【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

134 / 196
134 ※猫にチョコをあげてはいけません※

 

 

 

 吾輩は猫である。名前はオニャンコポン。

 どこで生れたか頓と見當がつかぬ。

 だがどの様な存在かの記憶はある。

 自分は所謂生まれ変わり、異世界転生を果たした人間の雌であったことは覚えて居る。

 

 猫の身に転生し、このウマ娘なる子らがいる世界で日々を過ごしている。

 我がご主人に命を救われ、共に生活を営む猫畜生だ。

 優男たる我がご主人との付き合いもそれなりに長くなった。そろそろちょうど、2度ほど年が跨いだころとなる。

 自分も随分とこの世界にも慣れ、今日もご主人の布団の中で朝を迎えた次第である。

 

 まだ早朝と言った時間だが、我がご主人はいつも朝が早い。

 体づくりとして早朝の河川敷を走る事もあれば、まるで主夫のように弁当を作るのに興じることもある。

 通常、朝と言えばあらゆる生物が苦手な時間だ。かくいう自分も朝は二度寝の欲望に引きずられそうになるが、しかし自分はご主人の忠猫である。そのような怠惰な真似などできようはずがない。

 そのため早朝のランニングには2回に1回はついていくようにしている。弁当を作る時にも決して調理場には立ち入らず炬燵で丸くなり、ご主人の邪魔はせぬよう努めている。

 なんなら猫の身であれど自分には収入がある。

 驚くかもしれぬが、少し前に、ぱかちゅーぶなる催しでお気に入りの布袋で爆睡していた自分の姿がどうにも人間らに好まれたようで、あの布袋を作っている会社から打診され、CM?の専属契約?なるものを結んだのだ。

 時折てれびの向こうで自分が布袋でごろごろしている姿を見るものだから驚きだ。

 まぁそもそもこんなご主人の元についたことで、世界中でどうやら我が顔が写真などになり好評を博しているらしい。

 写真をそれほど取られてしまうとなると、魂を吸われない様にだけ気を付けねばなるまい。気に留めておこう。

 

 さて、そんなご主人だが今日はどうやら弁当作りのようだ。

 てきぱきと調理するさまを見ればどこの熟練調理師かと感じてしまいそうなそれだが、自分はご主人の魂、その正体を知っている。

 彼の者は時の縛りを逃れたる者、永遠の輪廻を繰り返す存在。

 転生した自分と同じく、理外の域に住む者だ。

 そんなご主人だからこそ、料理など何度も何度も繰り返したのだろう。何でもできる、とウマ娘らに評されることがあるが、文字通り、何でもしてきた旅路を歩んでいるのだ。

 ご主人のそんな在り方に、自分からは何も言うことはない。

 異端たる者同士、共感を持ち、改めての敬意を持つのみだ。

 

 そうして今週の弁当のおかずなど作り終え、冷凍庫なる箱に入れ、シャワーを浴び、もう間もなくご出勤の時間が迫ってきた。

 朝のミルクをぺろぺろと皿から舐め飲みながら、コートを羽織ってリビングに戻ってくるご主人に顔を向ける。

 それだけで自分の考えを察してくれたのだろう。ミルクにまみれた口元を優しく拭ってもらってから、ご主人の肩に飛び乗った。

 この肩も随分と慣れたものである。たとえご主人が全力疾走したとしても自分が落ちることはない。

 ここは私の場所だ。誰にも譲るつもりはない。

 

 しかして先ほどから薄い板の向こうよりニュースを流していた画面を消し、家を出る時間となるが、しかしここで我が家のチャイムがぴんぽんと鳴らされた。

 珍しいこともあるものだ。この朝、しかも出勤前にこのベルが鳴らされることはほとんどないはず。

 休日になれば風神娘が自分の落とした毛の掃除に来てくれるものだが、しかし今日は確かに平日。ご主人が着替えていることがその証左だ。

 であればこの時間に来たものは何者なのか。ご主人もすぐ横で怪訝な表情を作っている。

 壁に取り付けられた、チャイムが鳴ると画面が映る板をご主人が見る。自分も見る。

 そこには、見慣れた顔が映っていた。

 

 閃光娘だ。

 

 ご主人のチーム『ふぇりす』とやらに所属するウマ娘らの一人。黒い艶のある尻尾が自分の興味を引いて離さぬ、物静かで落ち着いた雰囲気のウマ娘。

 そんな彼女が出勤前のこの時間に、我が家にやってきた。

 ふむ。

 これは今日は修羅場になるな、とこの時点で自分は心を引き締めた。

 

 玄関に行き、彼女を迎えるご主人が笑顔を見せる。

 閃光娘も、寒空を歩いてきたために桃色に染まった頬を緩め、笑顔を見せて数言、言の葉を交わす。

 随分といい雰囲気のようにも見えるが、これはご主人の常だ。彼女だけに向けられる笑顔ではないことは自分も知っているし、無論のこと目の前の閃光娘も知っている。

 だが、閃光娘の見せる笑顔がご主人にだけ向けられていることをご主人は理解していないのだ。

 ご主人はその在り様による経験深さからあらゆることへの理解や推察が鋭い存在であるはずなのだが、どういうわけか女の機微が入ると脳味噌が猫畜生以下に落ちる。

 そんなだから糞呆けと周りに言われてしまうのだぞご主人。

 

 さて、こうして顔を見せた閃光娘が何用だったかとご主人の肩から降りて覗っていれば、何やら贈り物を渡しに来たという話だった。

 であればいつものちーむはうす、とやらで渡せばよいのではないか?と首をかしげるが、だが話を聞いているうちに理解した。

 

 

 今日は「ばれんたいんでぇ」なる日なのだ。

 

 

 なるほど、ばれんたいんでぇ。この猫畜生に堕ちた脳でもこの日が雌にとってどれほどの意味を持つかは理解している。

 想いを菓子や物にのせ、想い人へ送る日だ。去年のばれんたいんでぇ、は成程中々にご主人が苦労していたことを思い出す。

 あれほど貰った菓子を毎日凄まじい量消費していくご主人を思い出し、若干猫の胃がもたれるような錯覚を覚えた。

 

 しかし今年はご主人も何やらばれんたいんでぇ、対策を画策していたのではなかったか?と思い返す。

 猫畜生の脳では中々に十全たる理解は難しかったが、ご主人が先日、ご自身の部屋にあるぱそこんなる板に向かいながら自分に教えてくれた話は、ええと、たしか。

 ウマ娘らや、ファンの皆から送られすぎると、準備する側も受け取る側も大変になってしまうから、『ばれんたいんどねいしよん』なる試みを実施して、寄付金として気持ちを受け取ることにした、だったか?

 

 寄付金として集まった其れは、世界中にいる、生活に困るウマ娘らに寄付が出来るように、なんだったか、なんたら財団に寄付されるとかなんとか。

 うむ。猫畜生に堕ちた脳ではこれ以上の理解が出来ぬ。だが何やら画策していたことは事実で、その結果、学園で受け取るチョコの数も減るかもしれぬ、と申していたはずだ。

 

 ふむ。そこまでは思い出したがしかし改めて内容を咀嚼して考えれば、それは恐らくご主人にとって付き合いの深くない相手への、遠慮と配慮の行き届いた画策なのだろう。

 であればご主人にとって深い関係たる相手は、変わらずに贈り物をするといったところか。ご主人もそれを()しとすることはないだろう。

 ご主人が自分のチームのウマ娘、特にはじまりの3人に優しく、特別な想いを抱いていることは自分だってそれはもう、理解している。

 だからこそ、いつぞやの夏の旅館にて、自分は彼女らに助けを求めたのだ。

 支えあう、良き師弟関係だと思う。彼女ら3人からすればその先に踏み込みたいのだろうが、ご主人にその気が一切ないのだけが同じ雌として不憫だ。

 

 さてはて、思考が長くなったが、閃光娘がそうして朝一番、誰よりも機先を打って贈り物をご主人に渡した。

 確か彼女はお菓子作りを趣味としていたはずで、そうした気合の籠った一品かともやれ考えたが、どうやら今年渡すのは菓子折りではない様子だ。

 彼女はその後ろ手に隠していた贈り物をご主人に見せ、はにかむように手渡した。

 

 深紅の薔薇を、()()

 

 これは随分と尖端(モダン)な贈り物だ。ああ、しかし出されてから考えれば彼女らしい。洒落た雰囲気のある贈り物である。

 それを受け取るご主人も随分と笑顔がこぼれている。ちょうど自室に空にしていた花瓶があったため、そこに飾ることにしたようだ。

 成程、これはチームハウスでは渡せまい。想いの籠った品であれば皆の共用の部屋に飾るよりは、自宅に飾ってもらいたいというのが筋と言うもの。

 花瓶に薔薇を差しに行ったご主人を待つ閃光娘に、やるではないか、と意を籠めてニャー、と鳴いてやる。

 その声を受けて、ふふっと微笑み、頭を撫でてくれた。

 閃光娘の掌は、どうにも、こう、落ち着くものだ。まるで父か母の手のようだ。この優しい掌があるから、この娘には頭が上がらぬ。撫でられているのでなおのこと上がらぬ。

 機先を制したその心意気に唯々敬服するのみである。

 

────────────────

────────────────

 

 さて、そうして閃光娘とも共に、ご主人の肩に乗り今日も学園に出勤した。

 去年のばれんたいんでぇ、ではすでにこの時点でご主人には数多の贈り物が捧げられていたが、しかし今年は随分と落ち着いている。

 念のため準備していたというご主人のポケットの中の小袋も、役を果たすことはなさそうだ。文字通りの役不足。

 

 ただ、そんなご主人でも全く贈り物がないというわけではないようだ。

 昨年と同じように、筋肉娘が普段のお気持ちと言うことで小さな贈り物を渡したようだ。

 また、泰山娘も今年は渡しに来たらしい。

 大声娘と静謐娘は、今年も二人セットで渡しに来ていた。

 麗人娘は随分と忙しそうではあったが、それでも世話になっていると贈り物を渡していた。

 桜花娘はどうやらばれんたいんどねいしよん、をしていることを知らずに渡しに来ていたようで、これにはご主人も苦笑を零していた。

 

 この辺りのウマ娘らはチーム『ふぇりす』のウマ娘らとレースで火花を散らしていた者たちだ。猫畜生に堕ちた自分の脳でも流石に印象深く記憶に刻まれている。

 好敵手でもありながら、そこに友情が、親愛が芽生えているこの関係はとても良いものだと感じている。

 

 それとは別に幾人かご主人に贈り物をしたウマ娘もいた。

 米国娘は随分としっとりした様子で大きな贈り物をしたし、皇帝娘は彼女らしい疾駆(シック)な雰囲気の贈り物を渡していた。

 破天荒娘は何故か『ぷらもでる』なるものの箱を渡していたがその瞬間が一番ご主人が喜んでいたことは自分の心の内に秘めておこう。ご主人は男の子なのだ。

 他にも幾人か渡していたが……まぁ、これだけ貰っていても去年の数と比べれば随分とこじんまりとしたものである。

 ご主人も消費に困ることはなくなるだろう。『ばれんたいんどねいしよん』なるものの効果は絶大であった。

 

────────────────

────────────────

 

 話が一日の振り返りとなってしまったが、少し視点を戻し、ばれんたいんの午前中の話をしよう。

 ご主人は勤務の午前中は、おおよそチームハウスで何やら業務をしていることが多い。

 自分もここで朝食の猫缶を食べ、部屋の中で布袋に体を預けて昼寝をするか、眠気がなければご主人らの邪魔にならぬようじっとしているか、天気が良ければ日向ぼっことして学園内を散策などするのが日課だ。

 しかしこの日課に、半年ほど前だったか、一人のウマ娘が共に在る様になった。

 黒く長い髪、そして大きな胸。なにやらただならぬ気配を常に抱えるウマ娘。

 小黒娘だ。

 

 小、とつけたのはつい最近だ。それまでは黒娘と呼んでいた。

 彼女の着用する装いが常に黒一色だからだ。シャツも黒、上着も黒、ジャージも黒、勝負服も黒ときた。

 しかしそんな黒娘だが、つい最近トレーナーである彼女が新しくウマ娘の担当になったとのことで、随分と図体のデカいウマ娘がチーム『ふぇりす』に加入した。

 その娘の名前もどうやら黒で、髪も黒のため、このままでは黒娘が二人になってしまうと危惧した自分は、この背が小さいほうを小黒娘、背が大きい方を大黒娘と呼ぶことにした。

 

 そんな小黒娘だが、彼女はどうやら外国出身のウマ娘だということは理解した。

 なにせ、ご主人と彼女が二人きりで話しているときに、何と言っているのかとんとわからぬ。

 少なくとも日本語ではないのだろう。

 かつて隼娘のレースの為に外国に行ったときに耳にしたような響きのある言葉を使っているため、もしかすればその国のウマ娘なのかもしれぬ。

 しかしてそんな彼女だが、ご主人に並々ならぬ感情を抱いていることはこの猫畜生の頭でも容易く理解できる。

 我がご主人はまぁウマ誑しを得意とする男だが、しかし1日でまるっと堕とされる様は見ていて清々しさすらあった。

 正直な所、部屋まで送り届けて何もせずに部屋を立ち去るのは雄としてどうかと思うぞご主人。

 

 さて、二人がいつもの如く書類仕事やら何やらを片付けている姿を布袋の上で眺めていたが、しかし小黒娘がなにやら随分とそわそわしているのに気付いた。

 尻尾は堪えている様だが耳が忙しなく動いている。

 同じく獣の耳を持つ存在となる自分だからこそよくわかる。あれはなにかやりたくて、そのタイミングを計っているときの動きだ。

 ご主人。気付いてやれご主人。

 駄目だこやつ気付いておらぬ。

 この糞呆けが。

 

 数十分ほどそんな雰囲気でいた二人だが、意を決したのか小黒娘がようやくご主人に声をかけ、何やら贈り物をしたようだ。

 見るからには、便箋か?小洒落た封筒に入った手紙をご主人に渡した。

 便箋とは珍しい。ばれんたいんでぇ、と言うものは基本的に菓子折りを渡すものだと思っていたが、彼女の国では違う文化なのだろうか。

 それを笑顔で受け取り、早速開けようとするご主人だが、そんな糞呆けに小黒娘から尻尾によるビンタが飛んだ。

 その後、聞き慣れぬ言語でご主人を叱る小黒娘だが、その意味はこの猫畜生でも察するところだ。ここで開けずに家で開けろということだろう。

 当然だ。封をした手紙を渡して、その人の目の前で開ける阿呆がいてたまるか。

 それが恋文だったらどうするのだ。

 とはいえ、まぁ、一歩引いた雰囲気もある小黒娘の事である。そこまで直球の内容ではなかろうが、しかし味気ない内容でも無かろう。

 反省しながら便箋をしまうご主人に、はーぁ、と大きくため息をつく小黒娘の姿を見て、気持ちは分かるとニャー、と鳴き声で同意を示しておいた。

 

 

 なお、家に帰ってからの事だが、便箋を開けてその中を読んだご主人は、随分と優しい笑顔を浮かべていたことを後述しておく。

 

────────────────

────────────────

 

 ご主人たちも午前の業務を終え、昼食も取り終えて、午後になった。

 午後はウマ娘らの練習の時間である。この時間になると、学業を終えたウマ娘らがチームハウスに集まり、体を鍛えたり走ったりして、レースに備えることになる。ご主人らの仕事としても本番の時間である。

 さて、今日集まったチームのウマ娘ら4人だが、その内1人は既に機先を制した閃光娘だ。

 最近加入した大黒娘は、ご主人と小黒娘、それぞれに贈り物をしたようだ。いたって一般的、恐らくは手作りなのだろう包みのお菓子である。

 それぞれに何やら手紙も入れている、と大黒娘が言っていたので、それも含めての贈り物なのだろう。どうにもこの大黒娘はチームのウマ娘にしては珍しく、ご主人への懸想が大きくはないように感じられる。

 無論の事、トレーナー、いわゆる師としての敬意は持っている様だが、おおよそ雌としての感情の発露は見えない。

 ただ、その分その感情が小黒娘に向けられているように見えるのは下種の勘繰りだろうか?

 尤も、小黒娘がそれに気付いている様子もない。弟子は師に似る。どうやら小黒娘も糞呆けとしての道を歩み始めたようだ。長く続くその糞呆け道を上り詰めることがないように祈るのみである。

 

 さて、では本番となる残る二人。

 隼娘と、風神娘だ。

 

 この二人はチームが結成された当初からいるウマ娘だ。無論の事、自分も大変にお世話になっている。

 隼娘は説明不要であろう、自分が今こうして生きて居られるその奇跡を果たしてくれたウマ娘だ。彼女が今際の際の自分の鳴き声を拾い上げてくれねば、自分の存在はない。常日頃より感謝をもってその平らな胸に飛び込み慰めている。

 風神娘は恐らく、最も日常で世話になっているウマ娘だ。この娘が休日、ご主人の自宅でどうしてもまき散らしてしまう自分の毛をしっかりと掃除してくれているのだ。感謝してもし足りない。

 そしてそんな二人だが、無論の事ご主人に絆されている。

 閃光娘も小黒娘もそうだが、これほど器量の良い女に囲まれて鋼の意志を崩さぬご主人は時々枯れているのか?と思わなくもない。

 だがそういう欲が皆無ではないことを、常に共に寄り添っている自分は知っている。理性が強いだけだ。

 もっとも最近はその鋼の意志の弱点である髪型による攻勢を彼女らも覚えているので、どちらが勝つかは神のみぞ知るといったところか。いつの話になるやら。

 

 さあ、早速隼娘が攻勢に出た。

 全員が集まったチームハウスで、魅せつける様に渡すそれは、こじんまりとしたケースだ。

 開けてもよいかとご主人が問いかけたところ承諾の意を返したのでふたを開ければ、中には高級感あふれる万年筆が収まっていた。

 その色は隼娘の髪色と同じ、甘い茶色。成程、これならば彼女からの贈り物だと一目でわかるだろう。落ち着いた雰囲気も良い、普段使いに事欠かない、実用性も兼ねた素晴らしい品だ。

 これにはご主人も随分と気をよくしたようである。早速胸元のポケットに携えた。

 喜ぶご主人の顔を見て、隼娘も随分と気をよくしたようで、ちょうどソファに座った彼女の弾力ある太腿の上にいた自分の体をわしゃわしゃとされてしまった。

 よかったな、という意味を込めてニャー、と鳴いておいた。決して苦しくなって出した声ではない。

 

 続いて風神娘の順番だ。

 彼女もまた、お菓子ではない何かを準備していたようだ。袋から甘い香りがせぬ。

 ご主人が笑顔でそれを受け取り、承諾を経て袋を開ければ、中から出てきたのは首巻だ。所謂、マフラーと言うもの。

 寒い時期にはピッタリであろう。そしてその布の作りを見れば、これはどうやら手作りで間違いなかろう。既製品のものから香るような匂いがせず、風神娘の匂いが多分に含まれたものだ。

 これはよい。肩に乗る自分も、ご主人が首にマフラーを巻いていればその温かさの恩恵を受けることが出来る。寒空を歩く時、寒すぎる時などは胸元からコートの隙間に隠れるような時もあったので助かる。

 早速首に巻いてみるご主人に、苦笑を零しながらはにかむように笑顔を見せる風神娘。彼女の微笑みは時折、やんちゃな弟を見守る姉のような優しさに溢れることがあり、今出した笑顔がそれだ。

 そこには家族のような気安い雰囲気を感じさせる。これは彼女が毎週のように我が家に来ていることも一因であろう。

 しかしこのマフラーが恐らくはいずれ自分の毛などで汚れてしまうことになると考え、詫びとしてニャー、と鳴き声を送った。怒らないでいてくれるだろうか。いてくれるだろう。良き旅を。

 

 

────────────────

────────────────

 

 さて、そんなこんなでばれんたいんでぇ、は無事に終わりを迎え、夜の帳も下りたころである。

 ご主人と共に風呂に入り、お気に入りの専用手桶に身を浸し、ふぃーっと今日の疲れを湯に流す中で、しかし、そういえば自分は何もご主人に贈れていないということにここにきて気が付いた。

 自分だって女だ。身形は最早完全に猫とはいえ、雌としての矜持を忘れてはいない。

 随分とご主人に首ったけになっている己の情から目を逸らしているわけでもない。

 自分の、ご主人に向ける感情は、恋とか愛とか、そんな陳腐な一文字で表現できるほど浅いものではない。もっと深い、何か、絆とも言えるような想いを持っている。

 何よりも、このご主人に尽くしたいと考えている自分がいる。

 

 しかしこの猫の身で何が出来るだろうか。猫畜生に堕ちた頭で悶々と考えを巡らせる。

 何が出来るわけでもない。当然だが料理などできぬ。何かを作ろうとしても、この肉球が愛らしい小さな手では碌なものも作れまい。深く集中することも苦手だ。

 これまで通り、出来る限りご主人に迷惑をかけないよう、大人しく賢い忠猫として過ごすくらいしか出来ることはないのかもしれない。

 

 ああ、でも。

 それでも。

 私は、ご主人と離れることだけはしたくない。

 私にとって、主人とは、この男以外に考えられないのだ。

 

 風呂を上がり、布で体を拭ってもらい、温風で乾かされ、共に寝床に就く。

 寒い時期になるとご主人も湯たんぽ代わりに自分を布団に誘うことが多い。

 そうしてご主人の腕の中に包まれ、猫畜生の頭で自分は改めて誓うことにした。

 この誓いが、自分からのばれんたいんでぃ、とした。

 

 ご主人。

 貴方の歩みが、繰り返す時から縛りを抜けた方であれば。

 私は、死が二人を分かつまで、貴方と共に。

 

 そして、貴方の歩みが時の輪廻を繰り返すならば。

 想いだけでも、貴方と共に。

 たとえこの猫の魂の輪廻が廻ったとしても、貴方に会いたい。

 貴方と永久に、共に在りたい。

 

 

 

 

 ───────私は、貴方の傍に、きっと、ずっと。

 

 

 

 

 






※※今年のバレンタインの成果※※

・フラッシュの薔薇二輪
・SSのバレンタインカード
・ファルコンの万年筆
・アイネスの手編みマフラー
・キタサンのクッキー
・ライアンのチョコ
・ヴィイのチョコ
・ササイルコンビの宇治抹茶
・フジマサマーチの手袋
・ハルウララのクッキー
・タイキシャトルのビッグチョコケーキ
・シンボリルドルフの手作りブラウニー
・ゴールドシップのアルカディア マクロスプラス 1/60 完全変形 YF-19 with ファストパック
・その他モブウマ娘からいくつか

・バレンタインドネーション 一口100円で実施
合計 約15億円(全額寄付)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。