【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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155 ドバイゴールデンシャヒーン 後編

 

 

 

『揃ったスタート!!1200mのダートを、世界中から集まったダートの優駿たちが駆けていきます!……おっと、オーストラリアのスレインボルトが一気に先頭を駆け抜ける!これは大逃げか!?』

 

 

 ゲートが開かれ、全員が好スタートを切る中で、一人のウマ娘が最初から全速力で加速をかけ、ハナを突き進む。

 それを、先行集団の前目につけたミサイルマンが僅かに白けた表情を見せて冷静に眺めていた。

 

(……やっぱあのウマ娘はラビットか。別にルール違反ってわけでもねー、あのまま走りきりゃ一着だろうけどよ……あんまり見てて面白いもんじゃねーぜ、そういうの!)

 

 事前にブラックベルーガやウィンキス、また自分のトレーナーとも集めた情報から、あのウマ娘がラビットとして走る可能性が高いことを知っていた。

 確かにすさまじい加速だが明らかに最後の直線を意識していない。

 あんな速度で走って、中盤でも速度を落とさず、最後の直線で更に粘る……などと言う走りは、ダートでは許されない。

 それが出来るのは現状では唯一、砂の隼だけだ。

 あのウマ娘は敵ではない。最後の直線の前にタレてくるであろう。それに引っかからないようにするだけだ。

 

(……さて、他のやつらはいい感じに落ち着いてんな……全員、おおよそ想定通りの位置って所か)

 

 第三コーナーに向かう最初の直線を駆け抜けながら、ミサイルマンは冷静に周囲のウマ娘の位置を足音と気配で窺った。

 大体のウマ娘が自分の作戦通りの位置についている。現時点で致命的なミスを犯しているウマ娘はいない。

 短距離のメッカ、オーストラリアのダート短距離でGⅠ5勝のロフトマーオーはラビットに惑わされぬ逃げの位置。このウマ娘は逃げ作戦のくせに最終直線の粘りが怖い。

 ダートのメッカ、アメリカの短距離~マイルを得意としておりGⅠも3勝のアールケーエスは先行集団と差し集団の間ほど。このウマ娘は末脚がある。

 他にも世界の誇る優駿たちが、勝利に向かい邁進している。一瞬たりとも気の抜けないこのレースで、しかし。

 

(だが、アタシが勝つ…!!見せてやるぜ3段ロケット加速をよぉ!!)

 

 ミサイルマンもまた、己の勝利を信じて駆け抜ける。

 勝てるだけの練習は積んできたつもりだ。ウィンキスの事前予測でも75%と高い勝率を挙げられたその理由として、純粋な実力の差が生じている事実。

 脚の張りもいい。調子も、先ほどハルウララと話したことでテンションがアガり好調子。

 油断はしないが、このまま冷静に行けば……勝てる、であろうと。

 

 しかし、一点だけ、ミサイルマンは重ねて注意を払う存在がいた。

 先ほど話した、チームJAPANからの刺客。

 

 ハルウララだ。

 

(位置は……差し集団の、中団って所か。1200mでその位置からはきついんじゃねぇか、ハルウララ!!)

 

 彼女の位置取りも、振り返らずに足音と気配だけで察する。

 スタートから出遅れなどはなく、直線においてはまずまずの走りを見せているが……このレースは、短距離戦だ。

 もう間もなくコーナーに入り、それを曲がり終わったら300mの直線をもってゴールになる。

 1分10秒もかからぬ、瞬きを許さぬレースなのだ。

 後ろからアガッてくるには距離が足りない。末脚を発揮しきれず沈むケースが多々ある。

 

 だからこそ。

 ハルウララが、何をしてくるのか。

 

(楽しみにしてるぜ…このコーナーを曲がり終えた先でなァ!!)

 

 ラビットのウマ娘がいの一番に入っていったコーナーへ、続くようにミサイルマンも飛び込んでいった。

 

 

『さぁ先行集団もコーナーに入っていく!!先ほどのアルクオーツスプリントと違い、このゴールデンシャヒーンにはコーナーがあるぞ!!ここで波乱が起きるのか!!それぞれの位置取りに注目ですっっ!!』

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 立華は、ハルウララの走りを見守り、そして今、心底から驚愕していた。

 その驚愕は、かつての夏合宿で感じてしまったような、陰の残る嫉妬のような感情ではない。

 純粋な、敬意に溢れた感情の発露。

 

「…ウララ……!!君は、そんなことまで出来るようになってたのか……!!」

 

 大歓声のメイダンレース場の中で、立華は思わず言葉を零してしまう。

 彼がかつての世界線で、一度も教えたことのない走り。

 同様の驚愕はチームフェリスのメンバー全員にあっただろう。

 

 何故なら、先行集団に続くようにしてコーナーに入っていった、ハルウララの走りが。

 

 まるで、彼らが常日頃やっているように。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 体幹を駆使して、コーナーで加速したのだから。

 

 

 ただ、唯一。

 この曲がり方を教えていたサンデーサイレンスだけは、教え子を見るような温かい笑みを浮かべながら、ハルウララの走りを見守っていた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「ふぅーーーーーーーっっ!!!」

 

 ハルウララは、大きく息をつき、足を溜めながらも、しかし体を内ラチ側に傾け、体幹で支え、全身の筋肉を用いてコーナーを攻め込んだ。

 この走りは、ハルウララにとっては、それこそもう何度も見た走りだ。

 昨年の秋口から、この走りで曲がるスマートファルコンと3度も同じレースを走った。

 そして、ここドバイに来てから、併走でも何度も見た。

 

 特に、併走だ。

 ここ1か月のハルウララの併走相手は、日本のダートも走れるウマ娘と、また懇意にしていたアメリカのウマ娘達となるが、その中でこのコーナリング技術を用いて曲がるウマ娘は多かった。

 本家本元のサンデーサイレンス。第一弟子のマジェスティックプリンス。日本のスマートファルコン。キタサンブラックだってこの曲がりをもう身に着け始めている。サイレンススズカですら、体幹を磨き上げた今、習うようにそのコーナリングを覚え始めていた。

 

 見本には、事欠かなかった。

 だからこそ、自分もこの曲がりを身に付けるべく……初咲トレーナーや、勿論サンデーサイレンスにも助力を乞うて。

 体幹も仕上がり始めていたこの時期に、突貫ながらも、身に付けることが出来ていた。

 

 この曲がり方は、コーナーの角度である半径が狭ければ狭いほど、効果を十全に発揮する。

 400mほどの狭く小さいグラウンドでサンデーサイレンスが身につけたその走りは、ここドバイのメイダンレース場の1200mレースにおいて、角度の狭いコーナーでは抜群の効果を発揮した。

 

『……!!やるじゃねぇか、ハルウララ……!!成程これがチームJAPANってやつか!!』

 

 そして、ぐんぐんと位置を上げてくるハルウララを、コーナーの内側から振り返る様にしてロスを最小にしたうえで、位置取りを確認したミサイルマンが喜色と共に見届けた。

 やりやがる。

 あれほどの速さでコーナーを曲がれるウマ娘はそうそういない。

 実際、その走りに驚かされたのか、差し集団のウマ娘の脚が鈍ったようにも見えた。

 これで勝負はハルウララより前にいるウマ娘に絞られたと言っていいだろう。

 

(けどよ、そりゃお前にとっても厳しい位置取りなんじゃねぇのか、ハルウララよぉ!!)

 

 しかし、ミサイルマンはそのハルウララの爆走が、彼女にとって逆風になり得るのではないかという懸念を持った。

 それは、彼女の領域の問題だ。

 勿論、ハルウララの領域についても検討は済んでいる。

 彼女の領域【113転び114起き】は、最終コーナーの出口付近から加速をかけるタイプだが、その効果が条件により異なってくる。

 先頭との差が開いていれば開いているほど、加速が増す、という効果がある。

 であれば、中盤が終わり、もう間もなく終盤と言ったこの状況で、位置取りを上げすぎるのは領域の効果が薄れる懸念があるのではないか。

 勿論、そのまま後ろ目の位置をキープし続けていれば最後の直線で間に合わなくなるという二律背反も存在する。

 ハルウララの領域は、本来ならばマイルから中距離のレースで真価を発揮するものだ。

 生憎、短距離レースに完全な合致をしているとは言い難い。だからこそ、ミサイルマンも彼女へのマークを薄めていたのだ。

 

 コーナーの出口が近づいてくる。

 

『ついてこれるならついてきてみろよ、ハルウララ!!これが……』

 

 無論の事、ミサイルマンだってコーナーリングでは負けていない。

 彼女もまた優駿の中でも頂点に近い存在である故に。

 ラビットとして爆走していたウマ娘がタレてきたのを回避し、逃げのロフトマーオー、先行のアールケーエスらと連なる様にして、コーナー出口へ向けて加速する。

 

 ここからは末脚勝負だ。

 同時に、領域のぶつけ合いでもある。

 

『これが!!アタシの三段ロケットだッッ!!』

 

 

 ────────【kaboom!!kaboom!!!kaboom!!!!】

 

 

 ミサイルマンが己の領域に突入した。

 

 彼女の強い脚力が生み出す、()()()()

 残り300mの地点から放たれるそれは、まず爆発するような加速を伴い100mを駆ける。

 その100mで足を溜めるという矛盾を成し、100m先で再加速。

 さらに足を溜め、残り100m地点で更なる加速。

 三回に分かれての加速の乗算により、最高速に至り、ゴールまで駆け抜けるというもの。

 

 その一段階目の加速が、コーナーの出口において放たれた。

 

 

『レースは残り300m!!ここで来たぞミサイルマン!!今、ロフトマーオーを交わすようにして先頭へ!!だがロフトマーオーも粘ります!!先行集団からはアールケーエスが飛び出してきたっ!!そしてその後ろ……来た!!我らがチームJAPAN、ハルウララが勝利を目指して加速して行きますっ!!!頑張れハルウララっ!!!』

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 ────────まだ、足りない。

 

 ハルウララは、己の領域の効果も十分に理解した上で、そう判断していた。

 先程ミサイルマンが……いや、他のウマ娘も察していたように、中盤で位置を上げすぎることは、ハルウララの領域の効果を落とすことになる。

 そんなことは自分でもわかっている。

 だが、位置を上げなければ今度は末脚で駆け抜ける距離が足りなくなり、差し切れなくなる。

 

 では、どうすればよかったのか?

 

 ────────まだ、足りない。

 

 簡単だ。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 今回は事前に、海外レースの経験のある立華トレーナーやサンデートレーナー、沖野トレーナーが教えてくれたから、そうなるだろうという予想はしていた。

 ラビット、という悲しい存在が共にレースを走るだろうということは、分かっていた。

 

 ────────そんな簡単には、堕ちない。

 

 ハルウララは、そのウマ娘の走りを見て、確信していた。

 大逃げと言うよりは破滅逃げ。後先を考えない、初速からの大暴走であっても。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────────ファルコンちゃんなら、堕ちない。

 

 ハルウララはこのレース、実を言えば周囲のウマ娘の事をあまり気にかけていなかった。

 先ほど話したミサイルマンであっても、このレースの主軸たるライバルとして捉えていなかった。

 

 それよりも。

 誰よりも勝ちたい、己の一番のライバルがここにいたら。

 誰よりも誇らしい、敬愛する最強の先輩がここにいたら。

 

 それはきっと、今前を走る彼女たちよりも、随分と前を走っているはず。

 あの人たちなら、勝てるはず。

 

 そんな想いから、幻影を作り出す。

 今、先頭になったミサイルマンよりも5バ身先を走るスマートファルコンの影。

 そして、そんなスマートファルコンを執念を燃やして追いかけるフジマサマーチの影。

 

 そんな二人に、どうしても勝ちたいから。

 私は、先頭を走るファルコンちゃんに、追いつく。

 

 幻影を駆ける少女の、その遠い遠い背中に狙いを定めて。

 それに、追いすがらんとするために。

 

 

 ────────【113転び114起き】

 

 

 ハルウララが、最高の効果を果たした領域に、突入した。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

『ハルウララが来た!ハルウララが来たっ!!だが残り200m、先頭のミサイルマンまでもう少しっ!!!ここで更にミサイルマンが再加速!!ここからです!!頑張れハルウララ!!行ってくれーっ!!』

 

 

(……!?マジかよ!?)

 

 ミサイルマンは、己の後ろに迫る足音を聞き、それがロフトマーオーでもアールケーエスでもなく、ハルウララのそれであることを察して驚愕を隠せなかった。

 ここまで効果のある領域ではなかったはずだ。

 その条件を満たしていなかったはずだ。

 それなのに、己に迫るほどの速度で、ハルウララが背後から迫ってきていた。

 

(すげぇ!!マジですげぇ!!尊敬だよハルウララ!!)

 

 それに、ミサイルマンは敬意を抱く。

 ウマ娘が、1か月前に見たレースから、この短期間でここまで成長しているという事実に、感動を覚える。

 これがチームJAPANの底力なのだ。

 これに、ブラックベルーガはやられたのだ。

 そう確信できるほどの、ハルウララの激走。

 

 だが。

 まだ、足りない。

 

『……アタシだってなぁ!!勝ちてェんだよォ!!!』

 

 残り200m地点で再加速を果たし、ハルウララのこれ以上の接近を許さぬミサイルマン。

 さらにあと100mで最後の加速を果たして、それで差し切られることなくゴールまで駆け抜けられる。

 今の速度であれば、行ける。

 ラスト100mが最も彼女との距離が近づく地点となるが、そこだって抜かれるほどではない、はず。

 

 

 ──────という読みを、ハルウララは上回ってきた。

 

 

(ッッ!?!?)

 

 足音が迫るのが、早い。

 後ろで何をしているかはわからないが、ハルウララの足音が徐々に迫ってきている。

 振り返る余裕はない。だが、ここまで末脚を振り絞れるもの、なのか。

 

「……ぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 ハルウララの、どうやら叫びながら走っているのだろう、その声も近づいてきた。

 限界を超えて迫ってきている。

 

『……く、ぁぁぁ!!!』

 

 ミサイルマンもまた、それから逃げるように、連なるように限界を超えて、残り100mまでの加速を果たした。

 ギリギリ、差し切られることはない。

 あとは最後、100m地点で己の三段階目の加速を繰り出せば──────

 

 ─────だが、そうなる前に、ハルウララの桃色の髪が、唐紅(からくれない)の着物が、視界の端に飛び込んできて。

 そして、ミサイルマンはそれを、目線だけで追ってしまった。見てしまった。

 

 

 

 そこにいたのは──────────────

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 ハルウララは、最終直線に、かつてないほどの()()()()を乗せ、駆け抜けていた。

 これまでに走っていたレースでも、これほどの勇気と想いを乗せて駆け抜けられたことはない。

 己の全てを振り絞り、一着を掴みたいという果てしないほどの勝利への執念。

 

 それは、彼女の(ウマソウル)から生まれていた。

 

 マーチ先輩に、想いを託された。

 チームカサマツの皆にも、想いを託された。

 キングちゃんや、学園のみんなからも、想いを託された。

 チームJAPANのみんなからも、想いを託された。

 先程勝利したアイネス先輩からも、想いを託された。

 日本中の、ファンのみんなからも、想いを託された。

 わたしのトレーナーと、想いを共にした。

 

 その、想いの螺旋。

 己の背負う、自分に向けられた想いが、力になっていた。

 

 さらに言えば、その想いの方向性が違う。

 かつて魂が同様に、日本中の想いを受け止めながら走っていた時期がある。

 だが、それははっきりと表現してしまえば、勝利を望まれる声ではなかった。

 負け組の星とまで揶揄された、負け続ける己に向けられた、物珍しさや同情なども含まれていた。

 その事に決して辟易たる何かがあるわけではない。それはそれで、甘んじて受け入れ、それもまた一つの応援の形であると理解はしていた。

 

 だが、魂は心の底で望んでいた。

 勝利を願われる、ただそれだけの想いを乗せて走りたいと。

 勝つことが、勝利こそが走る理由なのだ。

 その根底は、113戦のレースを走り抜けてもなお、変わることはなく。

 

 そして、だからこそ。

 

 世界を走り、日本中から、心底から勝利を願って応援されるこの状況で、魂が震えないはずがなかった。

 誰よりも応援された魂は、誰よりも勝利を願われることで、更なる輝きを見せつける。

 

 

「……う、わ、ああああ…!!!!」

 

 

 魂から溢れる無限大の熱。

 それを脚に伝え、体に伝え、それでも零れる熱を声に替え、ハルウララは全力で叫びながら走り抜ける。

 

 もっと。

 もっとだ。

 

 まだ足りない。

 まだファルコンちゃんに追いついていない。

 まだマーチ先輩に並んでいない。

 

 もっと先へ。

 もっと先へ!!

 

 勝つために、走れ!!!

 

 

「わあああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 

 その瞳から。

 

 桜色の、執念の炎を燃やして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────鬼を宿せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

 ──────────────そこにいたのは、一匹の鬼。

 

 

 

『ッ!?』

 

 残り100m地点で己に迫ったハルウララの、その表情を見たミサイルマンが、心臓が飛び出すかと思うほどの衝撃を受けた。

 レース前も、それ以前の映像でも、天真爛漫なウマ娘といった風の雰囲気を見せていたハルウララ。

 そんな彼女の表情が、見違えるほどの勝利の執念で燃えていた。

 刺し殺されるかと錯覚するほどの鋭い眼差しを、ゴールに向けていた。

 

『……、しまっ……!!』

 

 圧に、負けた。

 牽制技術の一つである、圧によるデバフ。その内、足音でも、位置取りでもない。

 執念の気配にやられた。

 ミサイルマンの最後の100mで見せる三段目の加速が、僅かに鈍った。

 

『……くっそがあああああああああ!!!』

 

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 共に振り絞り叫びながら、ラスト100mを駆け抜ける。

 僅かに加速し先頭を奪い返したミサイルマンに、しかしその桜色の鬼が再度差し返しにかかる。

 ここにきてようやく互角。完全なる2人のマッチレース。

 だからこそ、ハルウララは負けられない。

 

 相手が強敵であるからこそ。

 その先にいる砂の隼に勝ちたいからこそ。

 私を信じて送り出してくれた先輩が、私の勝利を願っているからこそ。

 

 ここで負けるわけにはいかなかった。

 

 

 

(────────っ、!)

 

 

 

 残り50m。

 

 

 想いの果て。

 

 

 

 ハルウララは、ふと。

 

 

 

 ────────頼んだぞ、ウララ

 

 

 

 誰かが、()()を押してくれた、気がした。

 

 

 

 

 

『──────ゴーーーーーーールッッ!!!ほぼ並んだ状態で、ハルウララとミサイルマンがゴール!!しかし、最後に伸びたのはハルウララか!?ハルウララであってほしい!!写真判定です!!結果が待たれます!』

 

 

『……今着順が確定したようです!!!一着はハルウララ!!ハルウララですっ!!クビ差での勝利!!やりました!!やってくれましたハルウララ!!このダート1200m、先輩の想いを背負って挑んだ世界のGⅠ!!見事に勝利を決めましたっ!!!彼女もまた、革命世代であるからこそ!!歴史に名を刻むウマ娘がまた一人、このドバイで誕生しましたっ!!!』

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「っ……はぁっ、はぁ……はぁ。……はぁ、はぁ……!」

 

『ぜぇー………ッソ………やられた……!!』

 

 ゴールを駆け抜けた直後、ハルウララとミサイルマンがクールダウンに移行し、お互いに呼吸を整えながら足取りを緩める。

 まだ写真判定は決着となっていないが、既に二人の中で勝敗ははっきりとわかっていた。

 お互いに優駿であるからこそ。ゴールの瞬間の差と言うものは、理解していた。

 

『………負けた!!くそ、強かったなぁマジで!!前情報とかむしろ全然いらなかったわ!!ゼロで挑んだほうが良かった……ッ!!』

 

 そして、己の負けを認めたミサイルマンが、天を仰いで大きく叫ぶ。

 ハルウララは、最後に背中に感じた優しく温かい掌の幻影を、なんだったのだろうかと思い、ぽけーっとした表情を浮かべていた。

 そんなハルウララを見て、ミサイルマンがふんす!と鼻を鳴らし、クールダウン中に歩み寄っていく。

 

『……おら!!アタシに勝ったんだからしゃっきりしやがれ!!』

 

「ぴょえっ!?」

 

 国際問題にはならない様に、しかし万感の想いを籠めて、笑顔でバシッとハルウララの背中をたたくミサイルマン。

 それを受けて我を取り戻し、ハルウララがぴょん、と尻尾を跳ね上げて驚き振り返る。

 

「ほわぁ!!ミサイルマンちゃん!!急にやめてよー!!」

 

『何言ってっかわかんねーけど悪いのはお前だ。お前の勝ちだよ……舐めたつもりはねぇが、あたしの負けだ。…いや、舐めてたのかもな、心のどっかで…ここ1か月のお前の成長を見誤った。クソ、悔しいなオイ…!!』

 

「おー、んー?いえすいえす!!ふぃーるおーらい!!あいむはるうらら!!」

 

『お前フィールオーライ言っておけば何とかなるって教わっただろ……』

 

 ハルウララはミサイルマンが何やら自分に言ってきているのは分かったのだが、その内容が全く理解できず、覚えた単語を並べることで何とかコミュニケーションを取ろうと試みた。

 そんな様子に、先ほどの鬼の宿る表情を見せたウマ娘と本当に同一人物なのかよ、とため息と共にそんな感情を覚え、ミサイルマンは苦笑を零した。

 

 ……おもしれーやつ。

 

『……なぁ、ハルウララよ。もっかい走ろうぜ、どっかで。次は負けねーからよ。鬼を宿したお前に、アタシは勝ってみたくなったぜ』

 

「ふー、んー?なんてー?」

 

『あー……ワンス、モア。ユー、ミー、レース。トゥギャザー、ラン。オーケー?』

 

「お、おお?いっしょ、レース!!オッケー!!またはしろー!!」

 

『オッケー!!最強のスプリンターを決めようぜ、アタシとお前で!!』

 

「すぷりんたー?スプリンターズ……ステークス?うん?おっけー!!」

 

『お、次はスプリンターズステークスか?日本のレースだよな!!よっしゃ!!そこで再戦な!!レッツバトル!!』

 

「おっけー!!うっららー!!」

 

 ジェスチャーも使いながら、お互いに何とか意思をやり取りし、ミサイルマンは見事に勘違いした約束を取り交わした。

 またハルウララと走るために、次は日本のスプリンターズステークスに挑戦だ。

 こいつが芝も走れるとは知らなかったが、芝の上でもダートの上でも関係ない。

 今度は自分が成長して、こいつに勝つのだ、と。

 

 そんな会話をやり終えたところで、レース場全体から大歓声が上がった。

 掲示板に結果が表示されたのだ。

 そこには間違いなく、ハルウララの一着と、ミサイルマンの二着が示されていた。

 

『……っし、行って来いよハルウララ。ウイニングランだ……このアタシに勝ったお前が、チームJAPANのお前が……勝ったことを、世界中に見せつけてこい!!』

 

「うん!!ミサイルマンちゃん、ありがとー!!」

 

 最後の会話だけは、ミサイルマンの表情から過不足なく意味を受け止めたハルウララが、笑顔を見せて、それにつられるように笑顔を返したミサイルマンが去っていった。

 

 ここから先はウイニングランだ。

 観客たちが歓声を浴びせるために待つ、向こう正面へ。

 

「ほわぁ………!!」

 

 ナイターの光に照らされた観客席に向けて、ハルウララはその輝きに目を奪われる。

 彼女にとっては、久しぶりの勝利となる。

 その興奮で、ハルウララは己の感動を全身で表し、嬉しそうにじたばたとしてから………勝ち誇るポーズを、取った。

 

 それは奇しくも、チームJAPANにとって大切な要素を含んだものとなった。

 

 晴着の袖を振り上げて、大きく腕を夜空に伸ばし。

 

 指を二本、突き上げるVサイン。

 

 

 チームJAPAN、二勝。

 

 

 その意味を受け止めた観客席から、万雷の拍手がハルウララに送られた。

 

 

 

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