【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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169 ドバイワールドカップ 後編

 

 

 

 

 

 ────────条件は整った。

 

 

 マジェスティックプリンスは、ここ最終直線400mに至るまで、己の全てを用いて走ってきたと言っていいだろう。

 スマートファルコンと絶望的な差を広げることなく、進化した領域も見せ、他のウマ娘全員から力を奪い、それを用いて彼女に肉薄した。

 コーナーでは意地でも距離を離すまいと彼女のすぐ後ろにぴったりついていた。

 息を入れる暇もないが、息を入れたら終わりだと理解していたからこそ。

 そして、その隙間のない追走はスリップストリームの恩恵を受け、コーナーを立ち上がる瞬間のこの残り400m地点で加速し、スマートファルコンに肩を並べた。

 間違いなく並んだ。

 全てを費やして、ようやくここまで来た。

 

 

 ────────だが、彼女は目覚めた。

 

 

 スマートファルコンは、残り400m地点で、更なる一段先の領域へ突入した。

 ベルモントステークスで見せた、奇跡の走り。

 それが、また目の前で起きようとしていた。

 並んだ肩が、また離れようとしていた。

 

 

 ────────それを見るのは、三度目だ。

 

 

 それは、ベルモントステークスで初めて味わった。

 それは、ジャパンカップで、アイネスフウジンが見せた。

 それは、マジェスティックプリンスにとって、三度目の奇跡であった。

 

 三度も見れば、覚えてみせる。

 

 己が天才だという自負を自信に変えて、どんな技術も吸収する彼女であるからこそ、持てる決意。

 

 

 マジェスティックプリンスは、極限まで鍛え上げた優駿である。

 そして、この瞬間に至るまで、スタミナは尽きようとしており。

 走マ灯など、コーナーの最中に何度見たか知れず。

 そして、ここからのファルコンの独走を許せば、敗北することを確信していた。

 

 

 ────────条件は整った。

 

 

 あとは()

 彼女が()()に至るための、声が必要だった。

 

 

 だが、()()は実に身近なところに存在していた。

 

 

 ゴール前で、己を応援してくれているイージーゴアやオベイユアマスターの声、ではなく。

 

 

 アメリカの威信を背負った、応援団からの声、ではなく。

 

 

 その声は。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()で、生まれていた。

 

 

 

(─────わかっているさ)

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 己に、語り掛けていた。

 

 

 

 

 ────────ついてこれるなら、ついてきてみろ。

 

 

 

 

 

(ついていくともさ!!ああ、超えて見せるともっ!!!君を、孤独な王にさせはしないっ!!!)

 

 

 

 砂の隼の、走りの語る声が最後のトリガーとなった。

 

 

 

 彼女の意識は、それに溶けて────────

 

 

 

 

 

──

───

────

─────

──────

───────

────────

─────────

──────────

───────────

────────────

─────────────

──────────────

───────────────

────────────────

 

 

 

 

 そこは米国。

 アメリカの、ベルモントパークレース場。

 

 

 そのゴール地点の、3()4()()()()()に、マジェスティックプリンスは立っていた。

 

 

 彼女は理解する。

 

 

 ──────ああ、これは、私の魂の中だ。

 

 

 魂の原風景。

 己の魂の、心残りの在る景色。

 

 そして、そんな彼女の隣に、その光はあった。

 4本の脚を砂の上に、はるか先のゴールを見据える光が、そこに在った。

 

 しかし、その光の脚の内、右前のあたりの光が、黒く燻っていた。

 そこに故障があったのだ。

 それを、マジェスティックプリンスは魂の空間の共鳴で、理解した。

 

 お互いに。

 このベルモントパークレース(競馬)場で、後悔を残していた。

 

 

 マジェスティックプリンスの(ウマソウル)は、己の脚が万全で挑めず、無敗の三冠を逃したことの、後悔。

 

 マジェスティックプリンスのウマ娘は、最終直線で、砂の隼の離れていく背を目にした際に、諦めてしまったことの、後悔。

 

 

 魂は、人々の期待に応えることが出来なかった己の身を悔いていた。

 

 彼女は、たとえ負けるとしても、諦めて脚を緩めてしまった最終直線を悔いていた。

 

 

 お互いに、ベルモントステークスには、心残りがあった。

 それを示す、34バ身の距離。

 

 

 だが、今、彼らの想いは一つだった。

 

 

『─────キミは』

 

 

 ─────貴公は

 

 

 

 ────────王子だろう。

 

 

 王たるものが、己の後悔を、心残りを、漱げないはずがない。

 真の王は、己の失敗を乗り越えてこそ、王。

 

 

 再び同じ窮地に陥った時には、必ず、それを乗り越えて見せる。

 

 

 そんな想いを、魂と共鳴するマジェスティックプリンス。

 誓いは今、果たされた。

 絶対に諦めない、そのことをウマ娘である彼女が誓い、魂が認めた。

 

 

『─────ああ。だが、キミは……脚を、痛めてしまっているんだね』

 

 

 ─────ああ。私は、もう走れぬ。

 

 

 だが、魂の脚は、悲しくも既に失われていた。

 己の走りを果たせなかった故障は、ベルモントステークスにて悪化し、その後休養に充てて復帰を目指していたが、諸般の事情によりレースに復帰することは敵わず、そのまま競馬界を引退した。

 無敗の二冠馬は、無情にも人々から忘れられていった。

 

 けれど。

 

 今、ここに、その魂の想いを紡げるものがいる。

 

 

『─────ハーーーっハッハッハ!!!ならばっ!!この私に乗り移り給えっ!!私はよき師に恵まれ、よき時代に恵まれたっ!!この通り、万全な脚を抱えているからねっ!!!キミ一人を背負ったとしても、全く問題はないっ!!』

 

 

 ─────貴公。……想いを、託してもよいか。この私の、無念も託して……走って、くれるか。

 

 

『無論だともっ!!────ああ、その偉大なる魂。悲劇の王子よ。キミの想いを私が継ごう。そして、共に征こう。きっと、必ず、私がキミの雪辱を果たす。ここに誓おう』

 

 

 ─────わかった。貴公に、全てを託す。貴公が駆ける夢を、見守っているよ。

 

 

 

 魂の光がゆっくりとウマ娘たるマジェスティックプリンスに歩み寄り、そして体を重ねる。

 彼の想いが、マジェスティックプリンスの胸に伝わる。

 熱い想い。後悔の念。復活の誓い。

 それら全てを、受け止め、背負い─────彼女の顔つきが変わった。

 

 

 

 光を、己の魂を背負い、マジェスティックプリンスが走り出す。

 

 34バ身先のゴールへ向かい、一直線に砂を駆ける。

 

 

 その頂に立つ、隼に勝つために。

 

 魂の祈りを、全て背負い、王子が征く。

 

 

 

 

 今ここに、王命は果たされた。

 

 

 

 ウマ娘という存在と、魂という存在が一つになり。

 

 そして。

 

 

 

 ─────────────奇跡へと、至る。 

 

 

 

 

 

────────────────

───────────────

──────────────

─────────────

────────────

───────────

──────────

─────────

────────

───────

──────

─────

────

───

──

 

 

 

 

 

 

 ────────【Zone of ZERO=A King's Resolution(王たるものの覚悟)

 

 

 

 マジェスティックプリンスが、ゼロの領域に到達した。

 隣に並ぶスマートファルコンが爆速のラストスパートを描く直後に突入したその領域は、レースの常識を超え、限界を超え、半バ身先にいる隼を堕とさんと加速を果たす。

 

 ゼロの領域同士のぶつかり合い。

 

 史上初となる奇跡が、このドバイに起きていた。

 

 

 

『……!!止まらないっ!!止まらないぞスマートファルコンっ!!だが今度はマジェスティックプリンスも追い縋るっ!!!何という末脚!?もはや常識は通用しない!!奇跡がっ!!ドバイに奇跡が起きていますっ!!!徐々に、徐々にその差が詰まるか!!!まだスマートファルコン先頭!!!どちらも譲らぬデッドヒート!!!どっちだ!?!?どちらも譲れない!!!己の勝利の為に!!!どちらも譲らないっ!!!』

 

 

 限界を超える。

 迫りくるマジェスティックプリンスに負けまいと、スマートファルコンが加速を果たし。

 そんなスマートファルコンに勝つために、加速を重ねるマジェスティックプリンス。

 二人が競い合うからこそ、その速度は無限の乗算をもって、最終直線で放たれていた。

 

 人々は、その走りに奇跡を見た。

 

 永遠に、二人の走りが続くような、そんな幻を視た。

 

 

 

 駆ける砂の隼。

 

 

 駆ける王子。

 

 

 

 最早そこは、余人の入る隙間はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、だが。

 

 

 

 

 

 レースに永遠はなく、無限に走り続けることは出来るはずもない。

 

 

 

 

 

 

 残り100m。

 

 

 

 世界が一瞬、静止した。

 

 

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

(────────ッッッ……!!!!)

 

 

 先に、その瞬間にたどり着いたのはスマートファルコンであった。

 

 彼女は、()()()()()()()()()()()()に、至ってしまった。

 この瞬間に至るまで、スタートからコーナーを駆け抜け向こう正面に入り、さらに加速してコーナーを攻め込み、最終直線をさらに加速する。

 どこまでも己の限界に挑み続け、ゼロの領域に至ってもなおすぐ隣を走るマジェスティックプリンスと位置取り争いを続け加速し続けた彼女の、物理的な限界に、ここに来て至ってしまった。

 

 もう、全身の全ての力を使い果たした。

 脚も、技術も、領域も、魂も、全てを振り絞り、振り絞り尽くしてしまった。

 

 

 残り100mを残して、スマートファルコンは空っぽになった。

 

 

(──────ごめん、なさい)

 

 

 そして、空っぽになった彼女の脳裏に浮かんだのは、謝意であった。

 謝りたいと感じる想いが、まず現れた。

 

 倒れてしまいたい。

 逆噴射をかまして、脚を止め、ゴール前でも構わずすぐにでも横になって、体を動かすのをやめてしまいたい。

 

 そんな風に全身の筋肉が叫んでいる、そんな状況で、彼女は己のトレーナーに謝った。

 

 

(────────ごめん、トレーナーさん)

 

 

 本当に、ごめんなさい。

 

 

 ここまで、全力で走ってきて。

 

 

 ここまで、限界を超えて走って。

 

 

 でも、力尽きてしまって。

 

 

 もう、これ以上走るのは、無理になって。

 

 

 

 それでも。

 

 

 

 

 

(────────私、()()()

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 それは、玉砕覚悟の決死の想い。

 

 かつて、フェブラリーステークス前に立華トレーナーと話した内容が、ふと脳裏によぎる。

 『無理して走ってほしくない』と願っていた立華勝人の顔が、想い出される。

 

 私達の脚が壊れるのが、一番怖いと。

 無事是名バなのだから、やばいと思ったら無理をしてほしくないと。

 

 でも、決意してしまった。

 もう私は止まれない。

 

 たとえ、全ての力を使い果たしたとしても。

 

 たとえ、ここから先、まともに走れなくても。

 

 たとえ、レースが終わった後に、脚が砕けてしまったとしても。

 

 

 それでも。

 

 

 

 

 私は、最後まで走り抜く。

 

 

 

 

 

 隣を走るマジェプリちゃんに、負けたくないから。

 

 

 みんなの想いを繋いできた、チームJAPANの勝利のバトンを、落としたくないから。

 

 

 

 

 

 ────────そして、何よりも。

 

 

 

 

 私が、勝ちたいから!!!

 

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

 そして、同様の想いはこちらも同じ。

 

 マジェスティックプリンスもまた、最終100mを残した地点で、全てを使い果たしていた。

 

 領域で他のウマ娘から奪い取った力も、中盤から最終コーナーにかけてファルコンとの距離を埋める際に使い切ってしまっている。

 ゼロの領域に至ることで振り絞ったものも、300mをスマートファルコンと競り合う中で、限界を迎えた。

 

 空っぽだ。

 

 裸の王様となった。

 

 

 だが、それでもまだ。

 

 

 

(まだ────34バ身差は、埋まり切っていないのだッッ!!!)

 

 

 

 己の誓いを、果たしていない。

 

 もう二度と、スマートファルコンには負けないと誓ったのだ。

 あの34バ身を0にしなければ、私は永遠に死んだままだ。

 生き返るために。

 私が、王子であるために。

 たとえ裸の王になろうとも、誇りのマントをその肩に。

 

 絶対に、この脚を止めたりはしない。

 

 

 最後の一瞬まで、諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────二人のウマ娘が、限界の果てに挑む。

 

 

 

 ────────今から始まるのは、技術も領域も何もない。

 

 

 

 ────────世界最速の『かけっこ』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 スマートファルコン。

 

 マジェスティックプリンス。

 

 

 

 

 二人にとって、()()()()()1()0()0()m()

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「あはッ……あはははははははははは!!!!!」

 

『ハーーーーっハッハッハ!!!!ハハハハハハ!!!』

 

 

 二頭の獣が、笑いながらゴールに向かい、前に進む。

 最早、「走る」という表現はそぐわなくなっていた。

 先程までの、ウマ娘にとって理想ともいえる綺麗なフォームは崩れ切って、ただ何とか全身を動かして前にすすむ。

 脚の回転だけは殺さぬように、全身、まだ死んでいない筋肉を求めて駆動し、かき分けるように前へ。

 ただ、前へ。

 隣のライバルよりも、1mmでも前へ!!

 

 自然と、笑いが零れてしまっていた。

 既にお互いに限界の先の先の、さらに先に踏み込んでいる。

 ウマ娘として踏み越えてはいけない最後の線を、踏み越えている。

 

 それを超えるためには、狂気が必要だった。

 

 それを成しても、前に。

 すべての決着をつけるために、前に!!

 

 

 ただ、走れ!!!

 

 

 

「あはははははははは!!あははははは────────」

 

『ハーッハッハッハッハ!!!ハッハッハ───────』

 

 

 無限に感じられる、100mの距離。

 

 

 一歩が、1mが、永遠のように長く感じられた。

 時の感覚もおかしくなってしまっている。

 

 二人にしかわからない、無限の時間が、そこにはあった。

 

 

(っ────────)

 

 

 スマートファルコンは、その果てに。

 

 幻を視た。

 

 

 

 己の体を支えるように、風を生んでくれる、アイネスフウジンの幻を。

 

 己の心を支えるように、共に歩んでくれる、エイシンフラッシュの幻を。

 

 

 そして、ハルウララのように心に鬼を宿して。

 

 ヴィクトールピストが見せたドバイワールドカップの勝利への執念を背負って。

 

 サクラノササヤキとマイルイルネルが見せた、絶対にライバルに負けたくないという獣もその身の内に住まわせて。

 

 メジロライアンのように、全身の筋肉から、最後の力を振り絞って。

 

 

 

 そして、今にも砕けそうな脚は。

 

 勝負服の腰に結いつけた()()()が。

 

 

 フジマサマーチが、祈る様に守ってくれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドバイの夜の奇跡の、最後の頁が捲られた。

 

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

 

『──────今っ!!!ゴーーーーーーーーール!!ゴールですっ!!!!凄まじいデッドヒートを最後100mに見せた二人が!!並んでゴールとなりましたっ!!!!余りにも劇的っ!!余りにも衝撃的なっ……ッ!!!体勢を崩しながらも残り100mを駆けた二人が、並んでゴールとなりましたっ!!!ゴールを終えて崩れるように倒れる二人…!!!言葉が出てこないっ!!後続との差は数えきれないっ!!完全に、二人のレースとなりましたっ!!!勝ったのはどちらか!?スマートファルコンか!?マジェスティックプリンスか!?わかりませんっ!!掲示板に、写真判定の文字が────────』

 

 

『──────────────は?』

 

 

『………っ、し、失礼しましたっ!!!タイムが出た!!!!タイムがっ、た、そ、そんなことがあっていいのか!?ゴールタイムが……なんと!!!()()()()()()ッッ!!!!これは世界レコードです!!!2000mの世界レコードだ!!!それも!!!私の記憶が確かならば、この数字は()2()0()0()0()m()()()()()()()()()()ッ!!!!』

 

 

『何という事だ!!!今、この瞬間において、2000mの芝とダートのレコードタイムが並んでしまったのですッッ!!!これは夢ではありません!!!奇跡ッ!!奇跡が今宵、このドバイに刻まれてしまったのですッ!!!伝説を生んだのは二人のウマ娘、スマートファルコンとマジェスティックプリンスだ!!!決着はどうなるか!!奇跡の果て、このドバイの最終戦で勝利したウマ娘は、どちらなのかっ!!判定が待たれます……!!!』

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「…………っ!!ぜ、っ、ハーーーーーーーッ…!!はぁーーーーーー…!!はぁーーーーー…!!」

 

『……クッ、はぁーーーっ!!!はっ、はぁ、はぁーーーー…!!!ゴハッ……、はぁーーーー……!!』

 

 

 スマートファルコンとマジェスティックプリンスは、最終直線100mを、駆け抜けた。

 倒れそうになる体を何とか前に前にと押し出して、そうして体勢をお互いに崩しながらも、ゴールラインを越えた。

 そして、その勢いのまま数歩、脚を廻して減速をしてから……共に、砂の上に倒れることになった。

 

 体が動かない。

 肺が酸素を取り込む、それ以外の動きは出来なかった。

 全身の、本当にすべての筋肉を振り絞り、何とかゴールまでの減速を抑えて走り切った。

 

 身をよじる様に仰向けになり、ただ呼吸を続ける。

 幸いにして、二人の脚は、砕けていなかった。

 鍛え上げていた二人であっても、既に限界も超えて、折れてしまっていてもおかしくないそれが折れずに走り切れたのは、まさしく奇跡だったと表現していいだろう。

 

 そして、二人が同時にゴールに飛び込み、叩き出したタイムは、世界レコードを更新していた。

 ダート2000mの世界レコードを2秒以上縮めるという大記録。

 そして、その数字は実況が叫んだ通り、芝2000mの世界レコードに肩を並べた。

 史上不滅となるレコードが、このドバイに生まれていた。

 

 

「はぁーーーーー……はぁーーーーーー………」

 

 

『ハァー………ハァー…………』

 

 

 いつしか、メイダンレース場は、静寂に包まれていた。

 

 ゴール直後の歓声、そしてレコードが表示された後の世界が震えるほどの大歓声を経て、しかし写真判定の決着が出るまでの5分間で、観客たちはそれを見守り、いつしか声は少なくなり、沈黙がそこにはあった。

 誰もが、祈る様に着順掲示板を見守っていた。

 それは、レース場にいない、テレビやネット放送でレースを見ていた人達も同様であった。

 この、奇跡のレースの決着を、待っていた。

 

 世界から音が消えたかと思うほどの、静寂。

 

 永遠のような写真判定の時間。

 

 砂の上に横たわる二人の呼吸音だけが、メイダンレース場に生まれていた。

 

 

 

 

 

 しかし。

 

 優駿たる二人は、既に勝敗は理解していた。

 

 

 これまでも述べたように、優駿たちがデッドヒートの末にゴールを割った時、そこの勝敗は優駿であればあるほど、敏感に感じ取る。

 たとえそれが命からがら、限界を超え疲労困憊で飛び込んだとしても、この二人がお互いに生まれた差を理解できないはずはなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、凍り付いていたメイダンレース場に、一つの動きが生まれる。

 

 

 

 

 それは、呼吸を繰り返していたウマ娘が、ようやく、体を僅かに動かせるようになって生まれた動作。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのウマ娘は、ゆっくりと、ゆっくりと右手を持ち上げる。

 

 

 

 

 

 ドバイの夜空に向かい、手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手を、勝ち誇るように5()()()()を大きく広げ、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドバイワールドカップミーティング

 結果表

 

 

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 第5R ドバイアルクオーツスプリント

 

 1着 アイネスフウジン

 2着 ブラックベルーガ アタマ差

 

 

 

 

 第6R ドバイゴールデンシャヒーン

 

 1着 ハルウララ

 2着 ミサイルマン クビ差

 

 

 

 

 第7R ドバイターフ

 

 1着 ヴィクトールピスト

 2着 ウィンキス ハナ差

 2着 サクラノササヤキ 同着

 2着 マイルイルネル 同着

 

 

 

 

 第8R ドバイシーマクラシック

 

 1着 エイシンフラッシュ

 2着 メジロライアン 半バ身差

 3着 ブロワイエ クビ差

 

 

 

 

 最終R ドバイワールドカップ

 

 1着 スマートファルコン

 2着 マジェスティックプリンス ハナ差

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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