、そうだね!!ウララもね、そうしようかなって思ってたところ!」

 

「ああ。やっぱり、走りやすい距離が一番だしな。フェブラリーステークスで事前に距離を走る経験も積めるし……」

 

「うんうん!それに、ゴドルフィンマイル、って第二レースでしょ?日本のみんなの中で、一番に走るレースになるよね!!ウララが最初に、一番だー!ってなれば、みんなも喜んでくれるよね!」

 

「おお、そうだな!そりゃ間違いない!そうなると責任重大だぞーウララ。頑張らないとな!」

 

「せきにんじゅうだいー!がんばるぞー!」

 

 おー!と元気な声を二人で上げて盛り上がる室内。

 その響きとは裏腹に、冬の寒風が僅かに開いた窓から入り、静かに空回りをしていた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「─────あたしは、アルクオーツスプリントに出るの」

 

「……っ。……短距離、直線の芝1200mのレースだ。……そこでいいんだな、アイネス?」

 

「うん。それ以外のレースは考えてないの」

 

 視点は戻ってきて、チームフェリスのチームハウス内。

 アイネスフウジンが選択した出走レースは、何と短距離のレースだった。

 

「ジュニア期で短距離に足は馴染んでる。それをあと2か月で極めて……あたしは、海外GⅠの短距離に挑んでやるの!」

 

「……ああ、OK。出走自体は構わないよ。俺も、君がそのレースで勝てるように尽力しよう。短距離も君は走れるしな。……ただ、理由を教えてほしい。流石に俺も、君がそこを選ぶとは思わなかったからね」

 

 アイネスフウジンの選択に、隠せない狼狽を見せる立華。

 当然と言えるだろう。他のチームメイトも、本気か?という顔を見せている。

 

 アイネスフウジンは走れる距離が極めて広いウマ娘だ。

 本来の距離適性はマイルから中距離だが、立華が実施した地固めの下、長距離にも耐えうる脚は作れている。

 また、ジュニア期に短距離レースへの出走を希望し…立華がそれを成すために距離適性の壁を超える指導に尽力した結果、確かに短距離も走れるようにはなっている。

 

 しかし、それはあくまでジュニア期の事。

 今、完璧な適正を果たしているとは言えない短距離に、しかしアイネスフウジンは強く出走を希望した。

 その理由は、何か。

 

 続くアイネスフウジンの言葉に、それを聞いたチームメンバーは、納得と驚愕をさらに深めることとなった。

 

「ふふ、あたしは伝説を作るって言ったでしょ?それを成すためにはどうすればいいか、考えてたの。で、決めた。あたしは────────」

 

 それは、言葉にすれば誰もが理解する、伝説の結実。

 しかし、誰もが理解する、余りにも難解なる挑戦。

 

 

「───────全部の距離のGⅠで勝つ。短距離の後は天皇賞春にも出るからね!!今年一年、GⅠを荒らしまわってやるの!!」

 

 

「………そっかぁ」

 

 絶句したのち、立華の口から惚けたような返事が零れた。

*1
実在のJBCは持ち回り開催で、大井・盛岡・京都は1200m、名古屋・川崎・園田・金沢・浦和は1400mになる。






10分投稿を遅らせた理由はこの挿絵をアップする時間が必要だったからです。

Z-Z様にスケブでご依頼し挿絵を描いていただきました!

【挿絵表示】

この修道服!!!この胸!!!!!黒タイツ!!!!!流星!!!!
ヴッ(尊みで心停止)

オリウマの依頼だったのに素晴らしいイラストをありがとうございました!
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