ホテルの設備の一つ、大浴場。
そこは流石の五つ星ホテルと言えるだろう、広々とした立派な温泉施設が準備されていた。
広く清潔な脱衣所、様々な種類のお風呂、サウナやプールといった、温泉好き日本が誇る健康ランド的な施設にも負けない設備の数々。
スポーツマンにとって良く効くと言われる炭酸泉が3つもあるというのが、この時期ドバイワールドカップに挑むウマ娘に配慮された温泉だということを表している。
さて、そんな温泉に、今日も練習を終えたチームJAPANの面々が入ってくる。
なお、当然であるが彼女たちは全員バスタオルを体に巻いている。*1
「あー……今日も疲れたの…!」
「ドバイに来てもうすぐ2週間…練習も、仕上げに向けて少しずつ密度が上がってきましたね」
まずチームフェリスから二人、アイネスフウジンとエイシンフラッシュだ。
アイネスフウジンは髪結いをほどいて髪を下ろしているがこれは当然と言えるだろう。
「脚を仕上げに来てるよねぇ…☆今日はだいぶ脚パンパンな感じ。お風呂あがったらトレーナーさんにまたマッサージお願いしちゃおうかな…☆」
「皆さん、お背中流しますよ!お疲れでしょうから!」
「あはは、そこまでしてもらわなくても今日は大丈夫なの、キタちゃん!」
続いてスマートファルコンとキタサンブラックだ。スマートファルコンも同様に括りを外して肩口まで下ろしており、キタサンブラックは細く結っている左右の髪房をほどいている。
お助けキタちゃんを発動し、お風呂で動くのがしんどそうなウマ娘がいれば背中を流すのが日課となっていたが、今日はまだギリギリ余裕はあるようだ。アイネスフウジンが苦笑と共に遠慮した。
「イルイル……背中流してぇ……」
「嫌だよ。まだ動けるでしょササちゃん」
その隣、サクラノササヤキとマイルイルネルがわしわしと髪を洗っている。両名とも疲労困憊といった様子だが、まだ髪を洗うくらいの体力は残っている様だ。温泉に浸かることでもう幾分か回復することだろう。
「ん!じゃあササちゃんの背中はウララが流してあげるね!」
「じゃあウララちゃんの背中はあたしが流してあげよっかな。髪が短いからシャワーの時間あんまりかからないしね、あたしは」
しかしてそんなサクラノササヤキの背中に寄っていき、笑顔で背中を流し始めるハルウララの姿があった。彼女もまた普段は後ろに一本流しているポニーテールをほどいているのでふわりと長い髪をお湯に濡らしている。
さらにその後ろ、メジロライアンがハルウララの背中を流すため列になる。メジロライアンは普段からウマ娘の中では短い髪型のため髪を洗う手間が少ない。
なお、今回の旅で同室であるウララの髪に毎朝櫛を通すキングヘイローの役割はおおよそライアンによって実施されている。同室の他の二人が共に髪が長く、それぞれ整えるのに忙しいからだ。
「ライアン先輩の髪型、短くてさっぱりしていていいですよね……私もそうしようかしら……」
「スズカ先輩の髪が短くなってたらスペちゃんがショックで倒れちゃいませんか?」
「スズカ先輩もヴィイも、髪がキレイなストレートでいいですよねぇ。ネイチャさんは髪が若干癖があるから中々言う事聞きませんよ。ハヤヒデ先輩ほどじゃあないけど」
そしてウララ部屋に同室の二人、サイレンススズカとヴィクトールピストが共に長い長髪を丁寧にシャワーで洗っていた。二人とも直毛のストレートで、栗毛と黒鹿毛という違いはあれど、お互い艶のある綺麗な髪を持っていることは間違いがなく、二人で並べば周囲の目を引くほど。
そんな二人の髪をナイスネイチャが羨ましそうに眺める。彼女の髪は少々のくせっけがあり、ツインにまとめた上でなお湿気の多い日などは膨らむことがあるのだ。無論、そんな彼女の髪型が良い、というファンも多いが。
しかし、これだけ仲の良い学生が集まっての洗い場での会話になる。
髪を洗うのに時間がかかる面も当然あるが、それ以上におしゃべりに夢中になる部分はあり、そこは避けられないところだ。
そんな彼女たちに、監督役である大人が早速体を洗い終えて一声釘をさす。
「あんまりだらだらくっちゃべって体冷やすなよォ。とっとと髪と尻尾と体洗って風呂入って、一度しっかり体温めろ。風呂で温めながらよく筋肉解すんだぜ」
「あ、はーい。えへへ、ごめんなさいサンデートレーナー」
「いけないいけない。ちゃんと温まらなくちゃね☆」
この中で唯一の成人女性であるサンデーサイレンスが全体に声をかける。
サイレンススズカやナイスネイチャもサブトレーナー資格は持っており、トレーニングの上では頼りになる存在なのだが、こと生活管理の面となるとサンデーサイレンスに負担がかかる。
特に風呂だ。ここでは他のトレーナーは全員男性なので、頼れる存在が少ない。まだ子供である彼女らが変に暴走して転んだりしない様に注意を払っていた。
つい先日親友と併走した際に暴走した身ではあるが、生徒の管理については真剣である。のぼせてしまう子がいないか、湯冷めしてしまうような子がいないか、服を脱いだからこそ分かるような、筋肉を痛めてしまっている子がいないか、ウマ娘にしかわからない体調の変化はないかをきっちりチェックしていた。
一番走りだしそうなサクラノササヤキとハルウララについては常に他の子がついているように指示を出している。
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「ふぃー……☆いいお湯ぅ……☆」
スマートファルコンは、体と髪と尻尾を洗い終えて、湯舟に肩まで浸かった。
最近はこの炭酸温泉がお気に入りだ。体に二酸化炭素の泡がついて、高濃度の炭酸泉は疲労の回復にいいらしいのだが、確かに血流が良くなっている気がする。
これに入った後サウナに入り、プールで体を冷まし、最後に温泉でもう一度温めるのがここ数日の流れとなっていた。
さて、しかしその炭酸泉に入っている他のウマ娘達が、スマートファルコンにとってはアウェー感満載のメンバーであった。
「ふー……この炭酸泉、調べると古くはヨーロッパ発祥らしいですね。ドイツにも、天然の炭酸泉がいっぱい湧いているんですよ」
エイシンフラッシュ(88)。
「そーなんだ?天然かー、興味あるの!泡の量とかもすっごいのかな?」
アイネスフウジン(88)。
「ドイツには確かウマ娘向けの炭酸泉による温泉療養地があったよなァ。バードナウハイム温泉だったか。あそこ骨折とかすげェよく治るらしいな」
サンデーサイレンス(96)。
「そうなんですか!流石、博識ですねサンデートレーナー!私も行ってみたいなぁ、温泉大好きなんで!サンデートレーナーと一緒に、いつか…」
キタサンブラック(95)。
「炭酸泉って、効能がすっごい分かり易くていいよね。間違いなく血管開いてるなーって感じするもん」
メジロライアン(87)。
もげろよと言いたくなるメンバーが集まっていた。
しまったな。こっちは敵地だった。
チームメイトが多い事で気が緩み、しっかり確認せずに入ってしまった。
もう一つの炭酸泉には目に優しいメンバーが集まっているというのに。
目測を誤ったことをスマートファルコンは自覚する。
スマートファルコンの所属するチームフェリスは、平均値がデカい。
デカすぎる。
有名チームであるスピカ、リギル、カノープスなどと比べて、平均値が比較にならないほど高いのだ。
一時期、トレーナーである立華勝人はそっちのほうが好きなのか?とネットで騒がれていたこともあったが、あまりのクソボケっぷりにただの偶然なんだろうなという風評が出来るほどなのだからあの男は筋金入りである。
しかし、そんな環境に叩き落されたスマートファルコンにとっては死活問題である。
恐らくは、世界線が違えばコンプレックスにもなっていなかったであろうその体の一部が、悲しいことにここドバイに来るまでは結構気にしている部位になってしまっていたのだ。
だが、ドバイでスマートファルコンは救われた。
決して卑下する意味ではないが、同じ境遇にいるウマ娘達が多くいたので、自分だけが劣っているわけじゃないのだと再認識できたからだ。
というか、(78)はまだ嘆くレベルではない事を理解できたからだ。
己の精神的平安を保つために、スマートファルコンは下を見ることの大切さを知れた。
スマートファルコンは、脳内で謎の順列を作る。
なお、これは純粋な数値ではなく、いわゆるカップでの計測であることを事前に申し添える。
サンデーサイレンス
<越えられない壁>
キタサンブラック
エイシンフラッシュ
アイネスフウジン
メジロライアン
<越えられない壁>
サクラノササヤキ(80)
ヴィクトールピスト(80)
ナイスネイチャ(79)
スマートファルコン(78)
ハルウララ(74)
マイルイルネル(73)
<越えられない壁>
サイレンススズカ(壁)
もげろよ。
「…?ファルコンさん、何だか難しい顔をしていませんか?どうかされましたか?」
「もしかして眠い?あんまり早寝しちゃうと生活リズム狂っちゃうの」
「ナンデモナイデス☆」
大切な親友たちにしてチームメイトであるフラッシュとアイネスが寄ってくるが心理的圧力が高いのでやめてほしい。
怒りに任せて蹴りでこの炭酸泉をモーセのように真っ二つにしてやろうかとか考え始めてしまうのでやめてほしい。怒られてしまう。
衝動に身を任せてはいけない。落ち着いて深呼吸し、スマートファルコンは己の怒りをコントロールした。アンガーマネジメントは走者の必須項目だ。
明日は絶対に入る風呂を間違えない様にしよう。恵まれし者たちに恵まれぬ者の気持ちはわかるまい。
『……あら、今日は時間が重なったわね、サンデー!どう?サウナ行かない?』
『ここのサウナは温度が高くて素晴らしいよ!ハーッハッハッハ!!どうですかサンデートレーナー!ご一緒に汗を流すというのは!』
『……いやよ、どうせ我慢比べとかし始めるでしょ、ゴアが。走りや筋力はともかくサウナでアンタに勝てる気がしないんでパス』
『ふむ。確かにサンデーの体躯だと長時間のサウナは大変だろうね。食生活も質素な君の事だ、余り汗を流しすぎればミネラル不足になる』
『わかってんなら大人しく風呂に入ってなさい』
スマートファルコンがそんなくだらない思考に陥っているところに、アメリカ組の3人がやってきた。
マジェスティックプリンス(75)。
イージーゴア(95)。
オベイユアマスター(91)。
このうち二人、イージーゴアとオベイユアマスターは敵である。スマートファルコンは二人のそこにちらりと目をやり、大いなる実りを携えているのを見て、もげろと祈りを果たしておいた。
しかしマジェスティックプリンスは別だ。彼女の身長は173cmと、日本のウマ娘と比較するとかなり高いほうだ。
だが、その胸元は実になだらかな丘陵を描いている。
マジェスティックプリンスの魅力は女性的と言うよりはむしろ中性的な物だと言っていいだろう。顔つきも精悍さを含んだ美で整えられており、本国アメリカでは女性のファンがかなり多かった。王子と言う名前に恥じない存在であった。
「マジェプリちゃん……☆!!私、マジェプリちゃんの事ズッ友だって想ってるよ…!!」
「急にどうしたファルコン=サン!?私も君の事は最大のライバルにして最愛の友だと思っているが!?ゆ、ユウジョウ……!?」
お風呂で隣に入ってきたマジェスティックプリンスの手をぎゅっと掴んで、心からの敬愛を伝えるファルコンに、驚愕と赤面の浮かんだ表情で答えるマジェスティックプリンスだった。
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「それで、どうなんです?先輩方。実際の所……立華トレーナーとの関係って」
時間は変わり、ここはサウナ。
炭酸泉で体をほぐし、その後ひと汗かくためにここにまた幾人かのウマ娘が集まる中で……ナイスネイチャが悪戯心満載の顔でサウナの中にいるメンバーに向けて火種を投下する。
中にいるのはチームフェリスの3人、エイシンフラッシュとスマートファルコンとアイネスフウジン。
そしてメジロライアンとハルウララだ。
しとしとと皆で汗を流しつつも、話題はやはり女子らしく、コイバナの方向へ向かう。というかネイチャが向けた。
ここでなんか面白恥ずかしいエピソードでも聞ければよし。もしかすればレース中の戦略にも使える情報が零れればなおよし。
万が一修羅場に変わってしまったとしても出口に一番近い位置をキープしている自分がいの一番に逃げてライアン先輩に任せればよし。
そのような策士的一面をのぞかせつつも、純粋に興味があって、せっかくこうして距離が近づく遠征中である。気になることを話題に出してみた。
なお、この話を振った時点でメジロライアンの耳がぴこんと動き、聞き洩らさぬように話の方に向けられている。彼女は脳内メジロのお花畑であった。
ハルウララも興味津々と言った様子で話に参加している。
「えー?そうねー……んー……」
「一言で表すのは、難しいかもしれませんね……」
「……別に、ネイチャちゃんも狙ってる、ってことじゃない……よね☆?ネイチャちゃん、南坂トレーナー一筋だもんね☆?」
「ああいえ自分は全然、猫トレさんにそういう気持ちはないですよ!?そりゃもう、ええ……ってか南坂トレーナーにもそんなことはないですよ?」
「ふーん。嘘つき」
ファルコン先輩の圧が強い。
確か…そう、このスマートファルコンと言う先輩は、チームフェリスに加入する前はコイバナとかで恋愛クソザコ面をさらす側のウマ娘だったという風評を聞いていたのだが、しかしフェリスに加入してから何か変化があったのか、立派な恋愛強者へと変貌を遂げている。
己の胸の内に隠していた己のトレーナーへの恋心を見事に看破され、ナイスネイチャは内心で冷や汗を垂らした。サウナの中だというのに少し寒いな。
しかし、まぁ、自分の事はいいのだ。あの人の隣にいたいと願い、色んな資格やら技術やらを覚え、レースでもチーム運営でも力になれるよう尽力している昭和時代の女のことなどどうでもいい。
今話題としたいのは、チームフェリスの恋愛事情である。
本来ならここにサンデーサイレンスも入ってほしかったが、生憎彼女はイージーゴアと昔の話で盛り上がり、それをキタサンブラックが羨ましそうに眺めているという環境にあり、サウナの中にはいない。今日は夜にでも飲みに行くのかもしれない。
「アタシのことはいいんですよ、それよりやっぱり気になるのはお三方ですって。ほら、学園でも色んな噂になってますし。アイネス先輩なんて、毎週立華トレーナーのお家の掃除に行かれてるとか……」
「あー、まぁね?バイトの仕事って面もあるけど、別に何も変なことしてないよ?あの人の日常のお世話をするのが楽しい、って言うのは間違いなくそう……けど、そうね。やっぱり、こう……抱きしめてほしいとか、キスしてほしいとか……っていうよりは、なんだろうな、あたし、
急にクッソ激重感情が来たな。
ナイスネイチャは笑顔が引きつらない様に細心の注意を払う。
あと、その発言で少しサウナの中が涼しくなった気がする。なぜだろう。フラッシュ先輩とファルコン先輩のほうから冷気すら感じられるような。
いや、気のせいか。ライアン先輩は随分体温が上がってきたのか赤面しているし、ウララはいつものウララのままだ。
「なるほどー、家族ですか……いいですねぇ。……ファルコン先輩なんかはどーなんです?」
「うーん、そうだね……☆私は、そう、あの人の心にずっと、残りたい…かな。トレーナーさんが、いつも、いつまでも
一歩も引かない構えだなこれ?
っていうか怖い。言葉の節々が重い。感情が入り込みすぎて過去も未来もとか言ってるけどそもそも先輩たち3人が猫トレにとって最初の担当ウマ娘では?
ナイスネイチャは訝しんだ。しかし、記憶に刻みたいという感情の他、いわゆる恋愛的な面ではアイネスフウジンとはまた違う、そこはちゃんと何というか、女子としてのときめきのようなものは残っているように感じた。すぐに籍を入れて若奥様になろうとしているアイネス先輩とは違うようだ。
しかしまたしてもサウナの中の室温が下がった気がするな。ほら、もうアタシ汗が引いてるもん。怖。
でもライアン先輩は相変らず汗だくだし、ウララはほえーっとじっくり汗が出ているので気のせいなんだろうな。きっとそうだ。ナイスネイチャは己の恐怖にそのように結論をつけて目を逸らした。
「……それじゃあ、フラッシュ先輩はどんな、です?その、いつかはお菓子職人として…ドイツに帰られるん、ですよね?」
「ああ、いえ、ドイツにいつかは……とも思っていた時期もあったんですが。最近は、日本に支店を出そうか、と両親も言っておりまして。私はそちらで働けるように、とも思っているんです。まだ未定ではありますが、日本でもパティシエールの専門の大学があることも調べていますし」
おっと。
既に進路まで両親と相談して決めていたか。
成程これは一番重いかもしれない。ナイスネイチャは心を身構えながら、話の続きを促す。
「そうだったんですか…でも、もし先輩が日本に残ってくれたら嬉しいですねぇ、遊びに行けますし。……で、フラッシュ先輩は立華トレーナーに対しては、どんな?」
「……言葉にするのは、とても難しいです。日本語での表現、とかではなく…私の境遇と気持ちを表す言葉が、世界に恐らくないから、でしょう。Das Schicksal……Ein Körper……ううん、一心同体、とでも表現すればいいでしょうか。トレーナーさん……
成程ワケが分からない。
とにかく激重の感情を持っていることは分かったが、表現が抽象的過ぎてナイスネイチャはそれ以上理解することを拒んだ。
上手く日本語に出来ていないだけなのかもしれないが、これ以上深掘するとなんだかSAN値が減りそうな気がする。ヤメヤメ。
それにしても3人とも中々にすさまじい想いを抱えていることが分かってしまった。
ナイスネイチャは今日得た知識を脳内にインポートし、しかしこの情報を万が一にでもレースにでも使おうとしようものなら命はないことを察して、二度とエクスポートしないようにしようと心に誓った。
余りにも触れ得ざるモノだった。
あのクソボケトレーナーが彼女たちと最終的にどのような関係になるのか、第三者視点で楽しませてもらうのが一番だと判断した。
「ふーん………いや、フラッシュちゃんがね、そういう気持ちを持ってるのももちろん知ってたけど。あたし、譲らないからね?」
「そうそう☆ここに至っては平等なレースだからね…私も、負けるつもりはないよ?」
「ええ、それは望むところです。……ところで、お二人は知っていましたか?ドバイって一夫多妻制なんです。ドバイの国籍を持つ男性は4名まで妻を娶ることができるようですよ」
「…………詳しく話を聞くの」
「へぇー……☆?……うーん………ちょっとよく話し合おうか☆」
……サウナ出るか。
ナイスネイチャはこれ以上ここにいると精神衛生上よく無い会話を耳にすると判断し、サウナを出ることにした。
刺激が強すぎたのか既にのぼせる寸前になってしまっているライアン先輩と、良い感じに汗をかけたウララを率いてお先に失礼っ!させてもらう。
ひらめいた。このお先に失礼っ!は今後のレースに活かせることだろう。
「……ふぁー!あつい!!」
「熱かったねぇ……」
「………アタシ、もう同室のアイネスをこれまでと同じ目で見れない……」
汗を流してからプールで3人で涼む。
世の中には知らなくていいことが多いのだな、とネイチャは一つ大人の階段を上ったような気分になった。
ライアン先輩はどうやら普段はこういう話をアイネス先輩としなかったらしい。知らなくていい情報を知るとあのようになってしまう。情報は取捨選択が大切だと南坂トレーナーが仰っていた理由が心から理解できた。
随分と湿度が高くなってしまった。清涼剤を取り入れなければならない。
「……ねぇウララ。ウララはさ、初咲トレーナーの事どう思ってんの?」
「んー?だいすき!!!」
「だよねぇ」
メンタルリセット成功。
ウララの笑顔に癒されたネイチャは、プールで十分に体を冷やしたのち、大浴場を上がって風呂の後の牛乳の一杯を飲みに向かったのだった。
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「……ぶえっくしょん!!」
「ん、さっきの俺のくしゃみが移った?悪いね初咲さん」
「いや、別に…体調不良とかではなさそうだし。しかしさっきは見事な連発だったな立華さん」
「たまにあるんだよね、妙に連発でくしゃみが出ること。誰か噂でもしてんのかね……」
「ニャー」
立華と初咲とオニャンコポンがいる部屋で、何にも知らない若い二人が呑気にくしゃみを連発していた。