【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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154 ドバイゴールデンシャヒーン 前編

 

 

「すぅー……ふぅー……すぅー……!?はくしょんっ!!」

 

「ニャー!」

 

 チームJAPANの控室で、ハルウララがオニャンコポンに顔を埋めて深呼吸をしていたところで、鼻に猫の毛が絡んだのか、くしゃみが零れてオニャンコポンが悲鳴を上げた。

 そんな微笑ましい光景にみんなから苦笑が零れる。

 なお、当然だが今ハルウララは勝負服である晴着に身を包んでいる。日本風の勝負服と言うのは彼女だけが着用しており、その注目度も高いだろう。世界から関心を持たれているはずだ。

 ちなみに、そのハルウララの勝負服の背中の所と、スマートファルコンの勝負服のコルセットの腰のあたりには、フジマサマーチから渡されたお守りを内側に縫い付けてある。裁縫をしたのは初咲さんだ。*1

 彼女の想いと共に。桜と隼は、この世界に挑むのだ。

 

 先程、アルクオーツスプリントにてアイネスが輝かしい一着を勝ち取り、その後すぐに、ウララが挑むゴールデンシャヒーンが始まる。もう、ゲート前の集合時間まであと10分と言ったところだ。

 猫吸いを堪能し終えて、ウララがオニャンコポンを離した。俺の肩に一度戻ってくるオニャンコポンは憮然とした顔だった。

 すまんな、いつも負担をかけるぜ。でもお前のおかげできっとウララも勝ちきってくれるだろう。

 

「…ウララ。もうすぐ集合時間だ。調子は大丈夫か?」

 

「ん……トレーナー。……うん、えっと……」

 

 当然にして、この時間は担当トレーナーとウマ娘の神聖な時間だ。俺たちは邪魔をできない。

 ウララに心配そうに声をかける初咲さんを俺は見守る。彼もまた、緊張していることだろう。なにせまだ3年目を数えるくらいの新米のトレーナーにして、こんな世界の大舞台のGⅠに挑むというのだから。

 そして彼の言葉に応えるウララもまた、僅かに逡巡を含んだ言葉を漏らした。

 大丈夫だろうか。何か、不安に思うことがあるのだろうか?

 

「えっとね……その、みんな。トレーナーと、二人きりにしてほしいなって……」

 

「……!」

 

 そして、ウララが続けて零した言葉は、控室で二人きりになりたいという要望。

 成程、確かに今このドバイにおいて、控室は他のチームJAPANのウマ娘やトレーナーが集まっており、普段の日本のGⅠでの控室とは趣が違うところが大きい。

 俺たちチームフェリスなんかは多人数で控室にいることもあるし、他のウマ娘…スピカのヴィクトールピストや、カノープスのササイルなんかもチームメンバーと共に過ごすこともあるだろうが、ウララはこれまでずっと、初咲さんと二人三脚で、二人きりの時間を過ごしていたはずだ。

 であれば、今のこの環境に違和感もあるだろう。

 俺達トレーナー陣は目配せで意志を通じ終えて、俺が返事をする。

 

「オッケー。今まで二人で頑張ってきたんだもんな。二人きりでしか話せないこともあるだろう。…俺たちは部屋の外で待つことにするよ。みんなもいいかな?」

 

 俺の言葉に部屋の中にいたトレーナー、ウマ娘達全員が頷き、同意を得る。

 レース前の集中のための時間は大切だ。それを、この部屋の中にいる誰もが理解しているからこそ、ウララの希望にこたえてやりたかった。

 順次部屋から退散し、部屋の前の通路で待つことにする。

 最後に部屋を出る形になった俺は、初咲さんに一言だけ言葉をかけた。

 

「初咲さん。……ウララの事、()()()()

 

「……ああ。配慮してくれてありがとな、立華さん」

 

 その言葉に万感の想いを込めて、俺は扉を後ろ手に閉めた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「……………」

 

「…………ウララ、これで二人きりになったよ」

 

 静かになった広い控室で、ハルウララと初咲が向かい合って座っていた。

 これまで、二人でレースに挑むときの常だ。勿論、応援に来てくれたウマ娘なども多くいて、それはハルウララも心から歓迎していたのだが……それでも、これまで、二人でやってきた。

 専属トレーナーと、そのウマ娘として、走り抜けてきた。

 そうした、二人にとっていつも通りの時間が作られる。

 

 ハルウララがこの環境を望んだのは、勿論、これまでにない大舞台に挑む前の緊張を解きほぐすという理由もあった。

 だが、それ以上に、今日、ここで。

 

 自分のトレーナーと、ある話をしたかったからだ。

 

「……ねぇ、トレーナー」

 

「ん、なんだい?ウララ」

 

 ハルウララの言葉に、視線の高さを合わせて初咲が返事を返す。

 そういった、小さな所、様々な所で配慮が出来るのがこの初咲と言うトレーナーだった。

 ハルウララは、心底、このトレーナーが自分を選んでくれたことを感謝していた。

 運命だとさえ、感じていた。

 だからこそ、今日、()()()について触れて、自分の想いを聞いてほしかった。

 

「……勝ちたい、よね」

 

「…ああ、勿論だ。勝ちたいさ。誰よりも……俺は、ウララに勝ってほしいんだ」

 

「うん。……ふふっ。『勝ってほしいんだ』……って、トレーナーが言ってるの、前にも聞いたね」

 

「ん、そうか?まぁいつだってそう思ってるからな俺は。いつも言ってる気がするが……いつだっけ?」

 

()()()()()()()()()()

 

「ッ────────!!」

 

 ハルウララの言葉に、初咲は戦慄した。

 ヒヤシンスステークス。クラシック期の2月に開催されたOP戦。

 その時のことを、初咲はよく覚えていた。

 己の流した、悔し涙を覚えていた。

 

 スマートファルコンと、初めて競い合ったレース。

 ハルウララは8着、よい所を見せられずに惨敗した、あのレース。

 誰もいない廊下で、立華と話した後に、己のふがいなさを許せなくて慟哭した、あのレースを。

 

 しかし、今。

 目の前に座るハルウララが、その時に漏らした己の言葉を、知っていた。

 

「…これまで、言ってなかったけど………ごめんね、トレーナー。あの時、わたし、トレーナーが泣いてるの、聞いちゃったんだ。壁の向こうで、聞いてた………」

 

「………っ、そう、だったのか……」

 

「うん。私に、勝ってほしくて、でも勝てなくて泣いちゃってたトレーナーの事、わたし、知ってた。私が勝つことを、誰よりも信じてくれてるって………そのときね、わたし、初めて知ったの」

 

「……ウララ!俺は、あの時……っ」

 

「トレーナー。……わたしね、あの時に誓ったんだ」

 

 初咲が、言い訳とも動揺とも取れる言葉を紡ぐ前に、ハルウララが想いを口にして、言葉を重ねる。

 自分が今、想っていることを、誰よりも信頼できるトレーナーに聞いてほしくて。

 このタイミングで、お互いの間にわだかまりが一切ないようにしたくて。

 

「わたし、トレーナーの為に、勝ちたい。トレーナーがあんな、わたしが負けちゃって流す涙を、止めたいって……そう、思ったの。それで、頑張ったんだ」

 

「……ウララ…」

 

「ふふっ、でも、トレーナーったら、わたしが勝っても負けても泣いちゃうから、どうしよー!って思ってた時もあるんだけどね?トレーナー、いつも泣き虫さんなんだから!」

 

「うっ……し、仕方ないだろ。勝ったら嬉しいし、負けたら悔しくてトレーナーってのは泣いちゃうんだよ!みんなそうだぜ、きっと」

 

「うん、そうだね……わたしも、負けたら泣いちゃうから、似た者どーし、ってやつだね!……でもね。この間のフェブラリーステークスで、わたし、わかった」

 

 ハルウララは、先日走ったフェブラリーステークスで、一つの答えを手にしていた。

 きっと、私がこれから、永遠に目指していくもの。

 勝利の果てに、求めるモノ。

 それが、瞳に焼き付いて離れなくなったもの。

 

「マーチ先輩が、ファルコンちゃんに勝って……おケガもしちゃったけど、ね。勝った後、泣いちゃってたでしょ?」

 

「っ……ああ、そうだな。でも、あれは痛みと言うより、嬉しくて泣いてたんだと思うけど……」

 

「うん、ウララもそう思う。……あの泣き顔が、本当に綺麗だなって……わたし、感じたの。わたしも、あんなふうに涙を流したいなー、って……勝って、泣きたい。気持ちよく、誰に見せても恥ずかしくない涙を流したい……トレーナーにも、流してほしいなー、って。……えっと、なんか変なこと言っちゃってる?」

 

 フジマサマーチの見せた涙。

 あの光景が、ハルウララの脳裏に焼き付いていた。

 全てを振り絞り、限界を超えて掴み取った勝利の果て。全ての感情が籠ったような、咲き誇るような涙。

 あれを、自分でも。

 そして、トレーナーにも。

 

 そんな、形に出来ない思いを言葉に乗せて、トレーナーにぶつけた。

 自分に勝ってほしいと願っているトレーナーに。

 その想いを抱えて走り、勝つ私を見て。

 二人で、咲き誇る涙の笑顔になりたい、と。

 

 そして、ハルウララのそんな想いを、彼女のトレーナーたる初咲は、十全に受け取った。

 過不足なく受け止めた。

 何故なら、彼がこの世界において、ハルウララのトレーナーであることを選んだがゆえに。

 

()()。……分かるぜ、ウララの言いたいことは。フジマサマーチみたいに、全部……自分の出来る全部を振り絞って、挑んで、泣き言も言わずに走って、その上で……強敵に勝ちたい。そういうことだろ?そんな勝利の果てに、あの涙があるから……挑みたいんだろ?ウララも」

 

「……うん。挑みたい。マーチ先輩がファルコンちゃんに挑んだみたいに……わたしも、世界に挑戦したい…!全部、これまでわたしがみんなに教えてもらったぜーんぶ、このレースで魅せたい!」

 

「……OK。全部振り絞ってこい、ウララ!!俺は……いや、俺たちは、お前がどんだけ全力で走っても怪我しない様に鍛えてきたつもりだ!!自分を信じて、俺を信じて……そして、これまで応援してくれたみんなを信じて、背負って!!この世界で、一番になってこい!!」

 

「うんっ!!!」

 

 初咲の言葉で、ハルウララもまた、己の思考に一本の筋が通ったように、クリアな思考になる。

 マーチ先輩の走りに憧れた。

 強敵に挑む姿勢に魅せられた。

 だからこそ、私もここで。

 このドバイで、先輩から託された想いを背に。

 これまでの練習と、みんなの応援を胸に。

 全力で挑んで、勝ちたい。

 

 わたしは、このレースに想い(ユメ)を駆ける。

 

「……よーっし!!トレーナーと話してなんだかウララ、気持ちじゅーぶん!!!元気いっぱい!!!わたし、がんばってくるからね、トレーナー!!!」

 

「おう!!俺のウララが、世界一になるところ見せてくれよな!!!」

 

 勢いよく椅子から立ち上がり、いつもの元気いっぱいな様子を見せるハルウララ。

 それに笑顔を返して、己も席を立ち……もう間もなく時間となるところで、二人で部屋の外で待っているだろう、みんなの元へと扉に向かった。

 

 しかし、その扉に初咲が手をかける直前に。

 

「ね、ね。トレーナー」

 

「ん、何?」

 

 ハルウララが、少しだけ初咲の裾を引っ張り。

 

「────────」

 

「────────!?!?」

 

 想いを、己のトレーナーと共有した。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 がちゃり、とドアノブを回す音がして、中からウララと、何故か赤面した初咲さんが出てきた。

 

「…よーし!!ハルウララ、がんばりまーす!!」

 

「……………」

 

 ウララのその表情を見れば、流石は初咲さんである、絶好調と言った様子が見られた。

 かつてファルコンがベルモントステークスで見せたような。

 かつてアイネスがジャパンカップで見せたような、それ。

 

 ずいぶんと、蕩けたような表情。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは好走が期待できるな。俺はうんうんと内心で頷いた。

 何をやったかは知らないが、流石は初咲さんだ。ウララをこの表情にするまでに過去の世界線で俺がどれだけ試行錯誤したことか。やはりこの世界線でのウララのベストパートナーは初咲さんで間違いない。

 俺が感心をしていると、何故か周囲のウマ娘が「やったのか○ンイチ!」みたいな表情を作っているが何故だろう。わからん。

 

「……絶好調、みたいですね?ウララさん。がんばってくださいね!」

 

「うん!!ありがとー、フラッシュ先輩!!わたし、勝って来るね!!」

 

 俺と同じくウララの表情の変化を見慣れているフラッシュが改めて応援の言葉をかけて、それにウララが笑顔で応える。

 ウララが呼ぶフラッシュの名前は、前の世界線の「エイちゃん」ではなく「フラッシュ先輩」だ。それが当然のことで、俺もフラッシュもそれでよいと思っている。

 ここにいるのは、俺が手掛けていない、()()()()()()()()()()なのだ。

 だからこそ、俺が見せられない、彼女たちだけの軌跡(キセキ)を描いてくれるだろう。

 

 みんなからも続くように応援の言葉を受ける。

 その中で、アイネスから一つだけ、ウララに託されたものがあった。

 

「ウララちゃん。ちょっと手、出して?」

 

「ぽぇ?ん、はい!これでいい?」

 

 アイネスの言葉に手のひらを差し出したハルウララ。

 その手をアイネスが両手でしっかりと握りしめて、瞳を閉じ、想いを託す。

 それを見ている全員が、その行為の意味を理解する。

 

「……チームJAPANの、勝利のバトン。ウララちゃんに渡すの。きっと、勝ってね!ウララちゃん!!」

 

「!!……ん!!任せて、アイネス先輩!!ウララ、頑張ってくるからね!!」

 

 ハルウララは、そのバトンをしっかりと心で受け止めて、満面の笑顔を見せる。

 それにアイネスもまた、想いを託し終えて笑顔を返した。

 

 そして、勝負服である着物の袖をぱたりと振って、レース場に向かう通路に歩みを進めていった。

 そんな彼女の後姿を、初咲さんがいつまでも見送っていた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 かつ、かつ、かつ。

 

 ゲート前に向かう道に、ハルウララの蹄鉄の音が響く。

 

 既に時間は夕方を過ぎて、夜空が広がるころ。

 外は暗く、照明に照らされてはいるが、自然光の入らない、薄暗い道。

 こういう雰囲気の道を歩くたびに、ハルウララは想い出す。

 

 その道の、壁に向かって、己のトレーナーが零した慟哭を。

 そして、その先にある曲がり角の向こうで、それを聞いていた自分を。

 

 あれが、自分にとっての転換点だった。

 あの時、あの人の慟哭を聞いていなければ、今日の今、ここに自分はいなかっただろう。

 私はあの時に、想いを背負って走る決意をした。

 そして、強くなり、ここまできた。

 

 けれど。

 

(…………………)

 

 不安は、ゼロではない。

 先程トレーナーに己の気持ちを伝えられて、随分と落ち着いてはいるが、緊張はゼロではない。

 これから挑む大舞台に、不安がないはずがない。

 

 かつ、かつ、かつ──────かつ。

 

 一度だけ、脚を止める。

 角を曲がり、その先にあるのはレース場へ至る道。

 ダートが広がる道の先、光があり、そして己は暗い通路に位置する。

 

 今から、あそこに行って、勝負するんだ。

 

 そう思った瞬間に、胸の内で、押し殺していた不安が膨れ上がりそうになる。

 大舞台……日本のGⅠに何度も挑んだ自分でも、この世界のGⅠがどれほどの頂に在るのかは分かっているからこそ。

 緊張が、脚を縛りそうになって。

 

 でも。

 

 

(────────っ!!)

 

 

 幻を視た。

 

 それは、己の後ろから走り抜けていく、2つの閃光。

 

 

 一つは、世界の頂点に上り詰めた、同期の砂の隼。

 

 一つは、そんな砂の隼に勝利した、先輩の砂の麗人。

 

 

 そんな、自分にとって誰よりも思い入れのある二人が、自分よりも一足先に、光の先の栄光に向かって走っていった。

 

 

(……負けない)

 

 

 ハルウララの心に、さらに熱がともる。

 それは、勝ちたいという強い意志。

 レースに、というよりも………その、ライバルたちに。

 

 負けない。

 わたしも、勝ちたい。

 絶対に、勝ちたい!!

 

 幻の光を追うように、ハルウララは脚に力を籠めなおし、レース場に向かって走り出した。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

『おーおーおー。花火がキレーだねぇ……うっせぇわ。これうっせぇわーマジうっせぇわ』

 

 いの一番にスタート前に参上していたミサイルマンが、メイダンレース場の夜空に上がる花火を眺めながら、その音の大きさにぺたりと耳を閉じていた。

 本当に、このドバイと言うレース場はド派手である。

 去年もこのレースに挑み、ハナ差の2着であったのだが、その時は緊張しすぎてこの花火を見上げることもできなかった。

 やはり大舞台と言うだけあって、最初に走ったときには緊張したものだ。それが原因で負けた、と己の中では思っている。

 

 だが、二度目の今回は違う。

 ゴールデンシャヒーンというこの舞台に、他に走るウマ娘の中でも誰よりも自分が慣れている。

 確かに超がつく優駿揃いではあるが、地の利では己に分があるはず。

 

(……行けんだろ、たぶん。アタシはベルーガみてぇにはならねぇ)

 

 先程のアルクオーツスプリントは、控室のモニターで見ていた。

 ブラックベルーガの、まさかの初敗北。それを成したのは、チームJAPANの風神。

 やはり事前に話していた内容の中の、不確定要素が見事にぶつかったような形だ。あんな領域、ズルとしか言えねぇ。

 一度見たから次からは対策されるんだろうが、その最初の一回をこのレースに持ってきたのが本当に策士だ…、とミサイルマンは感じていた。被害にあわれたブラックベルーガについては謹んでお見舞い申し上げる次第であった。

 とはいえ、さっきすれ違ったブラックベルーガの表情だけ見れば、随分と何故かすっきりした様子であったが。

 

(……っからねぇなぁ。負けたのに嬉しそうだったなアイツ……何があったんだか。チームJAPANには、そんな何かがあるってのか……?)

 

 次々とゲート前に姿を現すウマ娘達に目を向けながらも、ミサイルマンはチームJAPANへの警戒度を上げることにした。

 想像以上にヤバいのかもしれない。先日の打合せの中ではハルウララへの警戒度はそこまで高くなかったが、マークする必要があるのかもしれない。

 しかし、肝心のハルウララがまだ出てきていない。もうすぐ時間なのだが……と、考えていたところで。

 

「………うおー!!!うっららーーーーーーー!!!」

 

『……いや、元気だなオイ』

 

 ようやく、ハルウララが姿を現した。しかも、何やら楽しそうに走りながらだ。

 こいつには緊張って言葉がねぇのか?とミサイルマンはその姿に嘆息を小さく零す。

 去年は自分だって、初めて挑む大舞台に緊張したというのに、このウマ娘は随分と元気なようだ。

 能天気なやつなんだろうな、とはこれまでに見た映像でも知っていたし、そんな天真爛漫な様子がファンを多く生んでいることも理解していたが、この大舞台でもここまで元気なのはよっぽどの才能なのだろう。

 

 さて、しかしそんなウマ娘でも、チームJAPANが送り出しているのは事実だ。

 レース前、決してちょっかいをかけるというつもりではないが、相手の雰囲気を感じるためにも、ミサイルマンはハルウララに近づき、声をかけた。

 

『……よォ、楽しそうじゃねーか。英語わかるか?話せるか?』

 

「……ぽぇ?あー、……ん!!ふぃーるおーらい!!!ないすれーす!!!ぐっじょぶー!!!」

 

『そうか。英語が喋れねぇのは分かった』

 

 片言と言うよりかは元気だけで押し切ろうとするハルウララに、苦笑を零すしかなかった。

 コミュニケーションが取れないのはちょっと無敵が過ぎる。

 ミサイルマンは会話の内容から相手の調子を量ることを諦めて……圧で、試すことにした。

 

『………っ!!』

 

 絶対に負けない、と。

 視線でハルウララに圧をかける。

 その程度は朝飯前に出来るほど、ミサイルマンは優駿であった。

 

 これは決してマナー違反でも、ルール違反でもない。レース前に、視線での圧、雰囲気での圧をかけることは、強いウマ娘であればむしろ自然にしてしまうようなものだ。

 先日のフェブラリーステークスこそが記憶に新しいであろう。レースは走る前から始まっている。

 

 そして、そんな世界最高峰のウマ娘の圧を受けて、流石のハルウララもうっ、と一度言葉を区切り、押し黙った。

 並のウマ娘であれば委縮してしまうであろうその圧。

 

 だが、ハルウララもまた、既に必勝の決意を背負って、この舞台に立っていた。

 

「………!!」

 

『………!!』

 

 ミサイルマンの圧を正面から受け止めて、なお、視線で雄弁に語り返す。

 それをミサイルマンもまた、十全に受け止めた。

 

 ()()()()()()()()()()、とその瞳が叫んでいた。

 

(……なるほどな。チームJAPAN……一筋縄ではいかねぇ相手ってことか。気は抜けねぇな!!)

 

 瞬きで目線を区切り、笑顔を見せて目線での対話を終えた。

 ミサイルマンにとって、先のやり取りで十分に語り終えた。ハルウララもまた、優駿であった。

 これまでの映像記録のデータを、脳内で綺麗に削除する。

 こいつは何をやってくるかわからない。だからこそ、真っすぐにぶつかりあってやる。

 

(楽しくなってきやがったぜ!!っぱいいもんだなァ、世界挑戦ってやつはよぉ!!)

 

 アガってきたボルテージをそのまま表情に浮かべながら、ミサイルマンが内枠にゲート入りする。

 続くように、他のウマ娘達も、ハルウララもゲートに収まっていく。

 

 ダート1200m、世界最高のダート短距離レースの火蓋が切られる。

 

 

 

『──────各ウマ娘ゲートイン完了。ドバイゴールデンシャヒーン………スタートしましたっ!!!』

 

 

 

 

*1
プロの腕前だった。

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