【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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(有馬記念)ヴェラアズールに66兆2000億………!!
の662億分の1………!!






163 ドバイシーマクラシック 中編

 

 

 

 

『さあ世界の優駿16人が飛び出していきましたっ!!揃ったスタート!!大きな波乱はなかったようです!!我らがチームJAPAN、エイシンフラッシュとメジロライアンもいつも通りの中団後方に位置しています!ライアンが少し前目に着いたか!?第一コーナーに向かっていきますっ!』

 

 

 ドバイシーマクラシックの火蓋が切られた。

 16人の世界から集った優駿たちが、各々得意な位置取りを探りながら走りだす。

 

 改めて説明するまでもないが、16人、その全てが国を代表する優駿だ。

 中距離のレースという、あらゆる国においてレースを代表する距離の、その上位陣が集まってきている。

 短距離のようにスピードやパワーが優れているだけで勝てるというものではなく、長距離のようにスタミナや根性が優れていれば勝てるというものではない。

 特に2400mというレースはスピード、スタミナ、パワー、根性、そしてレース展開を読む賢さ全てが問われる勝負となる。

 

 だからこそ、彼女たちが走るこのレースにおいては、はた目には自然に走っているように見えるこのスタート直後の位置取り争いでも、高レベルな技術の応酬が行われていた。

 それらを列挙すればキリがない。

 極めて高レベルなレースが展開されている、ということをまず念頭に置いていただきたい。

 

 その中で、しかし、やはり目立つのは、牽制の偏りだ。

 先程スタート前で見られた通り、今回のレースにおいてはチームJAPANの二人に周囲からの牽制が集まる形となっていた。

 

『気の毒なんて、思うはずもない……私が勝つために、貴方たちには墜ちてもらうっ!!』

 

 さて、牽制を仕掛け始めるウマ娘達の中でも、オーストラリアから来た牽制を得意とするウマ娘、フラワーフォルテが周囲全体をコントロールしながら、コーナーに突入していく走者の内、日本の二人に照準を合わせる。

 コーナーを曲がっている際は、直線を走っている時よりもバランスが崩れやすい。当然のことで、そして牽制を仕掛けるタイミングとしてはそこは適切なタイミングとなる。

 向こう正面に入る前に、少しでも強敵二人の脚を削る。そうしなければならない。

 

 最終コーナーに入るころには自分も含め、全員が最終直線に向けて備えるタイミングであり、そこに至るまえに牽制を仕掛け終えるのが常道だ。

 領域に至る直前に潰す、という手段も取れなくはないが、それは彼我の呼吸のタイミングを合わせた上で走りを熟知していないと取れない手段であり、このレースではそこまではできない。

 だが、自分も含めた全員で、チームJAPANの二人に重圧をかけられれば……それで、レースが随分と楽になる。

 

(────────ッ!!)

 

 そうして、仕掛けを始める。

 足音による圧。呼吸による圧。視線による圧。

 他にも、言葉で表すには難しいプレッシャーを飛ばす圧……牽制の技術は手段が多岐に分かれ、時には理論で説明できないようなものもある。

 そういった圧が、チームJAPANの二人に放たれる。

 

 だが。

 

(……!?なんて、抵抗力…!?)

 

 フラワーフォルテは、チームJAPANの二人の内、特に一人のほうが全く動じずにコーナーを駆け抜けていくのを見届け、心底からの畏怖を覚えた。

 己の牽制は並ではないという自負がある。この牽制で少なくとも、動じなかったウマ娘は国内にはいない。

 あのウィンキスでさえ、僅かではあるが己の牽制を意識して走らせてやったという経験もある。

 ウィンキスと争ったそのレース自体は敗北となったが、しかし牽制技術においては国内でも随一だ。

 

 だが。

 そんな自分の牽制を受けてなお、速度が落ちない。

 このウマ娘。

 

(くそっ……前情報じゃ、そんな実力があるなんて読めなかった!貴方、GⅠ一勝のラッキーパンチャーじゃなかったの!?)

 

 

 ()()()()()()()

 

 彼女が、周囲から仕掛けられ続ける牽制技術に、しかし動じずにコーナーを駆け抜けていた。

 ヴィクトールピストの領域のように完全に無効としているほどではないが、しかし抵抗力が極まっている。

 彼女の筋肉の圧が、まるで空気の層を己の周辺に生み出しているかのように守護していた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

(甘い……この程度で、アタシを潰せると思うな!!革命世代で、一番苦労してるのはアタシなんだよ!!アタシを潰すなら、()()()()()()宿()()()()()()()!!)

 

 メジロライアンは、周囲からの牽制、それら全てを受け止めてもなお溢れるパワーで芝を蹴り、コーナーを上手く駆け抜けた。

 その走りに陰りは見られない。熱すら感じられるほどの筋肉の張り。

 彼女の牽制への抵抗力。それは、ここに至るまでにメジロライアンが味わい続けたすべてのレースに起因する。

 

 まず、彼女が最初に挑んだGⅠ、阪神ジュベナイルフィリーズでは立華の指導のもとで走り抜けたスマートファルコンの幻惑にやられた。

 その後の弥生賞ではエイシンフラッシュの独占力を受けている。

 日本ダービーでは独占力に加え、さらにヴィクトールピストの差し穿つような牽制と、アイネスフウジンの逆風を味わった。

 その後の菊花賞でもフラッシュがいた。

 有マ記念は最早説明不要であろう。あそこは地獄だった。

 

 メジロライアンが過去の大きなレースで、マーク対象とならず、牽制を受けずに走り切れたのは、宝塚記念だけだった、と表現してもよいのかもしれない。

 余りにも血の気の多い同期のメンバーが集い、そんな中で走り続けたメジロライアンは、己も気づかぬうちに世界レベルの牽制にも耐えうる抵抗力を身に着けていた。

 そして、それをここドバイの併走で自覚し、武器と変えていたのである。

 

 

 誰よりも同期の中で辛酸を嘗め続けた立場だからこそ。

 誰よりも勝利に飢えていた。

 

 

 さて、そんな彼女も牽制が飛び交い続けていたコーナーを抜ける。

 向こう正面に入り、足を溜めつつも速度を出さなければならないそこに突入した。

 

 

『さあ第二コーナーを抜けて向こう正面!!メジロライアンはちょうど中団、エイシンフラッシュは少し位置を下げて後方に位置したか!?その間にかつての日本の宿敵、ブロワイエも走っている!!もう間もなく1000mを通過しますっ!!タイムは……60秒1!!落ち着いたペースです!!最終コーナーまでの位置取りが重要になるか!?』 

 

 

 1000mの攻防を終えて、メジロライアンは一度速度を落とさず振り返り、周囲の様子を詳細に確認する。

 自分は牽制を受け続けたが、脚や体力にそこまでのダメージはない。走り切るには問題ない。

 しかし、気になるのが同じチームJAPANのエイシンフラッシュだ。

 

(…位置が落ちてる。普段のフラッシュちゃんと比べると僅かに後ろ……牽制が効いていた?それに、大人しすぎる)

 

 メジロライアンと共に牽制を仕掛けられ続けていたエイシンフラッシュは、ここ向こう正面に入るにあたり、位置取りが差し集団の中でも後方に下がってしまっていた。

 また、普段の彼女が得意としている牽制もあまり仕掛けてはいないようだ。己の走りを阻害するようなウマ娘の位置をどかす程度に留まっていた。

 

 おとなしすぎる。

 メジロライアンは、そんな同期の親友の走りに、疑問を持った。

 

(フラッシュちゃんの脚なら、この直線で位置を上げることは容易いはずだ。その上で最終直線で駆け抜ける末脚だって残せるはず……何だ?何を狙ってる、フラッシュちゃんは……)

 

 その疑問を、メジロライアンは捨てなかった。

 もしかすれば、本当に牽制が効いている可能性もある。走りに陰りが出ることだってあるだろう。レースに絶対はないのだから。

 悲しいが、もしそうなってしまっているのであれば、己が頑張るしかない。最終直線で恐らくは抜け出してくるブロワイエとの一騎打ちとなるだろう。

 そんな考えを、()()()()()()()()()ならば持つかもしれない。

 革命世代の他の誰かでも、心配するかもしれない。

 

 だが。

 メジロライアンはそんな甘えた考えを捨てる。

 

(ありえないね。フラッシュちゃんは絶対に来る……なぜならば)

 

 何故ならば。

 

 

 ────────彼女は、チームフェリスなのだから。

 

 

 チームフェリスのウマ娘は、必ず、来る。

 絶対に来る。

 それは、革命世代の全員が持つ共通見解。

 

 レースに絶対はないが、チームフェリスに絶対はある。

 絶対に、最後まで諦めずに、食らいついてくる。

 

 だからこそ、メジロライアンは位置取りを落として大人しくしている彼女を一切侮らない。

 彼女が最終直線で己と競り合う未来を疑わない。

 その可能性に至る理由を模索する。

 

(……でも、やっぱりおとなしすぎる。であれば、何、を────────)

 

 答えを模索し、メジロライアンは過去の記憶を手繰った。

 エイシンフラッシュが、同じように、大人しくしていたレースが────────

 

 

 

 ────────あった。

 

 

(……っ!!!)

 

 

 ぶわっと冷や汗がメジロライアンの全身から零れる。

 今、思い出した。

 ああ、これは。

 フラッシュちゃんのこれは、見たことがある。

 経験したことがある。

 あれだ。間違いなくアレだ。

 

 

 皐月賞の時の、あれだ。

 

 

 だとしたら。

 もう時間は残されていない。

 

 

「………く、あぁっ!!」

 

 

 メジロライアンは、己の脚に力を籠めて、()()9()0()0()m()()()から加速を繰り出した。

 ぐんぐんと位置取りを上げて、先行集団に位置をシフトしていく。いや、追い抜かんといった速度を出す。

 

 そんな彼女の走りを、周りのウマ娘は一瞥し、理解する。

 

 掛かったのだ、と。

 

 恐らくは同じチームJAPANのエイシンフラッシュが落ちたのを見て、焦ったのか?

 いや、これまで仕掛けてきた牽制がようやく花開いたのかもしれない。

 暴走だ。2400のレースで、その位置で仕掛けてスタミナが最後までもつはずはない。

 

 そんな共通認識に、ごくわずかではあるが、レースを走るウマ娘達の中に、安堵の雰囲気が生まれる。

 向こう正面で全く覇気を感じられなかったエイシンフラッシュ。

 掛かってしまい、900mの暴走を仕掛けたメジロライアン。

 これで、チームJAPANの二人が落ちた。レースはようやく振り出しになり、ここからは日本以外の誰が一着を取るか、という話になるものだ、と()()()していた。

 

 そして、その勘違いは、あるウマ娘の走りによって見事に釘を刺されることとなった。

 

 

『────────ふっ!!』

 

 

 全員が、心底から驚愕した。

 焦ったように位置取りを上げていったかに見えた、メジロライアンの、その後方から。

 

 ブロワイエが、ぴったりと張り付くように、同じように位置取りを上げていったのだから。

 

 

 

『さあ向こう正面も残すところあとわずか!!コーナーに入り残り900mといったところ……ここでメジロライアンが一気にアガってくるぞ!?仕掛けが早いっ!!これは作戦なのか!?掛かってしまっているのか!?!?なんとその後ろからブロワイエも上がってきた!!このウマ娘は怖い!!だが二人とも仕掛ける位置取りがかなり早いか!!エイシンフラッシュは……まだ、まだ上がりません!!溜めている!!メジロライアンがぐんぐん前を追い越していく!!随分と差が出来てしまっている!!エイシンフラッシュは間に合うか!?』

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

『……逃がさぬよ、メジロライアン!』

 

「ブロワイエ……!!」

 

 最終コーナー、その出口を目前として、ほぼほぼ先頭になりかけていたメジロライアンに、しかし後続から追い上げてきたブロワイエがその独走を許さない。

 二人とも、明らかに早い地点から位置取りを上げていた。

 その暴走にも見える走りに、しかし二人ともそこに一切のためらいはなかった。

 

 メジロライアンは、覚悟をもってこの加速を繰り出している。

 300mほど、位置取りを上げる加速を出し。

 その上で。

 残り600mを、()()()()()()()()()()()()()豪脚を繰り出す、その覚悟があった。

 

 全てを振り絞っても、それを成さなければならなかった。

 それで、ようやく一着が取れるかどうかだ、と心底から考えていた。

 

(そう、なのだろうな。そうだろう。君達日本のウマ娘は、その程度は成してくる!!)

 

 そして、そんなメジロライアンの覚悟を、ブロワイエもまた疑っていなかった。

 彼女の判断を尊重したからこそ、己もそれに倣うように位置取りを上げた。

 

 恐らく、メジロライアンは確信しているのだ。

 エイシンフラッシュの復活を。

 彼女が、ここまでの無茶な走りをしなければ勝てないほどの閃光の末脚を見せて迫ってくるのを。

 

 宿敵たるチームJAPANへの全幅の信頼。

 どれほど牽制を重ねられようと、どれほど無茶なことをしようと、彼女たちは限界を超えて走り抜けるであろうことを既に知っているからこそ。

 己も、その高みに至るために、メジロライアンの独走を許さない。

 

『だからこそ、私も全てを出さねばなるまい────さあ、勝負だメジロライアンッ!!』

 

 残り600m。

 コーナーを駆け抜け終えて、ブロワイエが、己の持つ領域へと突入する。

 

 それは、フランスの凱旋門を二度も制覇した彼女の持つ極めて効果の高い領域。

 シンプルに、加速を果たすその効果。

 領域は効果に様々な種類があるが、しかしシンプルであるほど強い。

 ブロワイエのそれは、最終コーナーを抜ける際に、誰かと競り合うことで条件を満たし、突入した。

 

 

 ────────【MONstre JEUne premier(頂に立つ若き獅子)

 

 

 芝が跳ね上がる。

 ブロワイエが、一バ身先にいるメジロライアン、それをブチ抜いてさらに距離を広げんと、一瞬で加速に至った。

 

 入りは完璧。

 スタミナも持つ。普段、フランスの長く重い芝を走る彼女はこの高速バ場の芝で、スタミナの温存に努めることが出来ていた。

 それを振り絞り、300mの加速から600mのロングスパートという無茶を成す。

 

 その加速は、他のウマ娘の追随を許さない。

 彼女がフランスの頂点であり、そして日本に向けた執念の鬼も宿しているからこそ。

 これで私の勝ちだ。

 

 ────────などとは、欠片も考えていなかった。

 

 

(………来る!!)

 

 

 ブロワイエは、領域に突入した直後に、見た。

 迫るメジロライアンの背中を、見ていた。

 

 その背中が、まるで倍増したかのように筋肉が膨れ上がったのを、見た。

 

 来るのだ。

 彼女もまた、領域に。

 

 それも、これまでのレース映像で見せたようなそれではない。

 革命の果てに進化した()()を、繰り出してくるのだ。

 

 まだ、勝利の確信に至るには早すぎる。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「………ふ、ぅぅぅ────────!!!」

 

 大きな深呼吸を一つ果たし、メジロライアンは己の肺の内の空気を新鮮なものと入れ替えた。

 血中酸素濃度が一気に上がり、そして己が領域に突入する条件を満たしにかかる。

 

 

 ────────見本がいなかった。

 

 

 思考も加速するその一瞬で、メジロライアンは振り返る。

 己の駆けてきた道程、その中に合った葛藤を。

 

 

 ────────走りの答えが、分からなかった。

 

 

 これまで、メジロライアンは己の脚質にあった差しの位置で走り、そうして末脚を繰り出しての勝負を見せることが多かった。

 そして、生憎、その作戦での勝率は高くなかった。

 それは勿論、革命世代である同期が強かったこともあるが……自分の走りが、まだ完成に至っていないのではないか、という疑問も同時に持っていた。

 そして、その疑問は日に日に強くなるばかりであった。

 

 

 ────────正解か分からなかった。

 

 

 己の走りが、真に完成されていないような感覚。

 末脚の発揮は、当然に、最高峰の技術を用いて繰り出しているという自負があった。

 メジロ家に生まれた身として、幼き頃から日本のレースを見続けて、そうして強く走るウマ娘たち、その走りを模倣し、自分なりに磨き上げ、放てていると思っていた。

 だが、その末脚では、至れなかった。

 エイシンフラッシュの閃光に。アイネスフウジンの疾風に。ヴィクトールピストの泰山に、及ばなかった。

 

 

 ────────勝ちたかった。

 

 

 日本の、ウマ娘達の走り。

 そこに、メジロライアンは最高の見本を求めた。

 筋肉を鍛え上げている己に、完全に合致した走りが、どこかにないか。

 

 

 ────────倣うべきではなかった。

 

 

 エイシンフラッシュの走りは、己に合致していなかった。

 姿勢を極限まで落とし、顎を擦る様に走るそれは、彼女の柔軟性と生まれついてのバランス感覚があって初めて成せるものだった。

 彼女を模倣しても、速く走れなかった。

 

 

 ────────倣うべきではなかった。

 

 

 アイネスフウジンの走りは、己に合致していなかった。

 彼女の速さの根幹は、スタートからゴールまで隙の無い全てにおいてバランスに優れた体を持っているからこそ。

 だからこそ、ラスト1ハロン200mで全てを振り絞れる。あの振り絞りは人知を超えたものだ。フォームも何もあったものではなく、あの走りが模倣できるものは世界に誰もいないだろう。

 彼女を模倣しても、速く走れなかった。

 

 

 ────────倣うべきではなかった。

 

 

 ヴィクトールピストの走りは、己に合致していなかった。

 彼女は、末脚を真の武器として繰り出すタイプではなかった。道中の位置取りを自在にする、あらゆる作戦をこなせる叡智と判断力があるからこそ、最終直線で早い時点で最高の位置取りを行い、それで駆け抜けるモノだった。

 彼女を模倣しても、速く走れなかった。

 

 

 ────────倣うべきではなかった。

 

 

 メジロライアンの求める、走りの見本にして完成形。

 それは、どこにも存在しなかった。

 

 

 ()()()()、存在しなかった。

 

 

 

 倣うべきは────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────()()()()()()

 

 

 

 

 

 世界の。

 アメリカの頂点に位置するウマ娘の走りが、彼女にとっての答えであった。

 

 

『………ッ!?』

 

 

 後続のブロワイエから、息を呑むような音が聞こえる。

 それはそうだろう。

 領域に突入した直後、同じように領域に至ろうとするメジロライアンのその背中が────否、その()()が。

 まるで、膨れ上がるかのように、ばくんと脈動し、筋肉が膨れ上がったのだから。

 

 メジロライアンの全身に蓄えられていた、至高の筋肉。

 体幹を主として求めるというよりも、ただ力にのみ傾倒し、信仰にも似た日常的な筋力トレーニングにより搭載するに至った筋肉の塊。

 それらが、本当の力の使い方を学び、歓喜と共に産声を上げていた。

 

 メジロライアンは、ここ1か月の併走で、イージーゴアの走りを間近で見た。

 見た瞬間に、脳天に雷が直撃したかのような衝撃を味わっていた。

 

 ()()()()

 

 あそこまで、力のままに走っていいのか。

 

 恵まれたフィジカルを惜しみなく使い、筋肉に無駄とも思えるほどに力を籠めて、しかしそれでなお異様に速い。

 そんな、イージーゴアが見せた走りに、メジロライアンは答えを見た。

 

 己の筋肉を(いまし)めることをやめた。

 

 全てを解放する。

 力の限り全身の筋肉を膨張させ、そして力の限り走り抜ける。

 そんなシンプルな答えでよかった。

 それに全てを賭けることに、何の葛藤もなかった。

 自分が信じた筋肉で戦うことに、躊躇いが生まれるはずもない。

 

 

 目覚める。

 メジロライアンもまた、進化した己の領域に突入する。

 

 

 

 ────────【金剛大斧(ディアマンテ・アックス)

 

 

 

 これまでの彼女の領域をさらに上回る、進化した領域。

 それは、全身の筋肉を隆起させたまま、600mを全速力で駆け抜けるそれ。

 凄まじい加速に加え、足音と、筋肉の隆起による圧をまき散らしながら走るという、暑苦しくも恐ろしい領域に、メジロライアンが至った。

 

 

「………ガアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

『やる……!!だが、それでこそ私が挑むに値するっ!!!』

 

 ラスト600m地点から、獣のような咆哮を挙げて加速するメジロライアンに、ブロワイエがしかし距離を離さず食らいついていく。

 それにまわりのウマ娘も慌てるように領域に突入していくが、距離は詰まらない。

 

 覚悟が違った。

 明らかに掛かったと思ったことで、僅かでもメジロライアンを無礼てしまったことで、世界の優駿たちの脚は動揺で微かな陰りが見えた。

 

 これは、二人のレースになる。

 そう、確信してしまって。

 

 そして。

 

 

 

 ────────gehen(行きます)

 

 

 

 そんな彼女たちの最後方から、一筋の閃光が産声を上げた。

 

 

 

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