「はいそれじゃ再開しまーす。このホテルトイレ綺麗でいいよねー、さっすが高級ホテル」
休憩を終えて、ネイチャがまた司会席に戻り、他のウマ娘達やトレーナー達も席について、会議が再開される。
ネイチャの零す小話によるアイスブレーキングでウマ娘達も苦笑を零し、雰囲気を和らいだものにして、プロジェクターも準備万端。
これまでアイネスとウララのレースに出てくる有力ウマ娘の紹介をしてきたので、その続きだ。
「さって、続いてはドバイターフ、芝の1800mだねー。日本から出走は3人、ウチのチームからも2人出てる。で、このレースで注意するべきはまずこの二人かな。南坂トレーナー……」
「はい。画面に両方とも出しますね」
「さんきゅ。……はい。まずこちら、一人目が…「ウィンキス」さん。シニア2年目のウマ娘さんで、この人もオーストラリア出身だねー。えー、今のところは
「ヒェッ…!すごい走るスパンが短いねこの人!?んでもってクラシック中盤から今の所全勝…!?」
「それほど回復力に優れてるってことだろうね。イクノ先輩も唸るなこれは……恐ろしい相手だ…」
「要注意、ね。……ネイチャ先輩、もう一人は?」
「ん。もう一人はイギリスのウマ娘さんで、「プッシュウィズ」さん。ドバイターフにはこれで3年連続出走。2着、11着って記録だけど、メイダンレース場を走り慣れてるのは間違いないね。いろんな国を飛び回ってレースしてて、遠征慣れとレース慣れで評価されてる感じ。GⅠ勝利は2回で、他のレースでも2着とか惜しい記録が多い……なんかちょっと親近感わくね、カノープスっぽくて」
「自虐はいけませんよネイチャさん」
ネイチャにより、ドバイターフのライバルとなり得る二人のウマ娘の紹介がなされた。
その二人の紹介を受けて、出走する3人ともどこに注意するべきか、脚質はどうなるか…など、色々と検討を進めている様だ。
しかし、その中で俺は少しだけ、3人に向けてアドバイスをすることにした。
「その……ちょっと意見、いいか?」
「ん、どーぞどーぞ。猫トレさん、何かあります?」
「ああ。……脚と、走る映像を見る限りなんだけどな。ウィンキスには注意した方がいいかな、と。多分、このウマ娘は大器晩成型……経験を重ねるたびに仕上がってくるウマ娘だ。去年までのデータを参考にしたうえで、さらに上回ってくると見た方がいい」
「……ふーん…なぁ立華さん。後学の為にどの辺からそれ察したか、って教えてもらっていい?」
俺が指摘する、ウィンキスへの注意。
確かに映像からトモを見れば、間違いなく優駿であることはどのトレーナーの目からも分かる事だろう。
だが、大器晩成型であると察するのは難しい。俺の隣に座る初咲さんから質問が出たが、俺は方便で返す。
「このウマ娘、ジュニア期からクラシックの中盤までは敗北があるけど、シニア期から負けてないだろ?明らかに脚が一回り太くなってるからさ……オペラオーみたいな気配を感じた。多分、こっから先も恐ろしいことになりそうだな、っていう……ゴメン、理由は上手く説明できないんだけどさ。勘みたいなもん」
「んー……成程なぁ。いや、まぁ確かにシニアから強くなってるってのは戦歴見ても確か、か」
「あのトモの張りはヤバさを感じるよな。一度触ってみたいもんだ」
「……沖野トレーナー?」
「ああいや違うぞスズカ!?触ってみたいってのは比喩表現でな…!?」
「沖野トレーナー、手がわきわきしてますよ。すごいウマ娘見つけると自動で動くようなものだったんですかそれ…?」
「あ……いや、俺の手も無意識で動くほどすげぇウマ娘かもってよ…!」
「沖野トレーナー?」
「違うって!!」
「こらそこー、コントに入らないでくださーい」
どうやら沖野先輩の
流石といった所か。あの手、トモを触る行為は正直褒められたもんじゃない*1が、しかしその精度は高いからな。
なぜ俺が急に、このウマ娘についてコメントを出したか。
答えは簡単で、俺が過去の世界線で、海外のウマ娘の戦歴なども軽く触れる際に……このウマ娘が走っていた世界線では、常に、とてつもない記録をたたき出していたウマ娘だったからだ。
そりゃあ名前も覚えるさ。
なにせ、このウマ娘は最終的に、
43戦37勝。うち、GⅠ勝利25勝。
俺が過去の世界線で見た彼女の最終成績の最高到達点は、そこだった。
間違いなく化物。オーストラリアの生んだ絶対。
セクレタリアトや、イギリスのフランケルといった神話に連なる、歴史に名を刻むウマ娘だ。
それが、まだ勝利数を重ねてはいなくとも、既に才覚に目覚めたシニア級のこの時期に、ドバイターフに挑んできた。
基本的には過去の世界線の成績をそこまで重視せず、今の世界線の走りから見てレース展開を予想する俺も、このウマ娘だけは別だ。彼女は危険すぎる。
贔屓目で無く、ドバイターフに挑む三人…ヴィクトールピスト、サクラノササヤキ、マイルイルネルはいい仕上がりだ。好走を果たせると俺の目からも見える。
例年であれば、一着も全く夢ではない、そんな走りが出来ている。
さっき話に出たもう一人、プッシュウィズならば7:3で勝てるな、と思えるくらいの仕上がり。彼女たちも間違いなく、革命世代の名に恥じない走りを見せている。
だが、相手がウィンキスとなれば話は別だ。
苦戦は必至だろう。俺は、チーム外ではあるが勿論、彼女たちの勝利のためにだって尽力するつもりであった。
後でネイチャと南坂先輩、スズカと沖野先輩と軽く打ち合わせるか。流石にウィンキスがこの後無敗のウマ娘になりますよ、などとは言えないが、しかし策は練ることが出来るだろう。
その上で勝てるかどうかは、彼女たちの走りに懸けるしかないが。
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「ほいじゃドバイターフは一旦ここまで。で、次行きますか……ドバイシーマクラシック。芝2410m、フラッシュ先輩とライアン先輩が出るレースだね」
「コースも日本ダービーに似ている作りですね……最終直線はおよそ500m。脚が鳴りますね」
「メイダンレース場は芝も日本に似た高速バ場だしね。アタシたちが一番慣れてる距離、と言っても過言じゃないかな。一番怖いのがフラッシュちゃんの末脚だなぁ」
「テイオーとかもこの距離は得意でしょうねぇ……さて、ではそんなシーマクラシックですけど、まぁとんでもないウマ娘が今年は来てますよ。現時点ではフラッシュ先輩が二番人気ですが、一番人気はこの人に譲ってますね」
「映像出しますね、ネイチャさん」
続いてドバイシーマクラシックの話題に移った。
芝の2410m。かつてフラッシュがアイネスと鎬を削りあいレコードを刻んだ、日本ダービーに酷似した距離。
最終直線も長く、フラッシュにとっては末脚を発揮するのにぴったりの距離と言えるだろう。尤もそれはフラッシュだけではなく、うちのチームであればアイネスもファルコンもそうであるのだが。
もしアイネスが参戦してれば、日本勢の三つ巴の最終直線が観戦できるであろう、それくらいには俺もウマ娘達を仕上げている。
だがしかし。
ネイチャの言う、現在の一番人気のウマ娘が
「……出たね。この人の顔と名前、知ってる人も多いでしょう。
「あー!ブロワイエさんだー!!なつかしー!!まだカツオの人形、持ってくれてるかな?*2」
「え、ウララお前……ブロワイエと知り合いだったの?えっマジ?」
「マジで?……まぁそれは後で聞くとして。かつて凱旋門賞でエルちゃんを破り1着。その後ジャパンカップでスペちゃんに敗北。ただしその翌年には
画面に表示されたのは、フランスのウマ娘であるブロワイエ。
知らない者はいないだろう。あの凱旋門で、かつてエルコンドルパサーを破り一着を取ったウマ娘だ。
この世界線ではジャパンカップで日本総大将に敗北しても、なお彼女は燃え上がっていた。凱旋門連覇の偉業を成し、中距離戦において常に王者たる活躍を果たしていたウマ娘だ。
「ブロワイエさん、ですか……映像で、何度も走りを見ましたね。2400mにおいては、一切油断できない相手ですね」
「いい筋肉してるよね、アタシも負けてないけど。でも、芝の慣れ……で言ったら、アタシたちの方が一枚上手かな?日本の芝みたいな高速バ場は得意じゃなさそうだったもんね、ジャパンカップの5着がそれを表してる」
フラッシュとライアンが、彼女についての見解を述べる。
凱旋門賞のような、深い芝を走る上ではブロワイエは強敵である、という見解。それは彼女の連覇と言う結果があらわしている通りで、まったく間違いではない。
しかしライアンの零した、日本の芝に走りがあっていないか、という点については、間違っている。
俺はかつての世界線でそれを知っている。彼女がジャパンカップで好走を果たせなかった理由があるのだ。
それを口に出し、釘を刺そうとしたところで……意外なところからその理由の答えが示された。
「えー、そんなこと言っちゃ駄目だよライアン先輩、あの時のジャパンカップ、ブロワイエさんは疲れてたんだから!日本に来たのもけっこーギリギリだったし、ウララが話したときは本当に調子、悪そうだったよ?」
「……え、そうなの?ってかウララちゃん、ブロワイエと話したことあるの?」
「あるよー!日本に来た時にたまたま出会ってー、なんだかとっても辛そうだったから、カツオの人形さんプレゼントしたの!かわいいもの見てると元気がでるからね!」
「……こう言ってるけど、どうなんです?初咲トレーナー」
「いや、俺も初耳。けどウララは嘘つかないよ。……ってコトは、ジャパンカップの走りは調子を落としてた上での走りってことで……高速バ場に不慣れ、ってわけじゃねぇんじゃねぇか?もしかして」
「…!……正直それ込みでデータ集めてたところある、マズった……!いや、でも気付けて良かったか!ごめんフラッシュ先輩、ライアン先輩!ちょっとブロワイエさんのデータ取りなおす!」
「やられましたね……調子を悪くしていて、なおレースが終わるまで記者や出走ウマ娘に悟らせないほどの意志の強さ、ですか。流石はフランスを代表するウマ娘です」
俺がその事実を指摘するまでもなく、ウララの口から真相が語られた。
そう、かつてブロワイエが来日し走ったジャパンカップ。あの時、実は彼女は調子を落としていた。
凱旋門から2か月弱の間隔で、しかも遠征もレース開催前の結構ギリギリに日本に来るタイトなスケジューリング。
彼女はそのプライドから気丈な態度を見せ、周りには漏らさぬように努めていたが、しかしハルウララの誰よりも真実を見抜くその瞳には分かっていたようだ。
ウララの言う通り、彼女は調子を落としていた。俺が何度も世界線を繰り返し、あのジャパンカップを見て、ようやく見つけたブロワイエの真実。
絶好調ならスペシャルウィークが負けていた、とは言わない。あの時のスペもまた極まっていた。ゼロの領域に近い、限界を超えた走りを見せていた。
しかし、事実として……ブロワイエは、高速バ場を苦手としていることはなかった。
そして、そんな彼女がこの世界線では衰えることなく、その走りが経験による芳醇なキレをもって、俺達の前に立ちはだかる。
ニュースでは、今度の遠征はちゃんと3週間前にはドバイに入り、体と走りを調整しているという事だ。
全てを整えて、全力でぶつかってくる。
「……フラッシュ。凱旋門を制覇した、世界最強のウマ娘が万全の状態で挑んでくる。どんな気持ちだい?」
俺は改めてフラッシュに確認を取る。
かつて日本を震撼させたフランスの猛者が挑んでくるという状況に、彼女は。
「愚問です。私はどんなウマ娘が相手であろうと、最終直線で差し切るのみ。……それに、アイネスさんと、ヴィクトールさんやライアンさんと雌雄を決した日本ダービーとほぼ同じ距離。あのレースを私は誇りに思っています。ゆえに勝ちます。……このドバイでは譲らない」
滾っていた。
いつもは静かなる熱を内に秘めるフラッシュだが、その想いが言葉尻に零れるほどに、熱く。
そして、その熱を受けて同じように昂るウマ娘がもう一人。
「…あの時の日本ダービー、アタシは3着だった。あの時はまだ、フラッシュちゃんにもアイネスにも並んでなかった。けど……今度こそ負けないよ。フラッシュちゃんがブロワイエに勝つのなら、私はそんなフラッシュちゃんに勝つ。6度目の正直、見せてあげるよフラッシュちゃん」
「……ふふっ。ええ、勿論。ブロワイエさんよりも、むしろ私が一番マークしているのは貴女です、ライアンさん。お互いに、お互いの戦法を理解しているがゆえに……負けません。私が勝ちますから」
メジロライアンもまた、その筋肉が躍動しそうなほどに燃え盛る熱を籠めて。
幾度の敗北を経てもなお枯れぬ勝利への欲。革命世代たる彼女の最強の武器である不屈の心を胸の内に。
「…………立華トレーナー。少し聞いてもいいですか」
「ええ。何でしょう、小内先輩」
「私は、革命世代のウマ娘を担当してまだ日が浅いのですが……
「はい。
「成程。……気を引き締めなければいけませんね、私も。革命の意味を少し理解できました」
そんな二人の熱を……いや、それに充てられて部屋全体、ウマ娘達がさらに勝利への意欲を高めあう姿に、まだライアンの担当になって月日の浅い小内先輩からの質問が飛び、俺はそのまま返した。
革命世代と呼ばれる彼女たちが、何故強いか。
それは、果てしないライバル心。たとえ味方であるチームJAPAN同士であっても、譲れない勝利への渇望。
素晴らしい仲間がライバルであるからこそ。
だからこそ、俺たちは世界を相手にしても、ひるむことなく立ち向かうのだ。
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「あー、とりあえずブロワイエさんのことは次回ミーティングまでにデータ更新しとくとして……それじゃ最後のレースに行きますか。ドバイワールドカップ、ダート2000mですね。で、このレースの一番人気なんですが、ぶっちゃけるとファルコン先輩です」
「てへ☆」
「セクレタリアトの神話の記録を超えた、世界唯一のウマ娘ですからね。それはもう、世界中から注目されています。なので、本日紹介するのは二番人気のウマ娘さんになりますね……尤も、こちらも皆様、ここ最近でよくご存じでしょうが」
最後のレース紹介に入った。
ドバイワールドカップ、ダート2000m。世界最高峰のダートレースだ。
そして現時点で、一番人気は我らがスマートファルコン。砂の隼だ。
彼女の持つ記録……ダート2410mでの神話の記録と、ダートレースは8戦7勝、2着が1回。誰がどう見てもダートウマ娘の中では頭一つ抜けている。
だからこそ、ファルコンの場合は誰を気を付けるか、というより、誰からマークされるかを気を付けるべきである。
牽制やデバフに特化したウマ娘などがラビットで出走していれば、それは警戒しなければならないだろう。
そして、そんなデバフが得意なウマ娘を、俺たちは知っている。
「ってことで画面だしまーす。はい。見慣れた顔ですね。二番人気はアメリカのマジェスティックプリンスさん。同じホテルにいるし、ファルコン先輩はもう割とマブですよね?」
「うん、よく話すようになったのはドバイに来てからだけどね……結構波長も合う子だって分かったし、戦友って言ってもいいかも☆……でも、そうね。ダートの、特に中距離戦では最大最強のライバル、ってのは分かってる」
「13戦11勝、GⅠ5勝。レコードもアメリカのレースで3回記録しています。セクレタリアトさんや、イージーゴアさん、サンデーサイレンスさんが積み上げてきたアメリカの記録を上回れる脚を持つウマ娘さんですね……敗北は、ファルコンさんとアイネスさんのみ。……チームフェリスの恐ろしさが垣間見えますね」
「トレーナー、言われてるの」
「いや、光栄ではあるけどね。けど……正直、奇跡的な噛みあいがあっての事だからね、どちらのレースが勝てたのも。無論、ファルコンもアイネスも強かったし、実力で勝ったと胸を張りたいところもあるんだけどね……」
俺は唯一、いや唯二勝利している俺達チームの二人から苦笑を零される。
その苦笑は、言われていることを否定できない色を含んでおり、俺も全く同じだ。
ベルモントステークスとジャパンカップで、俺たちチームは2回、マジェスティックプリンスに勝利している。
だが、そのどちらもゼロの領域による奇跡の走りがあってこそだ。
ベルモントステークスは俺の対策の甘さが出た。ジャパンカップはアイネスの不調もあったし、なんならウオッカとダイワスカーレットもマジェスティックプリンスに先着はしているのだが、そもそも芝のレースである。
多分、マジェスティックプリンスのここ最近の併走などから見た芝への適正は、よくてB~C。完璧な適合を果たしているアイネスやウオダスらと比べて、相当に脚力が削れていたはず。
その上でほとんど差のない4着、レコードタイムなのだ。
たまたま……と言う表現は使いたくないが、何とか二つとも勝ちを拾えているという状況である。
彼女の恐ろしさは、これまでもこれからも、一切変わることはない。
「……アタシよぉ、かつてはプリンスのチームのサブトレーナーやってて、まぁ4か月程度だがアイツの走りを見て、指導したりしたこともあってな…」
そこで、彼女と一番密接なかかわりを持つSSから言葉が零れた。
以前のジャパンカップでは領域の秘密など零さなかったが、既に手から離れて長い期間も経って走りも変わり、参考になる部分ももうないだろう、とのことで、今回のミーティングの中では作戦立案に参加してもらえている。
「で、そん時のトレーナーとしての感想を、オベにちっとだけ零したことがあったんだよな。…タチバナ、アタシはプリンスの走りについて、トレーナーの視点からなんて表現したと思う?」
「ん?……そうだね。育て甲斐がある、とか……強くなりそう、とか?いや、話を聞かない面とかもありそうだしな、手間がかかる、とか?」
「全部不正解。……『つまらない』、って言ったんだ」
「何だって?……君に似つかわしくない表現だね、それは」
SSの答えに、俺は思わず首を傾げた。
SSは情の深いウマ娘だ。日本語の口調こそオベによる指導で荒い口調になっているが、そこに優しさが多分に含まれ、ウマ娘達への指導についても真剣にやっていることは、この部屋の中の全員が知っている。
しかし、そんな彼女がマジェスティックプリンスの指導について零したその感想は、俺の知っている彼女からすれば余りにも似あわない表現だった。
つまり、彼女がそんな表現をするほどに────────
「……天才なんだよ、アイツは。教えれば何でも出来る。アタシのコーナリングだって、1週間で根本からマスターした。体幹も自然に育つ。速度を上げるコツを伝えれば翌日には記録が伸びてやがるし、走りの
「……上を目の当たりにすることで、それに並ぶ成長を見せるウマ娘、ってことか。天才…か。確かにそうかもな」
「あー、確かにアタシたちが集めた情報でもそんな感じなんですよねぇ。特に、ファルコン先輩に負けたベルモントステークスの後から明らかに速さのレベルが2段階くらい上がってますわ。なるほどねぇ、サンデートレーナーがそこまで言うほどの天才か……」
「ウオッカさんやダイワスカーレットさんの中距離を走る技術すら吸収しているとすれば、強敵としか言えませんね。これまでの併走では、牙を隠し続けていましたか……」
SSからの講評を聞き終えて、俺は納得を落とした。
俺もアメリカに挑む際に、またジャパンカップに挑む際に近い情報を確認していたからだ。
彼女は天才だ。一点の曇りもない天才。
俺と言う存在、世界をループする男が全く言えた義理ではないが、まるで何かのチートでも持っているんじゃないか、と言うほどに走る技術を吸収するのが上手い。
成程、トレーナーとしてそれほどつまらないウマ娘はいないだろう。教えれば出来る、というのは文字に起こせば優秀だが、度を過ぎればそこに退屈を生む。
一生懸命、覚えられるように教え、そして時間をかけてモノにするという工程がないのだ。俺も近い感想を持ってしまうかもしれない。
「ゴアのヤツも天才型だからなァ、ちょうどウマもあっていいコンビやれてるとは思うが……まぁ、そういう意味で、あらゆるレースで一切の油断ができねェワケだな。アメリカでの戦歴がそれを物語ってら」
「だ、ね。……ただし、そんな彼女が挑むのは、チームフェリスの砂の隼だ。……ファルコン」
「……うん」
SSの信憑性の高い情報に、俺達トレーナー勢は理解を落とす。
日常生活では快活でお茶目な所もあるマジェスティックプリンスだが、しかしことレースの上では最強のライバル足り得る、そんな彼女。
そして、それに挑むファルコンは、しかし顔を俯かせて。
────────口を細く下弦の月のように形作り。
彼女が絶好調の時にする表情だ。
その、見るものを震え上がらせるような、一欠の狂気の混じる笑み。
砂の王たる己の前に、高い壁がそびえたち……それを飛び越えようとする隼の羽搏き。
傲慢でも、油断でもない。
それは前のフェブラリーステークスで濯いできた。愛する先輩に濯ぎ落され、そうして今、かつてベルモンドステークスなどで彼女が見せた、本来の笑顔に戻っていた。
この笑顔を見せた時、砂の隼はダートを蹂躙する。
「……そんな、だからこそ、だよね。トレーナーさん」
「ああ。だからこそ、俺たちは勝つ。勝たなきゃならない。……だって、約束したもんな」
「うん。……私はこのドバイで、絶対に勝つ。マーチ先輩のためにも、応援してくれるみんなのためにも…………そして、何よりも、私の為に。私はダートで世界最強であることを証明するために。マジェプリちゃんが相手でも、勝つよ」
心配は無用だった。
彼女に油断はなく、そして俺にも油断はもう、ない。
勝てるための全てを積み上げて、リベンジに燃えるマジェスティックプリンスを撃ち落とす。
世界最速のダートウマ娘は、俺のスマートファルコンだ。
────────────────
────────────────
「……いやぁ。やっぱ、みんな革命世代なんだなぁってネイチャさん思っちゃいますねぇ」
「ですね。しかし、だからこそこうしてドバイにまで挑戦に来たのです。私達の目標は唯一つ───」
ミーティングの最後。
南坂先輩がプロジェクターを落とし、そうしてホワイトボードに書き込む、俺達チームJAPANの一丸の目標。
「……勝ちましょう。私達日本は、これまででも世界のGⅠで勝利を挙げたことはあります。ですが、その数は多くない。世界的な地位は高くありませんでした。……しかし、革命が起きた。貴方たちの走りで、国内のレベルが急激に上昇しました。その成長が、私たち革命世代が……世界にも通じるということを。いや、世界を超えたということを、皆さんの走りで証明しましょう」
南坂先輩の言葉に、ウマ娘達とトレーナー達から元気よく返事が飛んで。
そうして、俺たちの第一回戦略ミーティングは終わりを迎えた。