「うわー!マジェプリちゃんだー!!久しぶりー☆!!」
『ハーッハッハッハ!!まさかこんなにも早く、宿命のライバルと出会ってしまうとはねっ!!ファルコン、元気そうで何よりだとも!!』
「うんうん☆ごめん、やっぱり英語まだダメなんだよねぇ…!頑張って勉強しているつもり、なんだけど!」
『プリンスちゃん、あたしが通訳しよっか?』
『私もできますよ。もしファルコンさんと話をされるのであれば……』
『いや、アイネス君もフラッシュ君も配慮は無用だ。なにせ私は王子っ!ファルコンと相対することが決定したこの3か月で日本語もマスターして見せたとも!!オベチーフのご協力でねっ!!』
「なんて☆?」
「日本語覚えてきてくれたらしいの」
『では早速披露しよう!!ごほんっ。────────』
「……あっ、その鋼を錬金する術師みたいに両手を揃えるポーズ、まさか……!?」
「────ドーモ、スマートファルコン=サン。マジェスティックプリンスです」
「アイエエエエエエエエエエエ☆!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
「漫画とアニメを参考に覚えたのだ、ファルコン=サン!ニンジャ殺すべし慈悲はない。ハーッハッハッハ!!」
「オジギが終わったから私達殺されちゃうのでは…!?」
「大丈夫なのキタちゃん、あたし達ニンジャじゃないから。あと高笑いはそのままで安心したの」
「どうしてその作品で日本語を覚えてしまったのですか?どうして……」
バス組がホテルに到着し、チェックインを早くに済ませたフェリスの面々と、同じくチェックイン済みのマジェスティックプリンスがなんだか楽しそうにコントをしている。
俺はそんな彼女達の様子を近くから眺めつつ、トレーナー同士……SSと、アメリカからやってきたイージーゴア、オベイユアマスターと軽く話をしていた。
『……オベ。オベイユアマスター。君、教え子に妙な日本語を吹き込むのを楽しんでないかい?』
『否定はしないよタチバナ』
『してよ!アンタのおかげで私の日本語、変な癖がついちゃったじゃないの…!』
『あら、ケットシーに教えてもらえばいいじゃない。どうなのケットシー?貴方なら教えられるんじゃない?』
『いや、そうは言うけどねゴア。実は俺、割とSSの日本語気に入ってるところがあってさ……』
『そういうの本人の前で言わないでくれる?』
彼女たちアメリカ遠征組…マジェスティックプリンス、イージーゴア、オベイユアマスターの3人は、俺達と同じくらいのタイミング…3月に入ってすぐにドバイ入りし、現地の環境に慣れることを選択したらしい。
出走者の発表は見ているので、マジェスティックプリンスがファルコンの参戦するドバイワールドカップに出走することは知っていた。
マジェスティックプリンス。彼女の戦歴は、実にシンプルに表すことが出来る。
現在、GⅠ7戦を含む13回のレースに出走しており、成績は
フェリスのウマ娘と出走したレース以外に、負けたことはない。レコードも頻発している。
間違いなくファルコンの砂の上での最大のライバルであり、今度こそ本当に、一切の油断できない相手。
しかし、そんな強敵ではあるが、アメリカでの1戦と、ファン感謝祭での出会いと、日本での1戦を経て、彼女や彼女のトレーナーであるイージーゴア、オベイユアマスターとも交流関係が作れている。
特に、お互いのチームを橋渡ししてくれているSSの存在が大きい。ああしてウマ娘達で仲良く歓談が交わせるくらいには親しい関係になっていた。
さて、そんな彼女たちに聞いたところ、ホテルが同じになったのは本当に偶然の賜物だったらしい。
手配をしたのはオベイユアマスターである。
サブトレーナーの資格も持っている彼女は、1月からめでたくマジェスティックプリンスの所属しているチームの主管トレーナー兼マジェスティックプリンスの担当トレーナーになったイージーゴアに依頼され、今回の遠征に掛かる補佐役として、各種手配や情報の収集に勤しんでいたという話だ。
だがホテルを予約したのは1月の早い段階で、そのころには日本勢がこのホテルに決定していなかったこともあり、ふたを開ければ俺たちチームJAPANが後からこのホテルを選んだ形である。
だが、まぁ、これは俺達フェリスにとっては悪くない出来事だ。特に、ファルコンにとっては。
マジェスティックプリンス……俺達に二度も立ちはだかった、分厚い壁。才能の塊。
そんな彼女だが、決して仲が悪い方ではない。ファルコンにとっても、いい刺激になるだろう。二人とも、仲は良くとも慣れあうような甘いウマ娘ではないから、その走りに陰りが出る恐れはない。いや、むしろ日常を過ごす中でさらに熱を高めあい、最高のレースを見せてくれるはずだ。
「それにしても……マジェプリちゃん、イージーゴアさんとオベイさんと、3人だけで来たの?」
「ム。オヌシの言う通りだファルコン=サン!私のチームからは私以外は参加しないため、人数は最低限となった!」
「口調のギャップが凄いですね。…でも、他にもアメリカから参加される方も結構いましたよね?」
「……まさかマジェプリちゃん、ぼっちなの…?」
「えっ……そ、その!私キタサンブラックって言います!お、お友達になりましょうか…!?」
「ゴカイを受けている気がする!?」
さて、そんな愛バ達の会話を聞いていると、彼女たちの話題はマジェスティックプリンスの遠征の事に。どうやら日本のようにみんなで行動していない事への疑問に移ったようだ。
確かに、日本はチームJAPANを結成し、中央トレセン学園から全員一度に参加している。が、彼女たちのその疑問はアメリカのウマ娘事情を知らないことから出るもので、別にマジェスティックプリンスたちがボッチと言うわけではない。
助け舟を出してやるか。
「……みんな、アメリカのトレセン学園ってのはね、日本みたいに中央トレセンの一か所に有力ウマ娘が集うような環境じゃないんだよ。国土が広いから……各地に、有力なトレセン学園がいくつもあるんだ*1」
「東海岸と西海岸、東西に分かれて3つずつくらいでけートレセンがあんだ。で、アメリカで強いウマ娘、っつったらそれぞれにバラけてることが多い。レースではよく顔を見るライバルでも、トレセンが違うから日常じゃ全然会わないことだってある。アタシとゴアがそうだったみてェにな。……だからあんまプリンスいじめんな」
「あ、なるほど。そういう事だったの」
「ドイツやフランスですと日本のように大きなトレセンが一つ…と言うこともありますが、アメリカは国土も広いですからね」
「よかったぁ……マジェプリちゃんぼっちじゃなかったんだね!」
「ひどいゴカイを受けるところであった!」
俺とSSの説明により、一先ずマジェスティックプリンスがぼっち扱いされて何だか可哀そうな流れになることは避けられた。
しかし、その流れで新たに浮かんだ疑問があったようで、ファルコンが重ねて口に出した。
「あれ。でも、そうなるとアメリカのウマ娘さんは後からくる……ってコトは、マジェプリちゃん、併走相手とかどうするの?」
「ムゥ、併走相手?ハッハッハ!!それは全くニュービーな質問だぞファルコン=サン!」
「……だね。『……うちのファルコンが、マジェプリの併走相手はいないのかって心配してるよ、イージーゴア』
『あら、
『……アンタ、よくそこまでピークを維持できてるわよね……』
『それをサンデーが言う?見たわよケットシーとイチャイチャしてるあの動画。貴女の体、今でも全盛期じゃない』
『私のは鍛錬と日々の努力の結晶。ナチュラルなフィジカルでキープし続けるアンタがずるいって言ってんのよ…!あとあの動画は真面目な内容のものだから茶化したら殺すわよ…!!』
『……いやはや、化物二人が何か言っているね。私はもうとっくに一線を退いたというのに』
『いや、オベの脚も決して悪くはないように俺には見えるけどね。……まぁ、確かにこの二人は別格だが』
ファルコンの疑問……それは、マジェスティックプリンスの併走相手について。
確かに、ウマ娘が一人と、トレーナーが二人だけ……では、心配する部分があるのもわかる。チームJAPANのように、併走相手に事欠かない環境であればなおの事。
しかし、彼女が引き連れているトレーナーは二人ともウマ娘で、しかもそのうち一人はアメリカでGⅠを9勝している生きる伝説、イージーゴアなのだ。
彼女の体は、フィジカルが凄まじい。俺やSSが目指す体幹の筋肉が生まれながらに発達した、190cmを超える身長を持つ、才能の塊。
SSとは全く持って正反対に位置していると言えるだろう。SSが恵まれぬ体を努力と執念で磨き上げた側だとすれば、彼女は生まれついての強者だ。そして、その力は現役を引退しトレーナーとして活躍する今でも色褪せない。
かつてトレーナーズカップで、SSが「引退やピークといった理屈を超えた先に真の強者がいる」と零したことがあるが、それを最も体現しているのがイージーゴアと言えるだろう。
彼女はいつも、いつまでも強い。
オベイユアマスターが重ねて愚痴をこぼしていったが、今の彼女は俺がざっと脚を見るに、現役時代の走りをするのは少し厳しいだろう。無論の事、これが引退後の普通のウマ娘の姿であるため、そこに貶めるような意図はない。SSとイージーゴアが常識外れなだけだ。
『……さて、ロビーであまり長話しすぎてもね。ケットシー、サンデー、私たちは今日はこの辺りで失礼するわ。今後も生活の中で色々会うこともあるでしょうけれど、仲良くさせてもらいたいわね、勝負の時まで』
『ああ。こちらこそよろしくお願いしたい所さ。お互いに戦略を零さないレベルでなら、併走なんかもぜひ一度はしてみたいところだね。マジェプリとも、君とも』
『このホテル、備え付けのバーがあるらしいわ。一回くらいは呑みに付き合ってあげるから呼びなさい』
『ふふ、素直じゃないねサンデー。一人部屋で寂しいから誘ってほしいと言えばいいのに』
『黙りなさいオベ。舌引っこ抜くわよ』
『おお怖い怖い。噛みつかれる前に撤退することにしよう。……プリンス、そろそろ行くよ』
「ム。『了解です、オベチーフ!』……では今日の所はサラバだ、ファルコン=サン!砂の上で相まみえるその時までは是非とも仲良くやろうではないか!フェリスのミナサマもオタッシャデー!」
「うん、またねマジェプリちゃん☆」
「今後ともよろしくお願いしますね」
「後で一緒に遊び行くの!またね!」
「お達者です!」
軽い雑談を終え、チームJAPANもチェックインを済ませ終えたところで、俺たちはマジェスティックプリンス達と別れた。
とはいえ、階は違うが同じホテルに暮らす仲だ。今後も顔を合わせることも多いだろう。
後でチームJAPANの他の子達も紹介していいかもな。奇妙な確信だが、ウララとは話が合いそうだ。
「立華トレーナー。チームJAPAN全員、チェックインも終わりました。荷物も間違いなく届いているのを沖野トレーナーと小内トレーナーが確認してくれましたし、バスに忘れ物がないことも初咲トレーナーが確認してくれています」
「はい、了解です南坂先輩。すみません、ちと旧知の顔があったもんで話し込んじゃって」
「ごめんね、ミナミザカ」
「気にしないでください、大した手間も取っていませんし。……問題ないとは思いますが、アメリカの彼女たちと何かトラブルがあれば、その時は対処をお願いしますね、お二人とも」
「ええ。まずまずないとは思いますが、何かあればすぐ呼んでください」
「噛みついてでも止めてやらァ」
俺達も改めてチームJAPANのための業務に戻り、その日はウマ娘達の部屋割りを確認し、ホテルの設備や避難経路をみんなで確認して、夕食とお風呂を取って、明日に備えて眠るのだった。
────────────────
────────────────
翌日。
朝食を食べ終えて、チームJAPANが貸し切っているフロアの一室、大会議室に全員が集まっていた。
集まっているメンバーはウマ娘達、トレーナー達、そして昨日の深夜にこちらに合流した理事長だ。その際にオニャンコポンも無事に元気な姿でこちらに届いたので、今は俺の肩の上に戻っている。寂しかったぜお前がいないと。
さて、今日はドバイで初日のミーティングである。今日のこれからと、今週の予定について目線合わせをする時間であったが、しかし。
「……ふぃぃ………眠いよー…ヴィイちゃーん…」
「ウララちゃん、気持ちは分かるけど目を閉じちゃだめよ。これから打合せだからね…」
「ふわぁ……む、昨日は、やっぱり、あんまり寝付けなかったね、スズカちゃん」
「時差ボケはどうしても、ですね。頑張って早いうちに直しましょう、ライアン先輩」
「( ˘ω˘ )スヤァ……」
「ササちゃん…!ここで寝ちゃだめだよ、起きてよササちゃん…!僕も眠いんだから…!!」
「早めに何とかしないとね。アタシは機内で寝なかった分、今朝はすっきり起きられたけど」
時差ボケに苦労するウマ娘達の姿があった。
いや、ウマ娘だけではないか。トレーナー達も流石に完調とは行かない。なにせ12時間のフライトの上、時間感覚が破壊されてしまっているのだから。
元気なのは安眠のツボを覚えている俺と、もう理由の説明は不要であろう南坂先輩と、飛行機で寝ずの情報収集をしたことで昨日爆睡できたナイスネイチャと、旅行慣れしている理事長だけだ。
まずはこの時差ボケを解消していくところから、かな。
腕が鳴るぜ。