【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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141 Dear sister

 

 

 

『……いつも、ごめんね』

 

『…何のことかな』

 

 俺は空港に向かう道中、愛車のハンドルを握り安全運転で走らせながら……隣の助手席でシートベルトを締め、静かに座っていたSSから、謎の謝罪の言葉を受けた。

 謝られることに心当たりが全くない。何の話だろうか。

 

『……私が、バスに乗れないから。タチバナに、いつも車出してもらってるじゃない。レースの遠征の時でも、わざわざタクシーを使ったり、レンタカーを借りたり……負担、かけちゃってるな、って』

 

『…………』

 

 続く、彼女の独白のような言葉を黙って聞く。

 それは、彼女がバスに乗れない……過去の事件により、トラウマになっていることへの謝罪の言葉だった。

 これはまた随分と、見当違いの謝罪をしてきたものだ。

 

 確かに彼女はバスに乗れない。一人だけ別に移動させるわけにもいかないため、俺たちがレースなどで遠征する時にはバスに頼らぬ交通手段で移動していた。

 だが、それだって別に、何の負担にもなっていない。元々俺のチームでは近場なら俺の愛車で移動していたし、関西など遠くのレース場に行く際には新幹線とタクシーだった。

 それは、バスと言う交通手段がどうしても一般の人と距離が近くなり……必然として起きる可能性がある、ファンからの過剰な声掛けを避けるためでもあった。

 

『面白いことを言うね、SS。言っておくけど、普段から俺は……俺のチームは、バスをあまり使わなかったんだ。君を想ってバスを使わない面が、まぁ、無いわけじゃないけれど。それはチームの負担には一切なってないよ?』

 

『……でも、今日のこの車での移動は、貴方から提案した話だって聞いたわ』

 

『誰から?』

 

『ミナミザカ。…今回みたいな大人数の移動では、車を出す必要はこれまでもなかったらしいじゃない。私のため、よね』

 

『……先輩、流石の報連相だな。……まぁ、そうだね。今回のこの送迎については、君の為に、という理由が大きいことは否定しないよ』

 

 俺は内心でいつもの笑顔を浮かべている南坂先輩を思い浮かべ、デコピンで迎撃しようとしたが、勝てるイメージが湧かなかったのでそのまま脳裏から追い払った。

 確かに、今回のような大人数での遠征や、大人数のチーム単位や学年ごとに合宿所に移動するときなどは、バスで一括で移動する。これは普通の学校と変わらない。修学旅行と同じようなものだ。

 その中で、俺の方から今回の海外遠征につき、日本にもドバイにも、自由に走れる車を準備しておこう……という提案をしたのは、前に説明した通り、現地での移動に幅を利かせられるようにするため、という理由のほかに……彼女、SSのため、という理由が大きい。

 はっきり言ってしまえば、SSが遠征に参加していなければ、車で送迎はしなかっただろう。それは事実としてあるかもしれない。

 

 しかしだ。

 そもそも、SSのその悩みは、()()()()()()()()()()

 俺が彼女のためを想ってこうして行動しているのは、理由があるのだ。

 謝意を伝えて黙り込んでしまったSSに、俺は言葉を選んで紡ぐ。

 

『SS。……君は、チームハウスでオニャンコポンの世話をよくしてくれるよね』

 

『?……ええ、それは…』

 

『それ、面倒だな、嫌だな……って思ったことあるかい?』

 

『まさか。あり得ないわ。可愛いあなたの家族じゃない。私にとっても、オニャンコポンは癒しよ』

 

 一度話の切り口を変えて、俺は彼女がよくチームハウスで、オニャンコポンの世話……毛の掃除であるとか、トイレの世話とか、尽力してくれていることを話題に出す。オニャンコポンが今、俺の肩の上にいないから出せる話題だ。

 トレーナーである彼女は、俺と同じで、愛バ達に比べてチームハウスにいる時間が長い。必然、オニャンコポンの世話をする機会も増えて、無論の事俺も自分の猫の事なのでしっかりと掃除はしているが……彼女もまた、嫌がらずに積極的に世話を手伝ってくれている。

 それはなぜか?

 その理由に思い至れば、SSの謝罪への答えとなる。

 

『そうだろ?勿論、俺も嫌じゃない……家族だからな、オニャンコポンは。それは俺だけに限っての話じゃない。君や、チームのみんながそう思ってくれて、世話してくれる。そこに嫌悪はないわけだ。だって家族だからな。それとおんなじだよ』

 

『……どういう事?』

 

『俺も、君の事を家族のように想っているってことさ』

 

『!』

 

 話の核心をついていく。

 SSの、遠慮がちに話したバスの件だが、俺は一切、それについて面倒だな、などと思ったことはない。

 それは、彼女の事情がある事もそうだし、それ以上に……SSを、家族のように想っているからだ。

 家族が困っていることを手伝うのに、躊躇いなんて生まれるはずもない。

 それはきっと、チームのみんなが同様に思っていることだろう。だからこそ、この送迎に同乗したい、と言い出す子はいなかったのだ。

 

『前にも言ったけど…さ。SS、俺は君の事を(sister)のように想ってるんだ。修道女、って意味じゃないぜ?チームに入ってくれたサブトレーナーとして仲を深めるうちに……君の、勤勉で、チームの為に頑張って、ウマ娘達とも積極的にコミュニケーションを取って……彼女たちの勝利の為に、一緒に頑張ってくれる君の事を、俺は家族のように想ってる』

 

『……』

 

『だから、君の為にこうして焼く世話を、迷惑だなんて一切思ってないのさ。家族を送迎するのが迷惑なんて普通、思わないだろう?そういうこと。……だから、妙な謝罪なんてやめてくれよ。そんな遠慮する仲じゃないでしょ、もう。君と、俺は』

 

『………そうね、そうだったわね。私……まだちょっと、どこかで遠慮していたのかもね…』

 

 俺が言葉にした通りだ。

 俺は、SSの事を、この半年ですっかりと気に入ってしまっている。

 これまでの世界線でもなかった、自分が1から立ち上げたチームに加入してくれたサブトレーナー。

 トレーナーとしての実力も優秀なうえ、物覚えが良く、さらにはレジェンドウマ娘として愛バ達と併走すらできる。

 育成論について俺と近い目線を持ち、体幹の重要さについてどこまでも語りあう事が出来る。

 そんな彼女の、悲しい過去を乗り越えた心の強さにも敬意を払い……俺は、出来る限り彼女と遠慮するような関係になりたくなかった。

 家族。それくらいの距離感でありたいと、思っている。

 だからこそ、こうして送迎することが負担になるはずもなく、謝られても困ってしまうのだ。

 

 それに、だ。

 近い気持ちを彼女も持ってくれていることを、俺は先日、教えてもらっている。

 

『君もこの間のバレンタインでメッセージに書いてくれてたじゃないか。ほら、俺の事を、まるで兄のようにって……』

 

『あの手紙はちょっとテンション間違えたから掘り起こさないでくれる!?恥ずかしいから!!』

 

『あっ、ハイ……』

 

『……まったく、もう。申し訳ないって気持ちが、どこかに行っちゃったじゃない……』

 

 ふんす、と恥ずかしいのか頬を染めて、胸の下に腕組をしてSSが窓の外に向けてそっぽを向いた。

 俺は苦笑を零しつつ、あの随分と温かいメッセージが書かれたバレンタインカードを思い出す。

 あれは宝物だ。俺の自室の机の引き出しに鍵をかけてしまってあるが、ことあるごとに取り出しては読み返すことだろう。

 その中に、何と嬉しいことに、俺の事を兄のように慕っている、といった文言が書かれていて、俺も思わず笑顔を零したもんだ。

 

 これで話は終わりだ。

 彼女の悲しい過去により、苦手とすることが出来てしまっているならば、俺は家族としてそれを全力で支える。

 逆に、俺が困るようなことがあれば、SSが助けてくれる。

 チームを運営するトレーナー同士、という絆以上のものをお互いに抱え、歩んでいければそれでいい。

 

 

『…………ありがとう、兄さん(brother)

 

 

 最後、窓に呟き何かSSがつぶやいたようだったが、生憎すぐ右隣を走る大型車のエンジン音にかき消され、俺の耳には残らなかった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 無事成田空港に到着した。

 バスで先についていたみんなと合流し、問題なく搭乗手続きを済ませて飛行機に乗る。

 ここからは12時間のフライトになる。道中は長いため、座席は体に負担がかからぬようビジネスクラスで予約してある。

 ファーストクラスでの予約にしてはどうかという意見も出たが、学生の内にあまりに高級すぎるサービスを経験させるのは、という懸念もあった。また、そもそもファーストクラスは1座席ごとに個室のようになり、頼める料理もお酒が絡むものが多かったりなどで、学生ではサービスを持て余すだろう、という理由もあっての事だ。

 その代わり、ビジネスクラスの座席の並ぶ1室を今回の遠征組で貸し切らせていただいて、大きな個室のような形にしてある。赤の他人が交ざったりせず、ある程度リラックスした空間で過ごしてもらえることだろう。

 

 そうしてフライトが始まって3時間。

 

「……暇だね…☆」

 

「……暇なの……」

 

「……まぁ、暇ですね」

 

 早速暇を持て余す我が愛バ達がいた。

 まぁ、それはそうだ。始めの内こそ、飛び立つ景色や雲海の様子を眺めたり、サービスを試して食事などしてみたり、ウマ娘達で集まってトランプやらスマホゲームやらに興じていたが、それらも飽きて、他にやる事がなさすぎるのだ。

 3時間も暇を潰せば上々という所だろう。

 普段から、午前中は授業、午後は練習で体を酷使し、夜は寮生活で食事とお風呂を取ればおおよそ早い時間に寝る彼女たちの事だ。暇をつぶす手段に長けていないウマ娘は多い。

 まあ、幾人かは既に到着までの暇つぶしを見つけている様だが。

 

「………すぴー………」

 

「ウララのやつよく寝てるよ…。聞いたら昨日、寝坊しない様に3時前にアラームかけてたんだとさ。キングの苦労が偲ばれるぜ…」

 

 座席で爆睡しているウララの毛布を掛け直してやる初咲さんの姿があった。ウララ自身は見事な鼻提灯を作って幸せそうに寝ている。

 睡眠時間を削ってでも間に合うように今日を迎えたらしい。飛行機が飛び立って数分で彼女は夢の世界へ旅立っていった。

 流石に12時間まるまる寝てることはないだろうが、まぁ時間を潰す苦労はなさそうだ。

 

 そしてもう一人、時間をつぶす苦労がないウマ娘がいた。

 

「……ねぇ、南坂トレーナー。このウマ娘、過去のレースデータ取っとくね。直近レース見ると結構な曲者っぽい」

 

「わかりました。そちらの国からはあと3名、参加するようですね…。こちらも翻訳しておきますか?」

 

「お願い。曲者と走ったウマ娘もそういう技覚えててもおかしくないし。向こうに着くまでに出走ウマ娘の半分以上はデータ集めちゃいましょ」

 

 南坂トレーナーと並んで座り、ノートPCとタブレットを開きながら黙々と情報を集めることに集中するナイスネイチャだ。

 彼女はサブトレーナーとして、今回のレースに出走するウマ娘、その情報を集めている様だ。

 ナイスネイチャの走りは事前の情報と分析力によって培われている。データを集めて、その上で作戦を練り、走る。そこに油断と言う言葉はない。

 似たような戦法を取るウマ娘として、アメリカのオベイユアマスターがいるが、彼女も今のネイチャを見ればべた褒めするであろう。そのくらいには、俺の目から見ても真剣かつ正確に、データを集めていた。

 これはいいトレーナーになれる。情報を集める力はトレーナーの必須科目だ。

 

 この世界線では、どうやら南坂トレーナーの指導の下で、彼女は情報を武器とする走りを身に着けたようだ。

 それが、今回のドバイに挑むにあたり、サブトレーナーとして……自分のチームのウマ娘が出走するレースだけではない、全てのレースに出走するウマ娘の情報を集める事に発揮されている。

 何とも有難い限りだ。向こうでレース前に行う予定だった戦力分析のミーティング、ネイチャに任せてもいいかもしれないな。

 

 さて、そうして例外となるウマ娘二人を除いては、まぁみんな、暇を持て余し始めたらしい。

 12時間だもんな。仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。

 

「…みんな、生活リズムは向こうに行ってから改めて整えるから、仮眠を取ってもらってもいいよ?勿論、到着する30分前には起すから」

 

「立華トレーナー……ええ、いえ、私もそうしようと思ってたんですけど、こう、妙に気持ちがワクワクして、中々寝付けなさそうで…」

 

「無理に寝ようとすると体によくなさそうですし!眠れないなーってストレスになっても怖いですよね!!!」

 

「ササちゃんここ機内。寝てる人もいるしボリューム注意。……でも、僕も同意です。飛行機なんて乗るの初めてだから…」

 

「流石に筋トレはまずいですよね?プロテインは持ち込めなかったからなぁ…なんか落ち着かない……」

 

「うーん……お助けキタちゃんも飛行機の上では何もできることがない…!!でも全然眠くないんですよねぇ…!!」

 

 仮眠の許可を改めて出したところ、ヴィイ、ササイル、ライアン、キタにそれぞれ、眠気が到来していないが故の澱んだ返事を返された。

 成程。まぁわかるよ。旅慣れしているスズカや、一度海外遠征の経験あるウチのチームメンバーに比べれば緊張するのもやむ無しだろう。ヴィイは君以前フランス行ってなかったっけ?ドバイに行くことに魂が躍動してるのかもしれないな。

 

 だが安心してほしい。

 ここにいるのはあらゆるツボを極めたループ系トレーナーだ。

 荒ぶるウマ娘を落ち着けることなど造作もない。

 

「大丈夫大丈夫。いいツボ知ってるから。ほら、キタから試してみよっか。いったん座席に横になって?」

 

「ええ?ツボ押して眠くなりますかね?うーん、ホントに目が冴えちゃってるんですけど…」

 

「いいから。さてそれじゃ………えいえい」

 

 俺は自分の座席に横になったキタの、腰の横あたりにあるツボをぐりりっと押し込んでやる。

 

「ふみゅ!?……ふ、ん………( ˘ω˘ )スヤァ………」

 

「よし」

 

「えっ。……ホントに寝たんですか?…怖っ」

 

 問題なくキタが安眠のツボに指圧を受けて眠りの世界に旅立っていった。

 覿面だぜ。このツボを教えてくれてありがとう過去の世界線の安心沢さん。貴方のおかげで俺のウマ娘は夜ふかし気味になることがないです。

 しかしそんな風にキタの体でツボを披露していたら彼女のトレーナーであり先ほど車の中でしおらしい雰囲気を見せていたお姉ちゃん( S S )がお怒りの様子でやってきた。

 

「おいコラタチバナ……アタシのキタで何してんだ」

 

「SSもお休み。えいえい」

 

「なっちょっ、オイっ!?…………( ˘ω˘ )スヤァ」

 

「き、効いてる……すごい……」

 

 俺は間髪入れずに彼女の必然的に死角になるあたりから手を伸ばして腰の横のツボを撃つ。

 そのまますやりと眠ったSSの体を支えて、お姫様抱っこでキタの隣の座席に運び、背もたれを倒して横たえた。よき眠りを。

 

「……さ、それじゃみんな、仮眠を取ろうか」

 

「待ってください立華トレーナー!?効きすぎて怖いんですけど!?」

 

「いや、でもこのツボを覚えたらいつでも眠れる……?筋トレ後は眠りが浅くなることもあるから覚えて損はない…かも…!?」

 

「イルイル。ごめん……私……打つよ!!」

 

「可能性に殺されるよササちゃん!?確かにイケメントレーナーに腰のあたり押してもらえるのは悩むけど……!!」

 

 なんだなんだ。俺が折角眠りの世界に誘ってやろうという親切心でやっているのに。

 他のトレーナーを見ろ。沖野パイセンはスズカの隣でなんか仲良く話してるし、初咲さんは俺の方を見てドン引きしてる雰囲気だし、南坂パイセンはネイチャとじっくり打合せ中だし、小内パイセンは俺の手技を真剣な表情で眺めて「タキオンに睡眠時間を取らせるのに使えそうですね…」とか呟いてるぞ。

 つまり誰も止めようとしていない。エンペラータイム突入である。我が名は暗黒の眠りを誘うルシファー。テンション上がってきた。

 

「ふっはっは、いざ旅立たん眠りの世界へ!えいえ……」

 

 

 

 

「──────────立華、勝人さん。おいたは駄目ですよ?」

 

 

 

 

「( ˘ω˘ )スヤァ」

 

 いつの間にか俺の背後に立っていたエイシンフラッシュに、いつぞやの催眠ASMRボイスで囁かれた俺は、爆速で夢の世界に旅立っていった。

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 なんか飛行機の中でだいぶ色々あった気がするが記憶が飛んでしまって覚えていない。

 迂闊にも惰眠をむさぼったらしい俺は到着一時間前に目を覚まし、何故かSSと愛バ達3人からからお叱りの言葉を受けることになった。

 おかしい。俺は何もしていなかったはずなのに。疲れがあったのかもしれないな。しかし飛行機で寝たことで随分とすっきりした様子で目が覚めたからなんとかなるだろう。いつぞやの催眠術を受けたときみたいだ。

 

「トレーナーさんって時々バカになるよね☆なんでだと思う?」

 

「男の子ってそういうもんなの」

 

「しっかり見ていてあげないといけませんね」

 

 愛バ達3人からの目線が背中に突き刺さりつつも、俺たちは無事ドバイに到着し、空港のロビーで一息ついていた。

 ここから先はまた俺とSSは別行動だ。こちらでレンタカーを借りてホテルに向かうことになる。

 

「それじゃ、南坂先輩。また引率よろしくお願いします」

 

「ええ。ここからは海外ですから、運転お気をつけて」

 

 俺は南坂先輩にウマ娘達を任せて、SSと共に準備してたレンタカーを受け取りに行った。

 1か月借りることで事前に契約をしていた車を受け取り、共に車に乗り込んでホテルまでドライブだ。

 ドバイは右側通行の国だが、既にアメリカでタイキファザーにエルモンテRVをお借りして乗り回していた俺にとっては慣れた道路だ。ドバイは空港まわりは道も広いし、問題なく運転できていた。

 

『……ドバイって、砂漠のある砂の国、ってイメージだったけれど。随分と発展しているのね……マンハッタンにも負けないくらい、高いビルが一杯……』

 

『都市部には高層ビルが凄いね。でも、10キロも陸地の方に走れば砂地が広がってるところもある。本当に、ここ一角だけがものすごく発展してるって感じかな。空気が若干、砂っぽいだろ?』

 

『そういえばそうね。髪が痛みそうだわ』

 

 SSと雑談を交わしながら車を走らせていく。

 空港からホテルまでは幾分も距離はない。20分も走れば到着してしまった。ドバイワールドカップが行われるメイダンレース場もここから10kmほどの所にあり、おおよそ海外から遠征してくるウマ娘達はこのドバイの周辺にあるホテルで過ごすことになるわけだ。

 

 さて、そうして俺たちは一足先に宿泊するホテルに到着した。

 5つ星の高級ホテル、ここがドバイにいる上での拠点となる。

 すぐ近くに公共のレース場があり、練習で使える他……ホテル施設内に通常のトレーニング用プールもあり、練習場所には困らない。

 また、ホテルには広々とした大浴場もあり、疲労回復も心配ない。ナイトプールなども併設されている。無論の事、観光としても楽しめるつくりになっていた。

 練習に全力を注ぐのは当然ではあるが、俺がアメリカでそうしたように…また、ヴィイと沖野先輩、ゴルシがフランスでそうしたように。ウマ娘達には、想い出を作ってほしかった。

 

 ホテルの駐車場に車を止めて、ロビーでバス組をSSと待つことになる。

 もう間もなく夕日の時間になりそうな頃だ。今日はこの後はホテル設備についてみんなで確認した後、部屋割りを確認してまずは休む……と言う流れになっている、はずだったのだが。

 しかし、なんと。

 ここで俺たちは、予想外の出会いを果たすことになった。

 

『────────えっ』

 

『……ん、SS、どうした?何かあった?』

 

 唐突に、耳をピクリと振るわせてSSがロビーの向こう、ホテルの入り口を見た。

 しかし俺の耳にはまだ何も聞こえていない。バスが到着したなら流石にその音くらいは分かりそうだし、目で見てもわかると思うのだが。

 

『……え、嘘。この声、間違いないわ……まさか、()()なの!?』

 

『え、何さ。何が聞こえるって言うんだいSS……って、ん、これは……』

 

 そうして音のする先をSSが見ていると、俺の耳にもその原因が聞こえてきた。

 その音……その、()。その、実に聞き覚えのある、()()()が聞こえてきたからだ。

 

『─────ッハッハッハッハ!!!いいホテルですね、()()()()()()()!!ここが私達の拠点となるわけですね!!!』

 

『玄関前で大声出さない!!でも、そうね。雰囲気のよさそうなところで安心したわ、流石()()が選んだホテルで……って、あれ?…え!?』

 

『下調べは欠かさないさ。ウマ娘にとって最適な環境となるホテルを選んで……む、おや』

 

『………嘘でしょ……どんだけ腐れ縁なのよ…!!』

 

 当たり前の話になるが、ここは一般施設のホテルであり……当然、チームJAPANが貸し切っているわけではない。

 1フロアの部屋はチームJAPANで満たしているが、他の階は当然、別の宿泊客が利用している。

 先ほど言った条件の通り、このホテルはウマ娘にとって素晴らしい環境が整っているホテルでもあり、他の国のウマ娘が使う可能性があったわけだ。

 

 そして、今。

 そんな他の国の、ドバイに挑むライバルの一人が。

 アメリカからの来訪者が。

 

 ()()()()()()()()()()()()と、そのトレーナーである()()()()()()と、()()()()()()()()()

 その三人と、ロビーでばったり遭遇したのだった。

 

 

「……旅は道連れ、世は情け、か」

 

 俺はさっそく笑顔でこちらにやってくる3人の姿に、肩を竦めて苦笑を零すのだった。

 

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