宝塚記念→レコード
菊花賞→レコード
革命世代か?(畏怖)
「よし、集まったね。それじゃ、ドバイ遠征についてのミーティングを始めます。よろしくお願いします」
よろしくお願いします!と席に着いたウマ娘達からの返事を受けて、俺は会議室のプロジェクターを操作し、画面を表示しながら説明に入る。
ウマ娘達の手元にはドバイワールドカップミーティング参加のしおり*1があり、今日は今週末に控える出発から、ドバイの地でどのように過ごしていくのか、海外のレースで注意することなど、様々な内容について目線合わせをする日だった。
「では、まず……ドバイに行く人について改めて確認しようか。12ページ開いて」
「もし誰かいなくなったりしたときにすぐに気付ける様に、一緒に行く人は必ず覚えておきましょうね」
海外遠征にあたって先頭を切ってホテル手配や現地の確認をした俺と南坂先輩が本日のミーティングの司会を務めている。
さて、そうして開いたページにある参加者一覧、ドバイに参加する人々は以下の通りだ。
<チームフェリス>
・エイシンフラッシュ(出走ウマ娘)
・スマートファルコン(出走ウマ娘)
・アイネスフウジン(出走ウマ娘)
・キタサンブラック(併せウマ娘)
・立華トレーナー
・サンデートレーナー
<チームスピカ>
・ヴィクトールピスト(出走ウマ娘)
・サイレンススズカ(併せウマ娘)
・沖野トレーナー
<チームカノープス>
・サクラノササヤキ(出走ウマ娘)
・マイルイルネル(出走ウマ娘)
・ナイスネイチャ(併せウマ娘)
・南坂トレーナー
<チームレグルス>
・メジロライアン(出走ウマ娘)
・小内トレーナー
<チーム未所属>
・ハルウララ(出走ウマ娘)
・初咲トレーナー
<その他>
・駿川たづな(学園とドバイを週ごとに往復)
・秋川やよい(最初の3日とレース当日)
・渡航スタッフ数名(旅行会社斡旋のウマ娘)
「人数が多く感じるかもだけど、基本的には出走する8人と、担当するトレーナー。あと、チームからサブトレ資格持ってるウマ娘が併せウマ娘として、また日常生活とかでのサポートとして呼んでいます。チームカサマツの北原トレーナーとフジマサマーチは、先日の怪我で参加を取り下げたので…うん、メンバーには入ってない。でも、彼女たちの分まで頑張って来ような」
「キタは未デビューでサブトレ資格も持ってねぇが、日本で一人にするわけにもいかねェからな。基本的にアタシとマンツーマンで動いて、併走や、荷物運びとか雑務を頼むことになるぜ」
「はい!皆さんの助けになれるように頑張ります!」
参加するメンバーは、基本的には出走ウマ娘を軸にして、そのトレーナーとサブトレーナーとしている。
併せウマ娘の人数については、最低限にしたつもりだ。
これは、そもそも革命世代同士での併走が可能であり練習には心配がない事が理由として挙げられる。芝のマイル~中距離の併走についてはほぼ全員が併走相手として過不足ないからだ。
芝の短距離に挑むアイネスについては、短距離も走れるサイレンススズカやSSもいる。またそもそも俺の指導方針として、その後の長距離に備えるためにも、ドバイに渡航した3月中に短距離だけしか走らないということはないからだ。
また、ダートを走るファルコン、ウララの併走については、それこそアメリカの年度代表ウマ娘にしてトレーナーであるSSがいる。彼女は現役時代、1200mレースで10バ身差の勝利なども記録しており、短距離から2000mまでなら芝ダート選ばず走れる稀有な才能を有している。心配はいらないだろう。
走るだけならファルコンも短距離を走れるし、2000mなら芝だって走れるからな。毎日走るわけじゃなくて体幹トレーニングや器具トレーニング、プール特訓などもするし、プラン上はそれぞれのウマ娘の脚に負担をかけすぎない様な練習を組めていた。
「参加メンバーについては以上。では次に、日程の確認です。まずは今週末、渡航だけど……朝7時に学園前に集合して、バスに乗って空港に向かいます」
「時間厳守ですから、不安な人は30分は余裕を持って動くようにしましょうね。これはドバイに行って帰ってくるまで、ずっと気を付けてください。時間が守れないと置いてかれちゃいますよ」
「………うぅおぅ……!むむむ……じかんげんしゅー…!」
「…ウララちゃん、大丈夫?」
「だ、だいじょーぶ!キングちゃんに起こしてもらうようにお願いしておくから!」
これから日程について目線合わせをしていこうという時に、ウララから実に不安そうな声が漏れてしまい、苦笑を零す。
既に当日の朝の目覚めをルームメイトに任せる様子に、トレーナー側、彼女の担当トレーナーから言葉が返される。
「…ウララ、ドバイにはキングはいないからな?ドバイの部屋割り、同室はヴィイとスズカ、ライアンか。みんな、ウララの事頼んだよ。練習中とかは俺の方で目を離さない様にするから」
「任せてください、初咲トレーナー!」
「普段スペちゃんを起こすのと変わらないから、何とかなると思います」
「時間には強いつもりです。ゴルシ先輩と過ごしたフランスでも何とかしましたし…何とか…」
ドバイについた先、宿泊場所は超高級ホテルとなっている。
そもそもドバイのホテルは大体がかなりサービスのいいホテルばかりだ。流石石油王の集う街。ホテルについても、1フロアをほぼ日本勢で借り受けて、その階にある部屋にそれぞれ割り振って、気楽に談話室なども使えるようにしてある。
ホテルでの部屋割りは以下の通り。なおペット可のホテルを選定済みだ。
<ウマ娘>
①エイシンフラッシュ・スマートファルコン・アイネスフウジン・キタサンブラック
②ナイスネイチャ・サクラノササヤキ・マイルイルネル
③サイレンススズカ・ヴィクトールピスト・メジロライアン・ハルウララ
<トレーナー>
①沖野・南坂・小内
②立華・初咲・オニャンコポン
③サンデーサイレンス(たづな、やよいが宿泊時は同室 室内風呂有)
「部屋割りも後でしっかり確認な。フジマサマーチが参加できなくなったから若干変わってます。ホテルの設備についても58ページにあるけど…ま、それは後で目を通すとして、日程の確認に戻ります。バスに乗って空港まで行って、ドバイまで飛行機で約12時間のフライトで、向こうの空港からホテルまでまたバスになります」
俺はしおりにも記入のある日程をプロジェクターで映しつつ、一つここで注意事項を伝える。
「ただ、全員がバス移動ではないです。何かあったときに柔軟に動けるように……俺の方で車を出して、学園から空港までと、ドバイの空港からホテルまで、車で移動できます。すぐに動ける車があった方が何かと便利だしな」
「アタシがバス駄目だからそれに同乗することになるぜ。他にもバス酔いがひどいってのがいたら、タチバナの車に乗ってくこともできるが……いるか?」
それは、移動にはバスだけではなく、俺の方で車も出すという事。
これについては理由が二つある。まず、純粋に車での移動が選択肢に入れられるという点。
以前、アメリカで挑んだスマートファルコンのベルモントステークスのように……帰りの時に沖野先輩に車で迎えに来てもらったように、もしかすればバスを待てない理由が出来た時に、車があった方が便利だということだ。勿論、ドバイでもレンタカーを借りて、車で買い出しなど行けるようにしておけばあらゆる状況に対策が利く。
そして、もう一つの理由。SSが、
これはチームフェリスのウマ娘は理由を察している。キタにも先日、SSの方から彼女の過去について話をしており……理解を落としている。
彼女の悲しい過去。友人と恩師を失った幼き日のバス事故。
あれ以来、彼女は肉類が食べられなくなり……そして、バスにも乗れなくなっていた。
だから、遠征の時などはバスを使ったことはない。車か、タクシーか、新幹線か飛行機か……それ以外の交通手段を使っていた。
そうしてSSがバス酔いがひどい、という方便で理解を促しつつ、他の参加メンバーにもバス苦手な子はいないかと確認したが、それはいなかったようだ。
ドバイへの移動では、俺が彼女を送迎することになった。
「……大丈夫かな。ま、合宿の時とかにもみんなバスに乗るもんな。それじゃあ俺とSS以外のみんなはバスで移動。俺とSSは車で移動。そしてオニャンコポンは理事長の専用ジェットで移動です」
「ニャー!?」
初耳だぞご主人!?みたいな雰囲気で俺の肩の上で驚愕に顔を歪ませるオニャンコポン。お前日本語理解できてない?いやそんなわけないか。そんな愛らしい様子にウマ娘達から苦笑が零れた。
オニャンコポンの輸送については、俺も頭を悩ませていた。なにせ飛行機での空輸となれば、勿論検疫を済ませればアメリカの時のように問題なく可能ではあるのだが、こいつの疲労が大きい。アメリカでも随分と行き帰りでしんどそうな様子であった。
どうしても輸送物扱いになり、エンジン近くの貨物室に入れられ、轟音と共に10時間以上過ごす……となると負担が大きいのだろう。俺は愛する家族に、改めてその苦労をさせたくなかった。
そして、それを同じく猫を連れている理事長に相談したところ、なんと理事長の所有する専用ジェットで運んでくれるというのだ。
理事長曰く、自分もそれで移動するつもりだし、時間も短く、猫も箱に収められたりせず自由に動ける分ストレスは少ない……と聞き、お世話になることにしたのだ。
何気に俺は、オニャンコポンの存在は以前のアメリカ遠征の時の勝因の一つだと思っている。
こいつのセラピーによってウマ娘達のストレスが軽減され、走りにいい結果を生むのだ。
と言うわけでオニャンコポンはVIP待遇です。よかったなオニャンコポン。
「それじゃ初日の動きについてはこんなところかな。質問は適宜入れていいからね。では次、向こうでの生活について……」
俺たちはそうして、ドバイに挑むにあたり、どのように過ごしていくのかのミーティングを続けたのだった。
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そして、出発の日がやってきた。
昨日の内に学園で壮行会も開かれ、ドバイに挑む8人には全校生徒からの応援の声が捧げられた。
革命世代が、世界に挑む。そのことを応援しないウマ娘はおらず、テンションも上々、と言ったところか。
俺は学園前に集まったウマ娘達の顔を見て、全員がしっかり揃っていることを間違いなく確認した。また、お見送りで、何人かのトレーナーやウマ娘なども集まってくれている。
そんな中でも、初咲さんが心配そうにウララの荷物を何度も確認している。
「ウララ、荷物はちゃんと確認したか?大丈夫だったか?」
「だいじょーぶ!!キングちゃんと一緒に3回確認したから!!」
「ご安心を、初咲トレーナー。このキングの名に懸けて、ウララさんの荷物は万全よ…!事前に向こうのホテルに送った荷物も間違いなく完璧に整えたわ……!!」
「ホントに助かるよキング…ドバイから帰ってきたらなんか奢るからな…!!」
同室のキングが相当に骨を折ったのだろう、見送りに来た彼女のまるで子育てに疲れた若奥様のような髪の乱れに僅かに目が奪われるがそれは心にしまっておいた。
初咲さんも随分とキングには頭が上がらないようだ。俺もだ。ウララの担当をするにあたりキングにお世話にならない世界線はなかった。彼女はキングにしてウララのお母さんなのである。
「……立華トレーナー。調子はどうかしら?」
「東条トレーナー、それに皆さんも……ええ、調子はいいですよ。年甲斐もなくワクワクしています。中々ない事ですからね、こんな大人数の遠征なんて」
「そう言えるのだから、流石ですね。凱旋の報を期待しています。頑張ってください。帰ってきたら、寿司で一杯やりましょう」
「立華君がチームJAPANの肝!って感じあるからねー。向こうで体調崩さないようにね?おねーさん応援してるよ!!」
「何より、ウマ娘達が無事に走り、無事に帰ってくることを望みます。向こうでのウマ娘達の体調管理をしっかりと。頑張って」
「応援してますよ!ファイトですっ!!」
そうして眺めていたところ、トレセン学園が誇る女性トレーナー達……東条トレーナー、奈瀬トレーナー、小宮山トレーナー、樫本トレーナー、桐生院トレーナーにそれぞれ、激励のお言葉を頂けた。
有難い限りである。俺はそれぞれに笑顔で返事を返しつつ、お礼を述べる。
なぜかウマ娘達の集まっている方から3つ……いやトレーナーのいる方からも一つ、急に寒気が増したような気がするが気のせいであろう。2月末だしな。外は寒いもんだ。
「…立華クン、わりぃな、一緒に行けなくなっちまってよ。ドバイで飲む酒、楽しみにしてたんだが」
「北原先輩……いえ、仕方ない事です。それに、俺も、初咲さんも……ファルコンもウララも、想いを受け取ってますから。見ててくださいよ、貴方の後輩と、貴方の担当ウマ娘の後輩が…世界で、勝つところを」
「ああ。俺もお前らの勝ちを疑ってねぇ。頑張れよ!……で、このタイミングで悪いんだが、これ持ってってくれや。マーチから、ファルコンとウララに、だとさ」
俺は続いて激励をかけに来てくれた北原先輩に、これまでの感謝を伝える。
チームカサマツ。俺達チームフェリスのウマ娘にとって、チーム結成後に初めて併走をした相手。良き先輩。
彼女たちによって、俺たちは実戦の勘を掴ませてもらった。メイクデビューでのスタートダッシュや、特にファルコンが今これほど走れているのは、彼女たちのおかげだ。
今回のドバイでも、己の全てを懸けた走りで想いを伝えてくれたマーチの魂を背負い、ファルコンとウララが挑む。
負けない。俺達チームフェリスは、革命世代は、想いを紡ぎ重ねることで強くなれるからこそ。
そして、そんな北原先輩から手渡された包みの中を確認すると……そこには、お守りが入っていた。
『闘将』と刺繍の入った、必勝祈願のお守りだ。何とも、これはありがたいものだ。
「中によ、こないだバッサリ切ったマーチの髪の一房と、尻尾の毛を混ぜて入れてあるんだとさ。『いっしょに行けなくなった分、想いだけでも共に』……だとよ」
世界遺産に指定しなければならなくなった。
「マジすか……そりゃ、二人にとって何よりの激励になりますね。おーい、初咲さん、ウララ!ファルコン!!」
というのは置いといて、俺はファルコン達を呼んで、北原先輩から、マーチから受け取ったお守りを二人に渡す。
「マーチ先輩から…!すごく嬉しい!!有難うございます!!北原トレーナー、マーチ先輩にも有難うって伝えてください!!絶対勝ちますから…!!」
「ありがとー!!マーチ先輩にも、ウララがゴールデン
「シャヒーンな。…北原先輩、俺も……貴方に教わった通り、担当ウマ娘の勝利を心から信じて。全部、ドバイで出し尽くしてきますよ。立華さんと一緒にね……お見送り、ありがとうございます」
俺達トレーナー二人が北原先輩に礼をして、くすぐったがるような笑みを浮かべる北原先輩。
このお守りが、彼女たちをきっと不意の怪我などから守ってくれるだろう。
「立華。ウマ娘達をよく見てやれ。旅先の不慣れな環境で体調を崩さぬよう注意を払え」
「勿論ですよ。お見送り有難うございます、黒沼先輩」
「立華君、カレンチャンが教えてくれた飛行機の中で落ち着く合気道の呼吸*2ってのがあってな!効果あるかちょっと試してみない?」
「知ってるんで大丈夫ですよ
他にもお世話になったトレーナー達、みんなから改めて激励の言葉をかけられて、恐縮しながらもとても温かいものを受け取っていた。
それは願いだ。学園のトレーナー、ウマ娘達みんなが、俺たちの挑戦を応援してくれて、協力してくれるからこそ、俺たちは何の懸念もなくドバイに旅経つことが出来るのだ。
チームJAPAN。
俺たちは、日本のみんなの想いを背負い、世界に挑む。
「バスが来ましたね。では、皆さん乗りましょうか。座席は自由でいいですよ」
そうして出発までの時間を過ごしているうちに、みんなを空港まで運ぶバスが到着した。
見送り組のそれぞれが思い思いに声援を投げかける中、手を振りながらバスに乗り込んでいくウマ娘達。
ああ、いいな。こういう光景は好きだ。永い時を過ごす中でも、こういう大きな遠征は稀であり、ウマ娘達のそんな姿に俺は強く惹かれる。
「では、南坂先輩。そちらはよろしくお願いします」
「はい。空港で落ち合いましょう」
俺とSSはバスに乗り込む皆を見送ったのちに、オニャンコポンを理事長に預け、駐車場に止めている愛車に乗り込んだのだった。