さりおす…レコードとはね……すげぇぜコンちゃん世代!(なお馬券)
ダービー二年連続レコード。宝塚記念でもレコード。毎日王冠でもレコード。
現実が作品内描写補強してくれる手厚いケア助かる…。
「……その2択であれば、私は領域前に牽制をぶつけることになるだろうな。前目の先行策についたとしても、先頭を走るファルコンのすぐ後ろにつくのは難しい。となれば、タイミングと牽制の強さが重要になるか……」
「領域に入るタイミングは何度もスマートファルコンと走ってるお前なら掴めるはずだ。後は牽制の強さだが、そこは……」
「あーしがコツ教えるよ。マーチはこれまであんまり牽制技術を重視してなかったけど……もう、そういうレベルじゃねーっしょ?」
「ああ。頼むぞノルン。取れる手段は何でもやろう。ぶっつけ本番の一回だっていい、スマートファルコンの領域を潰せるような何か…ないか?」
再度の併走を終え、クールダウンに入ったフジマサマーチが、六平トレーナーと北原トレーナーによる新たなスマートファルコン対策の話を受けて、理解を深める。
話題は中盤に発動する彼女の領域。
【砂塵の王】。
あの加速、それこそ発動されれば最終コーナーを回り終えるまでの独走が確約されるほどの強さを誇る。
その上で、発動条件も緩く、先頭を走ってさえいればほぼ確定で発動されてしまうだろうその厄介な領域。
それを攻略するためには。
「んー……まぁあーしもそういう技術に理解深めてんだけど、やっぱ牽制の技術って才能けっこー必要なんよ。ネイチャちゃんとか、フラッシュちゃん…あとはクリークパイセンやグラスちゃんもそーだけど、教えられてハイできた、ってもんじゃないところはあるんよね。あーしもまぁ完璧じゃねーし。だから、マーチ一人でやる、ってなるとあと3週間くらいじゃ正直厳しいところあるよ」
「む……」
そうして領域突入前に牽制を飛ばすという手段を採用したフジマサマーチ。
だが、フジマサマーチ自身はこれまであまり牽制を重視していなかった。そちらに走りの重きを置かなかった。
得意だとは口が裂けても言えない。せいぜいが眼力による圧をかける程度。
しかし相手は砂の隼。砂の王だ。得手不得手や好みを言える相手ではない。
そうしてチーム内でも牽制を得意とするノルンエースにコツを聞いたところ、しかし、答えは芳しくないものだった。
ノルンエースが言う通り、牽制、いわゆるデバフの
合わないウマ娘にはとことん合わない。
ただ単純に走りの
人に教えられたからと言って、独占力や八方睨みと言った技術を使えるかと言われたら、NOだ。*1
「でも、出来ることはある。あーしが重賞レースでよく使ってたあれよ。今のファルコンちゃん相手ならうまくいけば刺さるっしょ」
「ああ、あれか……やりだした頃はよくやると思っていたが、確かに、それくらいはしなければ隼の高みには届かぬだろうな。よし、コツを教えてくれ」
しかし、ノルンエースにはまだ繰り出せる技術があった。
実際、チャンピオンズカップでスマートファルコン相手に仕掛けたものだ。その時は序盤から他の牽制も使っていたし、
だが、それひとつに専心し、周囲にも気を配れば効果は生まれるだろう、それ。
「『
「ああ、確かに呼吸や尻尾の揺れ、足音から感じられるものは大きい。そこで呼吸を合わせて、ファルコンの領域の直前で、私だけではない……全員で一気に仕掛ける、と言う所か」
「そゆこと。どういうふうに周りにその気持ち伝えていくかはあーしも考えっからさ、やってみよーぜ。結果、一人でも二人でも、最適なタイミングでファルコンちゃんに牽制しかけるウマ娘が増えりゃ、そりゃ自分だけじゃなくて周りの子達も利点はあっかんなー」
「なんかレイドボス相手にしてるみてーだな」
「でもファルコンちゃんは実際レイドボスみてーなもんじゃね?」
「懐かしいな……私が中央に行って六平トレーナーに指導を受けていたころの、最初の年の毎日王冠が近い状況だったな。他の10人から徹底マークを受けた。結託したワケではなかっただろうが、一斉に動けばそう言うこともあり得る……それを、レース中の走りで人為的に起こそうというわけだ」
「ああ、そうだったな……夏の間みっちり仕上げて絶好調だったからシリウスシンボリにも勝てたが、ありゃ割と際どい勝負だった。怪我の恐れもあったしな」
「最終的には、距離を取るという指示で大外の活路を見出したオグリちゃんが抜けたレースですね。……懐かしいなぁ」
ノルンエースが立てた作戦は、布陣を敷くこと。
ファルコン以外のレースを走るウマ娘、その呼吸を合わせて牽制を仕掛けること。
一人で力が足りないのであれば、全員の力を使えばいい。
無論、ノルンが説明した通り、これをレース前に打診してしまえばルール違反だ。
だが、レースの最中に己の走りからタイミングを読み取らせて合力した場合は不問となる。
この技術を使えるウマ娘は極めて少ない。デバフの中でもかなり特殊なそれ。
ゴールドシチーが唯一、その見た目からのレース中の注目度の高さを利用し、己が牽制を仕掛ける対象のウマ娘に対して他のウマ娘の力も併せる事ができる。さらにシチーの場合はスタミナも回復する慧眼も併せ持っている。
技術としては難しい部類に位置する。
だが、出来ないことはない。少なくとも現状から準備する作戦の中では一番成功率が高いものだと六平も北原も判断した。
「悪くねぇ案だ。じゃあ領域にはそれをぶつけて、あとは終盤戦だが……実を言や、この終盤の時点においては、カサマツ組がスマートファルコンに明らかに勝っている点が一つある」
「ん……私
「わかるか?まぁ去年は一度それの恩恵を受けたレースがあったからな。ただし、これは完全に運任せだ。2月だし確率も低い。だが、期待して損はない点だ……スマートファルコンの最大の弱点、それはな────────」
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「……最後の直線だけど。一つだけ、弱点と言うか。心配してる点がある」
「ん、どこだろ?結構私、最終直線でも頑張ってると思うけど……」
俺は領域絡みの、相手がついてきそうな弱点の解説を終えたのち、最後の終盤戦の話をする中で、懸念点を説明する。
ファルコンが首をかしげているが、これは弱点と言うか、心配の部分。
彼女が砂の隼であり、絶対の王者であるからこそ、無茶をしてほしくない部分だ。
「ああ。……ファルコン、君には………荒れたバ場を走る時に、無理をしてほしくないんだ。前にさ、ほら、JBCレディスクラシックで不良バ場だった時に、君は最終直線で無茶をしなかっただろ?あの判断を、俺は心底評価しててさ。…君の、芝にもアメリカダートにも慣らした走り方だと、不良バ場で速度を出そうとすると、転倒の恐れが高まるんだ。一番気を付けないといけない点になる。勿論、体幹を仕上げてることで転倒自体の可能性は低くなってるけど……」
それは、彼女の走り方の質の問題。
芝でもダートでも走れるために、俺が彼女の走りを改良した結果、唯一の欠点として生まれた所。
いや、欠点と呼べるような部分では本来ない。重バ場や不良バ場であっても、速度は問題なく出るのだから。
ただ、濡れたバ場を全力の、全身全霊で走ったときに……脚が滑る可能性が、ある。
そういった
これが、ダートを専門に走っているウマ娘だと若干事情が異なってくる。
特に、例えば地方出身のウマ娘を多く抱えているチームカサマツのメンバーの走りなどを見れば分かり易いだろう。
彼女たちは、まるで水を掻くかのようにつま先を使い、バ場が荒れていればいるほど速度を出せるような走りをする。
脚の使い方、鍛え方が違うのだ。あれはチームカサマツ独特な技術と言えるだろう。流石は北原先輩、流石は六平トレーナーだと感嘆するほどのそれだ。
「これはフラッシュもアイネスも、キタサンも聞いてほしいんだけどな。……君達がレースに勝ちたい気持ちを持っているのは十分に承知してる。そして、その気持ちを込めて最終直線を走っているのも知っている。けれど、もしバ場が荒れていて、少しでも転倒の危険を感じたら……無理を、してほしくないんだ。俺は、自分の愛バが大ケガをするのが一番怖い。万が一が常に付きまとうレースだからこそ……俺の一番の望みは、君達が無事にレースを終えて、戻ってくることなんだ。だから、これは俺の我儘だな。けど…………」
でも、俺は何よりも、この子たちに怪我をしてほしくない。
走れないほどの大怪我なんて、本来あってはならない。
危険が付きまとうレースという勝負の世界において、この考えは甘いのかもしれない。
けれど。
でも。
俺が何度も繰り返してきた、3年と言う時の牢獄の中で、怪我をしてしまって走れる期間が短くなってしまうことを、俺は何よりも恐れていた。
だからこそ、医学の知識もつけたし、テーピングの知識も覚えている。
スズカの脚部不安も乗り越えたし、テイオーだって三冠を取らせてやれた。タキオンだってプランBにはさせなかった。
彼女たちが走る姿を見られなくなるのが、一番怖い。
そんな、俺の弱い部分を、さらけ出すことに抵抗はなかった。
少なくとも、俺の愛バである3人は、俺の事を受け入れてくれているのだから。
「……ん、わかった。確かに、どうしても勝ちたい、って気持ちはあるし、限界を超えない範囲で全力で走るけど……バ場が荒れてたら、無理はしないって約束する。私だって、ドバイが控えてるしね☆!練習やその前のレースで無茶して、走れなくなったら嫌だもん!」
「私もです。かつて、ホープフルステークスでのアクシデントの際に無茶はしましたが……今は、あの時以上に、貴方と共に走り続けたいという想いが強くなっていますから。勿論、勝つために全力で挑みますが、バ場が荒れていれば、配慮して走るようにしますね。芝だからそこまで心配はいらないかもしれませんが……」
「あたしも!せっかくスランプを脱して絶好調になったんだもんね、これでまた怪我なんて嫌だから!」
「……サンデートレーナー。サンデートレーナーも、私に無理はしてほしくないですか?」
「ああ。アタシはウマ娘だから勝ちたいって気持ちは分かるし、そもそも現役時代は無茶しかしてなかったから人の事は言えねェんだけどよ……ただ、ケガしたウマ娘の辛さってのは理解ってる。キタ、お前には長く、怪我無く走り続けてほしい。ってかそもそも、バ場が荒れてたらそれに合わせて走れって話だからな。気持ちの問題っつーより戦術の問題だ。荒れてるところで加速しようとしたらそりゃバカってやつだ」
「はい、わかりました!絶対に怪我しないように気を付けます!!とはいえフラッシュさんの言う通り、芝ならそこまで不良バ場にはならないと思いますけど……」
俺の言葉に、それぞれが想いを返してくれた。
バ場が荒れているときに無茶はしないと約束してくれた。
それに、俺はありがたくて、思わず首を垂れてしまう。
その判断で、もしかすれば、勝ちを逃してしまうこともあるかもしれない。
けど、負けてしまったとしても……脚が無事なら、次のレースがある。また、走れる。
刹那の勝利よりも、長く走り続けられることこそを俺は望む。
無事是名バだ。
「……ありがとうな。これからも、みんながケガしない様に……勿論、俺達もしっかり脚のケアをして、全力で指導するからな」
「おォよ。もし危ねェ時は基本的にアタシらがちゃんと事前に指導すっから、基本的には気にせず、全力で走っていいからな」
「だね。それじゃ、怪我無く安全モットーで、これからも頑張っていこう」
「「「「はいっ!!」」」」
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「───────────ならば、私は
「お前ならそういうと思ったよ。まぁ、そもそも当日のバ場が悪くなる保証はどこにもないんだが…」
「そうなれば、と言う話だ。走り方の違いで、荒れたバ場に私達の走りは適応している。ならば、それを使わない手段はなかろう」
スマートファルコンの不良バ場への適性の低さ。
それを、チームカサマツは経験し、そして見抜いていた。
かつてJBCレディスクラシックで、カサマツ三人組がファルコンと走った際に、最終直線で……届きこそしなかったものの、相当に距離を詰められた時の経験があった。
そして、もう一つの確かな経験からくる確信。
「……先日、ドリームリーグでダートを走ったが……やはりというべきか、
「ああ、俺が教えた、『ふわっと走れ』の完成系にオグリは至ってるからな。ダート、特に地方のコースや重バ場への適正は下がってたはずだ。……だが、あの立華って若造のやらせてる、芝ダート両方の適性を持たせる走らせ方は正直、
「立華クンはすげぇっすよ。まるでトレーナーをやるためだけに生まれてきたような男です。いい所もいっぱいあるし、後輩だけど同業者としちゃリスペクトっすね。ま……けど、俺も負けっぱなしは性に合わないんでね。ここらで一つ、目にもの見せてやろうじゃねぇか。……なぁ、マーチ?」
「ああ。私も可愛い後輩に、いつまでも負け続けていては先輩の威厳が保てんからな」
くっ、とニヒルな笑みを浮かべる北原に、フジマサマーチもまた戦意溢れる笑みを返す。
随分と物騒な笑顔をするようになったものだ、と六平は己の顎を撫でた。
己がトレーナー業を引退し、中央を離れ、チームカサマツを北原とベルノに任せた後に……どうやら、随分と
そんな彼らの成長が感じられる様子に、微笑ましいものと、僅かな寂しさを感じてしまう。
老いた、と言う事なのだろう。
「…うし!そんじゃ第一回隼対策会議はこれで終わりだ!後は走る!ただひたすら走る!!まだいけるか?」
「愚問だな。走る事で勝利の飢えが高まるのだ。あと3本は行くぞ」
「うぇー!?あーしあと一回くらいでバテっけど!?まーその一回で布陣整えるコツは教えるけどさぁ!?」
「ゴメンアタシらはそろそろキッツイわ。タイム計測とゴールはやっから!」
「あたしは飲み物準備してきてやっから!」
「ならば私が走ろう。ドリームの疲れも抜けてきている。2本は付き合えるぞ」
「オグリちゃんは念のため休憩スパン空けよっか。次の1本と、最後の1本ね。ノルンさんはその間で行きましょう!」
だが、老いたからこそ、最後の教え子たちがこうして勝利に向けて邁進する姿を見て、心を躍らせることが出来る。
老兵は死なず、ただ見守るのみ。
絶対に最も近いウマ娘、それにチーム一丸となって挑もうとする皆の姿を見て、六平は彼女らがきっと隼のその脚に手を届かせて、勝利を掴み取ってくれるだろうと確信した。