【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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UA100万、評価15000点を達成してたようです。
ご愛顧有難うございます。引き続きガンバルゾー。





132 絶対への挑戦 前編

 

 

 

 

「よし、良いフォームだ!前より安定感が増してるぞ!!そのまま真っすぐ走れファルコン!」

 

「はいっ!だ、ああああああああ!!!」

 

「体幹がわずかでもブレりゃ速度は落ちる!背中に一本筋を通したまま全力で脚を回せェ!」

 

 2月の初週。

 体幹トレーニングの合間にある併走の日、俺はファルコンとSSの走る、2000mの併走をゴール前で見守っていた。

 

 今年2月の後半にはフェブラリーステークスに挑むファルコン。

 そんな彼女は、ドバイに挑む前のこの2月の時期に、レースに向けて走りも整えていく必要がある。

 元々体幹と言う意味ではフラッシュやアイネスと比べて鍛え上げられていた彼女は、この1か月の体幹トレーニングで更に安定感が増し、体幹に関わる筋力で言えば相当な仕上がりを見せている。

 無論、2月中はこれからも体幹トレーニングを実施するが、ほぼ彼女の地固めは仕上がったとみていいだろう。

 この1か月で残る二人も体幹を仕上げ切り、ドバイに挑む予定だ。

 

 なお、先日新しくチームメンバーとなったキタサンブラックも、既にSSというトレーナーがついたことから選抜レースへの出走を取りやめ、体幹トレーニングに勤しんでいる。

 メイクデビューまでは体幹トレーニングを中心に、彼女の体に合ったフォームの習得をさせて、そこに集中する予定……でSSと今後のトレーニング予定を立てている。

 俺も彼女の走りを見て、体を診たが、成程、この世界線のキタサンブラックはかなりの才能の萌芽を予感させる。

 SSの指導の下、どこまで輝けるか楽しみだ。

 

 先日開催されたドリームリーグ、その激走を全員が目撃したことで、やる気も全員が絶好調を見せている。

 これはうちのチームだけではなく、ドバイに挑む全員が……いや、学園全体がさらに活気づいているようだ。

 俺もあの走りを魅せつけられて、さらにトレーナーとして奮起させられた。彼女たちがベストの状態でレースに挑めるように尽力していこう。

 それは勿論、練習と言う意味でもそうだし、ドバイ遠征に向けた環境を整えるという点でもそうだ。

 最近はたづなさん、南坂トレーナーと俺を中心に、ウマ娘達がドバイでベストな走りが出来るようにホテル手配などに尽力している。

 

「……っゴール!ああ、タイムもいい。次のレースも心配はいらない数字ではあるな」

 

「はぁっ、はぁ……へへ、ドバイで走るって決めてから、ファル子絶好調☆!フェブラリーステークスだってしっかり勝ち切って見せるからね!」

 

「ふぅー、はぁー……キタぁ、アタシの走り見てたか?ファルコンと並んで走ったからより分かり易かったはずだ。重心の位置が違うからフォームが全然違ってただろ?今日の併走終わったらどのあたりが違ったか答えてもらうからな」

 

「はいっ!!大変勉強になりますっ!!」

 

「喧嘩売ってる☆?」

 

「まぁまぁファルコンさん……ファルコンさんの走りはダートに合致した、良い走りだと思いますよ?」

 

「そーなの。重心が低く、ダートの上でもロスの少ない走りが出来てるの。誇っていいと思うよ?」

 

「喧嘩売ってる☆?☆?☆?」

 

 俺は何も言わずにファルコンの頭をわしわしと撫でてやりつつ、クールダウンの時間を取らせる。

 個人的にはファルコンのダートの上での走りは、心から褒めたい、彼女にとって完璧なフォームだと感じているのだが、まぁ、うん。彼女の怒りの理由を察せないほど俺も朴念仁ではない。

 その部分の大小はウマ娘の速さにも魅力にも絡んでこないと俺は思ってるからな。俺は味方だ。君のツインテールが今の走りでちょっと乱れてるところの方が個人的には好きだ。

 

 閑話休題(話逸れまくった)

 

 さて、しかしそうして完璧に見えるファルコンの走りだが、それに胡坐をかいて俺達トレーナーが楽観視することはできない。

 当然だが、ウマ娘達のレースには絶対がなく、勝利を得るためにはあらゆる懸念を考慮する必要がある。

 だから今日は、ファルコンの走りについて分析し、彼女の中で己の走りにあるウィークポイントをはっきり自覚してもらう予定だった。

 

「さて……それじゃファルコン、クールダウン中だが、君の走りについて改めて、長所と短所を分析していこう」

 

「はい!うん、()()()に挑むにあたって、油断はできないからね…!お願いします☆!」

 

「……ああ。まず、スタートから……君はスタートが抜群に上手い。そのゲートの反応の良さは間違いなく長所だ。そこからの加速も、大逃げが選択肢として選べるほどに力強い。これははっきりとした長所だ。だからこそ、スタートの失敗には気を付けないといけない。何故なら────────」

 

 

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────────────────

 

 

「──────スマートファルコンは、バ群に弱い」

 

「ぜぇっ、ぜぇ………その、心は…?」

 

 視点は切り替わり、ここは()()()()()()()場。

 チームカサマツのメンバーと、そのトレーナーである北原が、ここカサマツに戻り、体を、走りを仕上げていた。

 つい先ほども、1600mをフジマサマーチが走り抜き、息を整えているところだ。

 そして、そんなカサマツメンバーのほか、とあるトレーナー……いや、()トレーナーが、助言の為にチームの練習に付き合っていた。

 

「…ファルコンはこれまで、どのレースでも逃げで走ってた。そもそもバ群の中で走る経験がないから、慣れてねぇ……ってコトっすか?()()()()()()

 

六平(ムサカ)だバカ野郎。……今のジョーの説明で間違いねぇ。俺が分析した限りありゃ生粋の逃げウマ娘だ。サイレンススズカのジュニア期みてぇに、先行策なんてやったら全く走れなくなるだろうな。つまり、一度前に出れば勝てる」

 

「ふっ……はは、六平トレーナー、簡単に言ってくれるな。アレを相手に、前に出る……誰もがやろうとして、出来ていないのだ。それを成したのはエイシンフラッシュのみで、それは芝のレースだった」

 

「だ、な。だが、考えの一つには組み込んどけ。あらゆる可能性を模索するのが、強敵に勝つための努力ってモンだ。ナイスネイチャがいい例だ。アレは誰よりも勝利の可能性を頭に入れてるから、あの脚でも常に上位に食い込んでる」

 

 スマートファルコン対策……そして、その仕上げのための特訓。

 それをカサマツの地で行うことを決めたのは、1月中の事だ。

 既に学業として単位は十分に獲得しているカサマツメンバーとしては、1か月程度学園を離れ遠征合宿を行う分には、問題なく学園から許可を取れていた。

 

 さて、しかし行っている練習は、とてつもなくハードな特訓である。

 歯に衣着せずに言えば、時代錯誤も甚だしいほどの、精神的にも肉体的にもキツい特訓。

 この特訓をやると言い出したのは、フジマサマーチだ。

 彼女は、今中央トレセン学園で流行している体幹トレーニング……それを実施することを拒んだ。

 

 体幹トレーニングの効果を疑っているわけではない。

 が、自分はシニア期で、それも現役がかなり長いほうだ。体幹も既に十分に発達している。

 改めて体幹を仕上げることが、己の限界を引き上げることに直結しないと考えた。

 さらに言葉を選ばずに、フジマサマーチの考えを表すと、このようになる。

 

 己は、もうピークの維持が難しくなるくらいに長く走っているウマ娘だ。

 であれば、その全てをスマートファルコンにぶつけるためには、まともな特訓では不足と感じた。

 まともな特訓はもうすでに、今日に至るまで、十分にやってきた。

 

 今の自分に必要なのは確固たる意志。

 執念。

 どれほど苦しい特訓でも、音を上げることのない、果てしない目的意識。

 

 砂の隼に勝ちたいという想いをどれほど強く持てるかが、彼女と距離を縮めることに直結すると確信した。

 己の中で、その考えが腑に落ちた。

 だから、こうして脚も体も悲鳴を上げる寸前まで追い込んだうえで、経験豊富な六平トレーナーを呼び、戦術的にもスマートファルコンを分析して、彼女の弱点を全力で突く。

 勝ちに対して一切の妥協をしない。

 心に鬼を宿せ。

 

 そんな執念を燃やす場として、己の地元たるカサマツを練習の場所に選んだのだ。

 

「ま、スタートでスマートファルコンに追いつこうとするのは無理だ。400mでスタミナ切れ起こしたっていいってんなら話は別だが、追いつこうとすれば余計な体力を使うことになる」

 

「だろうな。……だが、スタートが僅かにでもブレれば、それはファルコンの焦りを生む結果になる、ということか」

 

「そうだ。だからゲートに入った時から圧をかけろ。お前の眼光は武器だ。ノルンエースほどじゃねぇが、オグリと並ぶ程度にゃ十分に圧をかけられるだろう。スマートファルコンがスタートに割く意識の割合を増やしてやれ。スマートファルコンとゲートの位置が近いことを祈るんだな」

 

「はっ、可愛い後輩に嫌われてしまいそうだな。……ああ、だが、アレに勝つということはそういうことだ。やるさ。勝つ可能性が高まることなら、なんでもな」

 

「……いい執念だ。ジョー、お前、よくこいつを磨き上げたな」

 

「ははは。ウマ娘の為に頑張るのがトレーナーってもんでしょろっぺいさん。マーチも…ノルン達も、もちろんオグリも、ベルノだって、自慢のウマ娘ですよ」

 

「いつの間にかいっちょ前になりやがって。……よし、休憩は終わりだ。もう一本、1600mだ。次の併走はルディ、ミニー、行ってこい」

 

「あいよ!マーチ、無理だけはすんなよな!無茶はしてっけど無理は駄目だからな!」

 

「こんだけやってファルコンと万全で走れないなんてなったらあたしら全員で泣くからな!」

 

「ああ、判ってる。すまんな、気を遣わせる。だが、もう少し付き合ってくれ」

 

 スマートファルコンの弱点、その一つ目。

 スタートに意識を割かなければならず、スタートを失敗すればバ群に呑まれてその豪脚を発揮できない。

 その点を一つ、共通見解として深めて、そうしてフジマサマーチがまた併走に入った。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「確かに…私、これまでずっと逃げて来たし、スタートって失敗してないから……バ群に呑まれちゃうと、走りづらくてかなわないかも」

 

「だな。だからこそ、そこを狙ってくるウマ娘もいるだろう。世界に出ればなおの事だな。ラビットっていう手段だってあり得るし。……まぁ勿論、それに対抗する集中力(コンセントレーション)を君が持っていることも知っている。ゲートの中で慌てないようにしよう、ってのがまず一つ目かな」

 

「はい!……んー、瞑想とかしてみたほうがいいかな?」

 

「あー、瞑想はスタートで結構効くぞォ。アタシも瞑想……っつか、ルーティーンにしてる神への祈りって集中を高めるためにやってるところあるしな」

 

 俺たちは改めて、最強の武器でもあるが諸刃の剣でもあるファルコンのスタートについて語り合った。

 抜群のゲート反応を見せ、これまでも好走を果たしてきた彼女ではあるが、しかしその前提が崩れてしまうと一気に走りに陰りが見える懸念。

 だからこそ、スタート前の集中を高める必要があり、そして万が一にもスタートを失敗しても、落ち着いて前に出られるような意識管理。

 これは今後のレースにおいて、ファルコンへのマークがさらに厳しくなるであろうことから、自分で意識することは大切な要因と言えた。

 

「さて、それじゃあスタートの話は終わって……次は序盤から中盤、だな。とはいえ、序盤はさっきも言った通り、最適な走りが出来ていると思う。プレッシャーや牽制に対する抵抗力もピカ一だ。この間のチャンピオンズカップでも、全員からの牽制を受けてもなお走れていた。そこは心配いらないかな」

 

「うん、自分でも……後ろからの圧って、なんだろう、こう表現しちゃうとちょっと高慢ちきかもだけど…あまり気にならないかな。それよりも、誰よりも速く前を走るほうに意識が向いてるから」

 

「結構すげーことなのそれ。あたしも逃げウマ娘だけど、あたしの場合は後ろに気は配るタイプだから意識せざるを得ないし……まぁ、その分速度を奪うような牽制を後方に仕掛けられるんだけど」

 

「はえー……私も逃げが主な走りになりますけど、なんだか見てる景色が違うなぁ……」

 

「キタはお前らしい走りをこれから見つけて行けばいいからな、焦るこたァねぇぞ。勿論、参考になるところは勉強してけな」

 

「このチーム、よくよく考えると逃げウマ娘が多いですね」

 

 そうして続く序盤での走りの分析。スタートが上手く切れていることが前提だが、ここは大きく心配する点はない。

 何より、ファルコンは牽制への抵抗力が強い。後ろへの余計な気配りをせず、前だけ向いて走れている証左だ。タイプとしてはサイレンススズカに近いだろう。

 この二人は、前しか向いていないため、後ろからの牽制にも大きく意識がそがれないのだ。

 

 対照的に、後ろを気にしながら走る逃げウマ娘ももちろんいて、アイネスがそれに近いし、セイウンスカイなんかがこれにあたる。

 勿論こちらも走りも極めればレース全体の支配につながる戦術であり、どちらが良い、悪いということはない。

 どちらが己に合うタイプの走りか、という事でしかない。

 

「ファルコンはその走りを貫いてくれていいよ。実際、結果がレースに現れてるしな。……しかし、中盤。ここにはいくつかまだ隙がある。…というか、徹底的に対策して隙をつくなら、ここしかないともいえる。フラッシュ、アイネス」

 

「はい」

 

「なの」

 

「君達がファルコンと…まぁ芝、ダートの違いは置いといて……GⅠレースで競い合うことになった。スタートは抜群の反応でファルコンが先頭。アイネスがその後ろ、フラッシュは差しの好位置をキープしている。さて、ファルコンに仕掛けるなら、どこで、どう仕掛ける?」

 

 俺はチームメンバー全員でのワーキングトークとするため、話をフラッシュとアイネスに振った。

 彼女たちは、誰よりも近くでファルコンの走りを見て、そして実力も拮抗する、仲間でありライバルであるウマ娘達だ。

 そして頭の回転も速い。そんな彼女たちが、ファルコンに仕掛けるとするなら、どこを選ぶか?

 こういった戦術的な意識を高めることは、特にシニア級に入ってからとても大切だ。

 ジュニア期やクラシックでも行っていたように、俺がレース前に戦術を授ける行為……これはトレーナーとして当然の事であるし、今後やらないという話でもない。

 しかし、シニア期に入り、レースのレベルがさらに高まっていく中で、彼女たちは走りながら、一瞬の判断で戦術を決めていく必要が高まってくる。

 先日行われた有マ記念なんかが最たるものだ。不測の覚醒で目まぐるしく変わる戦場の中で、己の最適解を選び取り、最適なルート取りをしなければならない。

 そういった判断力を鍛えるために、こうしてチーム内でもレース戦術について話を膨らませているわけだ。

 

 そうして問いかけたファルコンへの仕掛け処について、彼女たちの出した答えは、俺の求めた回答と一致した。

 

「私なら、中盤の領域を展開する直前に思い切り牽制をかけます。先頭を走る事で発動するファルコンさんの領域ですが、その前に必ず集中に入る。それを少しでも乱せれば、領域に入らせないこともできるか…入れても、影響が出るでしょう」

 

「怖っ☆」

 

「あたしなら、領域に入った直後なの。第一の領域も、第二の領域も……両方とも、加速で後続と距離を空けたいっていうファルコンちゃんの気持ちが見えるから、それを崩すために、こっちもスリップストリームで加速を合わせて……距離を開かせすぎない、かな?後ろを走るあたしの足音が想像以上に離れなければ、その後の動揺を狙えるかもだし」

 

「怖っ☆」

 

「ん、良い答えだ。鋭い回答だよ、俺も近いことは考えてた。領域は入れてしまえば強い武器になるが、入れなければそれは同時に隙にもなり得る。長所は得てして短所と背中合わせだということも覚えておこうな」

 

 二人の回答は、領域の発動前後の隙を見事につくものだった。

 先程述べたように、領域とはそれ自体が強い武器であり、突入条件が緩く加速も十分に果たすファルコンの領域はかなりの威力を誇る。

 が、フラッシュとアイネスが言ったように、領域による効果が十全に発揮されないような牽制をかけられることで、精神的にも速度的にもディスアドバンテージになり得る。

 そこをファルコンの意識に置いておきたかった。

 そういった対抗策があることを知っているというだけで、もし実際にやられたとしても精神的な余裕が出来るからだ。あらゆる可能性を一度は描いておきたい。

 

 まぁ、とはいえ今二人が述べた作戦は、フラッシュとアイネスが超一流のウマ娘であり、強力な牽制の技術と、ファルコンの領域にも追いすがれる豪脚を持っているからこそ選ぶ事ができる答えでもある。

 並のウマ娘では成すこと自体が難しいであろうそれだ。

 そのようなウマ娘が相手に出てくるときには、心底から気を付けるべきであろう。

 

 

 

 






1話が1万文字以内にまとめられず前後編に分ける筆者を許してください。

キャラが増えたから話がのびーる。
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