【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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15 閑話 スマートファルコン

「響けふぁーんふぁーあっれー♪届けごーぉるっまっでー♪」

 

 河川敷の定位置、高架下にスマートファルコンの歌声が響く。

 それを、彼女のファン第一号である立華勝人と、ファン第二号であるオニャンコポンが聞いていた。

 放課後の、これまで通りの彼女のルーティーン。今日は仕事を早くに終えた立華は、自分が担当するウマ娘であるスマートファルコンの河川敷ライブを観に来ていた。

 

「…っふー!今日も応援ありがとー!」

 

「よかったぞ、ファルコン!」

 

 ニャー!とオニャンコポンも立華の声に続き、ファンコールを返す。

 とはいえ、他の観客は今のところ0である。

 トゥインクルシリーズのメイクデビューを果たしていないスマートファルコンについて、世間はまだ彼女を知らなかった。

 

「うーん、ウマドルとしての活動、これからどうしようかなぁ…」

 

「…え、どうした急に。なんか重い事情でもあるのか?」

 

「違うよー!えっとね、これから練習もしっかりしたものになるでしょ?あんまりこうして野外ライブばっかりやるのも減らしていかないとなー、って」

 

 スマートファルコンは、担当のトレーナーがついたことでこれから本格化する練習の前で、こうしたウマドル活動を続けることについて、少し懸念があった。

 しかし、それを聞いた立華は意外な言葉を聞いたな、と思案顔になる。

 

 これまで立華が過ごしてきたループの中では、彼女はいつもウマドル活動に血道を注いでいた。

 走るのも、ウマドルとしてキラキラ輝くため…もちろんレースで勝つことも目指していたが、ウマドルとしての輝きのほうを優先、しているように見えたからだ。

 そんな彼女が、自分という因子の影響を受けて……ウマドルから意識が逸れ始めていることに、奇妙な違和感を覚えた。

 

「…別に、ウマドルも続けてていいんだぞ?言ったろ、夢を応援するって。何ならプロデューサー業だってやってもいいぞ俺は」

 

「あはー、もちろんいきなり全部やめる、って話じゃないよ☆ウマドルは続けるつもりだし、レースで勝てばファンも増えるだろうし!その方向で走っていくつもり。けどね…」

 

「……けど?」

 

「…それ以上に、レースで勝ちたいの」

 

 勝ちたい。

 そんな彼女の想いが、今回の世界線ではさらに強くなっている。

 その衝動はどこから生まれたものなのか?

 

「…トレーナーさんにGⅠレースに連れて行ってもらって、すごい、みんなキラキラしてたじゃない?勝ったウマ娘も、惜しくも負けたウマ娘も…あの世界に、私、すっごく惹かれたんだ」

 

「…ああ、そう感じてくれたのは本当に嬉しいが」

 

「でね?この間の選抜レースで、ダートを走ったときに……なんかね、わかったの。『私は、ここがいい』って。私、ダートで走って、勝ちたい…そう、なんだか、すっごく勝ちたくて」

 

「…ふーむ」

 

「これまで以上に、レースで勝ちたくて、勝ちたくてたまらなくなったの。…ねぇトレーナーさん。これって、おかしなことなのかな?」

 

 勝ちたい。

 それはすべてのウマ娘が持つ本能。

 それを持つこと自体はおかしな話ではないし、それが強い衝動であるほど、ウマ娘は早く走る。

 だから、立華は少し言葉を探してから、スマートファルコンに答えを返した。

 

「…いや、別に何にもおかしなことじゃないさ。特に君みたいな、理由があってくすぶっていたウマ娘は…何かのきっかけで強く意識が変わることもある。きっと、ダートに本腰を入れたことで、そうなったんだろうさ」

 

「そうかな?そうかも?…うん、でも勝ちたい、って思うことはいいことだよね☆」

 

「ああ。そのために俺がいるんだし、俺がきっちり勝たせてやるさ。だから明日からの練習も頑張ろうな!」

 

「うんっ!」

 

 …その後も軽く話して、結論としては無難なところに落ち着いた。

 ウマドルとしても活動はするが、練習もしっかり頑張る。主軸はあくまで、走ること。

 そしてレースに勝つ。名が売れる。ウマドルとしての活動も盛り上がっていくだろう。

 そんな風に、今後の活動について目線合わせを行い、頑張っていこう、と誓い合う二人であった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────二人には、当然知りえないことではあったが。

 

 立華勝人がスマートファルコンの運命に介入したことで、一つ変化があった。

 彼女に見せたレース、国内GⅠダート競走であるフェブラリーステークス。

 それは、彼女の(ウマソウル)の元となった存在である()が、国内のダートGⅠで、海外遠征の都合により出走していなかったレースであった。

 

 本来は、大井レース場にスマートファルコンを連れていき、一般的な重賞のダートレースを見せることでキラキラに目覚めて、()()()()としてダートを走ることを決意するのが彼女の物語。

 それを、立華勝人は無自覚に捻じ曲げた。

 フェブラリーステークスの輝きを、見せつけた。

 

 その結果。

 (ウマソウル)は、昂り、怒り、荒ぶった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは魂の叫び。

 そうしてスマートファルコンもまた無自覚なままに、求めるものが『ウマ娘』として定義されたウマドルという道ではなく、『魂』が追い求めるレースの勝利に変わった。

 

 この変化が、のちに。

 日本中を…否、世界中を圧巻させる大事件になることを、誰も、まだ知らない。




スマートファルコンのヒミツ①
実は、クソボケトレーナーにまた頭を撫でてほしいと思っている。


なお、この世界線のスマートファルコンは魂が覚醒済みです。
大好きなダートウマなので盛るペコ(胸以外)

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