【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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(天皇賞秋)パンサラッサしゅごい。
イクイノックスももんのしゅごい。
なお馬券はシャフリヤール軸でした(死)





144 ゼロの片鱗

 

 

 ドバイに来て数日が経過した。

 生活にも慣れ、ウマ娘達も午前中は課題、午後はトレーニング、そして豪華な夕食と大浴場でリフレッシュして安心して寝る…というこの生活に慣れ始めてきた。

 慣れてくれば、トレーニングも本格的な物になってくる。

 今日の予定は、ナイターでの併走練習となっていた。

 

 なぜ夜に走る練習をさせるのか。

 これは、ドバイワールドカップデー、その日程が深くかかわってくる。

 1日に9種類のレースが開催されるドバイワールドカップデーだが、その内最後のドバイワールドカップは出走時刻が現地時刻で夜の八時半頃で、空は真っ暗な時間だ。日本時間だと深夜1時半にもなる。

 我々チームJAPANの参加するレースの順番は以下の通りとなる。

 

 

 第五レース:アルクオーツスプリント(芝1200m・直線)

 参加ウマ娘:アイネスフウジン

 

 第六レース:ドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200m)

 参加ウマ娘:ハルウララ

 

 第七レース:ドバイターフ(芝1800m)

 参加ウマ娘:ヴィクトールピスト・サクラノササヤキ・マイルイルネル

 

 第八レース:ドバイシーマクラシック(芝2410m)

 参加ウマ娘:エイシンフラッシュ・メジロライアン

 

 第九レース:ドバイワールドカップ(ダート2000m)

 参加ウマ娘:スマートファルコン

 

 

 さて、この5つのレースの内、ギリギリ日が出ている時間に出走になるのがアイネスの走るアルクオーツスプリントのみ。それだって夕方の時刻で空が茜色になっている時間だ。

 ゴールデンシャヒーンになるともう空は夜の帳が下りており、ナイターとなるため、照明に照らされたコースを走る事になる。

 

 だがこのナイターレースというのは、意外と慣れが必要だ。

 特に、走る際の芝やダートの陰影の形が変わるため、感覚的にも慣らしておかないと違和感を感じて上手く走れないケースもある。

 今回のチームJAPANの中でも、ハルウララやスマートファルコンはダートレースのナイターにも慣れているため、大きく躓くことはなかったが、芝を走る組の面々は最初は少し面食らっていたようだ。

 それもそうだろう。日本の中央レースでナイターで走る芝のレースはない。ここを早い段階で慣らしておくことも、今回の遠征では必須の練習と言えるだろう。

 そうして今、ちょうど日が落ちたころの時間、ナイターのライトが照らす練習コースを軽く走らせ、まず足を馴染ませるところから始めているわけである。

 

 

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「よーし、何周か走って光の加減には慣れてきたかな?それじゃ併走に入ります。今日は夜で、記者とかもいない。他の国のウマ娘も今日はコース使ってないみたいだから、チームJAPANでコース貸し切りの状態だ。領域あり、戦術あり、接触無し、90%の力で走る事をイメージしての併走を組み分けてやっていくよ」

 

「ケガしないことをまず第一に考えてくれ!その上で、本番でどのようなペースで走るかをイメージしながら取り組むぞ!タイムも逐一、全員の分とってくからな!」

 

 俺と沖野先輩で、ウォームアップを終えてそれぞれ水分補給などをして息を整えるウマ娘達に指示を飛ばす。

 今日はこの時間、チームJAPANで芝とダート、2つのレーンを借りている。記者などのカメラもない。本番で繰り出すであろう深いところまでの作戦を放てる練習日だ。

 今できる走りの正確な速さを取材記事などで挙げられてしまうと、それは対策されることにつながるため、秘密特訓……とまではいわないが、こういう日に一度全力で走っておくのは重要なことであった。

 なお、本当にカメラマンなどが忍び込んでいないかは南坂先輩が確認し、間違いないと太鼓判を押してくれている。どうやって確認したのかとか気になるがあの人が言うのなら問題ないのだろう。だってよ…南坂先輩なんだぜ?

 

「ダート組の二人はアタシも交ぜて、3人で1200mと2000mを繰り返すぜ。勿論、自分が走る距離の時にはゴールまでしっかり走る事にして、違う時は70%程度の力で走って最終直線前で力抜いて流していけ。スタミナ練習の一環としてやるぞォ。アタシは両方付き合うし、1000mまではキタにも参加させる」

 

「はい!不慣れなダートですが、頑張ります!」

 

「サンデートレーナー、キタちゃんが疲れたら私がダートに入ります。アメリカのダートには慣れていますし、ドバイのダートでも結構走れますから」

 

「ん、そォか。助かるぜスズカ」

 

 ダートを走るウマ娘も、SSが主管となって指示を飛ばし、併走を管理してくれる。

 ファルコンもウララも、走ろうと思えば1200mも2000mも走れるウマ娘だ。どちらかだけ、と言うのも勿体ないし、基本的にはこの二人は併走時は共に走る事になるだろう。

 SSも言わずもがなどの距離でも走れるが、キタもここ最近の体幹トレーニングで驚くほど体幹が発達し、ダートも多少ならば走れるようになっている。

 レース形式で勝負、となれば勿論この3人の相手にはならないが、1000mまでならばスタミナを燃やして気合で駆け抜け、最後の直線で抜かれる形で、併せウマ娘としてのベストな仕事が出来そうだ。

 サイレンススズカもアメリカダートで鳴らした実績があり、そちらも手伝ってくれそうなので、ダート組の併走も問題ないといったところか。

 

「よし、じゃあ早速始めていこうか。余り遅くまではやれないからね。それじゃ、最初の併走は……」

 

 俺たちはそうして、それぞれのウマ娘の走る距離、走るレーンを決めながら、練習を進めていった。

 

 

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 何度か併走が行われ、続いて開かれた芝1800mでの併走にて。

 ドバイターフに合わせた距離で実施された併走で、若干の異変が起きていた。

 

 それは、驚愕。

 それを味わったのは、ドバイターフに出走する予定の3人。

 ヴィクトールピストと、サクラノササヤキと、マイルイルネル。

 

 そして、それを味わわせたのは、我がチームフェリスの駆ける風神。

 

 

「……ゴール!一着はヴィクトールピストさん、二着は半バ身差でアイネスフウジンさん、三着は二バ身差でササヤキさん、四着は半バ身差でイルネルさん、ですね……。……いや、なんとも」

 

「───っはぁ!!はぁ、はぁ……!?先輩、なんですか、今の……!?めちゃくちゃ危なかった……!!」

 

「───────ぜ、えー…っ!!!!嘘でしょ……!?最後のアレ、なんです!?!?私も領域に入れたのに、悔しい…!!!!」

 

「あんなの、ヴィイちゃんの領域以外で……はぁっ、どうやって対抗しろってんですか…!!ノーカン!!今の併走はノーカン、です!!」

 

 走り終えた後の3人の表情が驚愕に染まっている。

 いや、ゴール前で彼女たち3人の走りを見守っていた南坂先輩も、タイムを取っていた沖野先輩とネイチャもそんな顔だ。

 ネイチャは『ふざけんなよまたかよんもぉぉ!!対策考えるの大変なんだよぉぉ!!!』って感じの尻尾の揺れ方してるな。

 

「はーっ、はーっ、へへ……いいでしょ、秘密兵器なの!」

 

 そして、その異変を、混乱を起こした張本人であるアイネスフウジンが、駆け終えて満足げな笑顔を見せていた。

 その笑顔に、3人がうっへぇ、とため息を零した。

 ドバイが終わったら、いずれ日本でこれと戦わなければいけないからだ。

 

 アイネスフウジン。

 彼女はクラシック期、日本ダービーで己の持つ領域に覚醒した。

 【チャージ完了!全速前進!】と本人が名付けていたその領域は、残り300m付近で前の方に自分が位置する場合に加速するものだ。東京レース場だとその効果がさらに発揮されるもの。

 しかし、その領域は夏合宿後に彼女が陥ったスランプにより、その後の秋華賞では発揮されなかった。

 

 だが。

 ジャパンカップでゼロの領域に目覚めた後に、彼女の領域は変化した。

 年明け以降の本格的な練習に入ったころに、チームフェリスでの併走中に彼女の新領域が発現し、既にフラッシュとSSとキタは新領域の直撃を受けている。

 世界で初めての犠牲者となったフラッシュ曰く、

 

『シンプルにズルいです』

 

 とまで言わしめた、その彼女の新たなる力。

 俺がアルクオーツスプリントでアイネスが勝ちきれるだろうと確信できる根拠の一つ。

 その、アイネスの新しい領域が、併走によって少なくとも日本勢には知られることになった。

 

 これは秘中の秘だ。

 絶対に、ドバイワールドカップの当日まで周りに知られてはいけない。

 アイネスの秘密兵器にして最終兵器。

 その力を明かすのは、まぁ、当日をお楽しみに、といったところだ。

 

 

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「ん。……ん、あん?……タチバナ、ちょっとゴアからLANE通話だ。外すぜ」

 

「ああ、どうぞ。…イージーゴアから、こんな時間に?」

 

「何だってんだアイツ……『はい。何よ、こんな時間で……は?いや、急に何……ええ?』

 

 その後もしばらく併走を続け、練習を始めてから1時間ほど時間が経過し、少し長めの休憩を入れてあと1時間は頑張るぞい…といったところで、SSのウマホにイージーゴアから謎の通話が入った。

 なんじゃらほい、と英語で話している彼女の様子を遠目に眺めてると、ひどく面倒くさそうな様子で通話を終えたSSが戻ってくる。

 

『……タチバナ。今からゴアたち、このコースの予約入れて使おうとしてるんだって。で、管理事務所に聞いたら私達の名前があったから、よかったら一緒に併走しない?って。……アメリカンなアイツの考えそうなことだわ』

 

『あー……なるほどねぇ。いや、遠慮ないね。流石ってところか。悪気も一切ないんだろうけど』

 

 俺はSSから聞いた話の内容に、なるほどね、と理解を落とした。

 彼女たちチームから出走するウマ娘、マジェスティックプリンス。彼女は当然、第九レースであるドバイワールドカップに出走する。その出走時刻は午後八時半になるので、彼女もまた夜に走る事に慣れておかなければならないウマ娘だ。

 だからこそ、俺たちチームのように全体の出走時間を見据えて日が落ちた瞬間、18時ごろから練習に入るよりも、19時ごろ…つまり、今の時間から走らせた方が効率はいいのだろう。

 今日はたまたまチームJAPANが貸し切りの状態だったが、今後レース開催が近づくにつれて、レース場を使う各国のウマ娘も増えてくることは間違いない。だからこそ、今日にアイネスの領域など試していたわけだが。

 

 ふむ。どうしたもんかな。俺は少しだけ悩む。

 別に彼女たちがこのレース場に来て練習するのを止めるつもりはない。止められるはずもない。彼女たちもレースに備えて走りたいわけで、それを止める権利は俺達にはない。同じレーンで練習することになれば、ちゃんと時間とかも調整するつもりだ。他の国のウマ娘が相手でもそう。

 ただ、希望とするファルコン達との併走についてはどうしたものか。ウララは同じレースで走る事はないからまだいいか…?ファルコンだって、まぁ、映像でお互いの研究はバッチリすましている所もあるし。しかし向こうにはオベイユアマスターがいる。以前のアメリカでは味方だったが、今回は明確に敵側となる。余計な情報を与えるのはよくないか?うーん。

 

 そうして悩んだが、よく考えたら俺一人で結論を出せるものでもない話のため、俺はトレーナー方とファルコン、ウララを呼び、相談することにした。

 

「……ってわけで、マジェプリがこれからこの練習場に来るんだけど、よかったらダートで併走しないか、って誘われてるんですよね。……まずファルコンとウララ。どうしたい?」

 

「え、そうなの?じゃあ私は……そうだね……やっぱり走りたい、かな☆よく考えればマジェプリちゃんとはベルモントステークスだけでしか走ってないし、あの時もちょっと記憶飛んでてよく覚えてないし。しっかり走ってみたかった、ってのはあるから…」

 

「んー、ウララはどっちでもいいよ!本番で同じレースで走るわけじゃないし、えーと、プリンスちゃんって強いんでしょ?一緒に走るなら、勉強になりそう!!」

 

「あー……ウララもこう言ってるし、俺としちゃ断る理由はねぇよ、立華さん。いいんじゃねぇか?海外遠征で海外ウマ娘と仲良くなって、併走で走る。こういうのも遠征の醍醐味だって前に立華さん自身が言ってたじゃないか」

 

「まぁそうなんだが。ふむ……SS、君の意見は?」

 

「……まぁ、プリンスとゴアなら特に裏も何も無く走りたい、ってだけだろうから心配はいらねェと思う。プリンスなんかはファルコンに懸想してっからな、なおのことだろォぜ。で、問題のオベだが……下手にファルコンの情報渡さなけりゃ問題ねェだろ。80%の速度での併走って条件でやれば、本気の実力は見れねェわけだしいいんじゃねェか?他の子たちの走りも見られることになるが、そりゃあいずれ避けられない話だし、アイネスのアレは見せるつもりねェし、まぁ自分の担当であるプリンスが走るレース以外のウマ娘達の情報まで熱心には集めねェだろ、あいつも」

 

「うん、俺も大体同意見。……先輩方、どうです?」

 

「俺は構わんぞ。立華君のチームが一番影響でかいし、関係深いのも君達だしな。君達がいいって言うなら特に反対はない。スズカがマジェプリと走りたいって言いだすかもな」

 

「右に同じ、ですね。私のチームの3人はみんな芝ウマ娘ですし、特に影響はないかと」

 

「同じく、ですね。ライアンとレースを共にすることはありませんし、お任せします、立華トレーナー」

 

 大体みんなから集めた意見は前向きなものが多かった。

 確かに、海外遠征では併走で他の国のウマ娘と会うことは多い。そこでトラブルになどなっては問題だが、関係を作り、併走などをする中で仲を深めるのも、ウマ娘達にとっては良い思い出となるだろう。

 ホテルで出会ったときにも俺の方からも、いつかは併走でも、と話をした手前、断る理由は薄かった。

 みんなの走りを見られる懸念はあるが、今日見られなくてもいずれ間違いなく見られてしまうのだ。アイネスの新領域については既に試せたし、問題はないだろう。

 

「うし。それじゃ、80%見込みで、2回くらいを目安に併走させてもらうことにします。SS、連絡とっていいよ」

 

「あいよ。………『ああ、ゴア?併走、構わないわよ。80%で2回くらいならね。……ええ、第6レーンのあたりにいるわ。…来た時に自己紹介ちゃんとしなさい。……ええ、それじゃ』

 

 そうして、ダート組の面々でマジェスティックプリンスと併走をすることになった。

 

 

 

 

 

 ────────その時は、まったく考えていなかったのだ。

 まさか、あんな事件が起こることになろうとは。

 

 

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